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銀河戦國史 (星々を駆る重武装宇宙商船「ウォタリングキグナス」-ヤマヤの虜囚-)  作者: 歳越 宇宙(ときごえ そら)
ヴォーソム星団・キークト星団の章
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第79話 魅惑のクレア

 シャラナの部屋の端末の前で、ユーシンは興奮に打ち震えていた。

(この端末の中には、お嬢様が「ヤマヤ国」に居た時の画像がぁ・・!)

 一旦通り過ぎたシャラナの部屋に、少しつんのめったりしながら、慌てふためいて引き返したユーシンは、部屋に入り、机の前に立ち、端末を眺めていた。

(こ・・この中に・・この中に、シャラナさんとお嬢様が、「ヤマヤ国」で過ごした時の画像が・・・)

「ビキニ姿が、とてもお似合いでしたわよ。」

 シャラナのかつての発言が、ユーシンの頭の中でリフレインする。

(つまり・・つまり・・この端末には・・・)

「お・・お嬢様の、び・・びき・・びきびき・・びきき、うわぁっ!ダメだぁっ!」

(何を、見ようとしているんだ、俺は。そんなもの、見て、良いわけ、無いだろう。)

「感謝してくださいね」

(あのシャラナさんの言葉は、この事を意味していたのか?シャラナさんは、これを見ろって、俺に言っていたのか?シャラナさんが見ろって言ったのだから、見たって・・)

 端末に伸びる、ユーシンの手。

「うわぁっ!だから、ダメだってぇっ!」

 ブルンブルンと頭を振ったユーシン。ぐしゃぐしゃと、頭を掻き毟ったユーシン。ゴンゴンと、頭に拳を叩きつけたユーシン。そして、大股で、何かを振り切るよに、勢いよく、シャラナの部屋を後にしたユーシンだった。

 後ろ髪は引かれる。猛烈に気になる。もう、滅茶苦茶見たい。見たくて、見たくて、気が狂いそうだ。だが、

「ダメなものは、ダメだ。そんなのを見たら、ハーフナイトの名が廃る。」

(きっと、ブルーハルト大佐だったら、見ない。)

 それ以降も、「イヌチヨーナ星系」の復興に邁進するユーシン。毎日、毎日、視察に駆け回り、要望を聞き、ブルーハルトに陳情するという事を繰り返す。シャラナの部屋の前を通る度に、気持ちはグラングランと揺らいだが、何とかかんとか、通り過ぎる事が出来ていた。

 物の復興は、ほぼ完了しているが、人が多く死んだ事の影響は、簡単には埋められない。更に、これまでの「ユラギ国」の生活や文化の水準から、地球連合勢力の標準的な水準への引き上げというのも、課題となって来る。もう復興とは呼べない事業にもなって来るが、ここまで首を突っ込んだ「イヌチヨーナ星系」市民の事だから、ユーシンは尽力せずにはいられなかった。

 「ユラギ」国民の教育や人材発掘、星系外部からの労働力の呼び込みといった活動に、ユーシンは精力を傾けていた。「イヌチヨーナ星系」だけでなく、「ユラギ国」のあちこちに、学校を新設し、外部から有能な教師を連れて来た。初等教育用の学校、専門家養成の為の学校、と設立した学校の種類も多様だ。

 企業誘致も進めた。先端技術を持つ企業の工場を、「イヌチヨーナ星系」を始め「ユラギ国」各宙域に、次々に誘致して来た。「ユラギ国」の国力、生活水準、知識水準の向上に寄与する事、大なるものがあった。

 ある時、サムダージュが、何やら多くの年寄り連れを伴って、ユーシンの起居するシャラナの宮殿を訪れて来た。

「本日は、重大なお願いがあって参りました。」

 改まったというか、かしこまったというか、とにかくただならぬ空気を漂わせてサムダージュは話し出した。話し方が今までになく丁寧なものになっているのも、とても気になる。

「ここに連れて参りましたのは、我が『ユラギ国』の族長会議の面々です。我が国の、最高意思決定権者と言っても良いでしょう。」

 族長達は、慇懃(いんぎん)にユーシンに礼をして見せた。ユーシンは、たまらなく居心地が悪い。見知らぬ“お偉いさん”達の、この(うやうや)し気な態度といい、サムダージュの畏まった丁寧な言葉遣いといい、悪い予感しか、して来ないものだった。

