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第6話 白鳥の武勇伝

 目的のコロニーから供給されるビームの圧力で、シャトルはそのコロニーの運動に同調した。ユーシンの感じたところで言えば、停止した。

「ドッキングベイの光景は、どのコロニーも変わらないね。人の数は多いけど。」

とノノに話し掛けられたキプチャクだったが、彼が今までに見た事も無い程の人並みを目にし、行き過ぎる女性を物色するのに忙殺されてしまった為、返事を返す余裕は無かった。

 一番外側の港湾用コロニー群を支援する性質を帯びる、この1つ内側の円環に属すコロニー群では、港湾コロニーよりも人の往来が激しいようだ。港湾施設では作業者風の人ばかりを見かけたが、ここではより多様な人々を見かける。大きなカバンを持つ旅行者、小さな鞄の学生風、スーツ姿のビジネスマン、エキゾチックな民族衣装も多種多様に見かける。

 宇宙服姿の人というのは、いない。移動する行程に宇宙空間に出る場面は無いから。

 そのコロニーの中を、またもやリーディンググリップに引かれて移動し、エレベーターでコロニー外周壁面に向かって行く。

 一同がエレベーターから降りたフロアーには、てくてくと歩くのに都合が良いくらいの重力が生じていた。上下左右を無機質な金属製の壁で囲われた廊下を、一向は足取りも軽く進む。「ウニヴェルズム・フォンテイン」の看板が掲げられた区画には、5分とかからずたどり着いた。

「もしかして、居るかも。」

とニコルが、ユーシンの耳元に口を寄せて囁いた。ドキンと、ユーシンの心臓が飛び出すほどの高鳴りを見せた。全く予測していなかったが、十分にあり得る事態を思い知らされた。「UF」のオフィスに、その会社の幹部がいたとしても不思議ではない。あの背中、あの黒髪が、そこで待ち構えているかも。

 ユーシンは改めて、自分がその人の顔すら知らない事に思い至った。

(どんな顔なのだろう?)

 驚くべきことにユーシンは、この時初めて、その事が気になった。今まではそんな事、考えた事も無かった。いざ会えるかもしれないとなって初めて、後ろ姿には、黒髪には、“前”がある事に気付いたのだ。

 別に美人である事を期待しているつもりは無い。容姿がどうであろうとも、自分の覚悟は、決意は、変わらない。変わるはずがない。そう思っている。けど、

(もし万が一、その容姿で決意が揺らいでしまったら、どうしよう。俺は何を目的に、外宇宙に出れば良いんだろう。)

 これまで予想だにしなかった不安の出現だった。それを思うと、途端に重くなった足取りだったが、一行の歩調には(あらが)う術も無く、皆の後に続いてユーシンはオフィスに入って行った。

 ガラーンとした広いオフィスに(しつら)えた長いテーブルのこちら側に、商用で訪れた客達が、向う側に商社の職員らしき者が、簡易なパーテーションに仕切られて並んでいる。荷物の運送の依頼者と職員との商談が、数十組も同時進行で行われているのだろう。その手前の空間には、長めのソファーに腰掛けて順番を待つ客と、彼等に茶などを出す女性職員も見受けられた。

 ユーシンは女性職員達の顔を、端から順に見て行った。彼女の顔を彼は知らないが、バルベリーゴ達は当然知っている。もし彼女なら、バルベリーゴ達を視界に捕えるや否や、それと分かる反応を見せるはずだ。一つ一つの顔に注視し、一つ見るごとに鼓動を早くし、これ以上早くなったら飛び出してしまうと思ったところで、全て見終わった。安心したのか残念なのか分からない溜息を、ユーシンは漏らした。

 その長いテーブルの端にある入り口から奥へ入って行くと、沢山の事務机に乗せられた端末のモニターをにらむ、これまた大勢の職員たちの姿があった。端末の幾つかには人の顔が映っており、どこかにいる誰かと通信で話しているようだ。何人もの顔が映っている端末もある。忙しい奴だ。ユーシンは散々キョロキョロし、なんだか分からない溜息。

 そんな事務スペースを突き切ると、その奥に応接室と思しき部屋が幾つか並んでいた。その一つにバルベリーゴは、ずかずかと入って行く。皆はその後を真っすぐに付いて行くが、ユーシンだけは名残惜し気に、後ろを振り返った。いないはずだが、念の為、全ての後ろ姿を確認した。驚くほどに自信をもって、「いない」と断言出来た。

 部屋の中には2人が待っていたが、その2人と入って行った11人を飲み込んでも、そこには十分なスペースがあった。待っていた2人は、応接セットのソファーで、足を投げ出し、背もたれに沈み込んで行きそうに座っていた。

