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バカンスとお礼

季節は全く逆ですが、夏休みのお話です。

物語の中だけでも、夏の気分でお読みください。

 シルビアがやって来て1週間が過ぎた。

 明日から、バイト先である舞韻さんのお店は、1週間の夏休みに入る。

 昼休みに、沙織さんが言った。


 「燈梨は、明日から何か予定は?」

 「いえ、特にないけど」

 「だったら、3日くらい別荘に行かない?今がシーズンだし、それに、免許取ったことをあの娘たちに報告してあげないとさ」


 そうだ。バタバタとしていて、すっかり先延ばしになっていたが、免許合宿の最終日に、免許を取ったらすぐに行くと、みんなと約束したのだった。

 免許も無事取れ、車も入手して落ち着いた今、行かない理由はなかったので、


 「うん」


 と、答えると、舞韻さんが


 「燈梨、私とオーナーも3日遅れで行くから、ゆっくりしてらっしゃい」


 と、言ってくれた。

 コンさんは、まだ仕事があるため、その夏休みを待って2人で行くとのことだった。


 その夜、夕飯が終わった後で、コンさんに明日からの件について話すと、コンさんが言った。


 「燈梨、遠慮しないで行って来い。俺と舞韻は、遅れて行くから、ゆっくり楽しんで来よう」

 「ありがと。コンさんも一緒に楽しもうよ」

 「ああ、せっかくの夏休みだからな」


 翌朝、沙織さんと2人でシルビアで出発した。

 朝早く出発したため、この間、特訓した首都高が、スムーズに抜けられたのは、特訓の成果と喜ぶべきか、もっと難所があって欲しいな……と、思うところもあって、複雑な気持ちだった。


 中央高速では、シルビアのパワーが発揮できて、私は、初めてこの車の実力を堪能できた気がした。コースで乗った時は、まだ未熟でアクセルを踏むことが出来なかったが、今日は思い切りよく踏むことが出来て、やっぱりこの車が速いんだということが分かった。


 そして、高速を降りた後の山道も、この車の楽しさの真骨頂だと感じた。

 ……とにかく楽しい。ハンドル操作と、ギアチェンジがリズミカル且つ、ギアのポジションも考えながら……と、まさに頭と体を使ったスポーツのような感覚で新鮮だった。

 そして、それが上手くハマった時に、力強く後ろから押される感覚が心地よく、この車にして本当に良かったと思った。


 別荘に到着し、荷物を入れて、窓を開けて風を通していると、フー子さんたちが到着した。いつもと違うのは、全員が、それぞれの車に乗ってきている事だ。


 「オス!燈梨。遂に免許取れたんだって、おめでとー」

 「燈梨ちゃん。よかったね~」

 「燈梨。車も買ったんだって?よかったじゃん!私なんて最初は、母親のお古のムーヴだったからねぇ……酷いもんだったよ」

 「燈梨ちゃんの車、見せてよ」


 みんなに言われて、私は、ガレージに入れたシルビアを出した。

 みんなは、ワイワイ言いながら、シルビアを取り囲んだり、中に乗ったりしながら


 「へぇ~。14前期かぁ、意外だなぁ……あたしの思う、燈梨のイメージとのギャップがあってさぁ」

 「そおかあ~?私は、燈梨のイメージにピッタリだと思うんだけど」


 フー子さんと、唯花さんが感想を言い合っている脇で、ミサキさんが声をかけてきた。


 「このシルビア、珍しい色ね。燈梨ちゃんのこだわり?」

 「ええ、3~4色希望を出して、その中で探してもらったんです。実物を見たことは無かったんですけど……」


 すると、朋美さんが


 「いい色だと思うよ。S14の前期って、白とか黒ばっかりだし、今残ってるのって、塗り直された変な色のとか多いしさ。日が当たると色が変わる、こういう純正色のって、センス良いよね」


 と、褒めてくれて、私は嬉しくなった。

 すると、室内にいた唯花さんが


 「燈梨ぃ。エンジンかけて良い?」

 

