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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

あの戦争

作者: かんこん
掲載日:2018/11/08

そういう事って、あるのでしょうか。


こんな事って、あるのでしょうか。


貴方を裏切る事が、起こるのでしょうか。


「やめろ、横山!」

そんな怒鳴り声さえも、小言に聴こえる。


ただ、赤子の泣き声と貴方の息遣いだけが、はっきりと聴こえる。


暗闇の中に、貴方と貴方の抱いた赤子だけが見えた。


この暗闇の中に、地獄が見えた。


俺は、貴方に銃を向けた。


俺の視界には、貴方と、その子しか居なかった。あんなに愛おしかったのに。


「横山くん……」

貴方は怯えた目で、涙を溜めた目で、俺を見つめた。抱いた赤子を庇うように、抱きしめながら。

俺が銃を向ける貴方は、目の前にいる。照準器を見る必要もない。


「なんで私を撃つの? 私は、貴方に優しくしてたのに! 貴方を信じて、貴方の姉のように可愛がってたのに……!」


貴方は、そのあどけない瞳から、涙を流す。優しい貴方の、哀れな泣き顔。


今の俺に、そんな訴えは受け入れられない。ただ、憎しみと化した貴方への感情が、何もない俺の心から溢れ上がるんです。


「鬼!!」

泣き声で、そう怒鳴った。

「貴方は鬼! あの米兵たちよりも、鬼畜よ! 最低よ! 貴方は私を裏切ったの! 私は貴方の姉なのよ!あんなに優しくしたのに!! 貴方は……貴方は……!」


その罵声は、今のこの冷えきった心を貫けなかった。


「そんな声をだしたら、撃たれちまうぞ……!」


誰かの声が聴こえた。


「一緒に……一緒に遊んであげたじゃない……」


その言葉と同時に、引き金を引いた。もう撃たずとも、バレちまう。ただ、貴方が憎い。


「死にやがれ!俺を殺すな!!」


暗闇に銃口から、鋭い光が発せられる。


一発の死の音。


一発の銃弾は貴方の赤子の息を奪った。


貴方は、死んだ赤子を抱いて、ただ呆然と涙を流していた。


「死ね……」


貴方は、撃たれるその瞬間に、そう呟いた。


気がつくと、二発目を撃ち込んでいた。


貴方は、胸から血を流していた。かすかに息をして、苦しそうに甲高い苦しみの声を、虫の音のように上げていた。


貴方は、死ぬんだ。あんなに優しかった、貴方は。思いもしなかった。そんな事……。


ただ、あの優しい顔を泣かせて、俺を見つめていた。


「姉さん……」


俺は持っていた、銃を握りしめて、ただ座り込んでいる。


冷めきった心が、急に熱せられたようです。


俺の心に、幾つも幾つも、針が刺さります。


俺はただ、一瞬の憎しみの為に、貴方を裏切ったのでしょうか……。


俺は貴方を、抱きしめた。


ボロボロの軍服に、貴方の血が滲む。










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