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銀河戦國史 (星々を駆る重武装宇宙商船「ウォタリングキグナス」-ヤマヤの虜囚-)  作者: 歳越 宇宙(ときごえ そら)
ヴォーソム星団・キークト星団の章
76/82

第75話 敗退迫る時に

 艦砲射撃の猛攻に曝されていた防衛拠点基地は、結局、全滅の憂き目を見た。若きは10代前半から、老いは70代までの、市民からの志願兵達も、千人以上が、崩壊して行く基地と運命を共にした。

 破壊された拠点基地は10個を越え、一万人以上の民間人の志願兵が虚空に(しかばね)を漂わせる、という悲惨な結末だった。

 その他の防衛拠点基地等からは、速やかな撤退が実施され、第3から第5惑星の軌道上にある後方支援基地に、続々と兵が引き上げて来た。

 敵第3侵攻軍は、行く手を阻む敵が消失したと知るや、タキオントンネルターミナルを多数設置し、オールトの海の内側の縁にまで進出して来た。そこで進軍を止めた敵は、輸送船に兵站基地との間を何度も往復させ、物資を運び込んだ。手頃な大きさの岩塊を選び出し、その中を繰り抜いて物資を集積し、臨時の進攻基地としたようだ。

 輸送船団には、大型戦闘艦1艦と小型戦闘艦3艦と空母という物々しい護衛が付き、「キグナス」といえど、単艦での攻撃は不可能と判断された。

 一方で、第1、第2、第4侵攻軍は、一旦後退してオールトの海の外に出て、第3侵攻軍が切り開いたルートを通って、星系内に再侵入して来た。防衛面に開けられた1つの穴から、全戦力を侵入させるという戦略のようだ。

 侵攻軍の損害も甚大なものだった。もはや4つに分けていたのでは、軍として機能し得ない程になっていた。一旦集結させ、損傷の小さい艦を選び、新たに一つの部隊を編成し直した方が良い、と敵は判断したようだ。

 防衛側も、戦力の再編成は不可欠だった。損害の大きさは、敵側を上回っているからだ。再編成した戦力は、一旦後方支援基地に戻した。“後方”と名付けられてはいるが、実際はもう、ここが最前面基地となる。

 そして再編成された戦力は、修理とメンテナンスと補給が終わるとすぐ、敵がオールトの海の内側の縁に造った基地と、第3惑星との直線上の、中間地点に配置された。タキオントンネルで一直線に侵攻して来るであろう敵を、ここで食い止める算段だ。だが、

「再編成された侵攻軍戦力、大型戦闘艦2、中型戦闘艦5、小型戦闘艦12、空母6。それに対し我が方の再編成戦力は、大型戦闘艦0、中型戦闘艦1、小型戦闘艦7、空母4。」

 表情を暗くしたヤモカーケスの、作戦会議の席上での報告だった。もともと連合艦隊旗艦だった「ヤマヤ国」軍の大型戦闘艦は、既に戦闘不能に陥っていた為、唯一戦闘能力を保っていた中型戦闘艦にある会議室で、作戦会議は開かれていた。

「もはや、戦力の差は歴然だな。万に一つも、勝ち目があるとは思えない。」

 苦虫を噛み潰したような、タケマヤル総司令官の呟き。「それに、もし、第3惑星以外を狙われたら、もう我々には何も出来ない事になる。」

「住民の『イヌチヨーナ星系』からの撤退準備は?」

 ユーシンが、身を乗り出して問いかけた。

「例の機構軍にもらった、移動可能なスペースコロニーに、『イヌチヨーナ』市民の8割を詰め込んだ。他の住民も、幾つかの宇宙船に分乗して、いつでも脱出可能だ。」

 敵軍が一か所に集まった事で、脱出は比較的容易に遂行できそうだ。

「もうこうなったら、一旦、『イヌチヨーナ星系』を放棄して、再起を期するしかねぇなぁ。」

 バルベリーゴは、遠くに視線を泳がせるような姿勢で発言した。

「せっかく、ここまで復興したというのに。住民達の必死の努力で、宙賊による占拠の爪痕を、ひとつずつ埋めて来たと言うのに。」

「生きてさえいれば、何度でも立ち上がれる。今は、1人でも多くの市民を生き延びさせることを考えよう。」

 悔しさを滲ませて囁くプキキニを、チャンゴンが励ました。

「機構軍は、まだ来ませんか?」

 一応と言った感じで、ユーシンは尋ねた。もし来ていたら、いち早く報告されているはずだ。未だ来ていない事は分かり切っているが、尋ねずにはいられなかったのだ。

「『イヌチヨーナ星系』近傍でのワープは、敵輸送船と思われるもの以外、全く検知されていません。近くにすら、来ていないと思われます。」

 答えるヤモカーケスも、やるせない面持ちだ。

「我々が、機構軍から見捨てられた、という事は、無いのですかな?」

 プキキニの疑問だ。

「そんな事はありません。機構軍は必ず来ます。」

 ユーシンは声を高くして、きっぱりと言い切った。一旦機構軍を信頼する姿勢を見せ始めたプキキニだったが、これだけ防衛側が窮地に陥っても、まだ来ないとなると、疑いたくなるのも無理は無かった。その心情を理解しつつ、それでも今は、来る事を断言するしかないユーシンだった。

