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秘めた思いと慰め会

「また彼にフラれた……私の何が悪かったのぉ……してほしい事は全部受け入れてあげたのにぃ……」


 涙声で私の目の前で焼酎のロックを物凄いペースで飲んでいる彼女は雪森霞(ゆきもりかすみ)……私、行森明菜(ゆきもりあきな)の小学校から一緒の幼馴染だ。


 仲良くなったきっかけは単純で、私も彼女の苗字が「ゆきもり」と読むことから席が前後だったから。どちらから話しかけたかは覚えていないのだが……たぶん、私だろう。


 ふわふわとした少し茶色い髪は染めておらず全てが天然物。目は丸っこく少し垂れ目ぎみであり、全体的に柔らかくおっとりしていて優しくて可愛らしい……と言う私とは真逆の女の子だ。

 私はと言うと、目つきは鋭く、今更染める気にも慣れない真黒い髪の毛も真っ直ぐで……他者への当たりもついついきつくなりがちで、高校のあだ名は「風紀委員」だった。


 その癖、自称サバサバ系で裏ではドロドロと言うかねちっこいと言うか……かなり執念深い。霞からは呆れ混じりに「明菜ちゃん……蛇みたいだよ……」とか言われたのをいまだに根に持っている。


「霞は全部受け入れすぎなのよ……嫌な事は嫌って言いなさい。それに、そんな男は別れて正解よ。どうせまた今回も浮気でしょ」


「なんでわかるのぉ……。そうなのぉ……ううぅぅ……。あ、焼酎のロックお代わり……今度は芋で……」


「ペース早い……まぁ、明日休みだから良いけど。私もビールお代わり」


 私は二杯目のビールを頼み、彼女は五杯目の焼酎ロックをお代わりした。こうなると止まらない。だから私はとことんまで付き合うだけだ。彼女の愚痴と別れ話のいきさつを。


 こんなに優しい彼女だが、男運は非常に悪い。彼女が可愛いから悪い男が寄ってくるのかわからないが、付き合ってはフラれてを繰り返している。彼女から告白したことは無く、向こうから告白してきたくせに彼女を振るのだ。


 一体何様だ。


 私は彼女が告白されるたびに今度の男は大丈夫なのかを忠告するのだが、彼女は優しいから……告白を断り切れずに付き合うパターンが多い。知らない人でもお友達から初めて付き合って……最後は彼女が振られる。


 本当に、彼女を振った男達は全員死ねばいいのに。


 高校の時はお酒なんて飲めないから、そう言うときは慰めながらの一晩中のお泊り会だったが、社会人になった今はそれもグレードアップしている。一晩中、お酒を飲んでの慰め会だ。やってることは高校から変わっていないとも言えるが、お酒がある分だけあの頃よりもテンションは高いかもしれない。


 彼女と二人で一緒に居ること……これが私の至福の時間だ。


 私は彼女が好きだ。


 友人的な意味ではない、恋人にしたい……そう言う意味の好きだ。私は同性愛者なのかとも思ったが、それとも少し違うようで……他の女性には一切性的な魅力を感じない。私は彼女だけがずっと好きなのだ。


 たぶん、小学校で初めて会った時からずっと。


 気持ちを自覚したのがいつかは覚えていない。だけどそれを彼女に言わないと決めた日は覚えている。


 そう決めたのは彼女に最初の彼氏ができた時……高校の時に私はこの気持ちを秘めることを決めた。彼女は普通に男の人が好きで、彼女に気持ちを告げて彼女を困らせたくはなかった……。


 いや違う。それは嘘だ。私が怖かったのは彼女がそれを告げて私から離れていくことだ。優しい彼女はそんなことはしないと分かっているが、それでも万が一がある。ならば私は気持ちを秘めることにしたのだ。何よりも、彼女と離れたくない私のために。


 何てズルくて臆病で卑怯な事か。


 今もこうやって彼女を慰めているが、内心では彼女と二人きりで飲めているこの状況を楽しんでいる。そして、霞を振った男に対して怒りを感じると同時に感謝もしているのだ。「彼女を私に返してくれてありがとう……」と。


 そんな醜い気持ちに蓋をして、私は彼女を慰める。今日はきっとこのままお泊りコースだろう。彼女の部屋か私の部屋か……それはその時の気分次第だが、手も出せない癖にお泊りコースとはいっそ滑稽だ。


 だから私はこのままの生活が、彼女が結婚して身を固めるまではずっと続くと思っていた。


 彼女が結婚したら、幸せになったら、飲む機会も減るだろうがそれでも私は彼女が幸せならそれでいい。そうなったら私も諦めて……何か彼女と家族ぐるみで付き合えるように行動をしようと考えていた。


 あの日までは。

ノベプラの百合フェア参加用に書いてみました。こちらにも投稿します。

4話で完結です。

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