第78話 クレアの気配
前回の後書きでもお伝えしましたが、「ウォタリングキグナス-ヤマヤの虜囚-」は、間もなく完結致します。いつ終わるかは申し上げませんが、完結の翌週より、次回作の連載をスタートします。まだ完成していないので、当面は隔週投稿とし、完成し次第、毎週連載で行きます。「キグナス」は週2回投稿でしたが、次回作は週1回にしておこうと思います。土曜日の17時に投稿していくつもりです。
次回作も「銀河戦國史」シリーズです。そして、そのタイトルは、
「アウター"ファング" 閃く」です。
「キグナス」よりミリタリー色を強くした内容で、ある日本の有名な"古典"を下敷きにしたストーリーになっています。が、下敷きにした古典にはないキャラ、独自の設定・展開をふんだんに加えています。古典を下敷きにしつつ、未来の宇宙を舞台にしたSF作品です。
「キグナス」を楽しんでい頂けた方には、きっとこちらも満足して頂けるのではないかと思っておりますので、是非、次回作の方も、ご愛読頂けますよう、お願い申し上げげます。
では、残り少ない「キグナス」を、お楽しみ下さい。
君主制国家だけあって、王が降伏を決意してしまうと、全軍全兵士が戦いを放棄した。王だけが戦争をやりたがっていた事も、その様子からは伺えた。王以外は誰も望んでいない侵略戦争が、君主独裁国家では実現してしまい、多くの国民の命が浪費されてしまう。恐ろしい事だとユーシンは思った。
「コーリク国」軍は、即座に武装解除され、将兵達は捕虜として、機構軍の戦闘艦に連行された。厳しい尋問を実施して、背後勢力に関する情報を引き出す必要もある。特に、「コーリク国」国王と呼ばれている男への尋問は、重要となりそうだ。背後勢力が差し向けたと思われる者に煽り立てられて、「キークト星団」覇者への夢を膨らませ、自国民の生活も命も顧みずに、国力の全てを征服戦争に注ぎ込む決定を下したそうだ。
彼を煽り立てた、“背後勢力が差し向けた者”に関しては、その国王も詳しくは素性を知らないという。素性も知らないものに煽られて、国の存続をも危うくする征服戦争に打って出るというのは、君主制国家の欠陥をこの上も無く露呈するものだ、とユーシンは思ったのだった。
第一大隊以外の機構軍戦闘艦等は、到着から5時間後には戻って行った。5時間といえば、スペースコームジャンプをするのに必要な最小限の時間だから、本当に全くの、とんぼ返りだった。
第一大隊の戦闘艦群は、「コーリク国」軍の始末をつけた後は、周辺の中賊の征伐の為に散って行った。連れ去られた「イヌチヨーナ」市民を、一人残らず取り戻す事に絶対の使命感を持って、彼等は飛び出して行ったのだった。
気合満点、迫力満点で向かって行った機構軍だったが、宙賊達のと間には、全くと言って良い程、戦闘は起きなかった。それどころか、宙賊の出身部族の者達は、我勝ちに機構軍の前に、諸手を上げて投降して来て、奪って行った人も物も、残らず差し出したのだった。
そうしておいて彼らは、「コーリク国」に人質に取られている彼らの家族や友人の奪還を、機構軍に懇願したのだった。やはり宙賊は、「コーリク国」に人質を取られ、従わざるを得ない状況だったのだ。
宙賊が「コーリク国」にとられた人質の奪還も、難無く済む。「コーリク国」国王が機構軍の手の中にあるのだから、難の有ろうはずも無い。
中賊に連れ去られていた人々は、宙賊がいずれ「コーリク国」に差し出して、代わりに人質を返してもらう為の、交換材料として考えられていたらしい。交換材料としての価値を維持するには、余り酷い扱いをするわけにはいかない。というわけで、連れ去られていた人々も、それほど酷い扱いは受けなかったようだ。食事などは質素を極めたものだったらしいが、暴行を受けるなどの苦難は、味わわずに済んだそうだ。
機構軍の戦闘艦で、続々と「イヌチヨーナ星系」に帰って来る人々。奪われた高価な品、貴重な品も、多種多様なものが返って来る。脱出していた人々も、戻って来る。想いも掛けない人が、思いもよらない物が、帰ってきたりもする。すっかり諦めていた物が、死んだものと思っていた人が、帰ってきたりもする。「イヌチヨーナ星系」に喜びが溢れた。「イヌチヨーナ星系」に笑顔が溢れた。
そして「キグナス」クルーのもとにも、大切なものが帰って来た。
