③死神の手がかり
歩くこと5時間。
あの死神がいるという森にやってきた。
暫くは棘のある植物などはないが、遠くに棘のある植物が見える。一応長袖は着ているが、首などにしっかりとタオルを巻く。
「これがいばら姫とかだったら、ぱーっと道が出来るはずなのに」
あいにく道は開かず。
「頑張って歩かなきゃ…」
*****
「…あっつい!!!」
なんなんだこの森は。異常なほど気温が高い。
棘対策のために厚手の服を着ているせいもあるが、そもそもの気温が高い気がする。
その上、棘が本当に棘!!
いばらの棘もあるんだろうが、本当に長く鋭い棘がところどころにあるのだ。
うっかり心臓を突き刺してしまえば即死だろう。
「(なんて森なのよ…)」
何とか太い棘に気を付けながら森を進む。
小さい棘に関してはもう気にしていられない。
「もしかして、前家確認に行った人が返ってきたのってこの棘のせいなのかしら?」
ありえる。非常にあり得る。
でもほかの人は精神がおかしくなったとかも言ってたなぁ。
どうしてなんだろう…気にしてもしょうがないのは分かってはいるけれど不思議でたまらない。
と、その時…
ガサガサ…!!!
「え!なに!?…待って…うそでしょ…」
目の前に現れたのは小さい翼の生えたライオン。
そう、この国は神話に出てきそうな生き物が実在するのだ。
だが、普段は人の前に出てくることは少なく、王などの権威ある人間が保護していたりするのだ。
それなのにどうしてこんなところに…。
「私ライオンの倒し方なんて知らないよ…」
精神がおかしくなった人たちの原因がやっとわかった。
こういう生き物たちに襲われたのだ。
現実ではあるが普段関わらず、あまりの現実味のなさに発狂してしまったのだろう。
「こまったなあ…」
翼の生えたライオンはこちらを警戒して唸っている。
「甘い物とか適当に投げようかな…」
とりあえず、思いつきではあるが鞄に入れていた大きめのおにぎりとクッキーを遠くに投げてみる。
「えい!!」
我ながら結構遠くに飛んだ。にもかかわらず…
「なんでこっち見てるのー!!!!!」
ライオンは投げた食料に目もくれず私を見ている。
「…走るしかない?追いつかれるよね?どうしよう」
もうだめだ死ぬしかない、食べられる…。
でも私には家の住所を確かめるという役目があるのに。
「ねえねえ、この住所しらない…?」
そおーっと住所の書いてある紙を見せる。
なんとなくだが、昔読んだこの国の生き物について読んだことがある。
そこに、ごく稀に人間の言葉が分かる生き物もいると記載があったのだ。
どうせ食われるなら抵抗しようという魂胆で話しかけたのだが…
ライオンの反応は一向にない。
「あー。やっぱり無理だよね…。私の人生もここまでか…」
「ついてこい」
「え、は、え…?喋った…」
「なんだ食われたいのか」
「いや、食べないで…」
ライオンが喋った上に道案内をしてくれている・・なんだこの展開…
しかも道案内までしてくれている。
「ねえ、喋れるの…?」
「なんだ。そんなにめずらしいのか。この森にいる者は基本話すことが出来る」
「私を食べようとしてたんじゃないの」
「いや、そうではない。この森に興味半分でまた人間が入ってきたと思ってな」
まさか…今まで人が返ってこなかったのって…
「たべたの!!!???」
「たわけ。われらに人を食う趣味はない。阿呆が」
「え、でもここに来た人が帰ってこないって噂が」
「それはあのいばらの棘と野生の動物たちだ」
すっと目を向けた先にはあの長く鋭い棘。そして木の陰に隠れる普通のライオン。
「え、ライオンいる…」
「このもりにはああいう野生の動物もいる。襲われるのも少なくない。だから人間の住む町でそんな噂が立っているのだろう」
「じゃあ、死神はいないのね。なんだ」
「いるぞ、死神は」
「え?だって、」
「お前の持っている紙の住所は死神の家だ」
「嘘…」
「なんだ知らんかったのか」
「いないと思ってた…」
私の一言に盛大に溜息をつかれる。
「いやだって…え、もしかして街から見える大きなお屋敷?」
「ああ。そこに死神は住んでいる」
「まぁ…びっくり…」