「ユーシン・マグレブ様」

 サムダージュは呼びかける。

「様?」

 つんのめりそうになりながら、聞き返す。「何で急に“様”なんて・・。今まで“様”なんて・・」

 ユーシンは気持ち悪がってそう言ったが、それを遮ってサムダージュは続ける。

「いいえ“様”を付けさせて頂きます。ユーシン・マグレブ様。我等『ユラギ国』最高意思決定権者の総意として、お願い申し上げます。我が『ユラギ国』の・・・」

 そこで言葉を区切って、族長達の顔を見回したサムダージュ。そして、族長達とサムダージュは、同時に、声をそろえて、一段声を高くして、言い放った。

「我等が『ユラギ国』の、王位に就いて頂きたい!」

「おうぅぅううぅぅ!? 」

 どう見ても冗談を言っている雰囲気では無くても、言っている内容があまりに突飛すぎると、冗談と思う他なかった。

「あ・・あはは・・は、サムダージュさん。何を言い出すんですか?俺、そんなものに、なれる血筋じゃないじゃないですか。『ユラギ』国民ですらないのに、嫌だなぁ。元宇宙孤児ですよ。商社の宇宙船の、操船見習いですよ。あんまり無茶な事は、言わないで下さいよ。あははは。」

「確かに、我が『ユラギ国』では、幾つかの家系に君主の座は限定されて来ました。だが、昨今の中賊や『コーリク国』の横暴に成す術も無かった、旧来の権力者層に、国民はすっかり信頼を失ってしまっています。恥ずかしながら、今の『ユラギ国』には、国の核となるべき存在が、見当たらないのです。」

と言ったサムダージュは、真っ直ぐにユーシンを見つめている。1つ1つの言葉を丁寧に発しながら、ゆっくりと説明する、といった話し方だった。族長の1人が、サムダージュを引き継ぐ。

「ユーシン様におかれましては、『コーリク国』においでになられて、未だ半年程しか経っておらず、それまで何の縁も無かった事もあり、俄かには受け入れがたい話では、あろうかと思います。今すぐに返事を、とは申しません。ですが、この国の現状を良くご覧になって、市民達のあなたを見る眼差しにも、率直な目をお向けになられて、その上で熟慮頂きたいと思います。」

 その後、族長達から代わる代わる、「ユラギ国」の歴史や、現在の国民意識の有り様などについて、説明が加えられた。

 幾つかの王統家系の中から、族長会議が君主を指名するシステムが、数百年来続けられ、君主としての適任者がいないときは、族長会議による合議で国家の運営に当たって来た事、その族長会議と王統家系が、現在著しく国民の信頼を失っている事、そして、ユーシンへの国民の信頼と期待が非常に高まっている事が、色々な根拠となるデーターを交えて、提示された。

 ユーシンに国民の信望が集まっている理由については、サムダージュが語って聞かせた。

「まずは、この度の『イヌチヨーナ星系』攻防戦における、あなたのご活躍ぶりが、最も大きいかと思います。敵の動きに関するあなたの読みは、目を見張るばかりに、全てが適中致しました。」

「いや、あれは・・」

 予想外の過大評価に、頭を掻きながら応じるユーシン。「たまたま、機構軍の戦闘データーを色々見て来たから、できただけです。機構軍のデーターの中の、似たようなケースから類推しただけにすぎません。俺の能力でも何でもないんです。」

「いやいや。機構軍の戦闘データーを研究する事で、卓越した戦理論を身に付けておいでになるという事です。それは、国家を預かる者に必須の能力です。戦理論に関心を持ち、過去の数多の戦闘データーを紐解き、目の前に起こった事態に応用する。そんな、君主に求められる能力を、あなたは今回の闘いで、我々に見せて下さいました。」

「えー?うーん。無理矢理に、良いように、言ってませんか?」

「そんな事は・・。それに、あなたの勇敢な闘い振りにも、国民一同、感銘を受けております。あの、命がけの奇襲攻撃といい、窮地に陥った我が軍を、次々に救援して下さった事といい・・」

「あれは、俺一人の力じゃないですよ。俺の力なんてほんの一部で、『キグナス』のみんなが力を合わせて頑張ったから・・」

「その『ウォタリングキグナス』のこの闘いへの参加を、最初にバルベリーゴ殿にご提案下さったのは、あなたではありませんか、ユーシン様。」

 その発言と共に、大きく広げてユーシンの方に差し出されたサムダージュの右掌が、彼のユーシンへの想いの熱さを表現していた。

「それに」

 サムダージュは続ける。「戦いが始まった時から、終了した後にまで至る、あなたの『イヌチヨーナ星系』復興に費やしてくださった、ご尽力の数々。『ユラギ国』中を広くご視察下さって、国民達の要望に丁寧に耳を傾け、それらを一つも漏らすことなく、機構軍へと御請願下さいました。あなたの情の深さ、責任感の強さを、骨身に染みて思い知った次第であります。」