「ファランクス。」
と、親友の名を呼んだユーシン。
機構軍戦闘艇が彼を見つけた時、彼の体は三つの部分に分かたれていたそうだ。宇宙艇の爆散と時を同じくした、即死だったはずだ。脱出に成功していなければ、もっと粉々になっていただろうから、脱出した後、飛び散る宇宙艇の破片に、彼の体は切り裂かれたのだろう。
だが今、棺の中に横たわるファランクスの体は、元の形に復している。いや、身に付けている衣服の下では、強引な接合の跡が生々しく残っているだろうが、それが人目に曝される気遣いは無さそうだ。
彼の傷を覆い隠している衣服というのは、宇宙保安機構軍の軍服だった。それも、胸に「1-1-1」のシンボルマークが燦然と輝いている。ガリアスが提供してくれた、アドリアーノ少尉の遺品の一つだそうだ。
「やったな。ファランクス。」
アデレードは、目に涙を貯めながら、呟いた。「お前、今、宇宙保安機構軍の兵士だぞ。『1-1-1戦闘艇団』の団員だぞ。遂に夢が、叶ったんだぞ。憧れの、アドリアーノ少尉の軍服を、着せてもらっているんだぞ。」
「ファランクス『1-1-1戦闘艇団』名誉団員に、その勇敢なる生き様に、敬礼!」
棺から3m程離れたところに整列する、70名近くの「1-1-1戦闘艇団」団員達が、ファランクスに向かって、ビシィッ、と姿勢を正した敬礼を繰り出した。現役の「1-1-1」の団員が、彼を同志と認め、彼に敬意を表している。ユーシンは胸が熱くなった。
「イヌチヨーナ星系」第3惑星のコロニーの中に、「ユラギ国」市民によって設営された祭殿がある。その中で、ファランクスの葬儀は営まれているのだった。幾つもの嗚咽の声が、静粛な祭殿の中に、木霊していた。ファランクスの一番近くにいるアデレードの隣で、ノノも泣いていた。その背後で、ニコルも泣いている。キプチャクも、泣きこそしないが、しんみりとした顔だ。
ユーシンは、真っ直ぐにファランクスの棺を見つめ、唇を噛みしめている。後悔はしないと決めていた。ファランクスも、トアも、死んだとしても後悔はしないと言っていたのだ。生き残った者も、誰も、この闘いに臨んだことを、後悔していないと言っている。だからユーシンも、この闘いを最初に提案したのは彼だったが、その事を後悔しない、と決意したのだった。
(でも、二度と、こんな悲しい想いはしたくない。俺の大切な人達にも、こんな思いはさせたくない。その為にも、俺は成長しなくちゃ。そして何より、お嬢様を守り、支えていく為にも。)
ユーシンは、ファランクスの亡骸にそれを誓った。
「ちくしょう・・ちくしょう・・」
バルベリーゴの声だった。覚悟しての死なら、「キグナス」クルーの誰が死んでも泣かない、といつだったか言っていたはずだ。だが、今の彼の涙は、不問に付す事に、ユーシンは決めた。
ファランクスも、宇宙孤児出身だった。バルベリーゴの養子にこそ、はなっていないが、ユーシン達と立場は変わらない。遺骨の引き取り人とて、いない。遺骨は、「キグナス」の一角に収められることになった。多くの、かつての船員にとっても、「キグナス」は墓となっていた。文字通り、「キグナス」に骨をうずめる事になったのだ。
(いつか俺も、ここに入るのかな。)
数十人の遺骨が納められた、「キグナス」の船内墓地とも言うべき部屋の中で、ユーシンはそう思った。いつ、どんな形でそれが訪れるかは分からないが、自分の最終的な落ち着き先は、ここ以外には無い、とユーシンは思ったのだった。
数日後、着々と復興を遂げる「イヌチヨーナ星系」に、シャラナがやって来た。帰って来たと言うべきか。
「うぉおお、シャラナ様!」
「お帰りなさいませ!シャラナ様!」
市民たちは、歓呼で出迎えた。
「こんなに人気者なんだね、『ユラギ国』では。」
ユーシンは、久しぶりにシャラナと向かい合った。そして久しぶりに、晴れやかな笑顔を浮かべる事ができていた。
第3惑星軌道上のコロニーの一つに、シャラナがかつて起居していた宮殿があった。そのバルコニーから、シャラナは歓声を上げる市民達に手を振る。シャラナに招かれていたユーシンは、その同じバルコニーに佇んでいるが、自分は関係ないものと、市民達に背を向けていた。
「みなさん、こちらが私の命の恩人。そして『イヌチヨーナ星系』の、いや、『ユラギ国』の救世主、ユーシンマ・グレブ様であらせられます!」
