罰当たりな僕らは世界を罵る
家からわりと近くにあるこじんまりとした喫茶店。メニューは珈琲と紅茶、それと簡単なサンドイッチやフレンチトーストだけの小さな店。そこのカウンターに座って飲む珈琲は結構気に入っている。
「いやー、何か辛くなっちゃってねー。奥さんいるの分かってたから、2番目でもいいって言ったのは私なのにね」
俺の前で愚痴をこぼしながらダラシなく項垂れる彼女はここの従業員。働きだして今年で3年目らしいのでそれなりにベテランだ。通い始めて2年になる俺とはそれなりに気心の知れているせいか、他の客が居ないのを良い事に彼女はたまにこうして愚痴を聞かせてくる。そのほとんどが恋愛絡みでしかも報われることはほとんどない。ちなみに前の彼氏は既婚者だった。
「ならやめとけば良かったのに」
誰に言うでもなく零れ落ちた言葉は彼女の耳には届いていたようで、カウンターから少し顔を上げた彼女は困ったように眉を下げた。
「大人の世界は、そんなに簡単じゃないんだよ」
彼女は笑顔とは言えない下手くそな笑顔で俺を見つめながらそう言った。
"大人の世界"とは彼女の世界の事なのか、それもと相手の男の世界なのか。少なくとも、俺の世界でない事は確かだ。
3つしか変わらないくせに。喉元まで出かかった言葉は珈琲で流し込んだ。
奥から出てきた店長が項垂れる彼女を見つけて注意するフリをする。形だけのお説教を受けた彼女は、はーいと間延びした返事をして反省したフリをした。その一連の流れを見届けてから、支払いを済ませて店を出る。振り返るとこちらに手を振る彼女が見えた。小さく会釈すると彼女が「またね」と言った気がした。
例えば、彼女が生きる世界が大人の世界だとして、俺が生きる世界が子供の世界だとして、きっと交わる事はない。いつまで経っても彼女と俺の世界は平行してすれ違う。たとえ俺が高校を卒業して、お酒が飲める歳になってもきっと。
『ならやめとけば良かったのに』
さっき彼女にそう言ったけれど、自分だって人の事を言えた義理じゃない。
「貴方は分からないかも知れませんけど、子供の世界だってそう簡単じゃないですよ」
そっと呟いた言葉は誰にも届く事なく、溶けて消えた。




