第71話 総力戦第1ラウンド
4方向から一斉に、「コーリク国」軍は攻撃を仕掛けて来たのではあるが、やはり多少のタイムラグは生じるもので、第3防衛隊が一番最初に、敵の砲火に曝される事になった。まずは、怒涛のごとき散開弾攻撃が彼らを見舞った。
「膨大な数の散開弾の飛来を、第3防衛隊が補足したそうよ!遂に戦闘の火蓋が切られたわ!」
いつもは冷静なアニーが、少し声を上ずらせて報告した。
「確か第3防衛隊は、『ユラギ国』軍を中心に編成されていたよなぁ。戦闘艦の2つか3つは、『ヤマヤ国』から借りてたみてぇだが。『イヌチヨーナ星系』防衛戦の最初の火蓋は、やはり『ユラギ国』軍の前で切られるのかぁ。運命的なもんだなぁ。」
と言うバルベリーゴの感想を差し置いて、アニーは報告を続けた。
「散開弾の展開によりばら撒かれた金属片は、直径十数万キロにも及んで、見渡す限りの背景の星空をかき消して、第3防衛隊に襲い掛かっているって事よ。」
散開弾攻撃に、有効射程距離というものは無い。真空で無重力の宇宙空間を突進する金属片群は、どこまで行っても破壊力を持ち続ける。偶然金属片と同じような運動状態を持っている者がいれば、つまり、散開弾と同じような方向に、同じ位の速度で飛翔している者がいれば、彼にとっては、散開弾は脅威にならない。ぶつかってもその衝撃は小さいものとなるから。しかし、そうでなければこの金属の礫は、どれだけの距離を、どれだけの時間を、飛び続けた後であっても、破壊力を維持し続ける。何百年、何千年後であろうとも、何光年先であろうとも、途中で何らかの障害物に阻まれでもしなければ、その軌道上に居るものには、この金属片群は脅威なのだ。
つまり、どんな遠くからでも攻撃可能という事だ。だから、「コーリク国」軍は、ビーム兵器などの有効射程の遥か彼方から、散開弾を撃ち込んで来たのだ。遥か彼方からだから、到着までにも時間はあり、動けるものにとっては、回避は容易だ。だが、天体上に設置された施設など、動けないものは破壊されるし、動けるものも、その軌道上からはいなくなることになる。
その結果、散開弾が撒き散らした金属片の通過した後というのは、「コーリク国」軍にとってみれば、阻む者のいなくなった通路という事になる。散開弾攻撃によって、目の前に立ちはだかる防衛部隊を、蹴散らすか叩き潰すかしておいて、そこを通り抜けようという戦術だ。
「金属片群の背後に、熱源反応を多数発見したそうよ。敵戦闘艇と見られるらしいわ。金属片が邪魔で、数も正確な位置も、特定は不能。」
「キグナス」の中で待機しながら、戦況報告を受けるしかないユーシン達は、今はひたすら、アニーの声に耳を傾けるだけだった。
「散開弾で掃除した後を、悠々と通り抜けようって魂胆かぁ。そう甘くは行かねぇぜぇ。」
バルベリーゴのそんな発言を聞いて、
(敵も、悠々と通り抜けられるとまでは、思ってないだろうけどな。)
と、冷静な感想を持ったユーシンだった。
第3防衛隊は、オールトの海にある天体の中でも、比較的大きくて頑丈なものの背後に隠れていた。散開弾のばらまいた金属片群くらいでは、破壊されない岩塊だ。だから、散開弾による“掃除”くらいでは、取り除かれる事は無かった。だが、多数の無人探査機は破壊され、散開弾が通過した直後の一瞬だけとは言え、敵の正確な位置を見失った状態となった。
おおよその位置は分かっている。岩塊の背後からでも、熱源探知は出来るのだ。だが、攻撃を実施するには不十分な精度の情報しか得られない。だから、金属片が通過した直後は、迎撃が不能となる。通過確認後、すぐさま別の探査機を展開させ、速やかに敵位置を補足しなければならない。この展開のタイミングの数秒の遅れが、場合によっては命取りにもなる。
この辺りの行動は、市民からの志願兵が何度も繰り返し訓練して来た事だった。離れた安全な位置からのオペレートで、市民兵自身の命には関わらないとはいえ、出来るだけ早く無人探査機を展開させて、前線の兵達に敵の正確な位置を教えないと、兵達の死を招くかもしれないのだ。訓練の成果が問われる場面だ。
