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銀河戦國史 (星々を駆る重武装宇宙商船「ウォタリングキグナス」-ヤマヤの虜囚-)  作者: 歳越 宇宙(ときごえ そら)
ヴォーソム星団・キークト星団の章
78/82

第77話 戦争の終結

 すでに事切れていた。トアの小さく華奢な体は、無骨な鉄柱に、胸板を貫かれていた。宇宙艇が衝突した勢いで飛ばされた、無数の鉄柱の一つが、メンテナンス作業中だったトアを直撃したそうだ。

「トア・・トア・・、そんな・・」

 大量の血に染まったトアの体を、腕の中に収めたユーシン。その腕の感触は、ユーシンの脳裏に様々な記憶を蘇らせた。ニコルにそそのかされて、彼の脚の上に座って来た時の感触。突如触れて来た、唇の感触。その時には、あまり強く意識しなかったが、今この時、ユーシンにはその感触が、驚く程生々しく、鮮明に思い出されるのだった。

 声も、笑顔も、香りも、様々な記憶の中のトアが、頭の中を乱舞する。そんな記憶が自分の中にあった事にすら、今初めて気づいたのに、二度と触れられなくなると知らしめられた途端、たまらなく掛け替えの無いものとして、ユーシンの脳裏に想起されて来たのだった。

 愛おしかった。自分に想いを寄せてくれた彼女の、自分に想いを伝えてくれた彼女の、彼の心と体に残した感触の一つ一つが、たまらなく愛おしいものに思えた。

(どうして?何でトアがこんな事に・・)

 犠牲者の発生は覚悟していた。だが、メンテナンス要員に死の危険が訪れるとしたら、それは「キグナス」が大破する時くらいだ、とユーシンは思っていた。「キグナス」も自分も健在の状態で、トアのこのような姿を見る事になるなんて、全く想像もしていなかった事態だった。

(何で、トアなんだ?何で・・何で・・・)

 クルーの中でも、最も安全なポジションにいるはずだった。クルーの中でも、最も若く、未来のある人物だった。クルーの中で最も、戦闘とはイメージのかけ離れた存在だった。

(どうしてトアなんだ。こんなに素敵で、こんなに可愛いトアが、どうして犠牲になるんだ。最悪の運命は、何故トアを選んだんだ。どうして・・・、どうして・・・)

 いくら考えても、やりきれない想いは拭えない。「キグナス」は、もっとも死なせてはいけない人を、死なせてしまったのかも知れなかった。

 ニコルの右腕が、柔らかにユーシンの肩に回された。左腕はトアの肩に回された。己の体温で、冷えて行くトアの体とユーシンの心を、何とか温めようとでもするかのようだ。ニコルは、トアの最期の様子をユーシンに伝えた後、彼と彼女を近くで見守っていたのだった。

 ニコルの反対側から、ノノが覆い被さって来た。その後ろからは、クルムが。キプチャクも、アデレードも、キムルも、前にいる誰かの肩や背中に手を回す。十数人の体温と想いが、小さな亡骸に注ぎ込まれていった。

 沈痛の極みに陥ったクルー達を乗せて、「キグナス」は一旦、後方支線基地に戻る。

 トアには、生みの親が健在なので、火葬された彼女の遺骨は、親元に送られる事になった。ユーシンには、名前すら知らない宙域に、暮らしているそうだ。病弱な両親は、彼女からの仕送りで生計を立てていたという。クルーの中で最年少のトアは、一家の大黒柱になっていたのだ。これから両親は、どうやって暮らして行くのだろうか。機構軍正規兵ならいざ知らず、「UF」からは、遺族年金などは出ない。

 「イヌチヨーナ星系」の外部との往来は、再開していた。一旦星系から脱出しかかった多くの宇宙船は、元の場所に舞い戻って来ていた。第3・第4惑星の軌道上のコロニーが、彼等の故郷だ。

 一方で、脱出を継続した者達もいる。逃げるか残るかは、住民各自の判断にゆだねられていた。

 戻った住人のもとに、他の宙域から貿易品が運び込まれ、「イヌチヨーナ星系」からも、わずかとはいえ産物が貿易品として運び出された。戦時中でも経済活動は、止まりはしない。貿易船の半分は、「UF」のものだ。こんな危険な宙域に出入りしたがる商船は、なかなかいないが、「UF」は積極的に、危険な宙域に飛び込んで行く商社だ。トアの遺骨も、「UF」所属の商船「クレバークロー」によって、星系から運び出されて行った。

