真意と協力
気がつくと、私は、みんなに周りを取り囲まれるような体勢になっていた。
「燈梨は、これから、どうしていくつもりなんだい?」
「えっ!?」
私は、唐突に出てきたその質問の意味を考えて、頭が真っ白になり、思わず後ろに数歩後ずさったところを、背後にいたミサキさんに抱きすくめられて捕まえられた。
「燈梨ちゃん……このことからは、逃げちゃダメ!」
「そうだぞ燈梨。今の唯花の質問には答えてもらうぞ」
フー子さんが、そう言いながら、指をワキワキさせて近づいてきた。
私は、普段とは違う、みんなの真剣な表情が恐ろしくなり、逃げ出そうとしたが、今度はミサキさんに羽交い絞めにされて抑えられてしまった。
「フー子!ふざけないの!!」
ミサキさんに一喝され、フー子さんはその場にストップした。
すると、唯花さんは続けて
「ウチらも、オリオリも、フォックスさんも、みんな燈梨の味方だし、燈梨のこれからのために協力したいと思ってるんだよ。でも、燈梨がどうしていくのかを決めないと、ウチらも何もできなくて困っちゃうからさ。だから訊きたいんだ」
どうしたいか?と、いう問いは、以前にコンさんからも投げかけられたことがあるが、今の私に、取り立ててやりたいことは存在していないので、答えることは出来ない。しかし、今のこの状況を鑑みると、それが許される状況ではない。
そこで、私のフリーズした頭は、テンプレ文を口から発させた。
「いつかは、実家に戻って、学校に……」
「そんな答え、いらないよ!」
私が言い終わらないうちに、唯花さんと朋美さんが同時に言った。
朋美さんが、続けて言った。
「燈梨ちゃん。それはペーパーテストで100点取る回答だよ。でも、燈梨ちゃんの人生における問題で、その答えは0点だよ!その答えの通りに行動して、半年後に絶望する燈梨ちゃんの姿が、今の私にも目に浮かぶよ」
「う……」
すると、今まで黙っていたフー子さんが、柔らかい表情で
「ウチらさ、前に燈梨の今までの話、全部聴いたじゃん。だから分かるんだけど、このまま家に帰ると、燈梨、生き地獄だよ。ダメな母ちゃんに、ズルい兄ちゃん、自由もなく、学校ではボッチ……どこにも行き場が無いじゃん。それに耐えられなくて、ここまで来たのに、そこに戻って、最低あと2年、やっていける?」
と、訊いてきた。
答えは出ている。私は首を横に振った。
すると、唯花さんが、私の前に来て屈みこむと、私の顔を見上げて
「いきなり訊かれても分からないってのも分かる。だったら、少しずつハッキリさせていけばいいよ。ただ、これだけは時間が無いから、今日答えてよ。燈梨、高校生に戻りたい?」
「うん……」
反射的に答えたが、これは本心だ。
決して楽しいと言えるものではなかったが、私は、高校生としての自分が好きだし、全うしたいという思いもある。
「でも……」
私は、続けた。
「戻りたくても、家には戻りたくない。今のままじゃ、どうしても無理なのは分かってる……」
言い終わると、唯花さんが言った。
「よし。燈梨の意志はウチらが、今ちゃんと訊いたよ。その『どうしても無理』をどうにかする人たちが、オリオリや、フォックスさんでしょ。だから燈梨は、みんなに遠慮しないで、自分の意志を伝えるんだよ。ウチらは、ウチらで出来ることでサポートするからさ」
私は、それを訊いて胸が熱くなるのと同時に、また、私がみんなに妙な遠慮をしていたことを思い知らされた。
コンさんは以前から言っていた。『燈梨のしたいようにするのが一番だ』と、そして、私はそれに答えを出さずに宙ぶらりんな状態を続けてきた。
しかし、私からは、実家へと戻りたくはない、というメッセージが出ていたのだと思う。なので、免許取得の際に別荘で、紘一郎さんから『実家に帰る必要はない』と、言われたのだ。
そして、みんなが、私を支えてくれようとしていることに、改めて嬉しさがこみあげてきた。
私は、これからの自分に嘘をついて、模範的回答をする必要はないんだ。今更ながら、コンさんの言っていた意味が分かった。
ミサキさんが言った。
「燈梨ちゃん、戻りたくないって言ったけど、どこか行きたいところってある?」
私は、そう言われると、どこか行きたい場所がある訳でもなく、そういう意味では、ハッキリと意思が決まっていない自分を恥じながら、首を横に振った。
ミサキさんは
「別に良いのよ。それで……じゃあ、今の家からでも良いし、ここで高校に通っても良いのね」
と、言った。
驚く私を尻目にフー子さんが言った。
「そっかぁ……。家は、あの別荘から通えば良いし、通学は、免許あるから原チャで行けば良いし」
私が、口をパクパクさせて、みんなを見回しているのに気付いた唯花さんが
「あくまで、そういう選択肢もあるってだけ。私も、心機一転、新天地で学校に通い直すのが良いと思うな。その方が、変な噂も立ち辛いし、ミステリアスな転校生って触れ込みで、やり直しも効くからさ、友達も作りやすいよ」
と、フォローしてくれた。
私は、それを訊いて、今更ながら気がついた。
以前の高校に復帰したとしても、恐らく、1学年遅れになるだろう。そして、1学年程度であれば、私の噂や、彼の自殺に関しての憶測などが、まだホットな世代なので、私が孤立するのは目に見えている。
しかし、コンさんの家や、ここの別荘から、新たな高校に転校すれば、リセットしてゼロからのスタートが出来るのだ。たとえ、1学年遅れでも病気療養とでも言って誤魔化すことも可能となるし、私を知る人間がいないというのも、煩わしい過去に振り回されないという面でプラスに働く。いいことづくめなのだ。
そんな私の表情を見たのか、唯花さんが
「決まりだね。燈梨は、学力的にも問題ないし、すんなり転校できるでしょ」
と、言うと、みんなの表情も明るくなった。
「燈梨ー、心配させるなよな。帰るとか言うから、びっくりしたじゃないかよー!」
フー子さんが、私に体当たりしながら言った。
「ゴメンなさい……」
「別に悪いことじゃないよ。きちんと結論出たんだし、私ら全員でフォローするからね」
朋美さんがニッコリして言うと、何故か私の心が軽くなっていくのを感じた。
「じゃあ……」
唯花さんが、大きい声で言うと、ミサキさんが、自分の車へと歩き出し、トランクの中から幾つかバッグを持ってくると、みんながいる中心に置いた。
それと同時に、みんながそのバッグの方へと寄っていくと、開けて中から色々と取り出して、上着を着替え始めた。
次の瞬間、私以外の5人全員が、迷彩服に身を包んでいた。手にも銃を持ち、その姿は、普段のみんなからは想像もつかないそれだった。
唯花さんが
「せっかく、明るい時間のここに来たんだから、夏のサバゲ大会と、いこっかぁーー!!」
と、言うと、みんながガッツポーズで
「おおーーー!!」
と、盛り上がり、雄叫びを上げていた。
私は、今まで見たことのないみんなの意外な一面と、全員がノリノリの状況に、ただただ驚くばかりだった。
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