第73話 総力戦第2ラウンド
今回は、敵軍の陣形も戦術も、全く違っていた。
小型戦闘艦を前衛に密集隊形を取った「コーリク国」軍は、猛然とした突撃を敢行して来たのだ。
防衛側は、散開弾と対艦ミサイルの波状攻撃を実施し、敵前衛小型戦闘艦の撃破を図ったが、散開弾のばら撒いた金属片は進路開削弾に蹴散らされ、対艦ミサイルは艦載レーザー銃に葬られた。前衛の小型戦闘艦からのものだけでなく、後衛の大型・中型戦闘艦からもミサイルやレーザー光線が撃ち込まれた。
防衛側の体勢が充分であれば、それでも少しは敵に損傷を与えられただろう。だが、一回目の総攻撃によって開けられた穴は、敵軍の突撃を容易に許してしまい、オールトの海の奥深くにまで、一気に侵入されてしまった。
前回の総攻撃で入り込んだ深さにまでは、敵軍は、勢いを一切削がれる事も無く、たどり着くことが出来た。そこからは、防衛側の抗戦力も強くなる。未だ破壊されていない岩塊を盾に、機を見て敵前に身を躍らせた無人攻撃機や戦闘艇が、敵に攻撃を加える。
防衛側戦闘艦も、今度は始めから獅子奮迅の活躍を見せる。オールトの海の外側から内側へという敵の動線と直交する方向に、円弧を描きながら艦を走らせての砲撃を、敵艦に食らわせた。防衛側の戦闘艦から見れば、敵艦は同じ方向に居続ける事になるが、敵艦からは、防衛側戦闘艦は横方向に動き続ける事になる。よって、防衛側は敵に狙いを定めやすく、敵は防衛側に狙いを定めにくい状況となる。
その上、敵から見て、横に広く開いた防衛側戦闘艦は、全艦が敵を狙える位置にいるが、密集隊形で縦に重なって並んでいる敵は、前衛の戦闘艦しか防衛側を砲撃出来ない。一度に砲撃に参加できる砲塔の数は、防衛側の方が多くなる。T字戦法というやつだ。
更に防衛側戦闘艦は、岩塊から岩塊へと飛び石的に移動して、岩塊を盾に出来る時間を効率よく作り出しながら、敵の砲撃を上手く避け、艦砲性能の劣勢を補った。
しばらくは、敵側に損害の多い状態で戦況は推移した。だが、敵は、防衛側の戦闘艦や戦闘艇を狙うよりも、ひたすらに岩塊の破壊に心血を注ぎ出した。少々の損害など気にも留めない様子で、グイグイと前進しながら岩塊の破壊に努める。次第に、防衛側の戦闘艦や戦闘艇が、その陰に逃げ込もうとした岩塊が、先取りする形で敵に撃破される事が相次いだ。突如隠れる場所が無くなった防衛側戦力が、砲撃による痛打を被るといったケースも出て来た。
徐々に損害は、敵側より防衛側に多くなって来た。敵が、損害にも構わずにごり押しして来ると、どうしても性能面の劣勢が表面化する。防衛側の攻撃は敵に通用せず、敵側の攻撃は、防衛側戦力をガリガリと削り取った。
気が付けば、防衛側の戦死者は一万人を突破していた。
(何て事だ!人の命が、こんなに軽くてたまるか!)
