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逢瀬と蓄音

遂に100話目です。

100話目を新たな燈梨の相棒との話にできたことを嬉しく思います。

物語は、まだ続きますので、よろしくお付き合いお願いします。

 私は、色々な人の思いのこもったこのシルビアが欲しいと強く思った。

 ……最初は、車を入手することに抵抗と怖さがあったのだが、今はそんなものよりも、この車が私を呼んでいるような、そんな思いが強く沸き起こって来たのだ。


 なので、紘一郎さんに


 「この車が良いです。是非、このシルビアを売ってください」


 と、お願いすると、紘一郎さんはニッコリして


 「こちらからお願いしたいです。ここで、燈梨さんに断られたらオーナーさんに合わせる顔がありませんよ」


 私の相棒の青いシルビアは、このような経緯でやって来ることになった。


 5日が過ぎた。

 今日は待ちに待ったシルビアがやって来る日だ。

 コンさんは休みを取り、朝から沙織さんと出かけて行った。


 戻って来たのは午後2時近くだった。

 お店の駐車場に、パオと共にあのシルビアがやって来て止まった。

 舞韻さんはニッコリして


 「燈梨、もうお客さんも引いたし、あとは沙織と私で回すから行ってらっしゃい」


 と、送り出してくれた。


 コンさんは、シルビアから降りると


 「燈梨、同乗するから、まずはバイパスの方まで軽く運転して慣れてみな」


 と、鍵を渡してくれた。

 私は、家の中にある初心者マークを取ると、コンさんを乗せてさっそく出発した。


 バイパスを走らせると、この間に比べて車がちょっと変わったような雰囲気を感じた。

 ……なんか、走りが軽く、足回りがしっとりとしているように思えるのだ。


 「コンさん、このシルビア、この間よりも軽く走るし、足もしっかりしてるように感じる」

 「分かったか?あの後、整備に入ってオイル類を全交換して、くたびれた消耗品も全交換してる。タイヤも換えて、足回り部品もオーバーホールしてるんだ」


 詳しいことは分からないが、大掛かりなリフレッシュをしたのだと理解した。

 新車の状態は分からないが、より近くなったに違いない。


 とてもひらりひらりと走る、いい車になったと思えた。

 平日昼のバイパスは空いていて、ちょっと前があく瞬間があった。

 そこでコンさんは


 「燈梨、普段より深めにアクセル踏んで」


 私は、言われた通り、深めに踏んでみると、後ろから蹴られたかのような物凄い加速を始めた。

 まるで飛行機の離陸のような遠心力がかかってちょっと驚いた。


 「これが、ターボの醍醐味だ。これも使いこなしてやれば、一層楽しい車になる」


 私は、驚いたが、同時に楽しさも感じてこの車がすっかり好きになった。


 コンさんに案内されて、バイパス沿いのカー用品店に入った。

 私は、カー用品店に入るのは初めての経験なので、どんなところかは全く知らなかった。

 ただ、読んで字のごとく車の用品が売っているお店なんだろうとは知っていたが、それが何だかは分からなかった。


 「何か足りないと思った時は、こういうところを散策して探すのも面白いぞ」


 コンさんから言われて、店内を一緒に一周してみた。

 ルームミラーや、ドリンクホルダーのようなもの、ワイパーのゴムや、ライトの電球、ナビやスピーカーから、タイヤやマフラーまで色々なものがあり、正直、分からないものだらけだったが、


 「最初は、とにかく何が必要かも分からないだろうから、ざっと見てこんなものがあるんだな……くらいでいいと思うぞ」


 ナビのコーナーで、実際にナビをいじってみたり、スピーカーの体験機で純正とその他の音の違いを試してみたり、ライトの電球を替えると、純正とどのくらい違うのかを比べてみる比較の機械で見てみたりして、あちこち見て回った。