シャラナの突如のその叫びに、ユーシンはキョトンだ。
「さあ、ユーシンさん。皆さんにお顔を見せてあげて下さい。」
ユーシンは、市民達の方に振り返る事を、この上も無く恐ろしく感じたが、シャラナに言われて仕方なく振り向いた。
「うおぉぉおおおおお。」
地鳴りのような絶叫。
「ユーシン様!」
「我らが救世主!」
「『ユラギ国』の守護将軍!」
次々に投げかけられる市民達の声は、ユーシンを混乱の極致へと誘って行った。
(いや、俺、ただの操船見習いだから・・・)
しかし、その操船見習いのもとに、市民達からは数々の要望が寄せられる。これまで地球連合や機構軍との交流を避けて来た「ユラギ国」では、様々なものが時代遅れとなっていたが、機構軍との同盟が締結され、連合勢力との交流が活発になると、その遅れを知り、遅れを取り戻そうという熱意が、国中に満ちているのだ。
遅れを取り戻す為には、様々な技術が、施設が、人材が、必要となって来る。そういうものへの要望を通すのに、ユーシンからブルーハルトに陳情してもらうというのが、市民達にとてっては、最も信頼できるルートになっていたのだ。
ユーシンも、積極的に「ユラギ国」内を視察して回り、要望に耳を傾け、一つも取り零す事無くブルーハルトに伝えた。ブルーハルトの反応も、早く確実で、隙の無いものだった。
シャラナも当然のごとく、「ユラギ国」の復興に力を尽くしていた。いつしかシャラナもユーシンも、シャラナのかつての宮殿というのが活動の拠点となり、宮殿内に部屋を借り受け、そこで寝起きするようになっていた。その部屋というのも、操船見習いで宇宙孤児出身というユーシンには、どうにも落ち着かない程に、だだっ広くて豪華な空間だった。
窓から顔をのぞかせると、必ず、百人余りの市民がそこに待ち構えていて、
「ユーシン様、万歳!」
などと叫んで来る事にも、辟易していた。
「キグナス」は専ら、「イヌチヨーナ星系」への物資や人の搬出入の業務に従事しており、ユーシンも操船見習いとして、「キグナス」が宇宙を渡る時には、「キグナス」に乗り込むのだが、「キグナス」が「イヌチヨーナ星系」で羽根を休めている時は、シャラナの宮殿を拠点とした「イヌチヨーナ星系」の復興支援活動に精を出す。そんな日々を送るようになっていた。「キグナス」のメンテに関しては、ユーシンは、バルベリーゴによって特別に免除されていた。
1日1回はファランクスの墓の前に集まって、その日の活動を話し合う、という新たな習慣にもできる限り参加した。何も語らない青年が大いに、集った仲間達を盛り上げていた。
そんなある時、ひょっこりと、シャラナがトクワキを伴って、ユーシンの部屋にやって来た。
「トクワキさん。いつの間に『イヌチヨーナ星系』に来られたので?」
「つい最近だ。そろそろシャラナと2人で、『ヤマヤ国』に帰ろうと思ってな。」
「2人で?・・えっと、確か、離婚したはず・・」
ちょっと言いにくい気持ちを引きずりながらの、ユーシンの問いかけだ。
「離婚したというのは、『ヤマヤ国』の外での事ですよ、ユーシンさん。『ヤマヤ国』に戻れば、私達は変わらずに、夫婦なのです。」
「え?そうなの?そんなの、ありなの?」
「だそうだ。」
トクワキも少し、困惑気味の顔。
「そうですわよ。『ヤマヤ国』の外では、独身の方が自由にのびのび出来ましたけど、『ヤマヤ国』に戻ったのならば、トクワキの妻でいた方が、大きな顔ができますからね。」
などと、悪戯っぽく言って見せるシャラナ。どこまでが冗談でどこまでが本気か、分からない。
「そうそう」
シャラナは付け加えた。「ユーシンさん、私の部屋に来てくださいませんか?お見せしたいものがあるのです。」
「ええ。構いませんよ。」
ユーシンはシャラナの後に付いて行った。
「ここには、私の思い出の品が、沢山あるのです。」
部屋に入るなり、シャラナはユーシンを振り返って言った。
部屋の中には、シャラナが何かの大会でもらったトロフィーだの、初めて作った彫刻だの、誰かからの誕生日プレゼントだの、といった品々が、綺麗に棚の上に並べられていた。
部屋の片隅に置かれた机に、端末とキーボードが乗せられていて、シャラナはそちらに近づいて行く。
「ここに、思い出の画像が、沢山保管されてあります。」
キーボードを操作すると、幼い頃のシャラナの画像がディスプレーに現れた。