多くの犠牲を覚悟して戦争に臨んでいたユーシンも、余りにもあっけなく蹴散らされ、刈り取られて行く味方の命に、内心での絶叫を禁じ得なかったのだ。
(皆、必死で生きようとしたんだぞ。必死で守ろうとしたんだぞ。「イヌチヨーナ」を、そこで生きる日々を、そこに息づく仲間の命を。そんな、必死の命が、こうもあっけなく・・)
「第3防衛隊の中型戦闘艦、5回目の被弾!・・弾薬庫に誘爆して大破!・・船体は崩壊!・・・・・艦長以下、全乗組員百余名、戦死!」
現在の「キグナス」通信索敵担当であるサヒーブが絶叫した。
「うわぁっ!更に、第3防衛隊の小型戦闘艦も被弾!・・航行不能!・・大型戦闘艦も既に3回の被弾を数え、スラスター出力半減!・・ダメだ!追い詰められつつある!撃破されるのも時間の問題だ!」
「やばいぞ!戦闘艦を全滅させられれば、第3防衛隊の担当する防衛面は、完全に崩壊だぁっ!オールトの海を抜かれるぞぉ!」
バルベリーゴも焦燥の色を露わに叫んだ。
「『キグナス』!頼む!出てくれ!」
タケマヤル総司令官からの緊急要請が入る。再びの敵補給部隊の撃破を企図して、後方に温存されていた「キグナス」だったが、最早、それどころではなくなった。
「『キグナス』、ダッシュだぁ!」
バルベリーゴ下令。
オールトの海の中に張り巡らされたタキオントンネルを伝って、「キグナス」は第3防衛隊担当宙域に急ぐ。タキオントンネルから飛び出した勢いをそのままに、猛烈なスピードで敵戦闘艦に肉薄する。その「コーリク国」軍大型戦闘艦は、手負いの防衛側大型戦闘艦を追い詰め、今まさに、とどめの一撃たるプロトンレーザーの射撃を繰り出そうとしていた。
「キグナス」は、スラスター全開での減速行程に入っている。そうしないと、味方大型艦の付近で止まれない。そこで止まらないと、手負いの味方大型戦闘艦、それも第3防衛隊の要であり、最後の砦ともなる戦力を、守る事は出来ない。
猛烈な加速重力が、「キグナス」クルーを襲っている。その状態で、敵艦に肉薄して行く。船尾を前にして、メインスラスターでブレーキを掛けながら飛翔している「キグナス」にとって、敵艦は斜め後方に位置している。「アマテラス」の砲身の、旋回範囲の限界ぎりぎりで、何とか砲撃可能だ。射撃準備を急ぐユーシン。
だが、敵艦の艦砲が先に火を噴く。プロトンレーザーの眩い光条が虚空を切り裂く。狙われたのは味方大型戦闘艦。前面に展開した磁場シールドが、懸命に敵の破壊光線の中和を図るが、中和し切れ無かった膨大なエネルギーが、大型戦闘艦の装甲に突き立てられる。
鮮烈な閃光が、大型戦闘艦の中腹から後部に掛けて、爛々と発せられる。装甲がめくれ上がり、内部構造が剥き出しになる。様々なものが、宇宙に放り出される。多数の兵士もその中に含まれるだろう。航宙指揮室のモニターに映し出された、望遠カメラからの阿鼻叫喚の映像を、ユーシンは目の端に見た。苦し気に蠢く、人影の数々。まだ生きているが、もう助からないであろう、数多の人命。憤怒の激情、煮えたぎる。怒りの眼光が、敵を射る。
「まだだ!まだ持ち堪えている。後一撃を入れさせなければ、救える。やれぇ!ユーシン!」
バルベリーゴは絶叫。
「やってやる!」
ユーシンも絶叫。「『アマテラス』発射!」
今回は、敵は磁場シールドを展開した。射程圏外からの砲撃だったから、「アマテラス」といえど、敵艦を葬るには至らなかった。だが、それは端から計算尽くだ。「キグナス」は対艦ミサイルも放っていた。10発だ。
磁場シールドに中和されたとはいえ、「アマテラス」の放ったプロトンレーザーが巻き起こした電磁波の乱流は、敵艦をしばし沈黙させた。索敵も迎撃システムも、うんともすんとも言わない。いや、言えない。10発の対艦ミサイルが殺到する。何の妨害も受けずに、敵艦にたどり着いた。弾頭は、半分が徹甲弾だ。敵の直前でのロケット噴射により、抜群の貫通力を発揮して敵艦装甲に突き刺さって行く。内部に深くめり込んだところで、炸薬が爆発した。5か所の着弾位置を中心にして、装甲に亀裂が、縦に横にと走った。
