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狼の詩  作者: ゆうなぎ
狼編
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第一夜

 この手記を愛すべき友Aに捧ぐ


 二〇××年 二月二十日 

 だれかがあれを夢だというなら、夢なのでしょう。

 夢でないというなら、あれは私の身に起こった〝げんじつ〟なのでしょう。

 とにかく、絵を観た後に始まったあの日々のなかで、自分が視たことを残しておくのは間違いではないと思います。誰かのためでなく、自分のために残すのは。

 そして、時間のなかで起こるからだとこころの反応のすべてが自分をつくっていると仮定するならば、時間が記憶であることを踏まえると、その記憶を丁寧に保持することこそが生の重要な一面であると言えるでしょう。そのためにこの手記があります。

 第一夜

 

 ふかく、ふかく、もぐった水底から、再び息をしようと上へ上へともがいているような。

 苦しいけれど、視線の先の水面に光が反射して、それがとてもきれいで、僕ももうすぐあそこに行けるんだと希望に満ちているような。そういう感覚。

 

 それが最初で。

 

 その短い感覚が終わって、気づいた時には僕は澄んだ空気を呼吸していました。

 一呼吸、二呼吸。それで鼻先が濡れて冷たくなるような感じがして、瞼を開く。

 すると、目の前には白銀色が一面に広がっていました。

 すぐに雪だと分かりました。だって僕のからだはそこに横たわっていて、とても冷たくて綿のようにふわふわしていたから。

 ああ、降ったばかりの雪なんだと嬉しくなりました。それが朝日に照らされて、白銀に輝いて、とても美しくて。僕は誕生の喜びというものを感じていました。

 ただ、その喜びがすぐに驚きに変わったのを覚えています。

 立ち上がろうとすると、力が入らないのです。

 でも、からだは勝手に立ち上がろうとしていて、その感覚は伝わってくるのですね。

 その感覚も、脚を立てようとするところまでは同じですが、それから腕を立てるところからがおかしい。いつものように立ち上がることができないんです。視界もいつもよりもずいぶんと低くて、なんだか妙な感じでした。

 驚いたのはこの後です。

 僕の性質は生来のんきなものですから、ここまでは『まあ問題ないだろう』と思っていました。

 ただ。

 ふと地面をみたとき、そこに黒い毛皮に覆われた足があって愕然としました。

 まだまだ小さな可愛らしい足でしたけど、間違いなく人のものではなくて、犬のような生きもののそれだったのです。

 それを見ただけで僕のこころは泡立って、なかなか正常には戻りませんでした。

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