第74話 白鳥の失血
「くそぉっ!ハメられたか!深追いし過ぎた。あいつは、俺達を引き付ける罠だった。まんまと引っかかって、戦闘艇の大群の中に突っ込んじまったかぁ。」
「敵戦闘艇群から、対艦ミサイル多数飛来。追撃中の敵中型戦闘艦からも、ミサイルを撃って来やがった。百発以上のミサイルの大群だ!」
サヒーブ喚く。
「散開弾、発射する!」
ジャカール叫ぶ。
放たれた散開弾は、ほとんどの敵対艦ミサイルを撃破したが、百発以上のミサイルの全てなど、叩き切れるものでは無い。「キグナス」に迫る多数のミサイル。装備された十数基のレーザー銃がフル稼働する。次々に撃破するが、それでも撃破し切れ無い。至近距離で、ようやく撃破出来たものもあった。
間近でのミサイルの炸裂に、激しく揺さぶられる「キグナス」。
「うわぁっ!」
「きゃあっ!」
激しい衝撃に、航宙指揮室にも悲鳴が上がる。ジャカールは唇から血を流している。どこかでぶつけたか。指揮室後方で静かに控えていたノノが、彼の治療に駆けつける。
「良いよノノ。席に着いてろ、危ないぞ。」
「でも、怪我。」
「ノノ、座っているのじゃ。少しの怪我に構っていられる状況じゃないのじゃ。」
ドーリーの言葉で、ノノは心配気な顔をしつつも、引き下がって行った。
「有難う、ノノ。ごめんよ。後でちゃんと診てもらうから。」
ノノを気遣いつつ、ジャカールはコンソールを叩いて、ミサイルを操作する。
敵戦闘艇群は、散開弾の金属片を大きく迂回し、キグナスへの突撃体勢を取りつつある。その鼻先への再度の散開ミサイル射撃が必要だ。
「キグナス」の至近で撃破される敵ミサイルは、その後も相次ぐ。そのたびに、激しい振動がクルーを襲う。怪我人が続出する。航宙指揮室以外では、骨折などの重傷者の発生もあった、とニコルが報告して来た。
敵艦は「アマテラス」の射程圏には入ったが、敵ミサイルの至近での爆発の衝撃で、なかなか狙いが定められない。
ようやくミサイルが片付いたと思ったら、敵戦闘艇に肉薄を許した。散開弾攻撃で、ずいぶん数も減らし、組織性の無いまばらな攻撃にせしめる事は出来たが、50隻全てを散開弾だけで屠る事は、不可能だった。
またレーザー銃に出番が回る。だが、それでは間に合いそうも無い。数が多すぎる。またしても至近爆発の洗礼が続発。直撃を受けないだけで精一杯だ。だがそれも、時間の問題だ。至近爆発の度に、レーダーシステムにも支障が出る。索敵できない部分が出たりする。もはや防ぎ切れ無い。
ユーシンもなかなか「アマテラス」を撃てない。「キグナス」の振動が収まらないからだ。敵艦を撃たない限り、「アマテラス」を敵戦闘艇の迎撃に回せない。
次々に肉薄して来る敵戦闘艇。レーザー銃はフル稼働だが、もう間に合いそうも無い。迎撃の追いつかない幾つもの敵戦闘艇が、攻撃体勢に入っている。このままでは、直撃を受ける。
追い詰められた「キグナス」。
万事休すか。
遂に白鳥は、宇宙に散るか。
だが、敵戦闘艇は、思わぬ方向からのレーザー射撃を受け、次々に爆散して行く。
「間に合ったな。援護するぜ。」
ファランクスの声だ。味方の中型戦闘艦の救援を、他の宇宙艇や戦闘艇に任せ、4隻の宇宙艇だけを引き連れて、「キグナス」の防御に駆け付けて来たのだった。
「気が利くじゃねぇかぁ、ガキィ。」
バルベリーゴもこの時ばかりは、心の底からファランクスに感謝したようだ。未だ20隻以上残っている敵戦闘艇の群れの中に、ファランクス達は躍り込んで行った。
「『アマテラス』発射!」
ユーシンは叫んだ。「アマテラス」は火を噴いたが、先ほどまでの衝撃で、少し射撃管制システムに狂いが生じていた為、射撃は僅かにずれた。それでも、敵中型戦闘艦には、ある程度の損害を与えたようだ。艦体の片方の面の装甲が歪み、亀裂が走り、あちこちからガス状のものを噴出している。引き返して来て戦闘を継続するのは、無理と思える状態だった。