「機構軍は、そんなにも手いっぱいの状況なのかね?」

 タケマヤル総司令官からも質問が飛ぶ。

「手いっぱいと言うより、『コーリク国』の背後にいると思われる勢力の、機構軍内部での暗躍が問題なのでしょう。機構軍も大きな組織です。宇宙の平和を真摯に願う将兵が多くいる一方で、(よこしま)な奴、買収されて誰かの操り人形に成り下がった奴が、少数とは言え、いる事は否定できません。」

「そうか。まあ、そんなものなのだろうな。」

 一応、納得はしてくれた様子のタケマヤルだった。

「こうなったらやはり、『イヌチヨーナ星系』は放棄するしか無いですね。残った戦力で、何とか住民脱出の時間を稼ぎましょう。大丈夫です。機構軍は、いつかは必ず来ますし、来ればすぐに、『イヌチヨーナ星系』は奪還してくれるはずです。放棄は、ほんの一時の事です。」

 なるべく明るい声で言ったつもりのユーシンだったが、その声に張りはあまりなかった。

 「コーリク国」軍の侵攻再開までの5日間は、驚くほど平穏に過ぎた。だがその表面的な平穏は、「キグナス」クルーを、悲しみのどん底に突き落とすものだった。忙しく何かをしていれば、気持ちも紛れるというものだが、平穏に曝されてしまえば、ファランクスの喪失という現実と、対峙せざるを得なくなるのだった。

 ファランクスがもし生きていた場合に、宇宙服内の酸素が尽きるであろう時間を迎えた時が、最も苦しかった。その時間を過ぎた事で、ファランクス生還の最後の望みは、絶たれる事になったのだ。生きていても、酸素を使い果たし、窒息死する事になるのだ。そんな死に方をするくらいなら、宇宙艇爆散の時にこと切れていた方が、幾分楽だったかもしれない。

 通路の片隅で背中を震わせるノノを目撃した時には、ユーシンは胸を掻き毟りたい程の激情に見舞われた。それが悲しみなのか、罪悪感なのか、自己嫌悪なのか、それすらもユーシンには分からなかったが。

 “ノノちゃん派”の筆頭を自認して、足繁く、何度もノノのもとに通い詰めていたのが、ファランクスだった。何とも思わない風を装っていたノノだが、嬉しく思う気持ちが無かったはずは無い。「キグナス」のエースパイロットの熱い気持ちが、少女の心に何も響かせない事など有り得ない。

 外には狂信的に振る舞う事はあっても、ノノに対しては、いつでも紳士的だったファランクス。「1-1-1」への夢を語る彼の横顔を見ている時は、ノノもうっとりした表情になっていたのを、ユーシンは覚えている。事と場合によっては、2人は恋仲になっていたかもしれない。

 平穏がこれ以上続けば、頭がどうにかなってしまうかとユーシンが心配し始めた頃、「コーリク国」軍の侵攻再開が報じられた。戦闘可能な敵の全軍が、一斉に第3惑星を目指す体勢である事も、確認された。

 それを知るや、住民を乗せた移動式スペースコロニーや宇宙船群は、敵軍と正反対の方向から「イヌチヨーナ星系」を脱出すべく、行動を開始した。

 脱出組を攻撃しそうな、敵軍の戦力が無い事を確認するまでは、迂闊には住民の移動は始められなかったが、敵が全軍での進攻を始めたと知った今となっては、住民達を留めておく理由は無かった。

 「コーリク国」軍は、防衛側連合艦隊の少し手前までは、タキオントンネルでやって来た。防衛側艦砲の射程圏の少し外で、艦列を整えた。星系内宙域での、会戦形式の戦闘が始まろうとしている。そしてこれが、決戦になるだろう。

