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銀河戦國史 (星々を駆る重武装宇宙商船「ウォタリングキグナス」-ヤマヤの虜囚-)  作者: 歳越 宇宙(ときごえ そら)
ヴォーソム星団・キークト星団の章
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第69話 開始迫る星系攻防戦

 待ち構えていた敵は、ミサイルを打ち放った。多数の敵が一斉に打ち放った。迎撃を受ければひとたまりも無い奇襲部隊目がけて、百発程のミサイルが襲い掛かる。散開弾だった。奇襲部隊の眼前で展開する。宇宙の一角に、星々が消失した場所が出現する。背後の景色を完全に遮蔽する程に、濃密な障害物群が形成されたのだ。

 散開弾攻撃を回避する事が、完全に不可能な奇襲部隊の前面に、猛烈に濃密な障害物がばら撒かれた。もう、どうあがいても、回避など、絶対に不可能だ。障害物群目がけて、奇襲部隊は突進して行く。

 そして、障害物群と奇襲部隊は、衝突した。奇襲部隊は、そのまま、直進を続けていた。衝突に際して、物音一つ、宇宙艇の中には響かなかった。

「あー、ヒヤヒヤしたぜぇ。本物の散開弾だったら、完全に死んでたものなあ。」

 ファランクスの声が、ユーシンに届く。

「やっぱり、訓練だと思ってくれたようだな、敵は。この宙域で、『コーリク国』の連中が進軍直前の訓練を連日に渡って実施している事は、無人探査機からのデーターで分かっていたから、この方向から奇襲を掛けたら、訓練だと勘違いしてくれるだろうっていう俺の読みは、見事に的中したな、ファランクス。」

「ああ、ユーシンン。凄いこと考える奴だよ、お前は。敵の訓練の兆候に関するデーターなんて、だれも見向きもしなかったのに、そこから奇襲攻撃のプランを立てるんだからな。で、さっきの障害物の大群は、何だったんだ?レーダー反応を見た感じは、完全に、散開弾そのものだったぜ。」

 動揺が抜けきらない様子の、ファランクスの言葉だ。

「あれの具体的な成分が何かは、俺にも分からないよ。高速でぶつかっても戦闘艇などに損傷を与えない、模擬散開弾ってやつだろう。」

 ユーシンは、奇襲部隊が全部揃っている事を、宇宙艇の窓から目視確認しながら応じた。敵に存在を知れたとは言え、奇襲部隊だとは、知られてはいけないので、通信封鎖は継続されている。こちらからレーダー波を出すのも、必要最小限にしたいし、等速直線運動を続けて来ただけなので、仲間を熱源探知で確かめる事も出来ない。彼等の無事は、目視で確認するしかない。一塊で飛んでいるので、目視で十分確認できるのだ。

「それで、敵はいつまで、訓練だと思い続けてくれるんだ?俺達の動きは、訓練じゃないってバレるものに、なっていないのか?」

「敵の訓練プログラムの詳細までは、俺も知るわけ無いから、今の俺達の動きが、敵の訓練プログラムに従っているかどうかは分からないけど、まあ、違ってる確率の方が高いだろう。でも、プログラムから外れた行動をしたからって、直ぐに俺達が奇襲部隊だってバレる事も、無いと思う。訓練内容が変更されて、それがちゃんと全軍に伝わってないなんて事、どこにでもあるだろう。機構軍ですら、時々そんな事があるっていうデーターも見た事がある。攻撃が完了するまでの間くらいは、訓練だと思っていてくれると思うぜ。」

「はは、そうか。じゃあ、慌てず焦らず、じっくりと攻撃に専念するか。で、どれが敵の旗艦なんだ。それはお前が、敵の陣形を見て判断する事になってるんだぞ。」

「あれだ。右上の大型戦闘艦。あれに、小型戦闘艦が2艦、挟み込むように接近している。すぐ後ろに空母もいる。戦闘艦2艦と空母1隻を使って防御しているなんて、旗艦以外にあり得ないし、そういう状態の大型艦はあれ1艦だけだ。間違いない。あの大型戦闘艦が旗艦だ。」

