第8話 最強軍団の想い
アデレードは改めて、憧れの「1-1-1戦闘艇団」の若きパイロット達を交互に見て、感慨をその顔に露わにしている。ファランクスはそんなアデレードの横顔を見ている。これからこの2人が、「キグナス」の宇宙艇要員として切磋琢磨し、同じ目標である、宇宙保安機構軍、そして「1-1-1」への入隊を目指して行くのだと思い、ユーシンの胸にも込み上げてくるものがあった。
「あっしゃっしゃ、いつまで突っ立って話をしとるんじゃ、ガリアスよ。そっちの若いのも、せっかくかような場に来たのじゃ。くつろがせてやらんか。」
「おお、ドーリー爺さん。じゃあ、お言葉に甘えて爺さんの隣に座らせてもらうよ。おう、お前達も適当に座りな。遠慮するような相手は、ここには1人もいねえからな。」
ドーリーから2人の部下へと視線を移しながら、ガリアスは言った。若手パイロットも「失礼します」と小さく言って、アデレードを挟むようにして腰を下ろした。あこがれの「1-1-1」パイロットに挟まれて、アデレードは赤くなっていた顔をさらに赤くした。
すかさずウェイターとウェイトレス達が、ガリアス達の分の飲み物も運んできた。彼らの好きな飲み物も、とっくにご存知の様子で。
運ばれて来たばかりのハイボールを、ひったくるようにしてガブリとやったガリアスに向かい、
「爺さんは止めんか、ガリアスよ。わしゃあ、そんな歳じゃないのじゃぞ。」
と、口をとがらせて言ったドーリー。ガリアスは殊更に驚いた風を装って応えた。
「なに?ではもう幽霊になったのか?」
「こらぁ、勝手に殺すんじゃないわい。」
またひとしきり、笑いに包まれた。和気藹々だ。
「3週間前の、」
もっと話をしたくてうずうずしている、という様子で、アデレードがガリアスに話しかけて行った。「宙賊のアジトを壊滅させたというニュース、聞きました。スペースコームの外側の、ワープが出来ないから簡単には戦闘艦が近づけない場所に、『1-1-1戦闘艇団』が暫時タキオントンネル航法で奇襲をかけ、宙賊どもの根拠地を徹底的に叩いたって。」
「まあ、ああいった事は、」
と、ガリアスの代わりに若手パイロットの1人であるアドリアーノが答えた。「よくある事だよ。タキオントンネルやビームセイリングでの先行突撃や奇襲攻撃というのは、戦闘艇団という部隊の基本戦術であり存在理由だからね。」
「あっしゃっしゃ。機構軍の戦闘艇団の中でも最精鋭揃いの『1-1-1』じゃからのぅ。奇襲攻撃は日常というところじゃろ。」
「はい、そんなところです。」
と、ドーリーの言葉に応えたのはマイケルだった。
「どうして『1-1-1戦闘艇団』には、そんなにも凄い人が揃ってるの?」
と、ぼそりとつぶやくように尋ねたのはノノだった。
「ノノは、機構軍の事情には疎いからな。」
と言うとアデレードは、アドリアーノを挟んで2つ隣に座るノノに向き直り、説明を始めた。「機構軍の一個艦隊に属する5人の大隊長の中で、最も優秀だとされている大隊長が、第一大隊を組織し、他の大隊長に優先して配下の兵を指名できる。当然、第一大隊には優秀な兵が揃う。そして、大隊長から最も優秀だとされた中隊長が、第一中隊を組織し、大隊の中から優先的に配下の兵を選ぶ。当然、第一中隊には優秀は兵が集まる。その中隊長が最も優秀だとした小隊長が、優先的に配下を招聘して第一小隊を組織する。つまり、第一大隊第一中隊第一小隊というのは、機構軍艦隊における、エリート中のエリートの小隊という事になる。」
「うん。うん。」
と、アドリアーノの言葉に一つ一つ頷きながら、ノノは聞いていた。
「そして、小隊には全て、戦闘艇団が一つ所属する。どの小隊においても戦闘艇団というのは、最も危険で、最も高い技能が求められ、最も勇気が必要とされる任務を与えられる部隊だ。だから、」
と、そこでアデレードは一呼吸置いた。