 戦力的に圧倒的優位の「コーリク国」軍は、防衛側を包み込み、一気に押しつぶす算段のようで、半球面を構成するように戦闘艦と戦闘艇を配置した。

「勝ち目は、皆無だなぁ。どれだけ時間を稼げるか。そして、どれだけを死なせずに済ませられるか。それが問題だぜぇ。」

 航宙指揮室前部に投影されたホログラムを睨みながら、バルベリーゴは呟く。

「タケマヤル総司令官から通信よ。」

 アニーの報告と同時に、モニターに総司令官の顔が現れる。

「バルベリーゴ船長、そして、『キグナス』クルーの諸君。もしかしたら、これが最後の機会になるかもしれないから、改めて挨拶をしておく。君達が居てくれて。『ウォタリングキグナス』が『ヤマヤ国』にやって来てくれて、本当に良かった。君達がいなかったら、『ヤマヤ国』も『ユラギ国』も、大変な事になっていただろう。だが、今は、たとえこの戦いに敗れ、我等が連合艦隊が全滅し、一時とは言え『イヌチヨーナ星系』を奪われても、機構軍による奪還を期待し、『イヌチヨーナ星系』の再建にも望みを繫げられるようになった。我々は安心して、ここで死ぬことが出来る。全て、『キグナス』クルー諸君のおかげだ。君達に出会えたこと、君達と闘えた事は、我が人生で最大の喜びであり、誇りである。有難う。本当に有難う。それから、『キグナス』には、市民達の脱出を見届けたら、我々に構わず戦域を離脱し、退避してもらいたい。あなた方は、もう十分にやってくれた。後は機構軍に任せれば良い。これ以上、無理をしないで欲しい。あなた方からは、極力犠牲を出さないで欲しい。」

 もう誰も、返事も出来なかった。ただ大きく頷いて、その言葉を受け止めた。タケマヤルも、返事の言葉を待つ様子も無く、通信を閉じた。

 ユーシンも、心中で呟きを漏らす。

(市民の脱出を確認するまでは、逃げ出すわけにはいかない。となると、さすがに、この闘いを生き抜くのは、至難の業だろうな。俺達もすぐに、ファランクスのもとに行く事になってしまうのかも。お嬢様。生きて戻るって、約束したけど・・。何が何でも、生きて戻るつもりだけど、もしかしたら・・)

 心に浮かぶクレアの笑顔に、ユーシンは話し掛けた。

(約束を果たし得ぬ時には、せめて、心の中ででもお嬢様に詫びてから、最期を迎えたい。最期の瞬間に、それだけの猶予がある事を、祈るぜ。)

「敵艦隊に、前進の兆候よ!」

 報告を入れたのは、アニーだ。

「ガキ共、絶対あきらめるなよ。どんな局面でも、どんなに絶望的でも、最後まで生き残る事を諦めるんじゃねぇ。戦場じゃ、諦めた奴から順に、死ぬんだからなぁ。」

 腹の底に響き渡るような、バルベリーゴの声。

「え・・?・・何?何これ?・・何なの?この反応?」

 アニーが、戸惑いを露わにした声を上げる。こんなにもうろたえたアニーを見た事は、ユーシンには無かった。航宙指揮室の全員が見られるモニターには、そんな驚くような表示は何もない。アニーだけが見られる何らかのデーターに、そんな異様なものが示されているのだろう。

「オールトの海を、何かが、光速の1%くらいの速度で飛翔して、真っ直ぐにこちらを目指してるのよ。オールトの海に残された、防衛側の無人探査機が、それを捕え、ワープ通信で伝えて来たわ。」

「馬鹿な!そんな事があるもんか。無数の天体が散在しているオールトの海を、光速の1%で飛翔、だなんて。」

 光速の1%といえば、ファランクスの操る宇宙艇にユーシンが乗り込んで、「コーリク国」軍に奇襲攻撃を掛けた時と同じ速度だ。宇宙に漂っていた氷塊を一つ躱すだけで、どれだけ強烈な旋回の遠心力に耐えなければいけなかったか。

 オールトの海には、もっとたくさんの障害物がある。氷塊よりも堅いものも含まれる。あの時の氷塊より遥かに巨大なものも、数知れずある。戦闘艦艦隊の秘密基地として利用できる大きさのものさえ、無数にあるのだ。そんなオールトの海を、光速の1%で飛翔するものなど、あるはずがない。