 熱源探知用のモニターを見ながら、ユーシンは答えた。レーダーの使用を控えているので、熱源探知が有力な目となっている。停泊中とはいえ、進軍間近の戦闘艦は、プラズマイオンスラスタ―などに熱源を持っているものなのだ。

 ちなみに、ユーシンの言った“上”は、銀河標準上下に照らしての“上”だ。ユーシン自身の体の向きとは無関係だった。無重力の宇宙で、主観的な基準での上下を口にする者など、いないのだ。

 ユーシン達が言葉を交わしている間にも、攻撃目標の戦闘艦は近づいて来る。その手前に停泊していた敵艦を、掠めるように飛び退る。そのことは、ディスプレー上でのみ知る事が出来る。早すぎて、巨大戦闘艦といえども、肉眼では追えない。全長数百mの戦闘艦であっても、数十㎞も離れれば、見えるか見えないかの大きさになるが、その数十㎞の距離を、コンマ零1秒ほどで走破する速度なのだ。通り過ぎる戦闘艦など、全く見えない。

 奇襲部隊は、手前にいた戦闘艦と敵艦隊旗艦の間に入り込んだ。数万㎞の距離を置いて、停泊していたのだ。これで「コーリク国」の戦闘艦は、もし彼らが敵だと判明したところで、同士撃ちを恐れてレーザー攻撃は出来ない。ミサイル攻撃では、もう間に合わない。ファランクスは、自動射撃モードでの攻撃を、コンソールから入力した。必中距離まで接近したら発射する設定だ。後はミサイル発射を確認するまで、ただ真っ直ぐに進むだけだ。発射した後も、まっすぐ進むだけである事に、変わりは無いのだが。

 ミサイルは、発射された。多少の自立誘導機能は持たせてあるが、直進すれば命中するように射出された。貫通能力の高い徹甲弾だから、敵がミサイルの進路に障害物をばら撒いても、そう簡単に阻む事も進路を変える事も出来ない。だが、奇襲部隊と敵旗艦の間には、何の障害物も無かった。

 命中したかどうかも、肉眼で確認できる事では無い。戦闘艦自体が目にもとまらぬ速さで通り過ぎるのだから、命中した事が目に留まるはずがない。徹甲弾から、命中を知らせる電波が発せられたのだ。その電波の受信を確認したファランクスが、

「よしっ!」

と、短く声を発した。「キグナス」から発進した宇宙艇が発射した徹甲弾は、半分が敵旗艦に命中したようだ。残りの半分は、近くにいた小型戦闘艦に命中していた。「ヤマヤ国」の戦闘艇は、四分の一を大型戦闘艦に、四分の一を随伴の小型戦闘艦に命中させていた。半分は外れたようだ。やはり命中精度は、「キグナス」の宇宙艇の方が良かった。

 標的の敵旗艦を飛び過ぎたファランクスとユーシンの宇宙艇は、その時、宇宙漂流物をレーダー波検出した。今の速度で漂流物に衝突する事は、漂流物の種類や衝突角度等によっては、即、死を意味する。回避はオートメーションだ。人間の反射速度などの及ぶ次元では無い。だが、どう避けるかは、予め人間が設定し、入力しておく必要がある。

 減速するのか、方向転換だけで対処するのか、衝突しない事を優先するのか、相対速度や互いの軌道の角度によっては、(かす)る程度なら衝突しても良いとするのかを、事前に操縦支援コンピュータに登録しておくのだ。

 更に、避けた後どうするのかの入力も必要だ。直ぐに元の軌道に復帰するのか。ある程度、大きく回り込んで復帰する形でも構わないのか。そういった情報を、コンピューターに与えなければいけない。

 だが、それらの情報と言うのは、作戦計画や戦闘環境など、広範な条件を考慮に設定する必要がある。さらに、作戦計画や戦闘環境などは、一度戦闘が始まってしまえば、刻一刻と変化して行き、そうなると、その度に入力情報にも修正を加える必要がある。