「だから、第一大隊第一中隊第一小隊の戦闘艇団というのは、機構軍一個艦隊の中で、最も優秀で最も勇敢で最も頼りになる存在として、多くの人々に認知されているんだ。」
「そう!『1-1-1』は最強の代名詞だ。」
と、ユーシンも興奮気味にそう言った。
「はは、なんだかそんな風に言われると、照れくさいものだな。」
少し顔を赤くして、頭を掻きながら、説明を終えたアデレードを横目で見つつ、アドリアーノが声を上げた。
「そんな肩書なんぞ、どうでもいいんだよ。体が丈夫なのだけが取り柄の、ごろつきの集まりさ、ウチなんざ。」
ガリアスも謙遜してそう言い、ハイボールを煽る。
「でも、」
アドリアーノはまだ赤いままの顔をガリアスに向けて力説した。「『1-1-1』が銀河の平和に大きく貢献している事は間違いありません。ここ最近根絶やしにした、宙賊を生業にしている部族も、何十にも及ぶと伝えられています。」
「根絶やしにしたってなぁ、俺達は、ただひたすら宙賊を殺しまくってるわけじゃねえぜ。まぁ、大勢殺しているのは間違いないが。」
精一杯褒め称えたつもりの、アデレードの言葉を受けたガリアスだったが、なぜか悲しそうに遠くを見る瞳をして、それに応じた。
「宙賊を根絶やしにするというのは、」
ガリアスを補うように、アドリアーノが続いた。「宙賊を根絶やしにするというのは、宙賊を皆殺しにするという事では無い。宙賊をやらなくても暮らしていける部族に生まれ変わらせるという事だ。殺す事は殺すが、それは出来得る限り最少に留め、一人でも多くを生かしたまま制圧し、人から物を奪ったりせずに必要なものを得る方法を教えるんだ。」
「そうだ。」
マイケルも続く。「宙賊でしか暮らしを立てて行けない部族がたくさんいるのでね、この銀河には。そんな彼らに、平和的な、地球連合勢力とも友好的な暮らしの立て方を、身に付けさせてやることが、俺達の活動の最終目的なんだ。」
「殺したいわけじゃねえのよ、俺達は。たとえ宙賊といえどもな。散々殺しといて、言えた義理じゃねえが、人を殺すなんて褒められた事じゃねぇ。どんな理由があるにせよ。どうしてもしようがない場合だけに殺しは控えて、殺さずに済ませる事を考えてるんだ、こんな俺達でも。」
そう言ったガリアスの声には、誰かに詫びてでもいるかのような響きがあった。奪って来た多くの御霊が、その目に映っているのかも知れなかった。
「優しいのね、『1-1-1』って。なんか少し、安心した。」
ガリアスを真正面に見つめながら紡がれたノノの言葉に、「1-1-1」の3人の顔が、救われたように和らいだ。
「優しいなんてもんじゃねえんだよ、嬢ちゃん。」
孫ほども年の離れた小娘を振り返った、歴戦の闘将の顔は赤らんでいた。「ただ、俺達にとっちゃ他人事じゃねえのよ。あいつらの、宙賊どもの境遇は。」
「どうして?」
青みがかった長い黒髪が傾く。
「俺達の、」
急激に低くなった声色で、アドリアーノが告げた。「『1-1-1』団員の出身部族は、ほとんどが数十年から百年くらい前には、宙賊だったんだ。俺の出身部族、『ララサン族』も、ほんの30年前までは宙賊をやっていて、連合勢力圏内も、相当に荒し回っていたらしい。」
「俺のとこも、マイケルのとこもそうだ。」
と、ガリアスも声を低くして続けた。「少し前まで宙賊やってた部族の出だから、俺達には奴等の辛い境遇が、痛いほどよく分かる。」
ガリアスは一旦背筋を伸ばし、低くなった声を無理にでも高くしようと気を入れ直した様子で語った。
「過酷なもんなんだぜ、宙賊の暮らしなんてのは。命がけで人から物を奪い続けなければ、生きて行く術がねえんだぜ。自分達では作れねぇんだ、食い物も、服も、薬も、そのほか生きるに必要なあらゆるものも。そういう生存に不可欠なものを作る方法を、長い宇宙の放浪の果てに、全部忘れちまった者達の末裔なんだ、宙賊なんてのは。なんで、そんなんで、それらの部族が、宇宙で生き延びて来られたのかは知らんが、取りあえず今奴らは、命がけで文明人を襲って奪う事でのみ、食いつないでるんだ。みじめなもんよ。」
