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冬童話2020 蜜蜂のキルクとリリューシュカ

作者: 木谷日向子

金色の菜の花畑は、陽の光を受けて絵巻物のように美しく咲き輝いている。

その菜の花の上を数匹の蜜蜂が飛び交っている。

「あなた、やっぱり蜜を集めるのが上手ね。今日一番の収穫じゃない?」

「やったあ。ありがとう、これでコロニーの女王様も喜ぶわ」

 甲高い声が喜びを織り交ぜながら花の上に響く。

蜜蜂は全員少女だ。少年はいない。

彼女たちは巣に眠る女王と女王の子供、つまり自分たちの弟妹たちの為に毎日蜜を集めては巣であるコロニーに持ち帰ることを仕事としていた。

より多くの蜜を集めることが、彼女達の使命。

他の蜜蜂達がブンブンと花から花へ飛び交う中、唯一匹、一つの菜の花にずっと留まっている蜜蜂がいた。

彼女の名はキルク。

キルクは生まれつき後ろ脚が一本無い。

その為、他の働き蜂よりも蜜を集めることは遅かったが、丁寧に丁寧にキルクが集めた蜜は純度が高く、他のどの働き蜂よりも金色に透き通っていて美しく、女王のお気に入りだった。

「蜜を集めることに集中していたら、他の働き蜂はみんな帰ってしまったわ……」

 菜の花に顔を突っ込んで、一生懸命蜜を集めていたキルクは、いつの間にか一匹になっていた。

キルクの顔には銀色の花粉がふわふわとくっついている。

その花粉を舌でぺろりと舐めると、体に纏わりついた花粉も両手ではたいて落とし、帰る準備を始める。

夕焼けが菜の花畑に差し込み、オレンジと赤に染まっていく。

キルクはその色彩の美しさに見惚れて、ゆっくりと飛び回っていた。

するとある一本の菜の花の上に、一匹の働き蜂がいることに気づいた。

「おーい! あなた大丈夫?」

 菜の花の上の働き蜂は、最初キルクの声に反応する素振りを見せたが、あらぬ方向に顔を向けてしまう。

「あれ? おーい! こっちだよ!」

 菜の花に降り立つと、自分に背を向けている働き蜂にもう一度呼びかけた。

はっとした表情でキルクの方を振り返る。そして笑顔を浮かべると、ゆっくりキルクの方へ近寄ってきた。

「ごめんなさい。私、目が見えなくて」

 キルクは目の見えない働き蜂の両手を握りしめた。

「まあ、そうだったの。ごめんなさい。気付かなくて。あなた、お名前は?」

「私はリリューシュカ」

 リリューシュカはキルクの両手を強く握り返し、笑顔で答えた。

「私、ララベルコロニーの働き蜂なの。蜜を取ることに夢中で帰る時間を過ぎてしまって……」

 キルクはそれを聞いてぱっと笑顔になる。

「あら、ララベルコロニーなら私のルルクルコロニーのすぐ隣だわ。一緒に帰りましょう!」

 キルクとリリューシュカは手を握りながら一緒に飛び立った。


 風は柔らかく、下を流れる菜の花畑がまるで金の海面のように光っている。

「キルク、ありがとう。あなたからはお日様のような暖かいにおいがするわ」

 キルクは優しい笑顔を浮かべてこちらを見ているリリューシュカを見つめた。

リリューシュカの羽が夕陽を受け、あかく輝いている。

今まで見たどんな蜂よりも、美しいと思った。

「本当? ありがとう。リリューシュカ」

「私は目が見えない代わりにお鼻が鋭いの。だから他の蜂より味が濃くて美味しい蜂蜜を見つけられるから、コロニーの皆から大切にしてもらっているわ」

「私は片足が一本無いのだけれど、他のどの蜂より仕事が丁寧だって褒められるのよ」

 キルクがリリューシュカと繋いだ手をブランコのように振る。

「ねえ、リリューシュカ。私たちお友達にならない?」

「まあ、嬉しい。私もそう思っていたの」

「まだ出会って少ししか経っていないけど、私、あなたのことが大好きよ」

「嬉しい。私もあなたのことが大好きよ」

 キルクとリリューシュカはお互い笑い合った。

キルクにはリリューシュカの優しい顔が、リリューシュカにはキルクの優しい心が見えていた。

小川はどこまでも澄み、空は赤と紺のグラデーションで眩暈がするほど美しい。

それをリリューシュカに言葉で説明する。

すると彼女は、「大丈夫、すべて見えているわ。」と答えた。

2人の働き蜂の少女は、元気に明日の空へと帰っていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 2人、意気投合したんですね〜。 ずっと仲良く^_^
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