 避ける瞬間のスラスター噴射の条件などは、コンピューターによる自動制御で、人間の介入する余地は無く、パイロットの腕前なども関係は無いのだが、この事前の入力の有り方は、人間の領分であり、パイロットの優劣が如実に問われる点となる。

 ファランクスは、作戦開始前は、減速無しで衝突しない事を優先する設定にしていた。回避後は、出来るだけ速やかに元の軌道に復帰するという条件設定もしていた。だが、この宙域に到着し、様々なデーターを考慮した結果、ある程度の減速は可とし、更に、ある程度の相対速度と軌道角度においては衝突しても良く、回避後もある程度は軌道から外れても良いという設定に、修正した。これらの“ある程度”も、ファランクスが決断し数値化して入力する事だが、事ここに及んで、細かい計算などはしていられないから、入力する数値は、それこそパイロットの勘が頼りという事になる。

 ファランクスがそれらを決定した根拠は、まず敵の布陣だ。想像以上に隙だらけで、警戒感が感じられない事から、多少減速しても迎撃は受けないと考えた。軌道復帰が遅れても、追撃を受ける心配も無いと考えた。そして、この付近に漂流している可能性のある物体として、作戦前は、人工で金属製の“堅い”物体を想定していたが、実際の作戦宙域を見て、氷塊などの“堅く無い”漂流物の方が多いと判断した。堅いものが相手なら、極力衝突しないようにすべきだが、堅くないのだったら、相対速度や軌道角度によっては、衝突しても宇宙艇の装甲は持ち堪えられるのだ。

 オートメーションのスラスター噴射で、ファランクス達の宇宙艇は漂流物の回避行動に出た。突如の、猛烈な旋回による遠心力に、ユーシンは悲鳴か(うめ)きか分からない声を発した。一瞬意識が飛んだかと思えるほど、強烈なブラックアウトに見舞われた。血液が遠心力によって下半身に集められ、血圧不足に脳機能が支障を来したのだ。

 宇宙艇は漂流物に衝突した。だが衝突角度は浅かった。戦闘艇船首部にある円錐形流体金属は、水切りの要領で漂流物を弾いた。両者の運動エネルギーは、大半が運動エネルギーのまま保存され、衝突エネルギーに変化したものは僅かだった。そして、衝突エネルギーの大半は、漂流物の方に吸収された。漂流物は柔らかい氷塊だったから、そちらが砕かれる事に一方的にエネルギーは消費され、宇宙艇に向かった衝突エネルギーは少なかったのだ。

 更に、宇宙艇に向かった衝突エネルギーも、船首にある流体金属に波紋を立てる事に費やされ、乗員や宇宙艇の装甲や内部構造に、いささかの損害も生じせしめる事は無かった。

 もし、衝突は不可という設定にしていたら、宇宙艇はもっと小さい旋回半径での回避行動を起こしていただろう。その遠心力にユーシン達が耐えられた保証はない。意識を失うか、(ひど)ければ、そのまま絶命してしまったかもしれない。

 ファランクスが衝突可の設定に切り替えた事が、彼等の命を救ったかもしれないのだ。が、もし衝突対象が堅い漂流物なのだったら、パイロットの失神や絶命の危険を冒してでも、回避しなければならなかっただろう。

 ファランクスのギリギリの判断が、功を奏したのだ。ほとんどが自動制御の宇宙艇の操縦においても、パイロットの優劣はものをいう。腕のいいパイロットは生き延び、腕の悪いパイロットは死ぬ。

 軌道復帰を遅らせても良いと設定し直した事も、功を奏した。元の軌道上には、さらに複数の氷塊が漂流していたのだ。ファランクス達がそれに気づいたのは、通り過ぎた後だったが。軌道復帰を遅らせた事で、それらの氷塊群を、上手く躱す事が出来たのだった。