 ……結果、何が足りないかを感じるまでに至っていない今の状態では何も必要ない。

 と、思ってお店を出ようとした出口付近でふと目が止まった。


 それは、エアコンの吹き出し口につけるタイプの芳香剤だった。

 このシルビアの室内は、決して匂いがきつくはないのだが、それでも、私好みの香りにしてみたいかな……と、思い始めた。


 それが、あのシルビアが、私の車になった第一歩になると思えたのだ。

 それに、金額的にも私のお小遣いで買えるのも大きなポイントだった。


 私は、売り場にある香りの見本をあれこれ試してみながら選んだのはラベンダーの香りだった。

 最後まで柑橘と悩んだのだが、車の色が紫の混じった青だったこともあって選んだ。

 コンさんは


 「ちょっと、買うものがあるから車で待ってて」


 と、言うので私は、さっそくさっき買った芳香剤を取り付けてみることにした。

 パッケージを開封して説明書通りにセットすると、何故かワクワクした気持ちになって一刻も早く出発したくなり、早くコンさんが戻って来ないかな……と、待ち遠しく思っていた。


 来た道とは違うコースで家へと戻る途中で、さっそく流れてきたラベンダーの香りに、私は遂にこの車を手にしたこと、このシルビアが私の車になったことを改めて実感して嬉しくなった。


 運転に慣れてきて、ふと気付いたことがあるので


 「コンさん、フロントガラスの右端に何か数字が出てる気がするんだけど……何だろう?」

 「気がついたか?それはオプションのヘッドアップディスプレイだ。出てるのはスピードだな」


 コンさんが言うには、S13とS14にはオプションで用意されていた先進のオプションだったのだが、セットオプションで高価だったこと、S14ではメーターがアナログとなって見た目の変化が少ないことから滅多に装着車がいないそうだ。


 次に、天井にあるスイッチを動かしてサンルーフを開けた。

 私が唯一拘った装備だったからだ。

 ……コンさんのシルビアのサンルーフが私の車観に大きく影響を与え、今回、我儘を言って探してもらったのだ。


 気持ちの良い光と風が流れ込んできて、私は本当にこの車が好きになった事を改めて実感した。

 ……次の瞬間、コンさんは全開にしたサンルーフを閉めて、閉まったところでスイッチを操作すると


 「S14はチルトアップ機能もあるんだ。S13にはない機能だぞ」


 と、言うと同時に“ウイン”というモーター音がした。


 「チルトアップは換気や、風が強くて開けられない日、雨が降った日なんかも有効なんだ」


 と、教えてくれた。


 訊くと、S13の前のS12型で登場した機能なのだが、何故かS13型では採用されず、S14型で復活したそうだ。

 家に到着すると、舞韻さんと沙織さんが出迎えてくれた。お店でお茶にしながら


 「どうだった?」

 「まだまだ慣れてないけど、とっても嬉しい感じでいっぱいかな」


 色々感想を話していくうちに装備品の話になり、さっきのヘッドアップディスプレイの話が出た際に、コンさんが


 「恐らく、このシルビア展示車だな」

 「テンジシャって?」


 と、私が訊くと


 「ディーラーのショールームなんかに展示用に置いてある車だ。展示用だから、オプション品がたくさん付いていて、入れ替え時期に当たると好条件で販売してくれるんだ」

 「へぇー」

 「グレードと言い、サンルーフとディスプレイのセットなんてフルオプションに近い状態と言い、登録時期と言い、ほぼ間違いないだろうな」

 「よかったね。燈梨、滅多に経験できないフルオプション状態の車が手に入るなんて」

 「うん」


 私は、この車がショールームに展示されている姿を想像していた。

 ……来店したみんなの注目を浴び、覗かれ、中に乗られたりしていたであろう姿が目に浮かび、それを今私が手にしたんだと改めて誇らしくなった。


 すると、沙織さんが


 「フォックス。例のものはどうしたの?」

 「あぁ……買ってきた。丁度セールで掘り出し物あったしな」


 と、コンさんが、さっきカー用品店で買ってきたものを出してくると、私に向き直って


 「燈梨。早速だが、これをつけるぞ」


 と、言ったので


 「え!?何、何!?」

 「オーディオだ。実は、受け取りと登録に行く際に使ってみたんだが、純正のデッキは寿命で、CDが再生できないし、今どき、テープは聞かないだろうから替えた方が良い」


 コンさんが言うには、恐らく、前の持ち主であるあの夫婦は、違うデッキを付けていて渡す前に元に戻したのだろうという事だ。

 ……確か、この間乗った際は何もついていなかったような気がするので、そういう事だろう。

 そして、長い間、動かしていなかったこともあって調子を崩していたようだ。


 3人共が言うには、こんな状態の純正デッキを修理するくらいなら、今どきのオーディオを買った方が安上がりで高性能なので断然お得らしい。

 純正のデッキは、今どき見ないカセットとCDで、当時としては高級だったのだが、きょうびのデッキなら安くてもメモリーやMP3に対応しているので、修理代の半値程度のセール品を買ってきたそうだ。

