第一章0話 覚悟
「おい! 向こうから何か来るぞ!」
なぜかそのとき、味方の声がよく通った。薄暗い森の中、緊張で皆が静かだったからだろうか……。
「とにかく、全員構えろ!」
そんなことは、俺にだって分かる。しかし、さっきから流れてくる深い霧のせいで、視界が悪すぎる。
ーーー くそ、何が来るっていうんだ! ーーー
霧のなかに揺らめく無数の影が目の前埋め尽くしたとき、それは姿を現した……。
「な、何だこの蜂はぁ!?」
その蜂の大軍はいろいろとおかしかった。まずサイズがどう考えても大きすぎる。地球での一般的な蜂の5、6倍はある。次に追い方がおかしい。なぜか見事な隊列を組んでいる。さらに、これはおまけのような物だが、目つきがおかしい。目を合わせられないくらい怖い……。もう殺意しか感じない。
俺は仲間が圧倒的な戦力の差によって、一方的に殺戮されていく様子を、ただただ呆然と眺めることしかできなかった。巨大な針をねじ込まれ、悲鳴をあげる者。腕を切り落とされ、発狂する者。周囲の状況を確認するたび、吐き気が自分の体を支配する。そこにいた人間全てが絶望し、全てを諦めた。
「お前らはここで全滅するのだー!」
蜂の大軍のリーダーらしき者が高らかに笑う。
町で一番根性がある俺でさえも泣いていた。敗北した悔しさの涙ではなく、大切な仲間を一度に失うであろう覚悟の涙である。
だが次の瞬間、燃えさかる大炎と共に蜂の大軍は消滅した。
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