 そんな「UF」の経営方針は、多くの人々に恩恵を与えていた。危険な宙域といえど、人の生活があり、経済の脈動は不可欠なものだ。そういうところで貿易活動をする商社の存在は、危険宙域に住む多くの人々にとって、この上も無く有り難く、貴重な存在だ。誰かがその危険な作業を引き受けなければ、世は成り立たないのだ。

 だが、そんな「UF」の商業活動は、トアのような悲劇を、これまでにもたくさん生み出して来た。人命軽視の貿易商社と、世間からも揶揄される所以だ。従業員の命を危険に曝し、時に失うことまでして、危険宙域で貿易活動を求めている人々の、生活の支えとなる。そんな仕事は正しいのか、間違っているのか。「UF」は善か、悪か。

 ファランクスとトアの死という事実を前に、「キグナス」クルーの誰もが、そんな問いを心中で繰り返しただろう。ユーシンも、さんざん悩む事になった。

 タケマヤル総司令官に感謝の言葉を述べられたように、「キグナス」の参戦なくば、「イヌチヨーナ星系」にどれ程の悲劇が、惨劇が、上積みされていた事か。未だ宙賊の占領下にいるか、「コーリク国」の軍門に下っているか、住民皆殺しという可能性も、無かったとは言えない。

 「イヌチヨーナ星系」の多くの住民を救う事になったが、クルー2人の命を奪う事になったユーシンの参戦の提案は、バルベリーゴの参戦の決断は、正しかったのか、間違っていたのか。善だったのか、悪だったのか。ユーシンは何度も自身に問いかけた。何度問いかけても、答えなど出なかった。答えなど出ないと分かっていても、問いかけずにはいられなかった。

 「コーリク国」軍の動き方を見極めるまで、「キグナス」は待機を余儀なくされている。待機している間は、あまりやる事も無い。メンテや補給が終わってしまえば、特に仕事も無い。暇になれば、あてども無い自問自答から逃れられなかった。無限問答地獄をさまよう時間が、長々と続いた。

 このまま「コーリク国」軍が撤退して行ってくれて、再び「イヌチヨーナ星系」の復興に汗を流すというのが、ユーシンの精神衛生上は、もっとも良い事だっただろう。前向きで、建設的で、生産的な作業こそ、今の彼には必要なものだっただろう。

 だが、

「『コーリク国』軍、進攻を再開する模様。戦列を整え、進軍する構え。」

 うんざりするような報告がもたらされたのだった。

「もういいだろう。いい加減に諦めて帰れよ。」

 口に出してそう毒づいたのは、キプチャク含め少数だったが、ユーシン含め誰もが、厭戦(えんせん)気分に支配されていた事は、否めない。そんな彼らの気持ちを知った上での事どうかは分からないが、ガリアス・シュレーディンガーは、「1-1-1」だけで闘うと主張し続けていた。

「最強軍団の顔を、潰さないでくれ。『1-1-1』の戦闘艇が1隻でも生き残っている間は、戦闘は俺達だけに任せておいてもらいたい。」

 頑強な主張に、タケマヤル総司令官も折れた。いつでも飛び出せるように準備しつつ、「ヤマヤ国」と「ユラギ国」の連合軍は静観する事になった。もちろん「キグナス」も同様だ。

 「コーリク国」軍の残存戦力である、大型戦闘艦2、中型戦闘艦3、小型戦闘艦7、空母6と、「1-1-1」の戦闘艇約30隻が、前回の戦闘とほぼ同じ宙域で対峙した。「コーリク国」軍は、小型戦闘艦7艦と戦闘艇200隻余りを前面に出し、その他の戦力は少し後方に引いた形で布陣していた。前面に出した戦力で、何とか「1-1-1」を押し潰すつもりだろう。

「前回の戦闘で敵は、戦闘艦と戦闘艇の連携は上手く機能し切れずに終わったけど、今回は、最初から連携を意識した闘い方をするだろう。あれだけの大戦力で、うまく連携をとられたら、いくら『1-1-1』でもそう長く持たないぞ。」

