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狼の詩  作者: ゆうなぎ
狼編
33/44

第十六夜

 二〇××年 十一月二〇日


 気づけば、アトルの目の前にはかつての住処、家族とともに暮らした幸福な家がありました。ここにアルバと子どもたちがいるはずでした。

 「アルバ、俺だ」あの夜のように、外から呼びかけます。

 返事はありません。洞窟の中からは気配すらも感じません。

 アトルはそっと、音を立てないように穴の中へと入っていきました。

 「いないのか」

 果たして、そこには何もありませんでした。アルバもコルンもアイルも、かつての生活の跡すらも、まるですべてが夢だったかのように。

 「どこにいったんだ」

 突然、背後から重く激しい風音がしました。風は大量の雪を巻き上げ、これまでに見たことがないくらい酷い吹雪をもたらしました。アトルは洞窟の中から外を見て、とても出ていけないと判断しました。それはもはや外で雪が吹き荒れているというより、洞窟と外界の間に決して通ることのできない白い壁ができているようなものでした。

 アトルは思わず、膝を屈して、長く重いため息をつきました。

 急に強い痛みが僕らの胸を襲い、呼吸も徐々に苦しくなってきました。

 「もう、いないのか」

 僕の漆黒の友は何かを深く諦めたように、短い言葉を吐き出しました。

 僕には頷くことしかできませんでした。

 頷いて、わずかに涙をこぼすことしか。

 それから彼は、記憶の中のこの場所に刻まれた幸福な思い出にふたたび浸りながら、瞼をゆっくりと閉じました。

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