残りの半分は宇宙焼夷弾だ。真空の宇宙でも、高熱を発して燃焼する弾種だ。装甲が健在であっても、その熱が内部に浸透して、内部構造を破壊したり弾薬や噴射剤を誘爆させたりするものだが、装甲に亀裂が走った状態で食らえば、その脅威はすさまじいものとなる。
「コーリク国」軍大型戦闘艦は、至る所から火柱を吹き出し、艦体は四分五裂に至らしめられた。こちらも、艦体内部からは様々なものが吹き出して来ており、その中には、人間と思われる蠢く影も、多数見出されたのだった。
さっき敵に向けた憤怒の情は、今度は罪悪感となってユーシンの内側へと逆流する。敵兵だって、何かを守ろうとして、生きる糧を得ようとして、闘いに身を投じていたのだろう。懸命に生きようとする命を、彼は奪ったのだった。戦争だから仕方が無い。味方を守る為だから仕方が無い。それで割り切れる程、ユーシンは器用にも無神経にもなれなかった。
痛む胸は痛むままに、それでも闘いを続けるしかない。
「キグナス」は全力での減速を続けている。「キグナス」に救われた防衛隊の大型艦は、「キグナス」の進行方向に、出来る限りの加速を実施した。2艦の努力の甲斐あって、数分後には両者の相対速度はゼロに近づいた。肉眼では見えない程に遠のいた「ユラギ国」の大型戦闘艦だが、「キグナス」に護衛が可能な位置関係は、保つ事が出来ていた。
「敵中型戦闘艦1、小型戦闘艦2、急速接近!砲撃体勢に入っているぞ!」
「喰らえ!『アマテラス』!」
ユーシンは裂帛の雄叫び。「アマテラス」が唸る。
敵中型戦闘艦にとっては、未だ射程圏外の距離だったようだが、「アマテラス」には射程圏内だった。敵は、今回は磁場シールドを展開していたが、それで中和し切れ無かったプロトンレーザーの衝突エネルギーによって、発射体勢だった敵艦の砲身が、グニャリと変形させられた。
航行機能にも損傷を来したようだ。おかしな方向に軌道が遷移して行く。退避行動に出たにしても不自然な方向だから、おそらく敵が意図しない方向に、艦が勝手に動いてしまっているのだろう。
その勝手に動いてしまっている方向に、敵は更にスラスターを噴射させて、より一層軌道を捻じ曲げ始めた。ここからは、退避行動に出たと見ていいだろう。砲塔を破壊され、操艦機能に支障を来されては、もはや戦えないと判断して、逃げる事にしたようだ。
逃げる敵に構っている暇は無かった。
「敵小型戦闘艦、肉薄!ミサイル飛来!」
サヒーブ叫ぶ。鬼気迫る声色だ。砲塔を持たない小型戦闘艦といえど、至近距離から対艦ミサイルを撃ち込まれれば、「キグナス」とて危うい。
「『アマテラス』は間に合わねぇ!ミサイル戦だぁ!宇宙艇も出せぇ!」
バルベリーゴ絶叫。ジャカールはコンソールを叩く。「アマテラス」には数秒の射撃間隔が必要だし、砲身を旋回させる時間も要る。中型戦闘艦を撃ってすぐには、小型戦闘艦は撃てないのだ。
ミサイルが、宇宙艇が、戦闘艇が、次々に「キグナス」から離れて行く。敵艦目がけ一直線。
敵は散開弾と対艦ミサイルの連続攻撃らしい。こちらも同じ連続攻撃で受けた。彼我の散開弾の撒き散らした金属片が、彼我の中間ですれ違う。幾つかは衝突し、そのエネルギーがもたらした幾つもの閃光が、虚空に、パパパ、と輝く。
「キグナス」の散開弾が敵の対艦ミサイルを、敵の散開弾が「キグナス」の対艦ミサイルを、ほぼ同時に撃破した。宇宙は百花繚乱を呈する。敵戦闘艇は、金属片群を回避し、大きく回り込んで「キグナス」を目指したが、ファランクスの宇宙艇は、迷いもせずに金属片群に突進した。
