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樹脂弾狂騒曲

 数時間が経過し、サバゲ大会は終了した。


 私の成績は散々なものだった。

 何も知らされず、未経験で突然、ヘルメットとマシンガンを渡された。

 みんなは拳銃で、私はマシンガン。これがハンデだというのだ。


 「燈梨に、ハンデあげすぎじゃないの~?」


 と、開始前にフー子さんは、ブーたれていたが、そんなことが無いことは開始してすぐに分かった。

 開始早々、みんなは、素早く物影や、草に身を隠してしまったために、私がいくら撃っても当たらないのだ。


 そして、上手く隠れられない私は、みんなの的となってしまい、最初に行われた個人戦では、開始2分で脱落し、『死亡』と、書かれた札を首から下げて、脇にあるプレハブ小屋から見学するハメになってしまった。次に脱落した朋美さんが来るまで20分近く誰も来ず、実に退屈な時間を過ごすことになった。


 と、いうのも、みんながあまりにも上手く隠れているため、突然影が現れた……と、思った瞬間には勝負が決してしまうので、臨場感がゼロなのだ。

 とは言え、プレハブの中はエアコンが使えるために涼しく、水道も出るため、外にいるよりもずっと快適だったのが救いだった。


 個人戦が終了した後は、チーム戦になった。

 私は、強い方のチームに……と、いうことで、個人戦1位のフー子さんと、3位のミサキさんのチームに加わり、唯花さん、朋美さんの幼馴染チームと戦った。


 序盤は、とても上手く進んでいた。

 私を基地に残して、ミサキさんに護衛させ、フー子さんは、敵をかく乱させつつ、拠点に乗り込んで攻撃する。その間、基地にいる私に援護をさせる……と、言う完璧なものだった。


 しかし、中盤、唯花さんの動きに気を取られていた私達は、序盤、唯花さんの援護に回っていた朋美さんが姿を消していて、背後から回り込んでいたことに気付いていなかったのだ。

 結果、基地は背後から急襲されて、ミサキさんがやられた後、私は、朋美さんにより捕虜として捕えられてしまった。


 唯花さんの基地まで連行された私は、基地前の木に縛り付けられて、唯花さんと朋美さんに狙いをつけられた。

 その状態で、唯花さんは、フー子さんに投降するように迫ったが、フー子さんは、投降するフリをして突然、敵味方関係なく撃ちまくる……と、無茶苦茶をしたおかげで、身動き取れない私が、一番弾丸を浴びるハメになってしまった。


 「サイテーなんですけど!人質にされてる私を見捨てて、敵味方関係なく撃ってくるなんて!」


 私は、帰りの車の中で、後ろの席に座るフー子さんに不満をぶつけた。


 「ゴメン!ホントに反省してるからさ。でもって、捕まって捕虜になる燈梨も燈梨だよな……」


 と、私のせいにしようとするので


 「全然反省してないじゃないですか!こっちは、木に縛られて、手が使えないのに……味方のフー子さんの撃った弾丸を一番喰らわなきゃならないなんて、意味不明なんですけど!」


 と、更に不満をぶつけた。

 すると、唯花さんが


 「風子!燈梨が酷い目に遭ったのは、風子のせいなんだから、言い訳しないでちゃんと反省しろよ」


 と、言って、フー子さんをいさめると、フー子さんは


 「燈梨、ホントにゴメン」


 と、ようやく謝ってくれた。直後に唯花さんが


 「燈梨、風子はこういう奴だから、あんまりそうは見えないけど、反省してるから許してやってよ。お詫びにって訳じゃないんだけどさ、明日は、みんなで川で遊ぼう」


 と、言い、何故か、フー子さんの表情が一瞬ひきつったように見えた。


 「うん」


 と、答えると、唯花さんはニヤッとして


 「明日は、憎き風子にしっかり復讐しよーな!」


 と、言っていた。


 別荘に戻ると、沙織さんが夕飯の準備をしていたので、みんなで手伝いをした。


 「あたしだって、自分で料理くらいするのよー。見てなさいよ!」


 と、沙織さんが言いながらキッチンに向かっていると、ミサキさんが私に


 「オリオリの料理って、結構美味しいのよね。私ら、みんなオリオリから料理教わったんだぁ」


 と、耳打ちした。

 訊くと、桃華さんという人を含めた仲良しグループは、沙織さんの住むこの別荘に、しょっちゅう遊びに来ていたそうだ。

 当初は、師匠のいない時を狙っていたそうだが、そのうち、師匠も賑やかな方が好きと分かると、師匠も含めて、この別荘でパーティをしていたそうだ。


 その際に、沙織さんはいつも料理を振舞ってくれ、沙織さんの豪快な性格から想像されるものとは全く逆の繊細な料理の数々に、みんなは驚いて、教えて欲しいとせがんで、いつの間にか料理教室になっていたこともあったそうだ。