「た・・ただの、伝令ですよ。俺なんて。ブルーハルト大佐への。」

「そう!それです!」

 サムダージュは、バシリと膝を叩いて、声を大きくした。「それも、あなたに王位について頂きたい、大きな理由です。あなたと、あのブルーハルト大佐との親密な関係。それが我々には、実に頼もしく見えるのです。」

 眩し気にユーシンを見つめながら、話を続けるサムダージュ。

「我々は百年近くに渡って、機構軍に不信の目を向け、関係を拒んでまいりましたが、この度、機構軍の絶大な力を、まざまざと見せつけられ、機構軍と良い関係を築く事が、いかに重要かを、頭に刻み込まされました。その機構軍の中でも、最も信頼に足ると思われ、且つ、十分な発言力をお持ちだと伝えられるブルーハルト大佐と、あなたは昵懇(こんい)であらせられます。」

「そんなに長い付き合いではないですよ。直接会った事は、1回しかないし。」

(ハーフナイト仲間だけど・・これを言ったら、よけい話が(こじ)れるだろうな。)

 そんなユーシンの発言にも思いにも構う様子も無く、サムダージュは話し続ける。

「更には、シャラナ殿も、あなたに絶大な信頼を寄せておられる。もと『ユラギ国』の高貴な家柄に生まれている彼女は、未だに国民から絶大な人気があります。あなたがシャラナ殿の命の恩人である事、シャラナ殿があなたを、この世で最も信頼できる人物だと断言している事も、我々に、あなたを王位に推戴したいと思わせた、大きな要因です。」

(シャラナさん、俺の知らない所で、何を言ってくれてるんだろう。俺一人が命の恩人じゃないし、夫のトクワキさんを差し置いて、俺なんかを一番信用してどうするんだよ。)

「これだけの要素を前に、血筋だとか、生まれだとか、『ユラギ国』との関わりの長さがどうかとか、もはや何の関係もありません。」

(そうかぁ?)

 サムダージュがきっぱり断言したとて、ユーシンには俄かに納得しがたい。

 話す事を話したら、サムダージュも族長達も、さっさと引き上げて行った。余りやかましくあれこれ言わず、ユーシン自身にじっくり考えてもらおう、という事だろう。

 最初は、有り得ない事だと決めつけていた。自分が王になる事など、想像した事も無かった。「ユラギ国」という国の存在も、シャラナとの出会いが無ければ、知る事も無かったかもしれないのだ。「UF」と関わりが深いと言っても、「UF」が関わっている国の数など、何百にも及ぶのだ。

 しかし、翌日からの復興支援活動の中で、これまで意識しなかった事にも意識を向けて過ごしていると、徐々に考えも変わって来た。これまで機構軍との関わりを拒んで来た現在の「ユラギ国」の権力機構への、国民の不信感や憤りの深さも、よく分かった。

 その一方で、やはり国の運営には、確固としたリーダーが必要だ。「ユラギ国」にも何千万の人が暮らしており、その利害関係は複雑だ。誰かが、皆の信認を受けて裁断を下さなければ、前に進まない案件など、星の数ほどあるのだ。ちなみに「ユラギ国」領内には数万の恒星があるが、そういう話では無い。権威ある者の決断を待つ案件が、沢山あるという事だ。

 王統家系や族長会議が信頼を失った今、誰かがその“権威のある決定者”にならねば、国の運営は立ち行かないのだ。

 民主制の導入も、ユーシンは検討したが、教育と情報通信体制の不備が、その案を棄却させた。民主主義は、民が主権に目覚め、責任意識を持ち、ある程度の知識を皆が身に着けなければ、できるものでは無い。

 普通選挙なども、情報通信体制が国の隅々にまで行き渡っていないと、いつ選挙があるのか、誰が立候補しているのか、どんな政策を掲げているのか、などが有権者に伝わらない。「ユラギ国」に今すぐ導入するのは、不可能と言わざるを得ない。