「敵戦闘艇、更に飛来して来る!タキオントンネルで、また新手を送り込んで来たようだ。」
「しつこい奴だぜぇ、畜生めぇ!」
サヒーブの報せに、毒づくバルベリーゴ。
「アマテラス」を、新手の戦闘艇の迎撃に振り向けたユーシン。射撃管制にずれが生じているが、そのずれすらも念頭に入れた補正値を入力。発射。撃破相次ぐ。第一波の敵戦闘艇は、いつの間にかファランクス達に、あらかた片付けられていた。
「20隻くらい残っておった敵戦闘艇を、たった4隻で、もうこんなに減らしおったのか?ファランクス共は。」
ラオが驚愕の言葉を漏らす。
残り4・5隻の、第一波の敵戦闘艇を仲間に任せ、「キグナス」に向かって飛来して来る敵戦闘艇群に、ファランクスの宇宙艇が挑みかかる。「アマテラス」による砲撃と、散開ミサイル攻撃を受けて、第二派の敵も数を減らされ、連携を断たれている。そんな敵戦闘艇を、次々に撃破して行くファランクス。加速強度、旋回半径、命中精度、敵の先を読む勘の鋭さ、どれを見ても驚異的だった。
「敵小型戦闘艦、接近!」
「なにぃ!まだ来るか!」
これだけ次々に、「キグナス」への攻撃が向けられるという事は、防衛側の戦力が、相当に消耗させられているということだ。「イヌチヨーナ星系」攻防戦も、いよいよ防衛側に苦しい状態になって来たという事だ。
が、今は、そんな事を考えている時じゃなかった。この戦闘艦に接近を許し、敵戦闘艇との連携攻撃でも仕掛けられれば、「キグナス」が危うい。まだ遥か射程圏外だが、ユーシンは「アマテラス」で狙いを定めた。敵艦は全速力で「キグナス」を目指している。全電力をスラスターに費やしているという事だ。つまり、磁場シールドに向ける電力は無いはず。
敵は、未だに「アマテラス」の出力を正確に把握できていないのか。把握出来ていても、実戦で適切に対処できるほど、その知識を消化できていないのか。いずれにせよ、シールド展開も無しに「キグナス」への接近を図っているのだ。
射程圏の遥か外に敵はいて、射撃管制にもずれが生じている。狙いを定めるユーシンにも、一層の集中力が求められる。入力データーの決定にも時間がかかる。
神経を研ぎ澄ませる。深く呼吸をする。目を閉じて思考をまとめる。イメージを鮮明化する。当てなければいけない。劣勢に陥りつつある防衛側にあって、今や「キグナス」は、唯一の希望の光だ。彼らの活躍が、絶対的に必要なのだ。
「ここだ!」
ユーシンの指が、コンソールで躍動した。
「アマテラス」は放たれた。プロトンの奔流が暗黒の宇宙を照らした。敵艦からも、閃光が放たれる。磁場シールドを展開していない敵艦の装甲は、射程圏外からの射撃でも熱膨張による歪みを生じさせられた。どんな障害を生じたかは分からないが、戦闘不能と判断したのだろう。敵艦は退避軌道へと遷移して行った。
「よしっ!」
ユーシンは息を付いた。
「あっしゃっしゃ。相変わらず、やりおるのぉ。」
珍しく、ドーリーが素直に褒めた。
バルベリーゴの顔にも、ようやくのように、少しだが安堵の色が見えた。が、その時、背筋も凍るような報告が、サヒーブから告げられた。
「ファランクスの宇宙艇、被弾・・・ば、爆散!」
「なん・・だ・・と・・・」
「嘘だぁ!」
「そんな、そんなぁ」
クルー達の様々な発言を耳にしながら、ユーシンの思考は漂白されていた。一瞬だが、何も考えられなくなった。
ファランクスとアデレードが、死んだ。
受け止められるはずも無い現実。
そんなはずは無い。さっきまで、あんな獅子奮迅の活躍を見せていた彼らが、あんなにも神懸かり的なまでに腕を上げていた2人が、やられるなんて、死ぬなんて、あり得る訳がない。