 後に付いて来ていた宇宙艇や戦闘艇も、ファランクス艇の軌道をなぞったので、氷塊との接触は無かった。ファランクスの回避条件の修正が、仲間の命をも救ったと言って良い。

「いやぁー、ヒヤッとしたな。あれが氷塊じゃ無くて金属片だったら、死んでたかもしれないな。それに、宇宙艇軌道上にいた氷塊が、1つだけで良かった。あんな強烈な回避運動を何回か繰り返されたら、やっぱり無事では済まなかったぞ。」

 ファランクスが胸をなでおろすように、普段より高いトーンで語った。光の1%という速度での飛行は、ただ飛んでいるだけでも、かくも危険が大きく困難なものなのだ。

 着弾した徹甲弾は、直ぐには爆発はしない。少し間をおいてから、時限式で爆発するのだ。爆発が起こるまでは、敵はこの攻撃が訓練でない事に、確信は持てないだろう。訓練用の模擬弾を撃ち込んだのか、本物のミサイルを撃ち込んだのか、そう簡単に判断が付くものでは無いはずだ。実際には、訓練で君主の座乗する旗艦を攻撃するなど、あり得ないだろうが、未だ実害が無い時点で、訓練では無いと断定も出来ないはずなのだ。

 そして、適が判断を下せない内に、奇襲部隊は敵を通り過ぎていた。飛び続けながら、後方に強力な熱源が出現するのを検知した。大きな爆発が起こったのだが、肉眼ではもう見え無い程、遠ざかってしまっていた。

 具体的な戦果は確認できないが、12発の徹甲弾を、敵戦闘艦は命中させられている。大破とまではいかないだろうが、当面、航行不能にはなるはずだ。君主制国家で無ければ、別の大型戦闘艦をすぐにでも代理の旗艦に仕立てられるだろうが、君主制の場合の旗艦は、他の大型戦闘艦を代理に仕立てるにしても、内部の仕様をそれ専用に改装しなければ、君主は乗せられないはずだ。だから、旗艦を航行不能にされた敵は、代替艦の改装が完了するまでは、侵攻を見合わせざるを得ない。

「目的は、達成されたはずだ。」

 ユーシンはそう言った。「ここからは、逃げるだけだし、逃げる事に関しては、何の支障も無いはずだ。後は、予定の場所に、『キグナス』がワープアウトして来てくれることを、信じるだけだ。」

 攻撃するまでは、迎撃されたら終わりという程リスキーな速度での移動だが、逃げる時には極めて有利だ。今から追いかけ始めたって、追い付けるはずなど無い。攻撃前の速度を継続するだけで、十分逃げ切る事が出来る。

「そうだな。万が一迎えが来なかったら、俺達は死ぬまで宇宙をさまよう事になるがな。まあ、オヤジなら、間違いなくちゃんとやってくれるだろう。」

 ファランクスは応じた。奇襲部隊に、自力で「イヌチヨーナ」に戻る能力は無いのだ。

「小型戦闘艦の方は、どうなったかな?」

 久しぶりに聞いた気がする、アデレードの声だった。通信封鎖は、もう必要なくなっていた。

「あっちも12・3発、撃ちこまれていたよな。旗艦の巻き添えを食らっただけだけど。小型戦闘艦があれだけ徹甲弾を食らったら、まあ、まず、大破してしまうんじゃないか?乗員は全員、助からないだろうな。かわいそうな気もするけど、『コーリク国』から攻めて来ようとしているんだから、俺達としては致し方ないな。」

 ユーシンは、出来るだけ淡々とした口調でそう言ったつもりだったが、その声には、やはり少し、暗い影を引きずった感じがあった。

「ワープの兆候を確認!」

 1時間ほどの飛行の後、ファランクスが報せて来た。敵に向かうまでは、隠密性を重視してワープなどは出来なかったが、逃げる場合は、そんな事を気にする必要は無い。ワープで迎えに来た「キグナス」に奇襲部隊は収容された。「キグナス」がスラスターを噴射して加速しながら、ビームを奇襲部隊に供給して減速させることで、「キグナス」と奇襲部隊の相対速度は、2時間程かけてゼロになった。