一方「コーリク国」軍からすれば、敵の眼が潰れている内に、敵を見つけ出して攻撃を加えたい。「コーリク国」側も熱源探知から、おおよその防衛部隊の配置は分かっている。どの岩塊の背後に隠れているかは、承知なのだ。だが、攻撃が出来るほど正確な位置が分かっているわけでは無い。
岩塊の背後に回り込み、レーダー照射で正確な位置を掴んで、攻撃を加えるか。正確な位置が不明のまま誘導ミサイルを岩塊の背後に回り込ませ、命中する事を祈るか、という選択肢が考えられる。実際は、その2つを組み合わせたような戦術を採る事になるのだが。
「味方無人攻撃機が、攻撃開始!概ね先手を取った模様。」
アニーが叫ぶ。「市民兵達のオペレートは、予想以上に上出来のようね。素早く無人探査機を展開させただけじゃ無く、無人攻撃機も迅速に展開させて、敵の先手を打っての攻撃開始に成功したみたいよ。」
「自分達の故郷を守る戦いだぁ。真剣さが敵とは違うんだろうぜぇ。」
と、バルベリーゴ。
「第1防衛隊から報告。敵の散開弾飛来を確認。」
アニーが報告。
「そっちでも始まりおったか。」
ぼそりと言ったドーリー。
「第2、第4防衛隊からも、同様の報告が来たわ。」
もう、誰も何も言わなかった。沈黙が支配する「キグナス」航宙指揮室。アニーの声だけが、時々、響き渡る。
「現段階で第3防隊の損害皆無。敵側は、損傷を受けた戦闘艇多数。撃破も5隻確認。味方戦闘艇の追撃を受け、敵戦闘艇群は、退却を始めたみたい。」
「よしっ!」
短く、小さく、ユーシンは叫んだ。
(準備と意欲が、最高潮の時に攻めさせた効果が、しっかりと出たな。)
その後もアニーの報告が、静まり返る航宙指揮室に、数分おきに轟く状態が続いた。
第1、第2、第4、防衛部隊も、第一波の攻撃を退ける事には、成功したらしい。だが、3隻の戦闘艇が撃破される、という損害は受けた。この闘いで初めて、防衛側に戦死者が出た。
そのことをアニーが報告した直後には、誰かが生唾を飲み込む、ゴクリという音が1つ、ユーシンに聞こえた。沈黙の中で、クルーの誰もが、死の恐怖との対峙を強いられた瞬間だった。
「第3防衛隊に、第2派攻撃が襲来!」
アニーが告げる。
今度も攻撃の手順は同じだったが、敵が無人攻撃機の掃討に意識を振り向けて来たことと、攻撃目標の岩塊を幾つかに絞り込み、そこに戦闘艇を集中投入して来た事が、第一波目とは違っていた。第一波目は、防衛側が隠れている全ての岩塊にまんべんなく飛来した戦闘艇が、今回は、半数くらいには全く目を向けず、残りの半数だけに戦力を集中して来たのだ。
今回も、敵散開弾の通過後に無人探査機を素早く展開させるのと同時に、無人攻撃機も展開させたのだが、それらが、集中投入された敵戦闘艇に、すかさず狙い撃ちにされ、先手を打っての攻撃は成らなかった。多くの無人攻撃機が撃破され、防衛側の攻撃力が削がれた。
だが、味方戦闘艇による敵戦闘艇の撃破は相次いだ。10隻程を撃破し、残りも追い返す事が出来た。しかし、
「第3防衛隊の戦闘艇、2隻が撃破されたわ。4名の戦死も確認。」
ここから防衛側の損害は増えて行く。無人攻撃機はどんどん数を削られて行き、その分、有人の戦闘艇が前面に出る確率が増え、人的損失も多くなったのだ。
「コーリク国」は散開弾による掃討と戦闘艇による突撃という戦術パターンを、第5派まで繰り返した。撃破された防衛側戦闘艇も数十隻に上り、戦死者も三桁に迫る勢いになって来た。敵戦闘艇を追い返す力も衰退し、オールトの海のより奥深くにまでの侵入を許すようになる。
比較的奥の方に、無人の探査機や攻撃機のオペレーターの頑張る防衛拠点基地があるのだが、そこにまで侵攻勢力は、ひたひたと押し寄せて来るに及んだ。民間からの志願兵達ですらも、その命を脅かされる事態となって来たのだった。
第6派目には、散開弾と戦闘艇による防衛戦力の掃討に続き、敵は、新たな戦術を試みて来た。
「第3防衛隊の前面に、敵戦闘艦隊進出!大型戦闘艦1、中型戦闘艦2による攻撃が開始されたわ!」
戦闘艇攻撃より圧倒的に密度の高いミサイル攻撃と、艦砲より発射される巨大徹甲弾やプロトンレーザーの脅威に、防衛側は曝される事になった。
「コーリク国」軍の戦闘艦は、大型艦には3対6門の、中型艦には1対2門の艦砲が搭載されている。大型のものは、徹甲弾とプロトンレーザーの切り替えが出来るタイプであり、中型の方はプロトンレーザー専門のようだった。