 「トモが、創作料理始めたのも、オリオリに教わったのがきっかけなのよ。……それまで、トモってカップ麺しか作ったことないって言ってたからね」


 私は、素直に驚いた。昼間の朋美さんの揚げ素麺のアレンジは、手慣れたものに感じたからだ。

 てっきり、子供の頃から、慣れ親しんでいたのかと思いきや、沙織さんに教えられるまで、料理をした事もないような状態から始まったとは、とてもとても思えなかった。


 沙織さんという人の偉大さを、また一つ知ってしまった。


 夕食は、沙織さんのシーフード料理の数々だった。

 何故、こんな山で、このメニューなのか……と思ったが、沙織さんの


 「あんたら、どうせ、海の物食べる機会も無いんでしょ、だから、久しぶりにちょっと凝ってみたわよ!」


 と、いう言葉で、私はその狙いが読めると共に、沙織さんと、みんなの絆の深さを認識させられた。

 沙織さんは、みんなの好みや、食べたいものをしっかり把握していて、且つ、久しぶりだから、どんなものを期待されているかも、分かっているのだ。

 それは、みんなの表情からも読み取れた。明らかに、期待していたものがドンピシャで出てきた……という表情だった。


 私は、夕食後に沙織さんにそのレシピを訊こう……と、思ったのだが、夕食が終わると同時に


 「燈梨ぃ~。花火持ってきたから、やろうぜぃ~!……ついでにオリオリも」


 と、フー子さんに捕まって外へと連れ出されてしまった。


 「フー子のくせして、なにが、あたしがついでよ!」


 と、追いかけてきた沙織さんが、フー子さんの両頬をつねって捕まえ、2人でくんずほぐれつしている間に、みんなは、それぞれ自分の花火を選んで、花火を楽しんでいた。

 私は、それを眺めていた。実は、私は、花火をしたことがほとんどなかったので、どう楽しんでいいのかが分からないというのもあったのだ。すると、すぐさま唯花さんと、朋美さんがやって来て


 「燈梨。花火ってほとんどやったことないんじゃね?」

 「燈梨ちゃん。私らと花火しよ」


 と、私の手を取って、3人で一緒に花火を選んで楽しんだ。


 「どうせ、風子は、ねずみ花火だの、ヘビ花火だのって笑いに走る物しかやらないから、燈梨は参考にしちゃダメだし、近づいてもダメだから」


 と、唯花さんが言っている傍で、フー子さんは自分のねずみ花火に追われて逃げ回っていた。


 「風子は、高校生の頃、ロケット花火を手に持ったままで、それを走って追い越す……とか、訳の分からない事やって、手をやけどした上、走ってる最中にコケて足首捻挫とかしたからね……」


 と、朋美さんも言っていた。

 唯花さん、朋美さんが選んだ花火で、一緒に花火を楽しんだ。……正直、今までの私は、あんな色のついた火を見て何が面白いんだろ……と、思っていたが、今日、初めてその面白さが分かった。


 みんなでやるから楽しいんだ……と、思うと同時に、ふと見回すと、フー子さんやミサキさん、沙織さんも、いつの間にか、私のすぐそばで花火をやっている事に気がついた。

 

 「締めは線香花火で……って、いうのが定番スタイルね」


 と、ミサキさんが私の隣に来て言った。ふと見ると、たくさんあった花火は、既に線香花火を残して無くなっていた。


 「そんなことは無いぞー、あたしは、線香花火を最初に片付ける派だぞ!」


 と、花火をくるくる回して、火の輪を作って楽しんでいたフー子さんが言うと


 「それが、定番じゃねーっての!」

 「風子は、風情が無いのよ。風子のくせに!」


 と、唯花さんと朋美さんにも言われていた。

 私は、幻想的かつ儚い線香花火を、ミサキさんと静かに楽しんでいた。

 ついつい言葉を忘れてしまう情景だった。


 すると、沙織さんが唯花さんと朋美さんに


 「あんたらー!聞いたわよ!サバゲーやって、初心者の燈梨を本気で痛めつけたって!……どうしてそういう大人気ないことやるの!」


 と、お説教していた。

 ……その後ろで、フー子さんが踊りながら、唯花さん達2人を挑発していた。……どうやら、ネタ元はフー子さんらしい。

 沙織さんは、続けて


 「フー子!あんたに対しての話も終わってないから!あんたもこっち!!」


 と、言うと、フー子さんも加えてお説教が始まった。


 唯花さんが


 「オリオリ~訊いてよ。風子ったら、燈梨を木に縛り付けた状態で乱れ撃ちしてさ~」

 

 と、言うとフー子さんが


 「嘘つくなよ!燈梨を木に縛り付けたのは、朋美と唯花だろ!『捕虜の命が惜しくば投降しろ』とか、言って」


 と、反論したが、沙織さんはヒートアップし


 「あんたら全員悪いの!どこのサバゲに捕虜取ったり、木に縛り付けたりするルールがあるの!!……ってミサキがいない、ミサキ!!あんたもよ!!」


 と、言われて、線香花火も終わったミサキさんが


 「はーい」


 と、言ってお説教に加わっていった。

 そして、怒涛の1日目は、バタバタのまま終了した。

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


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