「もしかしたら、敵がワープで追いかけて来るかも知れねぇから。戦闘準備だけはしておけよ。」

 ユーシンが宇宙艇から降り立った時、そんなバルベリーゴの船内放送が聞こえた。確かに、その可能性は皆無では無かった。「キグナス」のワープを検知するまでの間、3時間以上に渡ってスペースコームの状態観測をしていた敵艦がいたら、奇襲部隊の「キグナス」への収容作業中に、ここに駆けつける事は出来る。

 だが、奇襲攻撃すら予測していなかった敵が、その奇襲部隊を迎えに来る「キグナス」の動きを予測している事など有り得ない。直前にスペースコームの状態観測を5時間以上実施していないと、ワープは出来ないのだ。敵が追撃してくる可能性は、極めて低いと言える。

 それでも、戦闘準備をするのならと、ユーシンはすかさず航宙指揮室を目指した。

「ユーシン。あなたはメディカルチェックしてからでも、良いんじゃない?」

 危険で、体への負担も大きい任務から戻ったばかりのユーシンに、ノノは心配気な声を掛けて来たが、

「有難う、ノノ。でも、怪我をするような事は何もなかったし、チェックは後で良いよ。」

と言って、ユーシンは宇宙艇格納庫を後にした。

 追撃の可能性が低いと言っても、長居は無用だ。5時間のスペースコーム観測を終え次第、「キグナス」は「イヌチヨーナ」に引き返した。その5時間の間に、戦果の報告はもたらされていた。

「敵の旗艦は、大破こそしなかったものの、修理するより新しい艦を作った方が良いくらいの、激しい損傷を被ったらしいわ。それと、随伴の小型戦闘艦は、原形をとどめないほどの惨状との事よ。」

 アニーがそんな報告をもたらした。無人探査機からのデーターを、「ヤマヤ国」軍が解析した結果が、「キグナス」に送られて来たのだ。

「これで、少なくとも10日は稼げるだろう。そして10日も遅らされれば、機構軍の介入前に事を決したい敵は、相当焦るはずだし、君主の座乗する艦を攻撃された汚名を雪がなければ、という意識にも燃えるはずだ。別の大型艦の、旗艦への改装が済み次第、侵攻を開始するに違いない。侵攻のタイミングは、相当に絞り込める。」

と、ユーシンは自分に言い聞かせるように話した。

 星系内にワープアウトしてから、第3惑星軌道上の「キグナス」が根城にしているコロニーに帰着するまでの間に、ユーシンはノノによるメディカルチェックを済ませていた。そして、帰着するや否や、復興状況の視察を再開した。彼の目標は、戦争に勝つことでは無く、「イヌチヨーナ」に平穏を取り戻す事だから。

 リング状コロニーの外周壁内面にたどり着き、街を歩き始めたユーシンは、住民達の彼を見る目が、以前とはだいぶ違っている事に気づいた。作戦前までは伏せられていた「コーリク国」軍への奇襲攻撃とその成功が、公表された事による影響らしい。

「作戦成功、おめでとうございます。ユーシン様。」

と、“様”を付けて呼びかけて来る者すらいた。

「命懸けの奇襲攻撃、ご苦労様でございました。ユーシン様。」

「我等の為の、決死の御覚悟、感謝しております。ユーシン様。」

 想像外の持ち上げられ様に、ユーシンは背中が(かゆ)くなる想いだ。

「止めてくれよ。そこまで大したことはしてないよ。“様”なんか付けないでくれよ。元宇宙孤児にそんなもん付けられたら、気持ちが悪いよ。」

 頭を掻きながら訴えるユーシンだったが、

「何をおっしゃいます。我らが守護神様。」

「こうでもしないと、我々の気持ちが収まりません。救世主様。」

と、住民達は譲らない。

「ええー・・・」

と、こぼすユーシン。

 なんだか気まずいような、バツが悪いような想いを抱えながら、ユーシンは視察を進め、住民達の要望を聞いて回った。

 別にユーシンに伝えなくても、機構軍の民生部門の者達が、多数「イヌチヨーナ」に入り込んで活動をしているので、機構軍に要望を上げる事は出来るのだが、住民達はユーシンに伝える事を望んだ。