「連合勢力の宇宙船が宙賊に襲われた場合、」
アドリアーノも声を少し高くして語り始めたが、明るくなったというより事務的になったといった方が良い声色だった。「襲われた側よりも、襲った側の方が、生存率が低いという統計もある。」
「襲われた宇宙船では、10人に1人位の割合で命を落とすが、襲った側は4人に1人が死んでいるという。そうやって命を削りながら、どうにか命を繋いでいるのが宙賊だ。」
と、マイケルも事務的な口調で話した。
「俺に言わせりゃあ、宙賊行為ってのは、奴らの悲鳴なんだ。生きる術を失って、宇宙で路頭に迷い、飢えと寒さに震え、苦しみ、のたうち回った末に発せられた、奴等の悲鳴が具現化したのが、宙賊行為だ。」
遠い彼方に耳を澄ますように、ガリアスは言った。一旦呼吸を置いて、また話し出す。少し悔し気に歯をかみ合わせた後で。
「それでも直に歯向かって来られりゃ、殺すしかねぇ。こっちも死ぬわけには行かねぇからな。沢山殺したさ。苦しみ、のたうち回っている、哀れな同類共をな。」
目を伏せ、何かを振り切り、また前を向いて、続ける。
「だが、それだからこそ、殺さずに済む者には、手を差し伸べるのさ。時には差し伸べた手に噛み付かれて、血飛沫を吹かされることもあるが、それでも手は伸ばし続ける。それから奴らを掴み、引き寄せ、そして俺は、力いっぱい抱きしめてやりたいのよ。奴等を。1人でも多くの同類を。」
「そうか。」
ユーシンは、真っ直ぐな視線をガリアスに送りながらつぶやいた。「倒してるんじゃないんだ、『1-1-1』は、宙賊を。救ってるんだ、機構軍の中で一番、彼等の境遇が分かるから。」
「そう理解してもらえると、嬉しいな。」
うつむき加減だった顔を、パッと明るくしてユーシンを見上げ、アドリアーノが語り始めた。「宙賊の母体となっている部族を制圧すると、機構軍は彼らに、農業生産設備の整ったスペースコロニーを提供している。始めは半ば力づくになるが、彼等をそこに押し込めて、自らの手で食糧を生産する事を学ばせる。危険を犯さなくても食料が手に入ると知れば、放っておいても宙賊などやらなくなるからな。」
「でも、宙賊にモノを教えるのって、難しくないの?」
そんなニコルの問いかけに答えたのは、マイケルだった。
「ああ、難しいよ。反乱なんてしょっちゅうさ。監視役の機構軍兵士も、何人も命を落としている。でも、誰かが命を懸けてそれをやらなきゃ、宙賊は減らせないのさ。」
「宙賊など、ただ排除すれば良いとか、全滅させてしまえば良いなんて、簡単に言う者もいるけど、そっちの方が味方の人的被害も多く出る。窮鼠猫を噛むというけど、全滅を目前にした部族は、当然頑強な抵抗を試みるからね。反乱を起こされて被害を出そうとも、食糧生産技術を教授し、信頼を勝ち取り、友好関係を築くやり方の方が、結局は損害が少なくて済む。全滅を図るより。だが、そんな打算以上に、彼らの境遇を知る俺達『1-1-1』は、救ってやりたいって気持ちが強い。それに、」
と言ったあと、一呼吸おいてアドリアーノは続けた。
「俺の出身の『ララサン族』も、30年前に『1-1-1』に制圧されたんだ。そして今でも、機構軍からもらい、最初は無理矢理に押し込まれたスペースコロニーで、変わらず食糧生産を続けている。制圧された当時は、部族の全員が機構軍を恨んでいたというが、今では全員が感謝している。生活水準も格段に向上したし、部族の若者が命を落とす事も激減したし、集落の中に笑顔が溢れるようになったから。反乱を起こした事は何度かあって、殺してしまった機構軍兵も少なからずいるが、今ではそんな機構軍兵の殉職者を、部族総出で、定期的に弔っている。」
遠くに視線を泳がせながら語る彼の脳裏には、故郷の集落が浮かんでいるだろう。