 ユーシンは心配気な面持ちで、そう呟いた。「キグナス」の航宙指揮室の、いつも通りの操船席上でだ。

「散開ミサイルも対艦ミサイルも、『1-1-1』の方は、数が限られているものね。あの敵全てを、これらで叩く事は出来ないわ。散開ミサイルと対艦ミサイルを撃ち尽くしたら、その後はどうやって戦うつもりなのかしら。何度聞いてもガリアスは、何とかして見せるって答えるだけで、具体的な方法は、教えてくれなかったのよね。」

 同じく心配そうに話す、武装管制席のキムルだった。

「機構軍本隊は、まだ来ないのですか?」

 一体何度目なのかも分からない質問を、ユーシンはヤモカーケスにぶつける。報告が無いという事は、来ていないという事なのは、ユーシンだって分かっているのだ。が、聞かずにはいられなかった。ヤモカーケスは律儀に応えてくれた。

「星系内外の往来は、継続されています。毎日多くの船が、ワープしています。機構軍が近づいて来ていても、向うから連絡でもくれない限り、こちらの探査だけでは分かりかねます。が、連絡が来ていないという事は、派兵もまだだ、と考えざるを得ません。通信は傍受されているでしょうから、派兵があっても連絡が来ない可能性も、十分にありますけども。」

 要するに、来ているかどうかは、ハッキリとは分からないが、多分来ていないだろう、という事だ。

「それじゃ、行って来るぜ。」

 昼メシでも食べに行くような気軽な挨拶で、ガリアスは「1-1-1」を率いて前進して行った。「コーリク国」軍は、巨大な半球を描くように、広く大きく展開し、「1-1-1」を包み込む構えだ。下手に近寄って乱戦に持ち込まれれば、「1-1-1」には敵わないという事は、前回の戦闘で思い知ったようだ。ある程度距離を置いて、半球状に包み込んだ状態から、散開ミサイルとレーザー射撃を、一斉に浴びせるつもりだろう。

 上下左右からの大量集中砲火ともなれば、いくら「1-1-1」でも無事で済むとは、ユーシンには思えなかった。前回の戦闘では、濃密な金属片群を「1-1-1」は、事も無くすり抜けて見せた。だが、今度は、上下左右から角度を付けて金属片群が飛来する事になる。それでも「1-1-1」は回避できるものなのか、ユーシンには考える糸口すら見出せない。

「全滅とか、しないだろうな。俺は嫌だぞ、『1-1-1』が全滅するところを、見るなんて。」

 キムルと共に武装管制席に着いている、ジャカールが言った。

「そう簡単にやられるわけねぇよ。あいつらが。」

 バルベリーゴの言葉は、自分自身に言い聞かせているようだ。

 異次元の強さの最強軍団の限界など、常人には分からない。こんな闘いに「1-1-1」が勝利し得るのかどうか、その問い自体が異次元のものだ。この宇宙のあらゆる理論は、その問いに答えられないだろう。もう、ただ黙って、見守るしかないのだった。

 途中までは、敵前衛戦力の中心目がけて直進していた「1-1-1」は、突如の急旋回を見せた。前衛戦力を大きく回り込んで、後ろの大型戦闘艦を、狙うそぶりを見せたのだ。敵から見れば、横滑りとも言える運動だ。敵前衛戦力は、大慌てで横にスライドし、「1-1-1」の行く手を阻む行動に出る。

 “大慌て”とユーシンが認識できたのは、相手の陣形の歪みっぷりだった。さっきまで綺麗な半球面を構成していた敵は、波にあおられたクラゲのように、いびつな形状を呈し、あるところでは戦力が過密となり、あるところでは過疎となり、見るも無残な(まだら)模様を曝していた。

 「1-1-1」は、また突如として、反対方向への横滑りを始める。敵も陣形を散々に崩しながら、「1-1-1」と後衛戦力の間に立ちふさがろうとする。右へ左へ、上へ下へと、「1-1-1」は横滑りを繰り返す。そのたびに敵は、ぐちゃぐちゃに陣形を乱し、もはや半球の痕跡すら失い、後衛の戦力に迫らせないだけで精一杯、といった有様を露呈する。

