表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/82

第7話 宴席での遭遇

 今彼らがいる、「UF」オフィスのある外側から2つ目の円環に属するコロニーから、更に内側のコロニーへと、一同は移動した。またシャトルに乗っての移動だ。今度は外から4番目の円環に属するコロニーに向かうのだった。

「これだけたくさんのコロニーに囲まれると。恐ろしいくらいの迫力だな。」

 シャトルの窓から景色を見回していたアデレードが、息をのむようにしてそうつぶやいた。外から4番目の円環辺りにまで来ると、シャトルの全ての方向に、それも上下左右前後と立体的全方位に、握りこぶし大や米粒大の円筒構造物が拝めるようになり、それらはすべて、直径30kmで長さ50kmの巨大円筒なのだ。光点にしか見えていないものも多いが、スペースコロニーに立体的に包囲されているという実感が湧いて来る地点に、彼等はやって来ていた。

「前方に見えているのが、住居向けのコロニーだろ。どんなんだろうな。」

 キプチャクは、向かう先のコロニーを凝視しながら言った。「イイ女が、たくさんいるんだろうなぁ。」

「コロニー丸ごと、住居向けとか農場向けとか政治行政向けとかにしているんだものな。凄いスケールだ。」

 ユーシンも言った。「俺たちが今まで行ったことのある『テトリア星団』のコロニーは、一つのコロニーに港湾も農場も住居も、政治の中枢も詰め込んでいて、それでもここの1つのコロニーよりは小さかったからな。まるで別世界って感じだな。」

「あっしゃっしゃ。それはそうじゃよ。何といっても『ウィーノ』は、スペースコームが交差する貿易の中核拠点に位置しておるでのぅ。ヘラクレス回廊群の中でも、最大の人口を誇るほど、発展しておるのじゃ。」

 ドーリアの言葉に、ニコルが応じた。

「同じ『テトリア国』でも、こんなに違っちゃうのね。」

「『テトリア星団』と言ってもじゃなぁ、スペースコームから外れたところにある星系なんぞは、全部辺境じゃよ。各星系の人口も、ここの数パーセントと言うところじゃろう。容積ではテトリアの9割を占めるがのう、それらが全部辺境という事じゃ。」

そんな話をしている内に、彼等は目的のコロニーに滑り込み、ドッキングベイに接続した。

シャトルから泳ぎ出して目にした風景は、これまでのコロニーと大差なく、無味乾燥な金属の壁や支柱ばかりだったが、ところどころに覗き窓が開いていた。

「住居用のコロニーは、軸中心から外周壁面までががらんどうだから、凄い景色が見られるんだろうな。」

 アデレードはそう言いながら、リーディンググリップに導かれて空中を泳いで行って、覗き窓の一つに取り付いた。ユーシン達もそれに続く。

その凄いと分かっていた光景は、それでも若者5人を絶句させた。何が見えているのかは、まったく判然としない。白い(もや)に揺らめいて、何やら四角い微粒子状のものが広がっている部分や、まばらな濃淡のある緑色の部分がある。予備知識があるので、彼等にはそれが、街や森の景色だと推測できたが、知らぬ者の目には抽象画のように見えるかもしれない。

直径30kmのコロニーの中心軸から外周壁を見る訳だから、ちょうど1万5千メートルという、人類が地球上だけで生活していた時代に、旅客航空機が飛行していたくらいの高度より少し高めの上空から地上を眺めるのと、同様の光景だ。コロニーの“大地”と呼ぶべき外周壁面の内側は、全てがぼんやりとしか見えない。そのぼんやりした感じが、巨大さを実感させた。

“地上”には、山も川も、湖も海もあった。更に、その上に雲がある。地上数百メートルから数千メートルに形成されるのが雲だから、半径が1万5千メートルのコロニー内には、雲の形成が可能だった。人工的にコントロールされた雲だから、晴れる場所、曇る場所、雨降る場所は、大雑把にではあるが、人が指定出来る。

中心軸は雲の上だから、彼らは今、雲より高いところから見下ろしているのと同然だ。その雲が、すごい勢いで吹き飛んでいくのを目にする事で、相当に強い風の存在が認識された。ファンの回転などで起こしたのでは無く、気温や気圧の不均一さが引き起こした、より天然に近い風だ。分厚い窓に阻まれて、音は聞こえない。

雲の上から大地を見下ろす若者達は、口をあんぐりと開けたまま、文字化するのも不可能なような感嘆の声を上げる。彼らの興奮を(まと)った息により、窓は直ぐに曇ってしまったが、それを拭きながら拭きながら、しばしの間、窓外の光景に魅了されていた。

