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「ルペストリス王子……本日は……お招きいただき、ありがとうございます……」


 ミーヤ公爵令嬢には決して近づかない。

 そう僕は心に誓ったのに、どうしてこんなことになっているのでしょうか。


 僕の前で緊張した面持ちでカーテシーをするミーヤ公爵令嬢を見て、僕はため息を押しこらえます。

 前回の王宮主催のパーティーではうめき声を漏らすという失態を犯した僕ですが、僕は王子。

 未来で僕を殺す彼女を前にしても、冷静です。

 えぇ、冷静ですよ?

 ちょっと、指先が震えてる気がするけれど。


「先日の非礼をお詫びしたくご招待させていただきました。今日は、ミーヤ嬢が好きだというマカロンを用意させて頂きましたが、お口に合うとよいのですが」

「そんな……滅相もございません。わたくしなどの為に……」


 ミーヤ公爵令嬢は僕に促されるまま椅子に腰かけ、深々とお辞儀をします。

 そんな姿に僕の胸はちょっと、痛んだり。

 まるで僕がすべてを用意したかのように言っているけれど、本当は、父上や周囲の人々がお膳立てしてくれたことです。

 相手は、公爵令嬢ですから。


 王子であっても先日の非礼は詫びないといけません。

 立場上僕のほうが上ですが、だからといってそのままにしては、公爵令嬢を、ひいてはダーネスト公爵家を侮辱した事になってしまいますから。

 できれば僕としては、ミーヤ公爵令嬢にこのまま嫌われて、婚約の話が流れてくれたらいいな、って思っていたんですけれど。


 白いティーテーブルの上には、色とりどりのマカロンがお皿に乗せて並べられています。

 なんだかとってもパステル空間です。


 そしてそんな愛らしいマカロンを食べるミーヤ公爵令嬢は、とてもうれしそうです。

 きっと、事前情報通り、彼女はマカロンが大好きだったんですね。

 上品に、けれど結構な量のマカロンが彼女のお腹の中に消えていきます。

 ダーネスト公爵家では、あまりマカロンは出さないのでしょうか。

 彼女の家なら、王家とさほど変わらない腕前の料理人がいるはずですし、同じように美味しいマカロンが沢山出されそうなのですが。

 

 僕の目線に気づいたミーヤ嬢が、はっとして、マカロンを食べる手を止めました。

 色白の頬っぺたが真っ赤に染まっていきます。

 僕の存在を忘れるぐらい、マカロンが好きだったんですね。

 

 ……真っ赤になって照れてるの、ちょっと、いえ、すごく可愛いんですが。


 ほんとに、ミーヤ公爵令嬢は綺麗なお顔なんですよね。

 前世の僕だったら、話しかけてももらえないような美少女さん。

 こんなに綺麗な子で、しかも公爵令嬢が婚約者になってくれるなら、僕は喜ばなくちゃいけないのですけれど。

  

 彼女なら、僕以外の王子でもいいのではないでしょうか?


 僕、第六王子ですけれど、僕の上にはほかに9人お姉様がいます。

 弟も4人いますし、妹は3人だったでしょうか。

 いえ、この間も生まれたので、4人だった気もします。

 とにかくいっぱいいて、この国では女性でも王位につけますから、僕の王位継承権はとっても低いです。

 公爵家のご令嬢なら、もっと上のお兄様達や、お母さまの身分が高い弟達でもいいのではないでしょうか。

 僕のお母さまは伯爵家の出身ですから、その点を考えても公爵家にとってあまりいい婚約相手ではないと思うのですけれど。


「ルペストリス王子は……紅茶がお好きなのですね……」


 ミーヤ公爵令嬢が、控えめに微笑みます。

 駄目です、そんな優しげな、綺麗な笑顔を僕に見せては。

 どきどき、してしまうじゃないですか。


 彼女の綺麗な笑顔を見ていると罪悪感も浮かんできて、僕は下に目をそらしました。

 瞬間、さっきとは違う意味でドクンッと心臓が跳ねました。

  

 淡いクリーム色のドレス。

 それは、乙女ゲームの中で、ミーヤ公爵令嬢が好んで身に付けていた色です。

 悪役なのに、黒でも赤でもなく、白に近いクリーム色。

 白に近いドレスは、汚れが目立ちます。

 例えば、もしも怪我をしたなら、その赤い血の色は鮮やかに映えて……。

 

「王子、失礼いたします。お顔の色がすぐれない様子ですが」


 護衛兼専用使用人のディノールが、僕にそっと声をかけてくる。

 やばい。

 顔に、出ていた?

 確かに、痛いぐらいに指先が冷たくなっているのが自分でもわかるけれど。


 目の前のミーヤ公爵令嬢は、ゲームの美麗スチルよりもずっとずっと幼い顔立ちです。

 青ざめてしまった僕を、心配そうに見つめています。

 彼女は僕の2歳年下ですから、いまはまだ8歳です。

 将来僕を刺し殺すときは、15歳ぐらい。

 ナイフを片手に、血まみれの彼女は微笑むんです。


『貴方だけなの……貴方だけ……これでもう、ずっと、大丈夫……』


 悪役なのに、いつも白に近いクリーム色のドレスで、そのイベントの時もそのドレスで。

 だから、僕を刺して飛び散った赤い鮮血が、彼女の服を鮮やかに汚して……。


「ルペストリス王子っ!」


 ぐるりと僕の視界が暗転する。

 ディノ―ルが僕を呼ぶ声と、小さな女の子の悲鳴と、いくつもの息をのむ音。

 どこか遠くで何かが倒れる音がして。

 僕はそのまま気を失ってしまいました。



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