ただひたすらに否定した、拒否した。頭も体も、全てが凍り付いて、全ての現実を拒絶し始めた。そんな感覚を一瞬味わった後、しかしそれは、受け入れるしかない現実なのだとの思いに、取って代わられつつあった。
「あ、ああ、だ、脱出反応・・確認。」
サヒーブが震える声で報告。しかし、脱出したというのと、生還出来るというのは、大きな隔たりがある。撃破された宇宙艇から脱出したパイロットの、生還確率の低さは、誰もが知っている事だった。2%に満たないのだ。爆散する宇宙艇の破片を、生身の体に浴びせ掛けられる事になるのだ。脱出反応があったからって、生還など、期待する方がどうかしている。
だが、どんな小さな可能性でも、今の「キグナス」クルー達は、すがらずにはいられなかった。期待すべきではない事に、期待せずにいる事が出来ない。苦しい心境だった。
ユーシンの思考が漂白されていたのは、しかしほんの1秒程度だったようだ。彼は直ぐにやるべきことを思い出した。ファランクスやアデレードが生きていようが、いまいが、とにかく今は、目の前の敵を片付ける事だ。
残る敵は、10隻に満たない敵戦闘艇だけだ。味方中型戦闘艦の方の救援を担当していた宇宙艇や戦闘艇も、その任務を果たし終えて、続々と「キグナス」に向かって来ていた。数の上でも圧倒的優位に立った「キグナス」勢は、敵戦闘艇を1隻また1隻と、着実に撃破して行った。
「アマテラス」も火を噴いた。逃げる事も許さなかった。ファランクス達の仇かも知れないのだ。最後の敵戦闘艇が、プロトンレーザーに蒸発させられて、この宙域での戦いは終了した。
「アデレード、収容確認!」
喜びを爆発させた、サヒーブの叫びが航宙指揮室に轟き渡った。「『ヤマヤ国』の戦闘艇が、宇宙を漂っていたアデレードを、戦闘艇内に引き入れたそうだ。生存確認。健康状態にも、問題無し。」
「あああっ!」
ノノは思わず叫び、口元を抑えながら、大粒の涙を溢れさせた。だが、もう一人の名は告げられない。宇宙艇や戦闘艇の「キグナス」への収容が開始された。全ての収容が終わった頃、通信装置からアデレードの声が響いた。
「ファランクスが・・、ファランクスが見つからない。呼びかけにも、答えない。」
悲痛な声だった。通信端末なら、腕に装着しているはずだ。生きているなら、通信での呼びかけに答える可能性もある。意識が無いか、端末が壊れたか、という事も、考えられるが。
戦闘終了後、いや、戦闘中から、宇宙艇や戦闘艇はファランクスを探し続けていた。だが、誰も彼を見つけられ無かった。
「アデレード。悪いが、いつまでも待っている訳にも、探し続ける訳にも行かねぇぞ。第2防衛隊も、窮地に陥っているらしいんだ。俺達が駆けつけるのが遅れれば、また更に、味方の命が失われる。」
ほんの短い通信の後、アデレードの力のこもった声が、通信装置から聞こえた。
「分かってる。行こう、第2防衛隊の救援に。ファランクスが死んだのなら、あいつの死を無駄にしない為に、絶対にこの闘いに勝たなければいけないし、生きているなら、もうしばらく辛抱してもらって、後で必ず助けに来るさ。無事なら、百時間分くらいの空気はあるんだ、宇宙服に。」
バルベリーゴは、小さな深呼吸を一つした後、声高に叫んだ。
「ガキ共、出発だぁ!第2防衛隊の救援に向かおうぜぇ!」
「キグナス」クルーは、それぞれが、今やらなければならない事に邁進した。ユーシンは、「アマテラス」の射撃管制システムの調整を始めた。メンテナンス要員も、これだけ激しい戦闘の後だから、やるべきことはいくらでもある。宇宙艇団も、それぞれの宇宙艇のメンテナンスだ。
目の前の事に精を出していないと、発狂してしまいそうだった。ファランクスの未帰還は、そしてその生存の可能性が極めて低いという状況は、クルー達の精神をギリギリの所に追い込んでいた。