「ガキどもぉ、いつまでそんなとこに、へばりついてるつもりだ。さっさと行くぞ。」

 バルベリーゴの言葉で、ようやくその身を窓から引き剥がした若者達は、興奮冷めやらぬ上気した顔で、オヤジの後を追った。

 やはりエレベーターで降りる。四本の長い柱に四隅を支えられた透明の四角い箱が、人が“地上”と呼ぶ壁面に向かって、突進した。最高時速100km近く出るエレベーターで、10分ほどで地上に着くのだが、そのエレベーターからの景色と景色の移り変わりも、若者たちを絶句させ続けるに十分な迫力があった。

 近づいて来る足下の“大地”の景色の変化も、遠ざかって行く“天井世界”の“大地”の景色の変化も、それぞれ趣きを事にした美しさがあり、若者たちの心を奪った。唯一、中心軸だけが無粋な鈍い銀色を曝していたが。

 といっても、亜然とばかりもしていられなかった。エレベーターが動き出してから、重力の向きや強さは複雑な変遷を見せたから。最初は大地と反対の方向に押し付けられ、すぐに弱まり、徐々に側壁に押されて大地側に体が流され、いつしか1Gを超えた重力で大地側の壁に押し付けられる様になった後、エレベーターが止まったところで、また1Gに戻るのだ。そんな重力の変化に対応しながら、若者たちは眼下や頭上の景色を眺めていたのだ。

 真下に見えている四角い微粒子状のものが、見る見るうちに拡大して、四角い建築物群に変貌する。全て平屋建ての、白い壁面の建物だった。それらが縦横に規則正しく数メートル間隔で並び、上から見る分には個性の無い建物群と見えたが、ある程度近づいて来て建物の側面を見られるようになると、様々な色に塗装され、文字や絵も描き込まれ、鮮やかを通り越して少しけばけばしいくらいだ。

 遠くには広々と森が広がっているのも見える。住宅街よりも、森林面積の方が広いようだ。

「なんて贅沢なコロニーなんだ。こんなたっぷりの緑を湛えているなんて。」

と、ため息交じりのアデレード。

 女子2人はテンションが上がったようだ。エレベーターの扉が開くや否や、たまらず駆け出して行って、当りをきょろきょろしている。10メートル幅ほどの道を、数メートルおきに人が行き交う、混雑という程では無いが、それなりに人通りのある道だ。彼らは住宅街の中の、商店街のような所に降り立ったらしい。

「あはは、すごーい。ねぇはやく、こっちおいでよ。」

とニコルは、手近にいたキプチャクの腕を掴んで引っ張っていく。すぐ目の前にあったファッション雑貨屋か何かに飛び込んだ。

「おいおい、買い物に来たんじゃねぇんだぜぇ。これから、予約してある店に行くんだぁ。ぐずぐずしてるやつは置いて行くぜぇ。」

 そう怒鳴りつけたバルベリーゴだったが、顔は朗らかな笑みだ。

「ちょっと見るだけよ。うわー、あっ、これ、あー、あはは。」

 雑貨屋の品々を見てはしゃぐニコルの隣で、店の外のあっちやこっちに顔を向け続けながら、口をポカンと開けていたキプチャクに、ユーシンは何となくという風に近づいて、言った。

「華やかな街だな、色取りもあって、人通りもあって、美味しそうな匂いも沢山して来る。」

 そう話しかけられたキプチャクからは、返事が帰って来ない。相変わらずあちらこちらに目を向けている。それをしばらく続けた後で、ようやくぽつりと言った。

「ユーシン、凄いぞ。どこを見ても美人がいる。」

「・・、行くぞ2人とも。本当に置いて行かれてしまう。」

 呆れ顔でそう言って歩き出したユーシンの背中に、黄昏時のような赤紫に染まった明かりが降り注ぐ。円筒状コロニーの円形を成している壁面から、そんな色の照明が射しているのだ。中心軸の中央辺りから白い明かりを照らして昼間を、円形の壁面から紅色の明かりを照らして黄昏(たそがれ)時を演出し、時間の移ろいを住民に実感させている。夜にも完全な闇にはならない。月明かり程度の照明が、大地である外周壁面を照らすのだ。