 自分の住んでいる宙域以外の「ユラギ国」内の地名すら、ろくに知らない人がほとんどという知識水準も、民主主義の導入をユーシンに断念させた理由だった。国全体の事を考えられる人材を、もっと大量に生み出してからでなければ、政権担当能力者も仕立てられないだろう。

 そして、おそらく族長達が情報をリークしたのだろうが、市民達がみな、ユーシンが王位に推挙された事を知っており、行く所行く所で、

「ユーシン様!是非、我らが王になって下され。」

「あなたにならば、安心して付いて行けます!ユーシン様。」

「ユーシン様!あなたの親政が、我が国には必要なのです。」

などの声が掛けられる。

 自分が王位に就く以外の、この国のあるべき姿が思い付かない。市民達の期待が、ひしひしと伝わって来る。もう今更、「ユラギ国」を見捨てるなんてできるはずがない。そんな想いを募らせたユーシンは、一つの事を条件に、遂に王位就任を受諾したのだった。

 シャラナから借りていた宮殿が、そのまま王宮となった。シャラナによって、無償供与されたのだった。シャラナの一存で決められることでも無かったらしいが、シャラナのその提案に、王宮所有者でありシャラナの出身母体である「ユラギ国」貴族、イーウイ家の誰も、反対を唱えなかったそうだ。

 盛大な戴冠式は、ユーシンには苦痛でしか無かった。新王に向けられる国民の歓呼の声は、ユーシンには猛烈なプレッシャーを与えただけだった。しかし、とにかく勇気を振り絞って、ユーシンは彼の国民達に叫んだのだった。

「我と共に、この『ユラギ国』を、喜びと幸せに満ちた国に、必ずやして見せようぞ!」

 割れんばかりの拍手と歓声に、ユーシンは顔から火が吹き出す程に赤面したのだった。

 戴冠式の数日後、ユーシンは何か月かぶりで、「キグナス」の航宙指揮室にいた。戴冠式などの間に、彼抜きで「キグナス」は「テトリア星団」との往還を果たし、大量の物資や人材や情報を乗せて戻って来て、今この「イヌチヨーナ星系」第3惑星の軌道上コロニーに係留されているのだ。

「長い事離れていて、腕が鈍ってるかもしれないからな。」

 ユーシンはシミュレーターを使って、1人で操船訓練に励んでいた。「いくら何でも、もうそろそろ、入港時の操船をマスターしないと、ドーリーに見限られてしまうぞ。」

 そう呟きながら、懸命に訓練に勤しむユーシン。

 ひとしきりの訓練を終え、固定ベルトを外したユーシンは、ふわりと無重力空間中に浮かび上がった。

「きゃっ」

と、背後で声が聞こえた。余りにも懐かしく、愛しく、心を踊らせる声。どんな人混みの中でも、決して聞き逃さない自信のある声。どこの誰とであれ、決して聞き間違えるはずのない声。そして、ずっとずっと、求め続け、待ち焦がれていた声。

