最低の告白
「ここって……ラブホテル?」
「いっつもどっちかの家でしょ? ここって女子会で使うことも多いって会社の人から教えてもらった所なんだ」
私と霞は店を出た後はコンビニでお酒やおつまみを買い込み、どちらの家にも向かわずにラブホテルへと来た。ちなみに教えてもらったというのは本当だ。ここは各種サービスも充実しているし、部屋もまるでスイートルームの様に豪華で、会社の同僚達がよく利用してるという場所だ。
ここなら女同士で来てもおかしくはない……何より私は両手いっぱいに酒やつまみを買い込んでいる。入っても自然な状況だ。
平静を装ってはいるが、私は今から最低な行為をする。そう決意した。背中からは変な汗が噴き出しているし、心臓はバクバクと早鐘の様に脈打っていて落ち着かない。
でもそれを悟らせないように……霞も私の気持ちなど悟る様子もなく……ほんの少しだけはしゃいでいるようだった。
「私、こういうところ来るのはじめてだよ。明菜ちゃんは良く来るの?」
「私も初めてだよ。とりあえず、泊りでいいよね?」
中に入り、タッチパネルから一人で六千円の泊りプランを選んで部屋の番号を確認した。てっきり受付の人が居るのかと思っていたのだが、どうやら全部自動らしい……その辺は良かったと思う。もしも人に見られたら、冷静になり決意が鈍ったかもしれない。
「明菜ちゃん、荷物持つよ?」
「ダメよ、足を怪我してるんだから……気にしないで部屋に行きましょう」
エレベーターに乗り部屋へと向かう。
部屋に徐々に近づく連れてさらに心臓が苦しくなってくる。心臓を掴まれたような未知の感覚を必死に堪えて、顔から出てくる冷や汗は荷物が重いからちょっとねと必死にごまかす。
そして……部屋に入るとその豪華さに思わず息を飲んだ。出張とかで使っているビジネスホテルよりよっぽど綺麗で豪華だし安い……かと言って、出張申請で泊まる場所をラブホテルにする勇気は無いが……。
霞も部屋の豪華さに顔を輝かせて、フラフラとベッドの上に腰かけていた。
私も買ってきた物をテーブルの上に起き、まずは缶チューハイを霞に手渡す。私は相変わらずの缶ビール……プレミアムな少しお高い奴を一缶開ける。これからやることの弾みをつけるように一気に中身を煽る。
私達はそれから小一時間ほど飲み食いを続ける……中々、私に踏ん切りがつかなかったから一時間も経ってしまったのだ。だけど、チャンスはやってきた。
「こんな風に話すのって久しぶりだよね……ベッドも広いし、二人で寝ても余裕だよ」
ほんの少しだけ酔った霞がベッドの上に寝っ転がった。私は、行動に移すなら今しかないと思いベッドへと移動する。足が中々前に出てくれないのだが、必死に足を動かして霞の隣に……いや、寝っ転がった霞の上に覆いかぶさる。
「明菜……ちゃん?」
上に乗った私に面食らった表情の霞に、私は何も言わずに口付けする。お酒の匂いとさっき食べたつまみの匂い、それと霞の付けている香水の匂い……色々な匂いが混ざり合い口中を満たす。
霞は自分が何をされたかわからず、私にされるがままだったが。その目だけは見開いていた。
彼女から離れた私は、勇気を振り絞り積年の想いを口にする。酒の力もあるかもしれないが、これで関係が壊れても良いと今なら思えていた。
「霞……私は霞が好き。友達じゃなく、恋人にしたいくらい好き。ずっとずっと昔から。隠してたけど、もう隠さない。だから私は……今から貴方を滅茶苦茶に抱く。彼氏が居ようが関係なく抱くわ」
「明菜ちゃん……でも……私は……」
「ごめんね、霞の意見は今は聞かない。だから私に抱かれた後に霞が決めて。私を取るか、今の彼氏を……霞を傷つけた彼氏を取るかを決めて。終わった後に私を警察に突き出してもいいわ。それくらいの覚悟を持って、私はこの最低な行動を取ると決めたの。」
霞は黙って私の話を聞いている。私の一方的な話を聞いてくれている。本当に、我ながら一方的。最低な行為をするというのにまるで高潔な事をするかのような物言いにも、自分自身で呆れる。
覚悟を決めたのは本当だ。彼女が警察に突き出すなら両親には申し訳ないが罪を償うし、霞が彼を取るなら、私が霞に会うのはこれが最後だ。
二度と連絡は取らない。スマホも捨てるし、仕事も変えて、今の場所から引っ越す……。だけど、それは霞には告げない。あまりにも卑怯だからだ。
いや、霞に決断を委ねている時点で卑怯なのは変わらないか……。
「霞……さっき言ったよね。自分の事を好きな人の行動は許してあげたいって……だったらさ……だったら……私も許してよ……今だけでもいいから、許して……受け入れて……」
私の後半の声は震えていた。涙が出ないよう必死だった。ここで拒絶されても……私は霞を抱く……でも……拒絶されたらその事実だけで私はもう立ち直れない気がしていた。
覚悟を決めたと言っておきながら、情けない。結局、誰よりも霞に嫌われる事だけは恐れているのだ。今さらその事実に気付いて、後悔しても遅い。私はもう行動に起こしてしまった。賽は投げられた。
お互いに流れる長い沈黙の後、霞はぽつりと呟いた。
「わかった……いいよ、明菜ちゃん」
「うん……ありがとう。あ、でも……私……その……初めてだからさ……変だったり痛かったら言ってね……」
私の言葉に、霞はきょとんとした顔をした。私は何かおかしなことを言っただろうか?
「無理矢理抱くのに、そんなこと言うの? 大丈夫だよ……明菜ちゃんなら……」
その言葉を最後に、霞は苦笑を浮かべる。私も同じような笑顔を浮かべ再び顔を近づけ……宣言通り、私は彼女を抱いた。