 「1-1-1」の横滑りとは、真逆の方向に動いている敵も、ちらほら見受けるようになった。遂には、敵戦闘艇同士の衝突すら起こる。戦闘不能になる程の損傷は無かったようだが、混乱ぶりは目を覆うばかりだ。敵戦力の展開範囲も、気付けば初めの3倍ほどに広がっている。「1-1-1」の動きに振り回され、なし崩し的に広がって行ったのだ。もはや適前衛戦力に、連携も秩序も、少しもありはしないようだ。

 戦力密度の、濃い部分と薄い部分の差も更に度を加えた。中央付近にぽっかりと、大きな穴が開いたりもする。

 と、前触れもなくいきなり、「1-1-1」はその穴に突入するよな急加速を見せた。誰も見たこともない加速度だ。絶対にパイロットは死ぬはず、と思える加速だ。その加速重力に耐えられる人類など、あり得ないと誰しもが思うようなものだ。適切な対応など、できなくて当たり前だ。

 後衛の戦力は、全速力での後退に移った。艦列の乱れっぷりが、慌てふためいている事を暴露している。前衛戦力も、一斉に後方に突進して、なんとか「1-1-1」に追い抜かれないように努める。あちこちで、味方同士の衝突事故を起こしながら、てんやわんやの大移動だ。なぜか、その場でクルクル、とスピンしているだけの戦闘艇もある。

 そんな敵をあざ笑うように、「1-1-1」は急減速し、更に後退を始め、元の位置あたりに戻って来る。

「ビビってるなぁ、敵の大型戦闘艦。」

 ジャカールはそんな感想を漏らす。

「この前の戦闘で、『1-1-1』に近くに寄られたら命は無い、って頭に焼き付けられたのだろうぜ。何とか距離を置いたまま、『1-1-1』を包囲してしまいたいのだろうな。それも、出来るだけ綺麗な包囲陣形を敷きたいんだ。その状態で総攻撃をかけるしか、『1-1-1』に勝つ術は無い、って分かってるんだな。」

と、ユーシンも意見を述べた。

 綺麗な包囲体勢を完成させたい「コーリク国」軍と、縦横無尽の横滑りでそれをさせない「1-1-1」。両者の“位置取り合戦”は、その後50時間にも渡って、繰り広げられることとなった。最初は緊張の面持ちで戦況を見ていた「キグナス」クルー達も、徐々に眠気を覚えたりするようになる。ユーシンも、気付けば意識が飛んでいたりする。無重力だから、船の中で船を漕ぐような事には、ならなかったが。

 何度目かの居眠りから覚めたユーシンは、未だ右に左に、上に下にの横滑りを繰り返している「1-1-1」を見て、思わず言った。

「ガリアス達は、一睡もしてないんだろうな。当然だけど。」

「2日や3日寝ねぇことくれぇは、珍しくもねぇんだよ。あいつらにとっちゃ。10日以上不眠不休で闘い抜いた事だって、1度や2度じゃねぇんだぜぇ。」

 バルベリーゴは言った。そういえば、彼も寝ている所は見ていない、とユーシンは気付きつつ、驚いた。百戦錬磨の男達と比べれば、自分などまだまだ力不足なのだ、と思い知らされた。

「後方にいた敵艦が、前進し始めたわ。」

 アニーが報告。少し驚いているようだ。

「後ろの連中も、いよいよ腹をくくったようだなぁ。」

 バルベリーゴが評した。

「全戦力での包囲を敢行する気か。いよいよ決戦だな。」

 ユーシンも呟いた。

(上手く時間を稼いできたけど、やはりこの戦力差だ。敵が覚悟を決め、命を捨てて、損害も構わずに全力で押しつぶしに来たら、「1-1-1」は持ち堪えられないかも知れない。全滅する事になるのかも、「1-1-1」が。)