 ユーシンは身を翻しながら、その人に呼び掛けた。

「お嬢さま。」

 もう世界は、縦回転しなかった。愛しい想いは、迷うことなく真っ直ぐに、クレア・ノル・サントワネットに向かって行った。

「ユ・・ユーシンさん。どうしてここに?ここで何を?」

 実に不思議な質問が、ぶつけられた。

「どうして・・って、俺がここにいるのは、当たり前じゃないですか。『キグナス』のクルーなんですから。ここで何をって、操船訓練以外に、何かありますか?」

「でも・・でも、ユーシンさん、『ユラギ国』の国王になられたのでは、ありませんの?」

「ええ、なりましたよ。でも、『キグナス』クルーである事は、変わりませんよ。」

 キョトン、という顔のクレア。目を丸くしながら質問を繰り出す。

「そんな事、有り得ますの?国王様ですよ?国王様が、宇宙商船のクルーなんて、やっていて良いものなのですの?」

「それを条件に、王位を受けたんです。『キグナス』クルーを続けて良いなら、王様やりますって。」

「そのような条件が、受け入れられましたの?」

「ええ。だから引き受けたんですよ。要するに、兼任です。“『ユラギ国』国王”兼“宇宙商船の操船見習い”。それが今の、俺の肩書です。」

「・・・、ぷっ」

 少し間をおいて、思わず噴き出したクレア。「ぷははっ、あはははぁっ、ははははは」

 一度火が付くと、笑いが止まらなくなった。ユーシンが愛して止まない、可愛さに満ちた笑顔だ。

「あははは、可笑しい!そんなの、聞いた事もありませんわ。王様兼操船見習い、なんて。」

「はい、俺もありません。でも、それでも王様をやって欲しい、って言われちゃったから・・」

「はは・・ああ・・、大丈夫ですの。操船見習いと兼任で、王様って勤まるものなのですか?」

 ようやく、笑いを抑える事に成功した後、クレアは満開の笑顔のまま、問いを発した。

「実務上の事は、ほとんど族長達が、やってくれるみたいです。俺は、権威付けすれば、いいだけみたいで。まあ、意見があれば、当然、聞いてもらえるんですけど。」

 要するに、ユーシンが自ら首を突っ込まない限りは、族長達がこれまで通りに取り仕切って行く事になるのだ。ただ、その族長達の決定に、ユーシンがお墨付きを与える事になる。決裁書類に、ユーシンのハンコがあるかないかが、決定的にモノを言うのだ。それが、権威というものだ。

「決裁書類を見て、ハンコを押すだけなら、『キグナス』の中からワープ通信を使って、出来無くは無い。書類の内容に疑問や不服があれば、質問や意見を付けて差し戻し、再検討してもらえます。名前だけの王って事にもならないけど、ある程度は族長達に任せておけます。まあ、なんとか兼任で、やれるだけの事をやろうと思ってます。」

「そうですの。なんだか、凄いですわね、ユーシンさん。少し見ない間に、何か、とても大きく、遠い存在になられた気がします。」

「そんな事は無いです!」

 クレアの言葉に、即答且つ大声で返したユーシン。「お嬢さまから、遠ざかったりなんか、俺は絶対しません。ずっと傍で、お嬢様を守り、支え続けて行きます。」

 ハーフナイトの誓いを、声高に宣言したユーシン。

「本当?本当に・・?有難う、ユーシン。」

 その言葉と共に、クレアの瞳は潤み始めた。「本当は、さっきまで、とても悲しくて、寂しかったのよ。ユーシンが、いなくなってしまう、と思っていたのだもの。『ユラギ国』の国王に就任した、と聞かされたときから、それなら当然、『キグナス』を降り『UF』からも離れて行ってしまう、と思っていたから。」

 そう言うと、近くにあったシートを手でポンと押し、クレアはユーシン目がけて飛翔して来た。ためらいも無くユーシンは、胸の中にクレアを受け止めた。

「ユーシン。どこにもいかないで。私には、あなたが必要なのよ。あなたに傍にいてもらわないと、私は、やってはいけないわ。」

 抱きしめた腕の中で、クレアは肩を震わせ、そう呟いた。

「当たり前です、お嬢様。どこにも行きません。・・まあ、『キグナス』が向かうところ以外はって事ですが。俺はずっと、『UF』の従業員として、『キグナス』のクルーとして、お嬢様を守り続けます。支え続けます。あなたは決して、俺を失う事はありません。絶対に。」

「うん。有難う、ユーシン。」

 ユーシンは気付いていなかったが、彼の右手は、彼がかつてブルーハルトゾーンと名付けた位置で、クレアの背中を優しく温めていた。ブルーハルト以上に迷いなく、ユーシンはその手を、クレアの背中に添えていたのだった。

 どれだけの時間、そうしていただろうか、不意にクレアは顔をあげ、言った。

「そうだ、ユーシン。あなたの王宮を、私に見せて頂戴。」

「はは。俺の王宮って、お嬢様も行った事のある、シャラナさんの宮殿ですよ。」

「まぁ!そうなの!あの宮殿が、ユーシンの王宮なの。素敵!私、もっと行きたくなったわ。」

 「キグナス」が係留されているコロニーから、シャトルで移動して、王宮の有るコロニーに到着した。王宮の庭園に入り込むまでに、1時間とはかからなかった。

「まあ、懐かしいわ。何もかも、あの頃のままよ、ユーシン。」

 子供のように、王宮の庭園を走りまわり、黄色い声を上げるクレア。星系外から招聘した、一流の造園技師によって美しい造形を取り戻した植物達に、クレアの笑顔や声は、嘆息を禁じ得ぬほどに良く似合った。

 王の居住域兼執務域である、本堂に歩を進めた。

「シャラナ姉様の部屋に行きましょうよ。あっ、そうか。もう姉様のものでは無くて、全てユーシンの、いえ、ユーシン王のものなのよね。」

「え、いや、俺のものなのかな?でも、あの部屋のものは、触るつもりはないですよ。」

 そんなユーシンの答えを、聞いているのか、いないのか、クレアは小走りで先を急いだ。

(そうだ。何も触りはしないぞ。あの端末も、触らない。あの中にある画像も、絶対に見ない。)