「へー。やっぱり、可愛い子供だったんですね、シャラナさん。でも、このころから、早くも威厳みたいなものも、備わってますねえ。」
「嫌ですわ、ユーシンさん。そんなことありませんわ。」
そう言いながら、シャラナが端末の操作を続けると、ディスプレーの中に映されるシャラナは、徐々に大人の女性へと成長して行った。「ユラギ国」の民族衣装と思われる貫頭衣の色も、七色の変化を遂げている。淡く可愛らしい色遣いから、落ち着いた大人の色遣いに、シャラナの貫頭衣が変化して行くのも、ユーシンには楽しかった。
次々にシャラナと、その家族と思われる顔が、ディスプレーに現れては消えてを繰り返していたが。突如そこに、ユーシンには馴染みのある顔が映し出された。
「お嬢様!? 」
意表を突くクレアの登場に、ドキリとしたユーシン。さすがに、世界の縦回転までは起こらなかったが。しかし、本人が目の前にいるわけでも無いのに、緊張までして来る。
「うふふ。喜んで頂けたみたいですね。クレアさんが、『ヤマヤ国』に研修に来られた時の画像です。」
「そう言えば、言ってましたね。『ヤマヤ国』に研修に来たお嬢様と、シャラナさんは仲良くされていたって。でも、『ヤマヤ国』に居た時の画像が、『イヌチヨーナ星系』の宮殿にあるなんて、不思議な気もしますね。」
話す内に、少し緊張はほぐれた。
「そうなのです。それで私も、今の今まで想い出す事が無かったのですけど、つい先日ワープ通信でクレアさんと話をしていて、ここの端末にも画像をインストールしていた事を、思い出したのです。」
(確か、お嬢様が帰る時にシャラナさんも、この『イヌチヨーナ星系』にまで見送りに来たような話を、していたっけな。その時、この宮殿にも2人で来て、画像をインストールしたのかな。)
シャラナの話を聞きながら、ユーシンはそんな想像をした。
「私は間もなく、トクワキと共に『ヤマヤ国』に立ってしまいますけど、ここに保管してある画像は、ユーシンさんには自由にご覧いただいて結構です。そのことを、お伝えしたかったのです。」
「は、はぁ・・・」
(この人は、俺とお嬢様を、どうするつもりなんだろう?画像を提供したって、俺とお嬢様の関係がどうこうなるわけでも、無いはずなんだけど。)
複雑な想いを胸に秘めつつ、ユーシンはとりあえずといった感じで、答えた。
「有難うございます。」
「うふふ。感謝してくださいね。とっても、感謝してくださいね。もの凄く、感謝してくださいね、ユーシンさん。」
「そんな、画像くらいで、そこまで・・」
シャラナのその大げさな言いぐさの理由が、この時のユーシンには分かっていなかった。
数日後、シャラナは「ヤマヤ国」へと、トクワキや家宰の人達と共に、帰って行った。3年ぶりの帰国だそうだ。時間の長さ以上に、色々な事のあった、色々な想いの詰まった3年だろう。宙賊に去らわれ、「コーリク国」に売られて処刑される危機に陥り、変態商人との事もあり、「キグナス」に乗っての旅を経験し、離婚し、機構軍幹部の邸宅で暮らし、と、何と波乱万丈な日々を送った事か。
そんな日々を乗り越えての、出立に際してのシャラナの凛々しい笑顔にユーシンは、今後の幸多い彼女の未来を、祈らずにはいられなかった。もう恐怖も戦闘も凌辱も、彼女の身には訪れて欲しくないものだ、と切に願った。
シャラナが帰った後も、復興支援の忙しい日々を送っていたユーシンは、突如ワープ通信の呼び出しを受けた。
「お嬢さま!」
モニターに映し出された、クレアの満開の笑顔に、ユーシンの胸は立ち所に弾みだした。
「ユーシンさん。お久しぶりです。お元気でしたか?」
屈託のない話し声だ。
「ええ、元気は元気です。色々ありましたけど。」
最後にクレアと話したのは、初めて「ユラギ国」を訪れる直前の事で、もう半年近く前になる。それからの時間は、ユーシンの人生の中でも、最も盛り沢山なものだった。
「そうですわね。色々、悲しい事もあって、辛い事もあって、でも、ユーシンさんは凄い事を成し遂げられた、と私は思っておりますのよ。」
少し目を伏せたユーシン。
「大切なものを、失わせてしまいました。『UF』にとっても、掛け替えの無いものが、俺のせいで・・」