「俺は、俺の部族が機構軍にしてもらった事を、未だに宙賊を続けている部族に、してやりたいんだ。俺の部族が機構軍のおかげで幸せになったように、今度は俺が、彼等を幸せにしてやりたいんだ。それが、俺達の部族が殺してしまった機構軍兵士達への、一番の弔いにもなると思っている。」
「『1-1-1』の団員は全員、そんな事情を共有していて、俺達が宙賊を救ってやらなきゃいけないって使命感を持って、闘い続けているってわけだ。」
と、ガリアス。少しアルコールが回って来たのか、言葉に熱がこもる。マイケルも言った。
「俺も、機構軍に所属し、宙賊を救う事は義務だと思っている。機構軍に救われ、平和な暮らしを教授している部族の出身者として。」
「そうか。なんか、なぜ『1-1-1』が最強か、分かった気がする。」
と、ユーシンは込み上げる思いを吐露した。「戦闘能力だけじゃないんだな。優しさとか、寛大さとか、情熱とか、責任感とか、忍耐力とか、勇気とか・・。そういうのをもって闘うから、『1-1-1』は強いんだな。」
「あっはっは、なんか、どうも、ちぃっとばかし格好つけすぎたなぁ。あっはははは。」
真っ赤な顔のガリアスは、照れを隠そうとするように大きな声を立てて笑った。
「そうですね。そんな褒められたもんじゃありませんね。俺達なんて。」
アドリアーノが頭を掻きながら言った。「そんな恰好の良い理由だけじゃないんだ。俺達が闘っているのは。もっと現実的で手前勝手な理由もあるんだ。」
グラスの中身をグイッと煽って続ける。
「宙賊時代より生活が向上したとはいえ、まだまだ、連合勢力内の国や民族と比べれば、貧しい生活を送っているのが、俺達の部族だ。それを改善して行くには、他の国との交流が欠かせないが、宙賊だった過去がそれを阻んでいる。俺達の部族を信用できないって言う者達は、当然だが、連合勢力内に大勢いる。特に、俺達の祖先が直接荒し回って来た宙域の住民には、不信感どころか積年の恨みっていうのがある。それを払拭するのは並大抵ではないが、それをしないと、俺達の部族に未来は無いんだ。」
「俺達が機構軍で、その中でもエリート中のエリートと謳われる『1-1-1』で活躍すれば、少しでも出身部族の信頼向上に役に立つんじゃないかって、少しでも出身部族の生活水準を向上させたいって、そんな浅はかで自分本位な計算もあって、やってる事なんだ。」
と、マイケルも続けた。苦笑いを浮かべながら。
「故郷を思う気持ちが、悪い事なわけ無いじゃない。」
と言ったのはニコルだった。「その気持ちも、宙賊を救いたいっていう想いと同じ位、立派だと思うわ。あたし『1-1-1』の事、今まで以上に尊敬しちゃうかも。」
「あはは、何かこそばゆい事ばっか言ってくれる嬢ちゃん達だぜ。あーっはっは。」
その後はしばらく、『1-1-1』の武勇伝で宴席は温められた。皆は思い思いに席を移り替わりながら、三々五々に固まって会話を楽しんでいる。
「もう俺なんざぁ、出番ねぇのよ。こいつらが全部やっちまいやがるからなぁ。」
そう言ってアドリアーノとマイケルに交互に目をやるガリアス。細められた目が、彼等の成長への喜びを物語っている。
「この前の宙賊のアジトへの奇襲だって、このアドリアーノがさっさと敵の首領の戦闘艇を見つけ、束になってかかって来た敵の下っ端どもを、スルリとすり抜けてそいつに肉薄し、威嚇射撃だけで投降させちまいやがったんだ。あんときの、こいつの戦闘艇の捌きようは大したもんだった。頭を抑えりゃ宙賊なんて、借り得てきた猫のようにおとなしくなるもんだ。おかげで俺なんか、レーザーの一射もさせてもらえねぇで終わっちまったあ。あっははは、失業だぜ、もうほとんど。」
「そんな事ないですよ。もともとの団長の作戦プランが良かったから、敵の首領を簡単に炙り出せたんです。」
そんなアドリアーノの言葉を聞きながら、ユーシンは思った。
(これだけ色々な話を聞かされたら、キプチャクの機構軍嫌いも収まったんじゃないかな?)