彼我の金属片群の衝突と、対艦ミサイルの迎撃で、敵散開弾の撒き散らした金属片群には、僅かではあるが隙間が生じていた。濃密な金属片の大群の中に、ほんの微かな隙間が出来ているにすぎないのだが、高加速度を維持したままファランクスは、見事それをすり抜けて見せた。彼我の戦闘艇の、どれ一つとして試そうともしなかった、散開弾攻撃突破を成し遂げたのだ。
「うわぁあ!」
モニター越しにユーシンも感嘆の声を漏らした。「神業じゃねぇか!」
敵戦闘艦は、懸命のレーザー射撃でファランクスの宇宙艇を追い払おうとしたが、何本も張り巡らされるレーザー光条の隙間を縫うように、ファランクスの駆る宇宙艇は敵艦に肉薄する。
「アデレード、頼むぞ!一発で仕留めないと、『キグナス』がやばい事になるぜ!」
「任せろ!」
敵艦の横をすり抜け様、ミサイルが適中腹に向けて放たれる。射出されてすぐに、ロケットエンジン全開で加速し、一直線に敵艦のどてっ腹に突き刺さって行った。弾種は徹甲弾だ。驚異的な貫通力で、敵艦の装甲に深々と突き刺さる。炸薬が爆発する。弾薬庫のすぐ横だった。偶然では無い。ファランクスもアデレードも、意識的にそこを狙ったのだ。敵艦レーザー銃の群れに身を曝す危険を冒してまで、弾薬庫の破壊を期したのだ。
宇宙艇1隻による1回の攻撃で、敵艦を戦闘不能に追い込むとしたら、これしか無かった。これしか無いという事を、彼等はやってのけた。自らが抱えた弾薬の爆発で、敵艦は軌道を大きく捻じ曲げられ、強制的に戦域離脱を余儀なくされた。
もう一隻の小型戦闘艇にも、「キグナス」から発進した「ヤマヤ国」の戦闘艇が殺到していた。彼らの対処に負われて、敵艦は「キグナス」へのミサイル攻撃が出来ないでいる。が、それはキグナスとて同じだった。散開弾の金属片群を大きく迂回して来た敵戦闘艇が、「キグナス」に殺到しようとしている。宇宙艇と戦闘艇は出払っている。「キグナス」だけで対処するしかない。
散開弾を再び放つ。が、距離が近すぎ、展開が不十分だ。数隻は撃破したが、残りは肉薄して来る。「キグナス」のレーザー銃も唸りを上げた。ユーシンが「キグナス」に乗り組んで以来、艦載レーザー銃を使わなければいけない程追い詰められたのは、これが初めてだ。レーダー連動の自動射撃だが、人の手による補正が必要なのは、宇宙艇などと同じだ。
ジャカールの隣でレーザー銃を操作するのは、キムルだった。
「それ以上は近寄らせないわ!」
そう叫んでキムルは、気迫満点で入力を終える。敵戦闘艇をねらえる位置にある3丁のレーザー銃が一斉に、最接近して来た1隻に向けられる、1丁は最大加速で直進して来た場合の予想軌道上に、1丁は右に急旋回した場合の予想軌道上に、残りの1丁は左に急旋回した場合の予想軌道上に、レーザーを照射した。上下にまで対処する余裕はなかった。が、それまでの敵の動きから、左右のどちらかに転進する可能性が高い、とキムルは読んだのだ。
それぞれが、5回連続照射モードだ。最初の1回が計算した通りのポイントに、残りはそこから、少しずつずれたポイントに照射する事で、命中確立を上げている。
レーダー捕捉精度、計算速度、射撃精度、射撃速度、それらのどれをとっても、機構軍と同じ装備を持つ「キグナス」のレーザー銃迎撃システムは、銀河最高クラスだ。敵艦がファランクスの駆る宇宙艇を打ち漏らしたような事には、ならなかった。一瞬の出来事で、モニターの映像を見ていても、どのレーザー銃の何回目の照射が命中したのかなどは、全く分からないのだが、とにかく敵戦闘艇が爆散した事だけは確認できた。
敵艦も、「キグナス」も、肉薄して来た戦闘艇への対処に忙殺されていたが、「アマテラス」は遂に、敵小型戦闘艦への射撃体勢を整えた。が、敵艦の周りには味方の戦闘艇がうようよといる。ユーシンは「アマテラス」の出力を搾って発射した。