艦砲の威力はすさまじかった。散開弾攻撃は凌ぐことが出来ていた、防衛側が背後に身を隠している岩塊も、艦砲の打撃力には抗すべくも無く、比較的小さいものなどは一撃で木っ端微塵に粉砕されることもあった。
それでもプロトンレーザーに関しては、強力な磁場を全面に展開する事で、ある程度の防御は出来た。距離や入射角がよほど良くない限り、数発程度の命中では、ほとんどの岩塊は、粉砕されるには至らなかった。
だが、大型戦闘艦の艦砲が打ち出す巨大徹甲弾は、阻む術とて無かった。狙われれば即アウトだった。比較的大き目の岩塊でも、簡単に貫通され、大穴の開いたところから亀裂が四方八方に走り、ゆっくりと分離してより小さな岩塊の集まりとなった。
そして、防衛側の盾になっている岩塊の中には、たいてい噴射剤や弾薬等が備蓄されており、それらに引火し誘爆が起こる事で、岩塊はさらに細かい破片へと姿を変えていく。一回の徹甲弾砲撃を食らっただけで、大き目の岩塊ですら、粉砕の憂き目を見るのだ。
岩塊という盾を、突如砕かれた防衛隊は、そこに殺到して襲い掛かる敵戦闘艇に、次々に血祭りにあげられる。敵戦闘艦の投入は、味方の損害を飛躍的に増大させたのだった。
「C1845天体、砲撃により、ふ、粉砕されたわ!死傷者、少なくとも百数十人に上る模様!」
アニーの報告には、悲壮感が出て来た。
盾などとして利用しているオールトの海の岩塊や氷塊などに、防衛側はアルファベットと数字を組み合わせて、名前を付けていた。“C”は大き目の岩塊に伏される記号で、その後の数字は通し番号だ。そして、大き目の岩塊には、百人以上の作業者が入り込み、戦闘艇や無人探査機等の補給やメンテナンスを行っていた。岩塊の背後にも数十隻の戦闘艇が身を隠しており、それの破壊は甚大な被害をもたらすものなのだった。
その後も、防衛側が盾にしている岩塊の撃破が相次いだ。一回の撃破で、百人単位の戦死者が出る。防衛側の損害は激増し、抗戦力は激減する。
防衛側も、それを、手をこまねいて見ているわけでは無い。彼らの戦闘艦も、オールトの海の奥から出撃して行き、敵艦への攻撃を始めた。だが、「ユラギ国」や「ヤマヤ国」の艦砲射撃の出力は、「コーリク国」軍のものに遠く及ばなかった。味方の艦が射出したプロトンレーザーは、敵艦が生成した磁場に中和され、艦体に損傷を与える事が出来ずにいた。
それでも、磁場に中和されたプロトンレーザーは、強烈な電磁波の嵐を周囲に吹き荒れさせ、「コーリク国」軍戦闘艦の索敵能力を奪う。その隙を突いて、ずいぶん削られたとはいえ、未だ残っていた無人攻撃機や戦闘艇が、敵艦への突撃を敢行する。
敵は小型戦闘艦が大型艦や中型艦の盾となるような隊形で、防衛側の無人攻撃機や戦闘艇の襲撃を防ぐ。小型戦闘艦には艦砲の備えは無い。艦砲を搭載する大型艦や中型艦を護衛したり、行く手を幅む戦闘艇を蹴散らしたりするのが役目だ。
小型戦闘艦の散開弾とレーザー射撃で、防衛側戦闘艇は、ある者は撃破され、ある者は追い払われ、敵大型艦・中型艦に損傷を与えられない。そしてまた、岩塊の一つが破壊され、百人単位の死傷者が出る。防衛側戦闘艦にも、砲撃は浴びせられた。徹甲弾は、威力はすさまじく防ぐ術も無いが、プロトンレーザーよりは遅いので、戦闘艦にとって避ける事は容易だ。よって、徹甲弾は動かない標的専用であり、岩塊の破壊を専らとした。
防衛側戦闘艦にはプロトンレーザーが襲い掛かった。防衛側のプロトンレーザーは敵戦闘艦の生成した磁場で中和されたが、敵のプロトンレーザーは防衛側戦闘艦の磁場では中和されなかった。やはり、出力に差があるのだ。
「第3防衛隊に配備の『ユラギ国』中型戦闘艦が被弾!半壊!死傷者多数!戦域離脱を余儀なくされたわ!」
アニーが叫ぶ。更に、
「市民からの志願兵が多く張り付いている拠点防衛基地に、プロトンレーザー攻撃が加えられたわ!」
と、絶叫。磁場シールドによって防御したので、大きな損害は免れたが、民間からの志願兵からも遂に、初めての戦死者が出るに至った。
いつの間にか、防衛側の戦死者は千人を突破していた。アニーの声も、微かに震えている気がする。が、続けて、
