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そして、僕が前世を思い出してから7年の月日が経ちました。
ミーヤ公爵令嬢――いえ、僕のミーヤは控えめで大人しいけれど、とてもヤンデレなどと呼ばれるような子ではなく、より一層綺麗になりました。
もう何度も何度も、毎日のように会っているのに、僕は会う度にドキドキしてしまいます。
ロベルトお兄様が婚約者にでれでれなのを、兄弟皆でからかったこともあったものですが、いまの僕はもう、お兄様を笑えません。
だって気持ちがよくわかるもの。
ミーヤの横顔とか、ついつい眺めてしまいます。
窓辺から差し込む陽の光が、彼女の整った顔立ちをより一層優しく美しく引き立てます。
僕の視線に気づいた彼女が、不思議そうに首をかしげました。
可愛いです。
見ているだけで癒される気がします。
でもそんな至福の時間を、バタバタと騒々しい足音が壊していきます。
僕はいつでもミーヤを守れるように、椅子から立ち上がりました。
それとほぼ同時に、足音の主が現れました。
「ルペストリス王子は、どーーーーーーーして学園にいらっしゃらないんですか―――――!!!」
バアーーーーーンッ!
そんな音がしそうな勢いで、ヒロインたるリーゼ男爵令嬢が図書館に飛び込んできました。
淑女にあるまじき行動ですね。
いえ、それよりもそもそも平民でも図書館へ走りこんでくることはまれではないでしょうか。
いろいろと神経を疑ってしまいます。
「ルペス……」
僕の隣で静かに本を読んでいたミーヤが、少しだけ不安げに瞳を揺らしました。
そんな彼女に僕は大丈夫だと頷いて、リーゼ男爵令嬢に向き直ります。
本当は彼女には関わりたくないのですが。
「リーゼ男爵令嬢。ここは図書館だよ? 静かに本を読むべきところで、そんな大声を出すものではないでしょう」
「これが出さずにいられますか?! この学園が唯一ルペストリス王子様とフラグが建てられる場所なんです!
ここをのがしたら、わたしはもう一生、王子とは一緒になれないんですっ」
眩暈がします。
何をどうしてどうやったら、婚約者と一緒にいる僕にそんな妄言を吐けるのでしょうか。
もっとも彼女がこうやってぶっ飛んだ常識のない子だったおかげで、心おきなく避けれたんですけれど。
あ、僕、学園には通ってますよ?
もちろん、ミーヤと一緒にね。
ただ、リーゼ男爵令嬢とかかわりたくないから、僕達二人は特別室で授業を受けているだけです。
当然、一般貴族は入れませんし、ましてや男爵令嬢でしかない下級貴族のリーゼ男爵令嬢には特別室の事すら知られていないはず。
ミーヤの時のこともありましたから、一方的に避けるのは悪いかな、と出会う前の僕は思ったりもしたんです。
でも彼女は入学式で僕に突撃アタックしてきましたからね。
さくっと避けましたよ?
当然。
本来なら、僕が転びかける彼女を受け止めて、運命の出会い風になったんでしょう。
ゲームの入学式のように。
出会いのシーンでしたが、僕の隣にはミーヤがいましたからね。
リーゼ男爵令嬢が突っ込んできてよろけたミーヤを抱き留めて、僕達はその場を立ち去りました。
ゲームの再現ならずです。