「いいえ。ユーシンさんのせいなどではありませんわ。国とか戦争とか、そんな大きな力に巻き込まれてしまった末の事でしょ。ご自分を責めてはいけませんわ、ユーシンさん。」
「有難うございます。心配して頂いて。それに、すみません、心配させてしまって。」
彼女を笑顔にするのが務めのハーフナイトとしては、心配させるなど、許されないのだ。
「謝って頂く事など、ありませんわ、ユーシンさん。それより私も、「UF」も、ユーシンさんには、いくら感謝しても、仕切れるものではないのですわよ。ユーシンさんが『ユラギ国』復興の中心におられる事で、『UF』は今、創業以来最高記録というくらいの利益を叩き出しているのですよ。一国家の再建に掛かる物資輸送の大半が、『UF』の仕事になっているのですわよ。父も大喜びでしておりますわ。」
「そうですか。それは良かった。」
「UF」が儲かるのは結構な事だが、それが自分の手柄だとは、とても思えないユーシンンは、クレアへの返事にも力は籠らなかった。
「それでですね、ユーシンさん。『ユラギ国』関連業務の重要性に鑑みて、私も、そちらにお邪魔する事になりましたのよ。父がぜひ行って来い、っておっしゃって下さって。近いうちに、お眼に掛かりますわよ、ユーシンさん。」
その後、型どおりの挨拶を交わし合って通信は終わったが、ユーシンは、あまりに激しく波打つ胸に煽られて、そこからの記憶は飛んで行ってしまっていた。
(お嬢様が来る!)
今、通信で、モニターで顔を見ながら話した人が来ることに、そこまで興奮しなくても良さそうなものだが、ユーシンの心臓は飛び出す勢いで暴れていた。
(お嬢様が来る!半年ぶりに、会える。)
そうなれば、通信などでは、決して得られないものまでもが、得られるかもしれないのだ。
(お嬢様が来る!滑らかな曲線と、ぬくもりを感じる半球を連れて。)
相変わらず、不純な思考に走るユーシンだが、激戦の苦しみと悲しみを超えた彼には、それくらいのご褒美があっても、良いのかもしもれない。
ユーシンの頭の中は、クレアの笑顔と、滑らかな曲線と、ぬくもりを感じる半球に満たされていた。そんな状態で、自室に向かって歩くユーシン。シャラナの部屋の前を通った。突如雷鳴のごとく、幾つかの記憶が蘇り、繋がり、驚愕の事実へと彼の思考を導いた。
滑らかな曲線、ぬくもりを感じる半球、シャラナが見て良いと言った画像、研修で「ヤマヤ国」を訪れたクレア、シャラナとクレアが過ごした「ヤマヤ国」での日々、それら記憶の断片が、次々とユーシンの脳裏に浮かんで来る。そして、ずっと前に聞いた、これまで思い出す事も無かった、シャラナのある発言が、ユーシンの脳裏に想起された。
「美しい海辺の風景を創造したコロニー・・・白い砂浜・・2人で泳いだりも・・・」
確かそんな話を、シャラナから聞いた。そして、その後に続いた言葉。
「ビキニ姿が、とてもお似合いでしたわよ。」
この時、ユーシンの鼻息の強さは、人生最高記録を叩き出したかもしれない。
今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は、 '17/11/3 です。
戦後処理関係の記述で、なんだか、ごちゃごちゃしてしまったかもしれませんが、戦争が終わった後ってそんなもんなんじゃないでしょうか。その中で、ファランクスが「1-1-1」の名誉団員に祭り上げられました。トアは思い付きで登場して死んでいったキャラでしたが、ファランクスは構想段階から、最終局面で死んでもらうつもりで生み出したキャラでした。彼の生き様と死を通して「1-1-1戦闘艇団」というものの、この時代における存在感というものを表現する、というのがこの物語の中心テーマの一つでした。同時代の一人の青年の運命に決定的な影響を及ぼし、遥か未来の少年にもあこがれの眼差しを向けられる、それを通じて、「銀河戦國史」にリアリズムを与えられていたらいいのになあ、と作者は思っています。というわけで、
次回 第79話 魅惑のクレア です。
一通り問題が解決して、もうこの物語も、これ以上の波乱はないかな、と思っておられる読者様がおられれば、その予測は裏切られると思います。ちょっと、予想外のことが起こる、かも。物語を締めくくる上でも、続編への期待を掻き立てる上でも、残り僅かなこの物語を、しっかり最後まで読んで頂きたいです。是非、よろしくお願いします。