戦闘艇への対処で、磁場シールドを展開できずにいる敵に、プロトンレーザーは激突した。直撃を受けた敵艦は、皮を剥くのを途中で止めたバナナのような、艦の前半分の装甲を波打たせた。何とも憐れで、不格好な姿にさせられた。生き残ったスラスターを駆使して、どうにか戦域からの離脱を図ろうと、懸命の奮闘を開始した。
ユーシンは逃げ出す敵には構わず、「アマテラス」を敵戦闘艇に振り向ける。普通はやらない、いや、誰にもできない、プロトンレーザー砲による戦闘艇射撃を、ユーシンは実施した。レーザー銃による迎撃システムの為に、近寄る事も出来ず、一旦距離を置いて体勢の立て直しを図った敵戦闘艇は、レーザー銃の射程圏からは十分に離れているはずの宙域で、突如爆散させられた。
予想外のプロトンレーザー砲による攻撃で、余程慌てたのか、残った敵戦闘艇は一目散に逃げ始めた。だが、逃げ道には、ファランクスの宇宙艇が多数の仲間を引き連れて、待ち構えていた。
「もう引き返して来ていたのか!」
ついさっき、敵艦を葬ったばかりの彼等の、早すぎる転戦に、ユーシンは舌を巻いた。
「船長!第1防衛隊の方でも、味方の大型戦闘艦が窮地に陥っておるそうだ。救援に向かえないかと、タケマヤル総司令官が尋ねて来ておるぞ。」
通信探索席からラオが、報告を入れて来た。
「あっちもこっちもかぁ、難儀な事になって来たなぁ。こっちの大型戦闘艦も、このまま放って行くのは、危うい状態なんだがなぁ。仕方ねぇ、行くか。おいファランクス!さっさとそっちを切り上げて、戻って来い。」
後半は通信装置に向かって叫んだバルベリーゴ。彼の言う通り、危機からは救い出した大型戦闘艦だが、損傷著しく、航行能力をかろうじて維持している状態だ。戦闘可能とは、とても言い難い状態だ。それを戦場に残して、去って行かなければならないのだ。
「ちぇっ、あと少しで全滅させられたんだがなぁ。仕方ない。戻るよ。」
ファランクスが答えて来た。言葉ほど残念な響きは、その声からユーシンは、感じられなかった。むしろ活き活きしていると感じた。闘うたびに、自分の腕がめきめき上達している事を実感しているのだろう。ユーシンはファランクスの心情を、そんな風に想像した。
オールトの海の中に隠匿され、張り巡らされたタキオントンネルを通って、「キグナス」は一旦星系内に戻り、スペースコームジャンプで星系を横切り、そこからまたタキオントンネルでオールトの海の中を移動し、第1防衛隊担当宙域へと向かった。周囲に天体が多数漂うオールトの海内でのワープは、余りに危険が大きいので、こうするしかないのだ。
第1防衛隊は、味方中型戦闘艦が敵戦闘艇多数に包囲され、猛攻を受けている一方で、大型戦闘艦も敵中型戦闘艦と対峙して、砲撃戦を展開している。大型艦と中型艦ならば、大型艦に分がありそうなものだが、彼我の性能格差は大きかったようだ。
味方の大型戦闘艦は、2対4門あった砲塔の1対を、既に吹き飛ばされており、敵中型戦闘艦と、砲門の数では同じになっている。が、その出力は敵が上だ。
このまま打ち合えば、明らかに見方側がやられるだろう。
「2艦も同時に救援しなきゃぁいけねぇのか、厄介だなぁ。」
戦闘艇多数に包囲されている中型戦闘艦には、護衛の味方戦闘艇は数える程しか付いていない。4・5隻の味方で40隻以上の敵を迎え撃っている状況だ。戦闘艦と連携したところで、防ぎ切れるものでは無い。こちらも緊急に支援が必要だ。
「いくらキグナスでも、2か所同時に救援は無理よね。どうするの?船長。」
「コロンボ!」
アニーの問いかけに対し、バルベリーゴは宇宙艇団団長の名を叫んだ。「中型艦の救援は、そっちに任せていいか?あれに群がってる敵戦闘艇群を、どうにかしてくれ。」
