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昼食会議

燈梨と沙織が別荘へと旅立った後の家で、フォックスと舞韻は、燈梨の今後のことについて話し合いを持ちます。


遂に新たな動きが始まります。

 燈梨たちが出発した後、俺は二度寝をし、昼頃に目覚めると、やって来ていた舞韻が作った昼食を2人で食べた。


 実は、俺も今日から休みだったのだが、燈梨達が会いたがっている娘達と水入らずの時間があった方が良いだろうと思って、敢えて遅れていく事にしたのだ。

 沙織は、そんなことを気にするような娘達ではないから……とは、言ったが、若い娘達の中に1人だけオッサンがいても、違和感があるし、彼女達も気を遣ってしまうだろうと思ったのだ。


 昼食後、舞韻の入れてくれたアイスティーを飲んでいると、舞韻が言った。


 「オーナー、燈梨のことなんですけど……」

 「なんだ?」

 「そろそろ、方向性をしっかり決めてかかりたい系ですね。つまりは、燈梨を帰すのか、腰を据えさせるのか、または、どこかへと送り出すのか、をです」

 「うん……」


 俺も、漠然とではあるが、最近考えるようになっていたことだ。

 燈梨は、当人が、どう考えているか分からないが、世間的には女子高生なのだ。

 今は、そこから逃げ出して俺の元へと隠れているが、この隠れている状態をいつまでも続けていく事が、当人を追い詰めてしまうことにもなるため、今の社会的に宙ぶらりんな状態を終わりにしなければならないということだ。


 ただ、その終わりにするといっても、舞韻の言った3通りの終わり方があるので、どの方向に動くかを決めていかねばならない。

 舞韻は


 「まずは、帰す方向ですが……」

 「無いな!」


 俺は、言い終わる前に返答した。

 勿論、燈梨の意志が第一なのだが、この選択に関しては、たとえ本人が選択したとしても、全力で阻止するだろう。

 舞韻は、苦笑しながら言った。


 「私も、無いと思う系です。あの家庭環境、生活に耐えられなくなって、自分の貞操を捨ててまでも飛び出したのに、帰ったら元の木阿弥系ですよ」

 「家に帰るなら、母親と兄貴がまともになるのが条件だが……」

 「地球が滅亡しない限り、期待できない系ですね」

 「それに、学校に戻っても、ただただ、辛いだけだと思うな」

 「オーナーと出会った段階で、留年確定系ですからね……そうなんです。この話をしたのは、学校のことがあるから系なんです」

 「分かってるよ、俺も考えてた。秋からは、新たなスタートを切らせないと、2留になって、高校生を諦めなくちゃならなくなるからな」

 

 燈梨が家を飛び出したのが、去年の冬の始まり、今は夏なので、学生に復帰するとすれば、タイムリミットは冬が始まる前となる。

 そうなれば、家出する前の、2年生の冬から1年遅れの学生生活が再スタートできるのだが、そこを逃すと2留になってしまう。


 俺は、大学生が学生のスタートだったので、留年は珍しいことではなかったが、高校生で、しかも2留ともなると、非常に、学生生活がし辛くなると聞いたことがある。

 大学は、授業に出るだけなので、噂も出なければ、浪人や留年も珍しくないので、2~3歳年上の友人でも奇異には映らないが、高校まではクラス制という村社会なので、燈梨の存在は浮き立ってしまう。


 そこで、燈梨を家に帰して、学校復帰させれば、地元なので、当然のこととして、自殺事件がクローズアップされて、燈梨が好奇の目に晒され、クラスで以前と同じように孤立してしまうだろう。


 色々と考えを巡らせていると、舞韻が


 「あとの2つのどちらになるかは、燈梨の希望を訊いてみないと……ですね」

 「ああ。……ただ、燈梨本人の中に、まだ『帰らなくちゃいけない』っていう、規範意識的な刷り込みがあるから、素直に意見を言うかが問題なんだよな」

 「確かに、燈梨の中にそういう意識はありますね。よく、DVで殺される人にありがちな、危険なやつなんですよね」

 「なにかのきっかけがあればなぁ……」

 「何ですか?きっかけって?」

 「いやさ、なにか、こっちの学校に通ってみたいとか、どこかで暮らしてみたいとかさ、そういうの」

 「確かに、そういうのがあれば、その意識は薄くなるし、私達も動きやすくなる系ですね」


 俺は、考えているうちに1人の人間の姿が思い出された。

 以前、燈梨が沙織に攫われ、家に帰って来た際に、燈梨と出かけた神社に、燈梨と同じ市内の高校に通う女子高生がいたハズだ。

 俺の勘では、彼女も家出中だと思われるので、燈梨と境遇も似ている。あとは、学年だが、燈梨と同じ2年生だったら、ラッキーだ。

 ……そんなことを考えていると、舞韻が


 「1人、思い浮かぶ人物がいる系ですね

 「えっ!?」

 「さっきのオーナーのきっかけの話ですよ。上手くすれば、きっかけになるかもしれない人物に心当たりが」

 「奇遇だな。俺も1人思い当たる人物がいる」

 「同じ人間ですかね?」

 「かもな」

 「じゃあ、せーので言ってみましょう」

 「せーの」

 「神社にいる娘」

 「神社の男が連れてる娘」


 一致していた。


 「同じでしたね」

 「ただ、問題は、彼女が同学年かということと、彼女が、燈梨のことに興味があるかだな」

 「学年は訊いてないんですが、彼女が燈梨に興味があるのは間違いないと思う系です」

 「何故?」

 「燈梨が杏優に攫われて、別荘にいると分かってオーナーが飛び出して行った後、お店に神社の男と2人で来て、燈梨に会わせて欲しいって言われたことがあったんです」

 「そうなのか?」


 舞韻は頷いた。

 と、なれば、上手くすれば、燈梨はこっちの学校に行きたくなってくるかもしれない。

 まずは、その神社の娘について調べる必要がありそうだが、警察関係者が匿っている人間なので、怪しい人物ではないだろう。


 「あとは……」


 舞韻が言った。


 「北海道の家族をどう抑えるかですね。一応、まだ探してはいるでしょうし、兄が継いだ父親の会社も大きいですから、お金を使って派手に動き回る可能性もありますね」

 「兄貴の方は、今、ドリ郎に任せてる。彼は、別件で、兄の動向に興味があるみたいだから」

 「そうなんですかぁ?紘一郎さんが、興味あるって?」


 俺は、舞韻に何故、ドリ郎が燈梨の兄に興味があるのかを、教えてやると


 「ああ~、なるほど!それならば、紘一郎さんに任せておけば、安心ですね」


 と、喜んでいた。まぁ、ドリ郎がこの件で必死になるのには、燈梨の境遇が、沙織のそれに似ていること、更には沙織が燈梨を妹のように可愛がっていることも、大きな要因ではあるのだ。


 「俺は、なるべくなら、燈梨には『鷹宮燈梨』として、生きて欲しいんだ。俺達が、架空の人物の戸籍を作り上げることは容易いけど、燈梨には『鷹宮燈梨』を捨てて欲しくないと思ってる」


 舞韻は、ニッコリと笑って


 「そこまで考えているなら、大丈夫系ですね。じゃあ、私は、万一、上手くいかなかった場合のことを想定してのフォローの準備に回りますね。正直、私の動きは無駄になることを願ってますけど」


 と、言った。

 俺と舞韻の中で、燈梨の今後についてが決まった。

 あとは、本人の希望を訊くだけとなった。

お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


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