それを確かめようと首を巡らせてみたが、キプチャクは見当たらない。散々探してみたら、彼等からは遥かに離れた席で、見た事も無い美女に、何やら必死の様子で話し掛けている。
「何よキプチャクったらぁ。あんなところで、1人でナンパ始めてるわよ。」
ユーシンとほぼ同時にキプチャクの様子に気付いたらしいニコルが、呆れたような声をあげた。
「あいつの夢の第一歩になれば良いな。」
「えー!そんなの、あの女人が可哀そうよ。」
そんなやり取りもしつつ、酒を飲み、料理に舌鼓を打つ内に、酔いが回ったのかユーシンは、いつしかボンヤリと言葉も無く空を見上げていた。コロニーの中では空を見上げる事は、“天井世界”の“大地”を見下ろす事にもなるのだが、いつの間にか夜モードに入っていたコロニー内は、月明かりを模したような照明の、薄明りとなっていた。“天井世界”は闇の中に沈んで見えない。
ウトウトなどもしながら、ユーシンは闇に沈んでいる空から、彼らが上がって来た階段の方へと視線を移す。人がひっきりなしに出たり入ったりしている。何回か、誰かが話しかけて来たが、返事もせずにぼんやりしていると、仲間達は彼を、良い感じにシカトし始めた。それを幸いと、ユーシンはボンヤリ、出入り口の人の行き来を眺め続ける。
と、突如、世界が縦回転した。
瞬間、何が起こったのかユーシンには理解できなかった。
何かが目の端に入った瞬間、それに視線を留める事を猛烈に拒絶し、彼の眼球が彼の意に構わず、急激な回避運動を起こしたようだ。
見たい見たいと思い続けたもの、会いたい会いたいと思い続けた女人、それなのに、それを見る事を、なぜか猛烈に拒絶した。直視してしまったら、何が起こるか、自分がどうなってしまうか、そこに恐怖を感じたのだ。
顔は知らないはずの女人、なのに、視界の端に一瞬飛び込んだだけで、即座に判断できた。後ろ姿しか、黒髪しか記憶にない女人を、即座に判別できた。誰と意識するよりも先に、見てはいけないという、雷鳴のような衝動が駆け抜けた。
想い続けた女人の突如の登場と、その途端に炸裂した、見てはいけないという衝動、それに驚き、慌てふためき、彼の眼球は、余りにも急速な回避運動を起こし、急激に回転したため、一瞬だが、自らの頭蓋骨の内側を覗いたかもしれなかった。
グルグルと回る意識の中で、自分がどうなっているのかも理解できない混乱の中で、ユーシンは、うわごとのように、ただ呟いていた。
「・・お嬢様・・・」
今回の投稿はここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は'17/3/10です。
宇宙保安機構軍や、その中のエリート集団「1-1-1戦闘艇団」の、活動に賭ける想いを分かって頂けましたでしょうか?そんな「1-1-1」を目指すファランクス・アデレード。ユーシンも、他の「キグナス」クルー達も、機構軍や「1-1-1」とは様々な関わりを持って行くでしょう。世界観の広がりを実感して頂ければ、無上の喜びです。というわけで、
次回 第9話 白鳥の勇姿 です。
遂に、「お嬢様」登場。そして、ようやく、タイトルになっている宇宙船、「ウォタリングキグナス」が、ユーシン達の前にその姿を現します。夢・恋・冒険・・。物語が、加速します。是非、ご一読頂きたいです。