後方の防衛拠点基地で、補給と簡単なメンテナンスを済ませた「キグナス」は、再びタキオントンネルとスペースコームジャンプを組み合わせて、第2防衛隊担当宙域を目指す。次々にもたらされる、味方戦力の窮状を耳にしながらの作業は、クルー達には耐えがたい時間だった。
「防衛拠点基地の一つが、敵戦闘艦の砲撃に曝され始めた。民間の志願兵に、死傷者多数!」
気持ちは焦る。早く味方のもとに駆け付けたい。しかし、補給もしないで向かっても戦力にはなれない。
移動にも数時間を要する。スペースコームジャンプにも5時間を要するし、オールトの海の1光年近くある距離を走破するにも、同じ位の時間が掛かる。内側の縁の岩塊群をあらかじめ間引いて、最前線である外縁部との距離を縮めたりもしているが、到着までに半日程かかってしまう。
「味方大型戦闘艦、戦闘不能となり戦域離脱。敵艦の砲撃は、防衛拠点基地に集中され始めた。」
報告は容赦なくもたらされる。もっと急ぎたい。だが、すでに最速の移動だ。これ以上どうする事も出来ない。
移動の間に、少しは休むように言われたユーシンは、自室に引き取ったのだが、寝られるはずがない。メディカルマシンを作動させたノノに、半ば強制的に眠らされたのだった。他のクルー達も、交代で休憩を摂り、機械の力を借りた強制的な眠りで英気を養った。
「ダメだ。もう持たない。拠点基地の壊滅は避け難い。民間の志願兵多数を含む千数百の基地要員、生存は絶望的!」
「キグナス」クルーは、どの顔にも悲壮感が漂って来た。復興協力や合同訓練等で知り合った、「イヌチヨーナ」市民や志願兵達の顔を、皆が脳裏に浮かべていた。彼らが知り合った者達が死んだのかどうかは分からないが、多くの市民が、志願兵が、無残に命を奪われたのだ。
(間に合わなかった。助けられなかった。)
そんな呟きを内心で漏らしたのは、ユーシンだけでは無かっただろう。
「別の防衛拠点基地も、敵艦砲の射程に捕えられようとしている!味方戦闘艦に、動けるものは無い!このままでは、抵抗も出来ないまま、滅多打ちにされてしまうぞ!」
喉を枯らす勢いで報告するサヒーブの顔にも、苦渋が色濃く表れている。
「キグナス」は、ようやくターミナルに到着した。高速を維持したまま飛び出し、強引に軌道を捻じ曲げて、窮地にある防衛拠点基地を目指す。これまでに経験の無い程の強烈な遠心力が、「キグナス」クルーを襲った。何人かがブラックアウトによって失神し、医務室に運ばれた程だ。
先ほどの怪我人と今回の失神者で、医務室はベッドが足りなくなった、と連絡がある。仕方なしに、比較的軽症な者は床に寝かせているらしい。
ユーシンも、意識は保てたが、割れんばかりの頭痛に見舞われる。直進運動に入っても、頭痛は収まらない。平時ならば、泣き叫びたくなる程の痛みだ。
だが、彼の意識は、「アマテラス」の射撃に集中していた。敵艦をレーダーで捕え次第、射程圏外だろうが何だろうが、撃つつもりだった。敵艦の砲撃を、僅かにでも遅らせれば、僅かにでもずらす事が出来れば、1人でも多くの市民を、志願兵を救えるかもしれない。
レーダー用モニターに、敵艦を示す光点が表示された。同時に、望遠カメラ用のモニターにも、敵艦の姿が映し出される。その艦砲が火を噴いた。別のモニターに映し出されていた岩塊から、閃光が放たれる。その岩塊の背後に、防衛拠点基地とされている、中空浮遊建造物があるのだ。今の砲撃でも、何人かの志願兵の命は消えただろう。
年端もいかぬ少女の顔がよぎる。腰の曲がった、しわくちゃの老人の顔がよぎる。そんな老若男女の志願兵達が、次々と殺害されている。
「もう殺すなぁ!」
叫ぶなり、ユーシンはコンソールで指を踊らせる。「『アマテラス』発射ぁ!」
敵は未だに、「アマテラス」の出力の大きさを飲み込めていないらしい。磁場シールドを展開しない。射程圏外でも、十分に威力はあった。プロトンビームに加熱された艦砲の砲身が、グニャリと曲がった。