 と、言うので頷くと、エンジンがかかった。すると、


 「おぉ~。窓に速度が映し出されるやつだ。初めて見た!」


 と、言うと、みんなが一斉に室内を覗き込んで歓声を上げていた。

 私は、生まれて初めてみんなから注目され、褒められ、驚かれる体験に、物凄く嬉しくなってしまった。

 すると、フー子さんが


 「これって、13のやつは見たことあるんだけど、14にあった事自体、知らなかったよ~」


 と、驚きの表情で言ったので、


 「どうも、この車、展示車だったんじゃないかって言ってた」


 と、言うと、みんなが


 「確かに、このシルビア、フルオプションっぽいもんね」

 「燈梨~、良かったねぇ。掘り出しもんに当たって」


 等と口々に言われて、私は、本当に皆と出会えたこと、更に、車を手に入れられて良かったと、心から思った。

 すると、別荘の窓が開き、沙織さんが顔を出した。


 「あんたら!お茶入れたから入って来なさいー」


 唯花さんが、シルビアをしまって、みんなで別荘の中に入ろうとした。

 すると、後ろから唯花さんに肩を叩かれて、振り向くと、頬に指が刺さった。小学生がよくやる悪戯だったが、私には、そういう事をする間柄の友人がいなかったので、嬉しいながらも、唯花さんに


 「もう!」


 と、怒ってみせた。


 「ハハハ……ゴメンゴメン。燈梨のそういうリアクションが見たくてさ。ちょっとやってみたのさ。……それより、はい、これ」


 と、何かずっしりした箱を渡された。


 「なに、これ?」

 「燈梨がK’s買ったって聞いたから。ブースト計って言って、ターボが、今どのくらいかかってるか見るメーター。伯父さんから貰ったんだけど、私のエボ、最初からついてて、使わなかったからさ。燈梨に使ってもらおうと思って」

 「ありがとう。唯花さん」


すると、それを見ていた沙織さんが


 「良かったわね~燈梨。それ、買うと結構高いのよ~」


 と、言うと、それを見ていたフー子さんが


 「せっかくだから、午後、それ、つけちゃおうぜ!」


 と、言い、みんなも、うんうんと頷いていた。

 お茶にしながら、北海道に免許を取りに行った話になった。

 私が、免許センターで教師に遭遇した話になると、唯花さんが


 「そうそう、免許センターって、先公が張ってるんだよなー。燈梨は、みんなで行ってて良かったね。捕まったら、連れ戻されるとこだったじゃん!」


 と、言うと、ミサキさんが


 「私らの時も、先生がいたよねー。でも、朋美がセンターに偽電話かけて、先生が呼び出されてる間に逃げたよねー」


 と、思い出話をして、みんなが笑っていた。


 そして、この間、コンさんにラーメン食べに行こうと騙されて、首都高で特訓された話をすると、朋美さんが


 「良かったんじゃない?首都高って、田舎者の私らからすると、物凄く敷居が高い、難しいところって感じがあるよ。私らも高速は乗るけど、車線も広くて、ほとんど真っ直ぐで、首都高にいきなり行って本当に走れるのかって不安になるもん」


 と、言うと、フー子さんが


 「そうだよ燈梨、あたしなんか、最初に東京に行った時、出口が右にあるなんて知らなくて、目的地で降りられなかったんだぞ。次で降りたら一方通行だらけで辿り着くのに汗びっしょりになったんだからさ!同乗して、教えてもらえるなんて、マジラッキーだよ」


 と、力説してくれた。すると、ミサキさんが


 「私も、首都高走ったことがないから、燈梨ちゃんの体験は凄く良かったと思うよ。ちなみにユイだけじゃない、首都高慣れてるの」


 と、話を向けると唯花さんが言った。


 「私はね、子供の頃から伯父さんの家に遊びに行くと、しょっちゅう夜中に連れて行かれたから、環状線は知ってるのさ。拓兄は警官のくせに、首都高一周のタイム出すとか、アホな事やってたから」


 私は、みんなの話を訊いて、コンさんのこの間の特訓は、やはりとても意味のある事なんだと知って、とても嬉しくなった。

 とても、貴重な体験ができたのだ。もし、私が、実家にいて免許を取ったとしても、きっと首都高は走れないだろうなぁ……と、思うと、ちょっと疲れたが、意味のある事だったんだと思える。


 それに、今日現に、首都高を難なく走れたのも、この間の特訓の賜物だったのだ。きっと、コンさんはこうなることも見据えてやってくれたのだろう。

 

 そして、私は、車というツールを手に入れたことで、みんなと、また1つ共通の話題で盛り上がることが出来た。


お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


お気軽にお願いします。

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