「敵大型戦闘艦、被弾!小破。」
と、味方の戦果を伝えた。
敵小型戦闘艦の猛攻を掻い潜った防衛側戦闘艇が、対艦ミサイルを敵大型戦闘艦に、見事命中させたと報告されたが、後に分かったところでは、体当りだったようだ。制御不能になった戦闘艇を、懸命の努力でどうにか敵戦闘艦へと誘導し、命を賭して損傷を与えたという事だ。その甲斐あって、敵勢は後退を始めた。
「ちょっと損傷を受けたからって、直ぐに後退さるのか。情けない奴だな。」
武装管制席でジャカールが、強がったような嘲りと共に言った。
「損傷だけじゃねぇさ。」
バルベリーゴが応じる。「弾薬も、だいぶ底を付いて来たんだろうぜぇ。それに、敵は戦闘艇の消耗も激しい。一旦、オールトの海の入り口付近にまで退いて、体勢を立て直さなくちゃ、戦闘を続けられねぇんだろうぜぇ。」
これまでの防衛側の努力と犠牲の全てが、敵をして一時退却に追い詰めたと言える。ユーシンは胸が熱くなる想いだ。
彼は見て来た。「イヌチヨーナ」の復興と、慣れない戦闘訓練に精を出す市民たちの姿を。そして感じていた、祖国を想う兵達の命の尊さを。
尽くされた努力と払われた犠牲の成果として、戦力的には防衛側を上回っている「コーリク国」軍を、一時的とはいえ、退却せしめる事に成功したのだ。無駄なものは何一つなかったと思えたのだ。そして、
「『コーリク国』軍兵站基地から、補給部隊の進発が検知されたわ!」
アニーの報告。
(ここだ!)
ユーシンは内心で叫んだ。と同時に、防衛側総司令官タケマヤルからの指示が来る。
「敵補給部隊の撃破が、下令されたぞ!船長!」
ラオがバルベリーゴを、体ごと振り返って、声を張り上げた。
「よぉし!遂に俺達の出番だ!ガキ共、喧嘩だ!殴り込みだ!」
「おおおおおっ!」
バルベリーゴの号令に、クルー達の雄叫びが応える。
遂に、命の危険に身を投じる瞬間を迎えたが、味方の死の報告を、じっと聞いているだけの時間の方が、辛かった。それが終わった。危険でも、恐ろしくても、もう、黙って犠牲者続出の報に耐えているだけでは無くなったことが、クルー達を喜ばせた。
「ワープインシーケンスに入るぞ!」
ドーリーも老体に鞭打って、気合の入った声を上げた。
敵戦力は、オールトの海内の最前面に張り付いている。防衛側の頑張りで、敵の総力をオールトの海に引き付ける事が出来ていた。敵が補給を必要とする事も、分かり切っていた。
防衛側は生産拠点をすぐ背後に抱えているが、敵は兵站基地から遠く離れて遠征して来ているのだ。激しい闘いが長く続けば、補給部隊を兵站基地から出さざるを得なくなる。この補給部隊が叩かれれば、敵は戦闘を継続し得なくなる。それを防衛側は狙っていたのだ。
補給部隊にも、必要最小限の守りは固められているだろうと、防衛側は予測していた。だが、「キグナス」に通用する程の防御は、施されていないはずだ。そう彼らは予測していた。いや、賭けていた。
その賭けに乗って、「キグナス」は今、安全な星系内から、今や完全に敵の勢力圏となった星系外宙域に向かって、スペースコームジャンプで、単独で飛び出したのだった。
今回の投稿は、ここまでです。次の投稿は、明日 '17/10/7 です。
「キグナス」クルーと戦争との距離感を、どんな感じにしようか、というのをずいぶん迷いました。もっと、人殺しや仲間の戦死が日常的になっているような感じにしようか、と構想段階では思っていたのですが、書いているうちに、クルーと戦争の距離が開いてしまいました。危険の存在を頭では理解してい者達が、いざ本当の戦争に巻き込まれ仲間の戦死の報に触れていく中で、今更のようにぞっとする、という感じを描きたいと思うようになったからでした。どこまでそんな感じが出せたか、クルーのリアクションが不自然になっていないか、書いている立場ではよくわからないのですが、うまく描けていればと願っています。というわけで、
次回 第72話 白鳥、単独進出 です。
戦いが始まっても、「キグナス」はじっと待っているだけ、みたいなパターンが定着しつつある感じがしますが、ま、役割分担というものがあるので、それは仕方ないとご了承ください。ようやく巡って来た「キグナス」大活躍の場面なので、楽しんで頂きたいです。