 そんな黄昏を装った明かりの中を、一向は、なだらかなカーブを描く通りに沿って歩いて行く。邪魔になる程ではないが、それなりに多い人波をすり抜けながら。

「おう、ここだ。」

と、さっき港湾コロニーの飲食店「麦の丘」に入った時の録画再生のように、同じ言葉、同じ身のこなしで、バルベリーゴは一軒の店に向かって行った。が、入り口を入ると思いきや、入り口の脇の外階段を上がり、建物の屋上に出た。皆もその後に従う。

 平屋だらけの街なので、屋上からの眺めは格別だった。はるか向こうの森林までがすっきりと見通せる。円筒形のコロニー内の遠くの景色だから、斜め上から見た具合になる。

その屋上に、多くの人、沢山のテーブルとイス、行きかうウェイターにウェイトレス。こんな開放感のある屋上レストランが、今日の歓迎会の舞台だ。屋上にある最も背の高い構造物である看板には、「パープルホール」とある。店名だろう。

「今日のメシは、全部『UF』持ちだ。好きなだけ飲み食いしやがれ。」

とバルベリーゴが、一段と声を大きくして言った。「この『パープルホール』は『UF』の本部勤めの連中は、たいてい行きつけにしてる店だ。何食っても美味いぞ。」

 言っている間にも、飲み物や食べ物が運ばれて来る。まだ注文もしていないどころか、席にも着いていないのに。

「まいどぉ!バルベリーゴの旦那ぁ!いつものように黒ビールからお持ちしやしたぁ!」

「おう、分かってるじゃねえか。前菜はピンチョスかい、洒落てやがるぜぇ。」

「あっしゃっしゃ、わしの好きなパープルホール特性のガスパチョも早速のお出ましじゃわい。よー気の利く店じゃあ。あっしゃっしゃ。」

と、いかにも馴染みといった会話が交わされる。

「あら、この子たち、旦那がかねてから待ち焦がれていた新入りさん達ね。ようやく親子再会、そして一緒に汗を流せる日が来たのね。」

 やたら露出の多いウェイトレスも、テキパキとグラスや料理を並べながら、親し気に話しかけて来る。

 彼等を上手くすり抜けて動き回るウェイトレス達に翻弄されつつ、全員が席に着いた。ユーシンが着いた席は、バルベリーゴとはテーブルの一番遠い端だった。そして、幾つかの料理と全員の分の飲み物が揃ったところで、

「そんじゃあ、新入りのガキどもに世話を焼かされる、難儀な前途を祝して、カンパーイ!」

と、バルベリーゴ。前置きも何もなく突然叫んだので、「ええ !?」と、皆慌ててグラスを手に取り、「かんぱーい」と続いた。

 彼等が思い思いに注文した料理が、次々に出て来たが、若者達は一つの料理を口に運ぶたびに、その味わいに驚嘆の意を露わにした。どれを食べても絶品だった。

「本当に・・もも、むもむ・・すげぇううなぁウィーノの料理はん・・あん。うむみ・・見たこともねぇような色んな食材が山ほどあるし・・あう、どれも・・おぐおぐ・・新鮮どわし。」

 キプチャクが口をもぐもぐさせながら言うから、内容は分かり辛かったが、想いは皆が共有していた。

「さすがは銀河有数の大都市ね。コロニーの数も、一つ一つの大きさも、そこで出て来る料理も、もう凄いの一言ね。」

 ニコルもそう言って満足の意を表すと、美味しそうに白ワインを流し込んだ。未成年は禁酒とかいう法律は、ここには無い。

 久しぶりの親子再会を寿(ことほ)ぐ場であり、これから共に仕事をして行く仲間と親交を深める場であるのだが、しばらく一同は、話すより食べる方に夢中と言った様子だった。彼等の前に並んだ料理の余りの美味しさに、ただもうひたすらに食べまくった。エスカルゴにちゅうちゅうと吸い付くドーリーのひょっとこのような顔に、皆が吹き出すという一幕はあったが。

「ああ、やっぱりオヤジじゃねぇか!久しいなぁ!」

 そんな大音声が、突然ユーシンの背後を襲ったのは、ユーシンがロブスターの殻と格闘している時だった。声の出所に視線を向けたアデレードが、咥え込んでいたピザをボトリと落としたと思うや「おわぁぁっ!」と、飛び出しそうに眼をむいて叫ぶのが、ユーシンの視界の端に捕えらられた。