 ユーシンも、クレアにだいぶ遅れて、シャラナの部屋にたどり着いた。

「うわぁ、懐かしいわぁ。ここでシャラナ姉様とお泊りしたのよ。楽しかったなぁ、あの時は。うふふ。」

 踊り出さんばかりに、喜びを露わにしているクレア。ユーシンは、心の中で彼女に告げた。

(お嬢様、俺は決して、見たりは、しませんでしたよ。お嬢様の、あんな画像は。シャラナさんは、見るように、暗に訴えていたようだけど。でも俺は、お嬢様のあんな姿を、己の欲を満たす為に見る、なんて愚かなマネは、決してしませんでした。これからも、絶対にしません。安心してくださいお嬢様。俺は見ません。あんな画像は、決して、絶対に、見たりは致しません。)

「ねえねぇ、ユーシン!」

 熱い思いを胸に、熱い視線を送る先で、クレアが呼びかけた。

「はい、なんでしょう?お嬢様。」

 にこやかに答えるユーシン。

「見て見て!これ。」

 そう言って身を引くクレア。机の上の端末が、不意に視界に飛び込んで来た。ディスプレーの中で、シャラナとクレアが肩を組み、楽し気な笑顔をこちらに向けている。白い砂浜と青い海が美しいビーチを背にしている。2人とも、ビキニ姿で。

「ぴギャぁあああーっ!!」

(お嬢様、そんなぁー)

 悲鳴を上げつつ、内心で吠えたユーシン。(あんなにも懸命の努力で、見ないように努めて来たのに。必死の思いで、耐え忍んで来たのに。それを、その画像を、自分から見せて来るだなんて。何ていう事なのだぁー!)

「もぉー、ユーシンたらぁー。そんなおかしな声を上げないで。少しは、似合っているでしょう?」

「ハイ、トテモオニアイデス・・」

「他にも、沢山画像が保管されているのよ、この中に。時間のある時に、ゆっくり見てね、ユーシン。」

(そーなのぉー・・・?)

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日 '17/11/4です。

そんな簡単に、王様になれるなんて、おかしいんじゃないか?という意見も、多々あろうと思いますが、おかしいことの一つや二つ、起こってこそのフィクションでしょう。それに、ナポレオンの部下であるフランス軍人のベルナドットが、カール14世ヨハンとしてスウェーデン-ノルウェー連合王国の王になったりって事もあるし、鎌倉幕府の将軍に摂関家が迎えられたりって事もあるし、親玉を外から連れてくる話は結構あるんで、そんなのもありかなって。国王兼操船見習いが社長令嬢に片思いしている、って構図が、構想の初期段階から思い描かれてはいましたが。「ユラギ国」が、ユーシンを介して宇宙保安機構を受け入れ、発展を遂げていく、というプロットで、銀河の歴史における宇宙保安機構の壮大な存在感を表現する、という思いもありました。大きな問題から、小さな?問題まで幅広く扱うのも、もとからの構想です。というか、個人レベルの恋愛とか友情とかを精密に描いてこそ、国とか歴史の壮大さを表現できるのかな?という思いが、「銀河戦國史」の原点です。「キグナス」を通して、そういう書き方を心がけてきたつもりでしたが、いかがでしたでしょうか。というわけで、

次回 第80話 未来への跳躍 です。

話の展開といい、次話のタイトルといい、完結の足音が、ひたひた、と聞こえて来ませんか?いつ終わるとは、言いませんが(もう分り切ってるのに?)。ここまで読んで下さった読者様は、ここまで読んだからには、「キグナス」の終了に少しは寂寞の思いを感じて頂けているのではないかと期待するところなのですが、そんな事を言っておいて、作者の気持ちはすでに、次回作に引き付けられております。是非、ここまでお読み下さった読者様は、ここまで読んだからには、次回作も読んで頂きたい。

「銀河戦國史 (アウター"ファング" 閃く)」

スケール感、迫力、歯がゆい感じの恋愛、ずっこけたキャラ、そんなところは、次回作にも踏襲されていると自負しております。「キグナス」を楽しんでいただけた方は、次回作も絶対に楽しい、はず、です。よろしくお願いします。

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