「何かの間違いじゃぁねぇのか?探査機の誤作動とかよぉ。」

「複数の探査機が、同じデーターを送って来ている。こんな間違いは、起こりようがないわよ。」

「確かなのか?敵側の欺瞞情報などでは、無いんじゃのぅ。」

「間違いなく、防衛側のものの反応よ。それに、敵が何の為に、こんな偽情報を出すのよ。」

 バルベリーゴとドーリーの、相次ぐ疑問に応えたアニー。

 が、情報に間違いが無いと感じたとたん、バルベリーゴの口元は、ニヤリといった笑みを示した。

「じゃあ、あいつらだ。そんな不可能なはずの事を、やってのける奴等がいるとしたら、あいつらしかいねぇ。」

「あいつらって、まさか・・。でも、彼等は今、戦える状態じゃ、ないはずじゃ。ボロボロの状態のはずだよ。」

 バルベリーゴの発言を受け、ユーシンは戸惑いに満ちた呟いを漏らした。

「敵軍、進攻を停止!敵もこの、未知の飛翔物体の存在に気づいて、動きを止めたんだわ。何が何だかわからないものが接近してきている状態で、決戦を始めるのは危険と判断したのね。」

 タケマヤルからも、その飛翔体に関する問い合わせが、バルベリーゴにもたらされた。

「まだよくわからねぇから、はっきりとは答え辛れぇが、もしかしたら、救世主かもしれねぇぜぇ。」

 数時間後、謎の飛翔体はオールトの海を抜けた。そこから、タキオントンネルを使ったようだ。飛翔体の軌道の延長線上に、タキオン粒子が観測された。そして更に数時間後、30隻程の戦闘艇の飛来が報告される。謎の飛翔体が、タキオントンネルを出たのだ。そして、それが戦闘艇だと確認された。熱源パターンの照合から、その正体も知れた。

「『1-1-1(トリプルワン)』だ!やっぱり、『1-1-1』だったんだ。」

「オールトの海を光速の1%で飛ぶなんざぁ。あいつら以外にあり得ねぇと思ったぜぇ。」

 バルベリーゴはニヤニヤしながら、納得の言葉を漏らす。

「謎の飛翔体から、通信が入ったわ。音声だけの通信だけど、繋ぐわね。」

と、アニー。通信装置から声が漏れる。

「オヤジ!小僧共!生きてるかぁ!」

「ガリアス・シュレーディンガー!」

 ユーシンは叫ぶ。歓喜に溢れた声色だ。「何で?なぜ来られたんだ?戦えない状態だって聞いたぜ。『タクムス星系』近傍での戦いで、大損害を受けて、ボロボロの状態だって話だったのに。」

「小僧!よおく覚えて置け!どんなにボロボロになっても、闘えるのが『1-1-1』だ!」

 「キグナス」と「1-1-1」の通信は、それで終わった。その後彼らは、「コーリク国」軍に対して、宇宙保安機構軍である宣言と、今すぐに武装解除して降伏を宣誓しないと攻撃する旨の通達を、行った。敵はそれに構わず、「1-1-1」の前面に散開弾の雨を見舞う。

 降伏の意思無しと見た「1-1-1」は二手に分かれる。半分はそのままの速度で飛び続け、半分は減速し始めた。減速とは、進攻方向と反対への加速でもある。

「なんていう加速度なの!生きていられるのかしら?こんな加速をして?常人なら即死よ。」

 アニーの、嘆息混じりの呟き。

 敵散開弾は展開した。猛烈に広大で濃密な金属片の大群が、「1-1-1」の前に立ちはだかる。相対速度と拡散域からすると、迂回回避も完全に不可能だ。「1-1-1」の先行組の十数隻は、一団となって金属片群の中央部分へ突進して行く。

「たった30隻程度の戦闘艇で、20艦以上はいる敵艦隊に突撃するつもりなのか、彼等は!無茶だ!無謀だ!」

 サムダージュは叫んだ。「恐れというものを知らんのか、彼等は。どこからそんな度胸が湧いてくるんだ。」

「それが、『1-1-1』だ!」

 ユーシンは叫び返した。「機構軍は、過去に間違いを幾つも犯した。今でも悪い奴が、内部に沢山いる。でも『1-1-1』は、彼等の勇気と実力だけは、絶対に本物なんだ。『ユラギ国』の人達、『ヤマヤ国』の人達、良く見ておいてくれ。彼らが『1-1-1』だ。どれだけ機構軍に不信感を持とうが、苦い過去があろうが、これだけは信じて欲しい。彼等こそ最強だ。彼等が全銀河最強戦力、『1-1-1戦闘艇団』だ!」

 「1-1-1」の戦闘艇はもう、減速しない。軌道変更もしない。進路開削弾を撃つでも無さそうだ。どう見ても、どう考えても、金属片群の餌食になる以外には有り得ない、とその様子を見ている誰もが思ったに違いない。

 だが、「1-1-1」と金属片群のレーダー反応が交差した後も、「1-1-1」の反応は、変わらずに存在し続けた。何事も無かったかのように、全艇揃って、真っ直ぐに飛翔しているのだ