 普段は若者5人の中でも、もっとも落ち着きのあるアデレードのこの驚きように、ユーシンは何事かと振り返る。

「あああああっ!ああ、あな、あな、あなたは・・」

 背後の男を目に止めたとたん、ユーシンも、頭の中が瞬時に漂白される程の衝撃に見舞われ、喚いた。

「おお、ガリアスじゃねえか。意外なところで会うもんだなぁ。」

バルベリーゴは大して驚いた様子も無く、ピンチョスを刺していた串を口端に覗かせながら、親しみのある笑みを浮かべて応じた。「ここは地球連合勢力の外だぜぇ。機構軍は立ち入り禁止じゃねえのか?」

 漂白された頭では、その男の名を思い出せずにいたユーシンは、バルベリーゴが呼びかけた事でようやく、彼の名前をその脳中に想起する事が出来た。が、彼のフルネームを口にして叫んだのはアデレードが先だった。

「ガリアス・シュレーディンガー!」

「ああ、そうよ、そうだわ。見たことある顔だと思ったら、」

と、ニコルは、ユーシンやアデレードよりは相当程度落ち着いた声で言った。「『1-1-1(トリプルワン)戦闘艇団』団長のガリアス・シュレーディンガー中佐だぁ。」

「そうだ、ガリアス・シュレーディンガー中佐だ。なんでそんな人が、こんな所に。」

とユーシンも、ようやく名前を声に出来た。

 立て続けに名を呼ばれたその男は、凄みのある浅黒い顔にはにかんだような笑みを浮かべて応じる。

「なんだよ小僧ども。お前らに言われなくても、自分の名前くらいは知っとるわ。」

「オヤジの言う通りだ。機構軍は立ち入り禁止じゃねえのか?この『テトリア国』には。」

 少し険のある言い方をしたのは、機構軍嫌いのキプチャクだった。

「あっはっは、機構軍の肩書だけで、立ち入り禁止になんか、なるかよ!」

 キプチャクの反抗的な態度に、気付かないはずも無さそうだったが、ガリアス・シュレーディンガーは穏やかな笑い声を立てて答えた。「武装した機構軍の艦船がこの宙域にいるのは問題だが、今回は俺たちゃあ、武装を解いての入国だ。問題はねえ。」

「銀河最強の武闘集団が、武装を解いちまっちゃ、ただのおっさんに、なり下がるじゃねぇかぁ。そんな使いもんにもならん図体引きずって、ここで何をしてやがるんだぁ。」

 ガラの悪い言い回しだが、バルベリーゴは変わらず、親しみのある笑顔。

「偉いさん達の付き添いだよ。儀礼外交っていうか、軍の上層部が、『テトリア』の政府関係者と交渉を持つってんで、俺達も顔見せに呼ばれたんだ。」

「つまらねぇ仕事もするんだなぁ、銀河最強エリート軍団『1-1-1(トリプルワン)』ともあろう者達が。」

「ああ、全くだ。強武装の戦闘艇を乗り回してナンボの『1-1-1(トリプルワン)』なのになぁ。」

 そんな超大物とオヤジの、何とも言えない迫力に満ちた会話に圧倒されていたユーシンだったが、

「オヤジ、『1-1-1(トリプルワン)』団長と知り合いなのか?」

と、何とか言葉を滑り込ませる隙を見つけた。

「ああ、元部下だ。こいつが機構軍に入りたてのひよっこだった頃に、俺が面倒みてやったのよ。」

「ははは、あの頃はしごかれたなぁ。鬼かと思ったもんよ。あの頃のオヤジといやあ。」

 それはユーシンにとっても衝撃の事実だったが、「1-1-1(トリプルワン)」に入る事を夢に見ているアデレードの受けたのは、それ以上だった。

「・・あっ、あのっ、俺、いや私、・・自分・・は、アデレードと言いまして、あの、いつか、あの、機構軍に入って、・・その、『1-1-1(トリプルワン)戦闘艇団』にも入りたいと、・・そのっ」

「聞いてるぜ、お前の名は。」

ぐぐっ、とアデレードの方に体を乗り出し、満面の笑みを浮かべてガリアスは言った。「アデレード・マグレブ。オヤジの秘蔵っ子だろ。」

 あんぐりを口を開けてバルベリーゴに目をやるアデレード。

「そうだっけか?話したことあったっけか?そんなこと?」

とうそぶくバルベリーゴ。照れ隠しなのは一目瞭然だった。ガリアスは構わずに、アデレードに向かって語り続けた。

「分かっちゃいるだろうが、生半可な道じゃあ無い。血のにじむ努力をして、銀河で最も大きな危険に身を曝す立場を目指す事になるんだ。だが、それを承知で目指そうって心意気は、上等だ。俺達は、そんな心意気を持った同志を必要としている。楽しみに待ってるぜ、小僧。」