 彼がブルーハルト機構軍大佐と、個人的に懇意であるという情報が広く伝わっているという事もあるだろうが、彼のこれまでの、「イヌチヨーナ」の復興と防衛に注ぎ込んで来た熱意や努力や勇気が評価された事も、大きいようだ。

 3日ほどを復興の支援に当てたユーシンだったが、すぐにまた、「キグナス」に乗らなければならなくなる。オールトの海防衛面での、訓練と体勢再構築が待っているのだ。出発に先立って、バルベリーゴは改めてクルー達に、下船の意思があればそれを認めると言い渡した。

「今度の闘いは、何十艦もの戦闘艦同士がぶつかり合う、正真正銘の戦争になるぜぇ。一撃で『キグナス』を破壊し得るようなビームやミサイルが飛び交う戦場を、駆け回る事になるんだぁ。命の保証は、全く出来ねぇ。ここが墓場になっても、後悔しねぇ奴だけが残れぇ。」

 その言葉で、下船を申し出るものは、やはり一人もいない。

「本当に後悔しねぇのか?ユーシン、お前はここで死んでも良いって、本気で思ってるのかぁ?」

 バルベリーゴに問われたユーシンは、きっぱりと答えた。

「うん。死んだとしても、後悔はしない。ただ、色んな人に申し訳なく思う事になるから、絶対に死なない。何が何でも生き残ってやる。」

「絶対に死にたくはねぇが、死んでも後悔はしねぇってか。なんだか矛盾しているようでもあるが、分かるようでもある。まぁ、俺も機構軍で闘っている時は、同じような気分だったかな。他のガキ共も、そんな所かぁ?」

 航宙指揮室に集められたクルー達は、一様に頷いて見せた。

「俺は、機構軍に入って、『1-1-1』に所属する事が夢だから、ここで死ぬわけにはいかない。でも、こういう戦闘を乗り越えて行かなきゃ、その夢には届かない。絶対に死にたくはないが、夢に向かって精一杯挑んだ結果、死ぬんだったら、その死に後悔は無い。」

 バルベリーゴから一番遠い辺りに陣取っていた、ファランクスが答えを返した。その隣で、アデレードも大きく頷いている。

「あたしも、絶対に死にたくなんかないけど、ここで皆を置いて自分だけ逃げ出したりなんかしたら、それこそ一生後悔する。」

 ニコルが言った。その隣にはトアとクルムがいる。「キグナス」クルーの中でも最年少の少女達も、決意を示すように、唇を真一文字に結んでいる。その瞳には、微かな怯えの色も見えるが、真っ直ぐにバルベリーゴを見つめ返す視線は、たとえ死んでも後悔しないという言葉が、嘘偽りでは無い事を訴えていた。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日 17'/9/30 です。

奇襲攻撃のくだりは、作戦プランに関する記述や、宇宙艇の操縦に関する描写など、かなり面倒くさい感じになったかもしれません。敵の訓練を利用することで奇襲が成功したことや、宇宙艇の操縦における人とコンピューターの役割分担など、どこまで細かく書くべきか迷ったのですが、「えい、書いてしまえ!」と、細かく書きました。自分で読み返しても、ちょっと面倒臭いくらいなので、読者様にも面倒だったかもしれませんが、物語の世界観を表現するのに、必要かなとも思っています。ユーシンの復興支援活動と住民の彼を見る目というのも、今後の展開を踏まえて細かく書いたので、頭の片隅にでも置いておいて頂けると嬉しいです。というわけで、

次回 第70話 侵略軍の襲来 です。

これまでも、さんざん危機感を煽るような表現をしておきながら、結局は「キグナス」サイドの圧勝みたいなことを繰り返して来た気がしますが、今度は、正真正銘に危険だし、もしかしたら・・負ける・・かも・・。ここからは、クライマックス中のクライマックスなので、是非ご注目頂きたいです!

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