 

 私は、コンさんと2人でシルビアに乗ると、コンさんが買ってきたものを確認した。

 オーディオと、小物入れ、配線キットの3つだった。

 確認が終わると、交換の要領をコンさんから聞いた。


 まずはシフトノブを外して、その下のパネルを引っ張って外すと、ネジが2本あるので外し、今度はエアコンの吹出口の周辺のパネルを引っ張って外すと、同じくネジが2本あるので外すと、周辺のパネルごと外れてくるので交換と、いうものだった。


 シフトノブを反時計回りに回して外した。

 シフトノブは、回すと外れてくるという事に驚いていると


 「今は、慣れることが大切だが、そのうちに、自分の好みのノブに替えてみるのも良いと思うぞ」


 と、言われた。

 訊くと、今、付いているものも社外品なのだが、形や重さ、素材に好き嫌いがあるので、慣れたら、それが分かってくるとのことだった。


 次にエアコン吹出口周辺を外していく。こんな大きなパネルが、ネジも使わずに嵌まっているだけだったことには驚いた。

 ……するとそれを見たコンさんが

 「これ……後期型用に替えられてるな」


 訊くと、後期型用は、この部分に若干の改良が施されて、カード入れが追加されているそうだ。

 ……実は、このことは、ほとんど知られていないのか、あまりやっている人を見たことがないそうで、前オーナーは、かなりシルビア事情通だったんだろうとのことだった。


 オーディオを入れ替えて、新しい方に配線キットを取り付けた。

 配線の数は多かったが、色分けされていて、結構簡単に接続できた。

 小物入れと一緒に取り付けると、元通りにパネルを戻して終了した。


 取り付けた後で、エンジンをかけると説明書通りに初期設定をした。

 時計や、ラジオのメモリーをやったのだが、ラジオのスイッチを入れた瞬間に“ウイーン”と、いう音がすることに驚いていると、コンさんから


 「パワーアンテナが伸びたんだ。ラジオのスイッチ連動だからな」


 と、言われて左後方を見ると、アンテナが伸びていた。

 スイッチを切って注視していると、徐々に格納されていった。


 「今はガラスプリントアンテナが高性能だから見なくなった装備だな」


 と、言われたが、私はこの『いかにも“頑張ってます”』感が見えて好きになった。

 すると、舞韻さんが開いていた窓から


 「はい、これでテストしてみて」


 と、CDを1枚渡してくれた。

 お店でたまに流しているものだ。入れてみるとタイムロスなく演奏が始まった。


 「結構、いい音出るわね」


 沙織さんに言われて気付いた。

 この曲自体は、いつもお店で聞いていたのだが、この車の中で聞くと、深みがあるというか、メリハリがある中に低音がしっかり響いている感じがするのだ。

 高音も、決して出ていないわけではなく、過度に主張せずにしっかり効いている感がする。


 コンさんが、助手席ドアを開けると、前方を覗き込んでみてから


 「やっぱりな。スピーカーがハイエンド品になってる」


 コンさんが言うには、前のオーナーが、拘りで高価なハイエンドモデルにしたのだろう。とのことだった。

 紘一郎さんから聞いたところによると、前オーナーの奥さんは若い頃、ピアニストだったそうなので、音への拘りは、そこからきているのだろうと思った。


 私は、初日から色々と体験しすぎて、ちょっと混乱気味だが、とにかく、これからの楽しいカーライフを思い浮かべて車をガレージにしまった。



お読み頂きありがとうございます。


少しでも続きが気になる、見てみたいかも……と、思いましたら、評価、ブックマーク等頂けると活力になります。


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