「はっ・・、はい!」

「あっはっは、結構だ。ファランクス、良い後輩を持ったじゃないか。お前とこの新入りと、どっちが先にウチに来るか、見ものだな。」

「後輩に先を越されてたまるかよ。」

 アデレードと同じく「1-1-1(トリプルワン)」に憧れ、目標としている、「キグナス」の宇宙艇要員であるファランクスなのだが、ガリアスとは面識があるらしく、舞い上がるそぶりも無く応じた。「だが、良いライバルが出来て、気合が入るよ。そっちに行く日も近づいた気がしてる。」

「そうかい、そうかい。アデレードもファランクスも、せいぜい気張れや。」

 憧れの男からの力強いエールに、アデレードは、ユーシンの記憶にある限り最も赤い顔をして、記憶に無いくらいに声を裏返して、返事をした。

「で、『テトリア』の疫病神が政府高官の御機嫌を取って、性懲りも無く、またこの星団に首を突っ込もうとしているのか?」

と、突っかかるようにして割って入って来たキプチャクに、いつもは温和に彼の機構軍嫌いをいなすアデレードも、

「お、おい!キプチャク!そんな言い方・・」

と、あわてて(たしな)めようとした。

「ああ、良いって事よ。そいつの言う通りだからな。」

 ガリアスは穏やかな笑顔で言った。「誰でも知っている事だ。かつて機構軍が、ここでやらかした大失態は。ロクに状況もわきまえずにこの星団のいざこざに首を突っ込み、平和をもたらすどころか、本来救うべき立場だったこの星団の被支配民を大量に虐殺した。その事をきっかけに、八百年間に渡って平和的に、安定的に維持されて来た、12の星系国家を中核とする国家連合という政治体制が崩壊に至り、『テトリア』の民衆は混迷の中に置き去りにされたんだからな。」

「ええ。『テトリア』の人々にとっては、我々は確かに疫病神ですね。二度と繰り返してはなりません。」

 ガリアスの背後から、彼の言葉を継いでそう言った声の主に、一同は少し驚いたように視線を向けた。ガリアスの余りの存在感に気付かなかったが、彼が従えていた連れの存在に、ユーシン達はこの瞬間に、ようやくにして気付いたのだった。

「おっと、紹介が遅れたな。こいつらはウチの若手パイロット、アドリアーノとマイケルだ。」

 そう言って半分後ろを振り返り、2人の若手パイロットを見たガリアスの眩し気な視線に、彼のこの若手2人に寄せる期待が見て取れた。

「『1-1-1戦闘艇団』パイロット、アドリアーノ少尉です。バルベリーゴ・マグレブ元宇宙保安機構軍少将殿。団長からお噂はかねがね伺っております。今の『1-1-1』があるのも、元少将のおかげであると。お会い出来て光栄です。」

「同じく、マイケルです。団長より伺っている元少将の武勇伝や鬼教官伝説、一機構軍兵士として、憧れております。」

 2人の若いパイロットは、そう言って背筋をぴんと伸ばし、びしっと指先の揃った敬礼をした。

「おうおう、元少将はよしてくれ。もう退役して10年以上経ってるんだ。もうそろそろ、ただの商人にさせておいてくれ。」

「そうはいくかよオヤジ、あの頃しごかれまくり、泣かされまくった恨みは、10年やそこらでは消えねえよ、はっははは。」

 そんな旧師弟のやり取りに、一同は和やかな雰囲気に包まれた。唯一ふてくされた顔をしているキプチャクに、ガリアスは視線を戻し、

「今回は疫病神にならねえように気を付けるから、よしなに頼むわ。」

と言って、片目をつむって見せた。

 あれだけ突っかかって、これだけ温和に対応されたのでは、キプチャクも振り上げたこぶしを降ろさざるを得なかった。ぷいっとそっぽを向いたが、これ以上悪態を付くつもりは無くなったようだ。


今回の投稿はここで終わりです。次は明日'17/3/4の投稿となります。

何かと話題の「1-1-1戦闘艇団」の団長と団員2名が登場しました。このタイミングで登場するからには、因縁の浅かろうはずはありません。若者達、「キグナス」クルー、「1-1-1」の織成す物語に期待して頂きたいです。というわけで、

次回 第8話 最強軍団の想い です。

最強軍団の背負うもの。最強軍団の目指すもの。それを知ってユーシン達は・・。ご期待ください!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