「了解!『キグナス』の宇宙艇団と『ヤマヤ国』の戦闘艇団で、何とかしてみるぜ。」
「よぉし!『キグナス』は、敵大型戦闘艦目がけて突進だぁ!」
「了解じゃ!」
コロンボもドーリーも、張り切ってバルベリーゴに返答した。
「キグナス」からは散開ミサイル発射に続いて、宇宙艇と戦闘艇が発進して行った。散開弾はドーナツ状に金属片を撒き散らした。真ん中の空洞部分に、味方の中型戦闘艦が入るように図ったのだ。敵戦闘艇は、金属片を躱したければ、味方戦闘艦から大きく離れるか、ギリギリまで肉薄するしかない。肉薄すれば、戦闘艦からのレーザー攻撃の餌食だろう。
当然敵は、大きく離れる方を選んだが、それすらも間に合わなかった戦闘艇は、散開弾攻撃の餌食になった。その後に繰り広げられた、味方の中型戦闘艦と「キグナス」から駆けつけた宇宙艇や戦闘艇との連携攻撃は、敵戦闘艇をして味方戦闘艦に寄せ付ける事無く、着実に敵の損害を増やしてい行った。
「キグナス」の味方大型戦闘艦救援も、上首尾に進んだ。「キグナス」接近を察知するや否や、敵艦は退避行動に出たからだ。
「案外あっさり、2艦の救援は成功しそうだなぁ。」
バルベリーゴが安心したようにそんな言葉を漏らした時、ラオが報告を入れた。
「船長、タケマヤル総司令官から要請である。第2防衛も、大至急、救援が必要との事であるぞ。」
「何だと!まだこっちが片付いてねぇんだぞ。敵艦は追い払ったとは言え、このまま俺達がここを離れちまったら、またあいつが戻って来て、味方艦を攻めるじゃねぇかぁ。そうなりゃぁ、元の木阿弥だ。何をしにここへ来たのか、分からねぇぞ。」
「あの敵中型戦闘艦は、潰してから、ここを去らなきゃ。」
「だなぁ、ユーシン。ドーリー、全速で追え!あの中型艦。ユーシン!『アマテラス』で仕留めろ!」
「あいよ。」
「おう。」
操船要員師弟の、相次ぐ返事。
敵中型戦闘艦との距離を、ぐんぐんと縮める「キグナス」。あと少しで、有効射程に敵艦を捕えると思ったその時。
「前方に、敵戦闘艇多数出没。暫時型タキオントンネルを使って、オールトの海外縁部から送り込まれて来たみたいだ。その数、およそ50隻!」
サヒーブの叫ぶような報告に、バルベリーゴは血相を変えて叫び返した。
「くそぉっ!ハメられたか!深追いし過ぎた。あいつは、俺達を引き付ける罠だった。」
これまで言見たこともない、バルベリーゴの緊迫の表情に、キグナスクルーは、胃の腑の冷えて行くのを感じていた。
今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日 '17/10/14 です。
第2ラウンドに入り、一転して守勢・劣勢に、防衛側は追い込まれました。そんなに急変するものか?という感想もあるかもしれませんが、第1ラウンドができ過ぎだった、とご理解頂きたいと思います。準備も意欲も最高潮だからこその結果が、第1ラウンドで示されたわけですが、やはり数も性能も、攻める側が上回っていた事が、第2ラウンドで表面化したわけです。「キグナス」の戦いも、これまでの全ての戦いと、ここからの戦いは様相がガラリと変わります。ここでの落差を演出する事を意識して、これまでの戦闘シーンは描かれて来た、と言っても過言ではないので、ここからの戦いには注目して頂きたいです。というわけで、
次回 第74話 白鳥の失血 です。
白鳥が、血を失うとは、何でしょうか?物語が始まって以来、最大の悲劇が訪れます。覚悟して、次話を待って頂きたいです。いよいよ物語も、佳境に近づいています。ここまで読んで下さった方々には、ここからは、何としてもお見逃しの無いように、伏してお願い申し上げたい気持ちです。よろしくお願いします。