 そんな予感がユーシンの脳裏をかすめた、その時、

「巨大質量が、ワープの兆候を示しているわ!商船などの類ではあり得ない。」

 その報告の意味は、「キグナス」クルーの誰もが、いや、防衛側将兵の全員が、十分に理解していた。待ちに待ったものの到来だった。

 銀河標準上下で言えば、「コーリク国」軍の上方に、その巨大質量はワープアウトして来た。

「何これぇ!何ていう、とんでもない大戦力を、送って来たの!機構軍は。」

 アニーが珍しく、周章狼狽と言って良い程の驚きぶりで喚いた。

「なんだ、なんだぁ。何を送って来やがったんだぁ?アニー。」

 バルベリーゴが質す。

「大型戦闘艦10、中型戦闘艦40、小型戦闘艦40 空母10。」

「ほえぇぇぇー」

 ジャカールは、言葉以前の驚愕の声をあげる。

「1個大隊を、丸ごと寄越しやがったのか。ド派手な事をやるもんだぁ」

 バルベリーゴはニヤニヤ。

「1個1個の戦闘艦も、機構軍の方が断然、性能は上だろ?それがこの数じゃぁ、もう『コーリク国』軍は、成す術がないじゃないか!」

 やっと言葉を紡げたジャカール。

「でも、何で、1か所にまとまってワープアウトするんだ?あれじゃ、逃げられるかもしれないじゃないか。大軍で来るんなら、テトラピークフォーメーションが基本じゃないのか?」

 宇宙で立体的に敵を包囲するには、4つ以上に戦力を分ける必要がある。兵力分散を最小限にするなら、4つの頂点を持つ三角錐(さんかくすい)を形成するのが、最も合理的だ。その4つの頂点に戦力を配置した、三角錐を形作る包囲陣形を、テトラピークフォーメーションと呼ぶ。

「機構軍もこれだけの戦力を繰り出したんなら、当然『コーリク国』軍を追い返すだけじゃ無く、撃破するだけでも無く、全軍を捕縛してしまいたいはずだろう?だったら、テトラピークフォーメーションで来なきゃいけないはずだ。何をやってるんだろう?」

 ユーシンは首をかしげたが、その答えは次の瞬間、動揺に満ちた声でもたらされた。

「ま、まだ来るわよ!もっと巨大な質量が、また、ワープアウトして来るわ!」

 「コーリク国」軍の右後方下と左後方下に、それぞれ、先ほどと同程度の戦力が、そして前方下つまり防衛側戦力の真下辺りには、先ほどの2倍にも及ぶ戦力が、同時にワープアウトして来たのだった。

「な、なにこれ!なんなのこれ!なんていうもの凄い巨大戦力なの!」

 アニーはすっかりパニック状態だ。「機構軍戦力の合計は、大型戦闘艦50、中型戦闘艦200、小型戦闘艦200、空母50!!!」

「わざわざ、律儀に報告してんじゃねぇよぉ。さっきの5倍だぁ。言われんでも分かるわぁ。」

「そ・・そうだね。1個艦隊、全部だもんね。機構軍の編成が、5個大隊で1個艦隊ってのは、まあ常識だけどね。それにしても、1個艦隊を丸ごと、この宙域に派兵して来るなんて、やりすぎだろう。圧倒的にも程があるだろう。こんなにも、もの凄い戦力は、絶対に、必要ないと思うんだけど。『コーリク国』軍は全部合わせても、20艦に満たないのに、それに対して500艦なんて、いくら何でも、余りにも・・・」

「『コーリク国』軍から、降伏宣言が、出たわ。」

 未だ興奮冷めやらぬ様子のアニーが、呼吸を少し乱しながら報告した。

「だろうなぁ。もう、闘う気力も湧かねぇわなぁ、これだけの差をつけられちゃぁ。」

 呆れ顔でそう言った、バルベリーゴ。

「戦わずに勝つのが、戦略戦術の最上だって言うけど、こんなにも圧倒的戦力で、敵に、闘う気力すら持たせずに、ねじ伏せてしまうなんて、宇宙保安機構軍はやっぱり、やる事が壮大だよな。すっかり、恐れ入ってしまったって感じだな。」

 ユーシンの顔色も、呆れと驚きに満ちていた。

「我々は、こんなにも強力な援軍を、今まで、拒んで来たのか。」

 サムダージュが、胸の底から搾り出して来たような声を出した。「機構軍の戦力が、強大な事には、驚かんが、これだけの戦力を、『ユラギ国』や『ヤマヤ国』に注ぎ込んでくれる事には、驚きを禁じ得んよ。」

 通信装置に、ブルーハルトの顔が現れた。

「ユーシン君、『ヤマヤ国』と『ユラギ国』の方々、派兵が遅くなってしまい、大変申し訳ない。多くの犠牲が出ている事は、『イヌチヨーナ星系』から脱出して避難して来た人々から、聞き及んでいる。我々がもっと早く駆け付けていれば、失われずに済んだ命かと思うと、慙愧(ざんき)の念に堪えない。これもひとえに、機構軍の抱える欠陥の故だ。」