次の瞬間、敵戦闘艦の砲塔が、根元から、装甲と垂直な角度に吹き飛んだ。砲身が曲がった状態のまま、徹甲弾を発射しようとしたらしい。いや、発射体勢に入った直後に、「アマテラス」の砲撃で砲身を曲げられてしまったのか。結果、砲塔内部で炸薬に引火、爆発し、砲塔を吹き飛ばすに至ったのだ。
そこへ「キグナス」から放たれた対艦ミサイル10発が殺到する。砲塔爆発の衝撃からか、敵艦は迎撃できずにいる。全弾命中し、敵艦は四分五裂となった。「もう殺すな」の言葉は、百八十度向きを変えて、発言したユーシン自身の心に突き刺さる事になった。
「第3防衛隊担当宙域でも、防衛拠点基地が砲撃を受けている!」
サヒーブが叫ぶ。声も掠れ気味だ。
「そっちもかよぉ!また第3防衛隊かよぉ!」
と、バルベリーゴ。
「味方の大型戦闘艦の状態は?」
ユーシンは尋ねた。救援に駆けつけた際には、半壊状態のまま置き去りにして来たのだ。
(少しは修繕されたのだろうか?)
「航行能力は半減。砲塔は半分が使用不能。それでも防衛拠点基地の盾となって、懸命に闘っているらしい。」
「キグナス」は救援に向かうべく、オールトの海を内側へと引き返す。が、移動中にも次々に凶報がもたらされる。
「第3防衛隊配備の大型戦闘艦、大破っ!『ユラギ国』艦隊総司令官、ウバム少将を含め、艦長以下、乗員5百余人、全滅!」
「防衛拠点基地も艦砲射撃の猛攻に曝され、志願兵が大半の基地要員千数百人が、絶望的!」
「近くにある他の拠点基地も、時間の問題だ。もう、守るべき戦闘艦が無くなった。丸腰同然だ!」
ここに至って、タケマヤル総司令官から通信が入った。
「第3防衛隊の担当防衛面を、放棄しようと思う。これ以上の抵抗は無理だ。総員に退却を命じたい。」
タケマヤルの言葉に、バルベリーゴは応じた。
「オールトの海が、抜かれる事になるなぁ。星系内に敵が雪崩れ込んで来る。」
星系内には、オールトの海のような、盾になるような天体は散在していない。何も無い虚空がほとんどだ。無人攻撃機を配してはいるが、ワープで飛び込んで来る敵を想定したもので、通常航行で侵攻して来る敵を防ぎ得る代物では無い。
オールトの海を抜かれるという事は、住民居住エリアが敵の脅威に、直接的に曝される事を意味する。「イヌチヨーナ星系」攻防戦も、防衛側敗北の色が、相当に濃くなる事態と言って良い。それでも、このままオールトの海に戦力を張り付けておくのは、自殺行為に等しい。
「総司令はあんただぁ、タケマヤル殿。そう判断したなら、迷う事はねぇ。」
バルベリーゴの言葉に、モニターの中のタケマヤルは頷いた。沈痛を絵に描いたような面持ちだった。
今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回は '17/10/20 です。
「キグナス」が急に大ピンチとなり、ついに犠牲者まで出てしまいました。ここまでは割と、余裕で楽勝の戦いばかりだったので、ここへきてのピンチが唐突に感じるかもしれませんが、この落差を演出したいと思っていました。これまでは大丈夫だったから、とか、最強の武装の最新鋭の船だから、とか言ってても、戦争とはいざ始まれば、いつ何時どんな窮地に追いつめられるかわからない、という印象を持って頂ければ、作者としては大満足なのですが、いかがでしょうか?というわけで、
次回 第75話 敗退迫る時に です。
とうとう、オールトの海の防衛面は崩壊に至り、星系内への撤退を余儀なくされました。民間からの志願兵からも大量の犠牲者を出し、「キグナス」もファランクスを失い、「イヌチヨーナ」はもう風前の灯火、という感じでしょうか。深刻な状態を胸に刻みつつ、かたずをのんで次回をお待ち頂きたいと思います。