「何だ?何が起こったんだ?何をしたんだ、彼等は?」

 相変わらず「キグナス」の航宙指揮室に詰めているサムダージュが、口をあんぐり開けた驚愕の顔で、誰にともなく問いかける。「有り得ん。そんなはずは無い。あの濃密な金属片群に、何もしないで真直ぐに突っ込んで、何故一隻も、何の損傷も受けてないんだ。」

「何もしてない事はねぇぜ。直前に、ごく小さな爆弾を、戦闘艇の鼻先で炸裂させたはずだ。金属片の1つか2つを弾くくらいのなぁ。」

「そんなこと、無理に決まってるよ。爆破で、衝突の可能性のある金属片の一つか二つだけを弾き飛ばすとなると、相当正確に金属片の位置や運動状態を把握しなきゃいけないんだぞ。そして、小さな金属片の、一つの一つ位置や運動状態をレーダー探査で正確に掴むには、かなり近くにまで引き寄せなきゃいけない。高速の1%でその距離っていうのは、コンピューターの反応速度の限界を超えてるんだ。いくら機構軍が最新鋭のコンピューターを持っていたって、そんな事出来るはずがない。」

 ユーシンも、バルベリーゴに食って掛かるように喚いた。

「ああ。レーダーで位置を掴み、コンピューターで計算してから爆弾を射出、なんてことをしてたんじゃぁ、間に合うわけねぇわなぁ。事前にプログラムされた通りのタイミングと方向に、微小爆弾を射出してるんだ。」

「そのプログラムっていうのは?」

「パイロットが、勘で入力してんだろうなぁ。」

「そんな、勘で入力したようなプログラムで、何で全戦闘艇が無事に金属片を突破出来るんだ?確率的に有り得ないだろう!」

「そりゃぁ、奴等が『1-1-1』だからさぁ。」

 説明になっていない説明だ。だが、今はそれで納得するしかない。

 後続組の、十数隻の「1-1-1」戦闘艇も、金属片をすり抜けた。先行組が開けた穴を通ったとバルベリーゴは説明したが、ユーシンにはそれも、有り得ない事としか思えない。どうやったらそんな事が可能になるのか、皆目見当もつかない。だが現実に、先行組も後続組も、金属片群を通り抜けたのだ。受け入れるしかない。

 先行組の進路に、今度は敵戦闘艇群が立ちふさがる。無数のレーザーの光条が、槍衾(やりぶすま)のように虚空を埋め尽くし、「1-1-1」の先行組十数隻に襲い掛かる。が、一発も当たらない。加減速も方向転換も、実施した兆候は確認できないのだが、何故か当たらない。加減速も方向転換もしないという事は、等速直線運動だ。いくら高速だとはいえ、コンピューターで制御されたレーザー射撃が、はずれるはずがない。一発で仕留めて当然の射撃のはずが、何百発撃っても当たらない。

 何事も無かったと言いた気な様子で、「1-1-1」はただ直進している。

 宇宙は、驚愕に包まれていた。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日 '17/10/21 です。

「キグナス」の必死の戦いもむなしく、防衛面は崩壊し、防衛戦力は星系内への撤退に至らしめられました。「キグナス」の戦いに意味はあったのか?との疑問が湧くかもしれませんが、もともとが、機構軍が来るまでの時間稼ぎの戦いで、「キグナス」は、時間だけはたっぷり稼いでいます。防衛面崩壊を、10日近く遅らせる成果は、あげているのです。いくら重武装とはいえ、たった1隻の商船にできる事はこの程度、っていうことでもあり、たった1隻でも、時間を稼ぐ事はできた、ということでもあります。それが大きな貢献か小さな貢献かの判断は、人それぞれ、ということで。で、物語の常識として、主役達が稼いだ時間が、運命を大きく分けることになるわけです。個人にできることは小さくても、小さな事をやり遂げれば、大きな違いが生まれることもある、なんてことが表現できてたら、いいのですが。というわけで、

次回 第76話 劇的な撃破 です。

たいていの読者様には予想通りかもしれませんが、ギリギリのところで「1-1-1」が登場しました。こういうのは、ネタバレとかいう以前の問題で、これ以外の展開はあり得ません。この物語の"英雄"は、宇宙保安機構軍や「1-1-1」であり、1人の商船の見習いの目から見た宇宙保安機構を描く、というのが本物語の趣旨です。あとは、いかに一番格好良いタイミングで登場させるか、が"英雄譚"ではないでしょうか?とはいいつつ、「キグナス」にも、もうひと働き、してもらうかも。お楽しみに。

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