「ブルーハルト宇宙保安機構軍大佐殿。」

 ユーシン達が何か応える前に話し出したのは、サムダージュだった。「これほどまでの巨大戦力を、我が『ユラギ国』救済の為に派兵して頂いた事、国を代表して、心より感謝申し上げますぞ。しかし、機構軍とて、銀河のいたるところで、数々の懸案を抱えておられるはず。これほどの戦力をここだけに集めてしまって、大丈夫なのですかな?」

「ええ。問題が生じないようには、してありますよ。」

 そう答えたブルーハルトは、爽やかな笑顔を浮かべている。「背後勢力の影響を機構軍から一掃して見れば、どこの方面もそれほど重大な局面では無く、一時的になら戦力を引き上げても問題は無さそうだったので、第一艦隊全軍で、『イヌチヨーナ星系』に向かう事にしたのです。」

 事も無げにそういったブルーハルトに、バルベリーゴは呆れたように言い返す。

「事にした、って、あんた一人でそんな決定が、できる訳じゃねぇだろう。あんたは大隊の隊長だ。艦隊に命令を発する権利があるわけじゃねぇ。」

「ええ、もちろん。私は艦隊司令官に説明し、説得しただけです。」

「あんたが説得したら、一個艦隊が丸々動いたってか。やっぱりあんたは、ただ者じゃぁねぇなぁ。」

「一掃できたんですね?背後勢力の影響は。」

 そう質したのは、ユーシンだった。

「うん。背後勢力が、『ヴォーソム星団国家』建国に端を発するものだと分かってね。根元が分かると、枝葉末節も見えて来たのだよ。おかげで、機構軍内で背後勢力の影響下にあるものは、一網打尽にできたはずだ。」

「建国に端を発する?」

 随分奥深い話になったものだと思いながら、ユーシンは問いかけた。

「ああ。機構軍の本部がある『イリノア星系』を首都星系にするのが、『ヴォーソム星団国家』だが、かつては複数の宇宙系勢力が相争う、乱戦模様の星団だった。地球系人類が介入し、地球系が中心になる形で、星団内は収まり、国造りが進んで行ったが、やはりそれに反発する勢力はあった。反抗勢力は、星団外の、地球系には未知の宙域に逃げ去ったが、彼等と繋がりの有るものは『ヴォーソム星団国家』内に残っており、国家機構内に根を下ろして行った。」

 ブルーハルトの説明は、ユーシンをぞっとさせるものだった。

「その反抗勢力が、『コーリク国』等の背後にいる勢力だっていうのですか?『ヴォーソム星団国家』に、建国時から深く根を降ろしている連中と繋がっている組織が。それなら、『ヴォーソム星団国家』の首都星系に本部を置いている機構軍に、奴等の影響力が浸透しているのも、当然ですね。」

「うん。だが、そうと分かれば、建国時に反抗勢力と繋がりのあった者を炙り出し、その経脈を辿って行けば、機構軍内部の、彼等の影響を受けている連中を見つけ出す事は、容易だった。」

「それで、影響力を排除してみたら、第1艦隊の派遣先に、急を要する事態の宙域が無かったんで、艦隊を丸ごと連れて来たんですか・・。そんな事が、出来るものなのですか・・」

 説明を受けても、ユーシンの驚きは収まるものでは無い。

「大佐以外には、誰にも出来ねぇ事だろうなぁ。」

 言ったのはバルベリーゴだ。「一大隊長の身分で、艦隊司令部にこれほどの影響力を行使し得るなんて、普通はあり得ねぇんだ。」

 機構軍元少将が言うのだから、間違いないのだろう。

「そうは言っても、第一大隊以外の戦力は、すぐさま引き返す事になるがね。連れ出せるのは、ほんの一時(いっとき)だけだ。あちこちに頼み込んで、ようやくほんの一時だけ連れ出す事を、認めてもらえたのだ。」

「そうまでして、艦隊全部を派遣して来る必要が、あったのですか?一個大隊でも、十分に制圧出来たと思いますけど・・」

と、ブルーハルトに、問いかけずにはいられないユーシン。

「確実に、一瞬でケリを付けたかったからね。駆け付けるのがずいぶん遅くなってしまった事を埋め合わせるには、これ以上、1発の砲弾も飛び交わさせる事無く、即座に戦闘を集結させたいと思ったのだ。それに、我々機構軍が、『ユラギ国』の事も真剣に考えているのだというところを見せて、信頼を勝ち取りたいとも思った。我々には、過去の裏切りと言う罪悪があるからね。失った信頼を取り戻すには、生半可な覚悟では通用しないだろいう。」

「ははは。そこまで本心を曝け出して、良いのですかな?」

と、苦笑混じりに言った、サムダージュ。「しかしもう、こんなものを目の当たりにさせられたら、信用しないわけにはいきませんし、頼りにせざるを得ませんな。」

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日、 '17/10/28 です。

一匹の蜂に、大きな人間の何十人もの集団が翻弄される、なんてことは、よくあると思いますが、そんなイメージで書いたのが、「1-1-1」が「コーリク」艦隊を手玉に取るシーンです。それまで行儀よく並んでいた就学旅行か何かの学生の集団が、一匹蜂が登場しただけで、ぐちゃぐちゃに列が乱れ、人と人がぶつかり合い、転んでいる人、しゃがみ込んでいる人、友人を盾にして自分を守ろうとしている人、などが出てきたりしますよね。蜂に刺されたくらいじゃ、よほどのアレルギーでもない限り、大したケガもしないはず、と思えるのに。ちょっと痛い思いをする覚悟を固めてしまえば、指先一つで、プチッ、と潰してしまえるのに。その状態を、「1-1-1」と「コーリク」艦隊で再現してみました。いかがでしたでしょうか?あと、トア。思い出して頂けましたでしょうか?トア。登場も死も、構想段階では全く予定になく、書いているときに突如思いついて、出てきてもらい、死んでもらったキャラクターでした。でも、書いてみた今となっては、トアをもっと掘り下げたい気持ちになっています。続編を書くことがあったら、彼女や彼女の家族について、何らかの言及をしたい、と思っております。というわけで、

次回 第78話 クレアの気配 です。

長くて辛くて厳しかった戦争が、ようやく終わりました。仲間を2人も失うという悲しみにも見舞われました。そろそろユーシン君にも、何かいいことが起っていいころでしょう。で、彼にとって、一番いいこととは?

それと、お気付きの読者様も多いと思いますが、もうそろそろ「ウォタリングキグナス-ヤマヤの虜囚-」は完結します。あとどれだけと、はっきりは申し上げませんが、残すところはわずかです。続編の可能性をたっぷりと含ませつつ、ひとまずここで、物語は終了いたします。続編を書くことがあるのか、ないのか、書くとして、いつ頃になるのか、現段階では全く不明です。が、1・2年の間は、書かないでしょう。

で、次回作が、現段階で、多分、半分強ほど書きあがっております(書き終わらないと、長さも断定できない)。できれば、「キグナス」終了までに完成させた上で、終了と同時に次回作の投稿・連載をスタートさせたかったのですが、それは無理なようです。最後まで書かないと、冒頭部分も修正の必要がないとは言えないですが、一度投稿したものを修正するのは、すでに読んでくれた人に失礼な気がするので嫌だし、でも、「キグナス」終了し次第、次回作をスタートさせたいし、でも、「キグナス」終了までに、次回作が間に合わないし・・。

ということで、妥協案と言うか、折衷案と言うか、「キグナス」終了直後に、隔週投稿で連載を開始し、完成し次第、毎週投稿にしよう、と決めました。最後まで書かなくても、最初の何話かくらいは、修正の必要は出ない、というか、意地でも修正なしで済ませるようにします。それで、あまり話が進まないうちに、できるだけ早く完成させ、毎週投稿に移行する、って形でいこうと思います。

「キグナス」は週2回で投稿していましたが、ちょっとしんどかったので、次回作は週1回、土曜日の投稿にしようと思います。その分1話を3割増しくらいの量にして、1週の分量を「キグナス」の7割くらいに、って考えています。ここまで「キグナス」を読んでくださった読者様方には、是非、引き続き、次回作もご愛読頂きたく、心よりお願い申し上げます。次回作のタイトルは、次話の前書きあたりで発表したいと思います。では、「キグナス」の残りと次回作、是非、お楽しみください。


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