「おう、戻ったなバリー。後ろに引き連れてんのは新入り達かい。」

 2人の正面にどっかと腰を下ろしたバルベリーゴは答えた。

「ああ、そうだ。5人も新たにガキどもの面倒を見にゃならん。大仕事だぁ、あっはっはぁ。」

 そう言ったバルベリーゴは、応接室内に無造作に置かれている一人掛けの椅子に、思い思いに座り出した配下の新入り達を振り返り、

「こいつらは、ムアザムとピョートルだ。どっちもウチの商船のキャプテンだ。」

と、紹介した。

「『ノーザンスワロー』のキャプテン、ムアザムだ。船に乗っちまったら、あまり会う事もねぇだろうが、まぁ、よろしく頼むよ。」

「『クレバークロー』キャプテン、ピョートルだ。バルベリーゴのもとが嫌になったら、いつでも俺んとこに逃げ出して来い。歓迎してやるぜ。」

と、いずれもいかつい顔の両キャプテンは、改めての自己紹介。

「おいこら、ひとんちのガキを勝手に引っこ抜こうとするんじゃねえよ。」

と、笑いながら吠えるバルベリーゴ。

「若けぇのが増えると船が活気づくからな。ウチは老人の比率がたけぇから、こういう若いのが欲しいんだ。こっちの赤い髪のネエチャンなんか活きが良さそうで、船ん中を明るくしてくれそうじゃねえか。」

「あら、残念ね。あたしは『キグナス』の看板娘になる予定なんだから、『カラス』でおじいちゃん達の相手は出来ないわね。」

 初対面の大先輩ピョートルに軽口で返す、物怖じを知らないニコルだった。

「がっはっは、おじいちゃんは良い!」

と、大口を開けて笑ったバルベリーゴは言った。「ウチは老人とガキンチョだけでやってるような貿易商社だからなぁ。どの船に乗っても、新入りのガキどもには老人の相手が待ってるってもんだぜぇ。」

「そう言う事だな。」

と返したのはムアザムだ。「中堅どころはみんな、機構軍に行っちまったからな。若けえのを鍛えて機構軍に送り込み、機構軍で使い物にならなくなった退役じじいを引き取るってのも、半軍商社の仕事ってわけだ。」

「何を言いおるか、わしゃ、まだまだ機構軍でもやれるぞ。使い物にならんようになったわけじゃないわい。若いのに操船を教えてやってくれと言われて、こっちに来てやったんじゃわい。」

と、ドーリーが口角泡を飛ばす勢いで言い返した。

「おお、ドーリーの爺さん、まだ生きとったんか。もうそろそろくたばってる頃だと思ってたが。」

「ぬかせ、ムアザム!お前よりは長生きしてみせるぞい。『先走りツバメ』の船長なんぞ、鉄砲玉みたいなもんじゃからのぅ。いうてるまに死によるじゃろう。」

「言われたな!ムアザム。あっはっは。」

 百戦錬磨の男達のやり合いに、一同は笑い転げた。

「お前さん達も『キグナス』である程度腕を磨いたら、『UF』から出て、機構軍だかどこだかに行くつもりだろう?」

 そう尋ねるピョートルの瞳には、少し哀愁のようなものが感じられる。「機構軍に良い人材を供給出来ねぇと、『UF』の存在価値も下がっちまうから、それは仕方ねぇが、こっちの船も若いのに少しは残ってもらわねぇと、じじいばっかじゃ辛気臭くっていかん。」

「ああ・・そうだな・・。ちょっとばかり、いなくなるガキが多すぎるな。」

とバルベリーゴが答えた時、一瞬だが「UF」のベテラン達がその視線を遠くにさまよわせたのに、ユーシンは気付いた。誰かを思い起こしているのか、何かを予感しているのか。

「UF」には若手とベテランの比率が高いが、その裏には、機構軍に行ってしまう者が多いだけでなく、行った先で命を落とした者、「UF」にいる間に落命した者が大勢いる事を、ユーシンも知っている。ベテラン達の胸にも色々なものが去来しているだろうと、彼は思ったのだった。

「あたしはずっと、『キグナス』に乗ってるつもりよ。」

ベテラン達の哀愁にニコルも気付いたのか、努めて明るい声色(こわいろ)で言った。「『キグナス』でずっとずっと生き延びて、いつまでもオヤジの面倒見てあげるつもりよ。」

「おうおう、『キグナス』は俺の介護施設じゃねぇぞ。」

「時期にそうならぁな。」

「なんだとぉ、ピョートル。『クレバークロー』がそうだからってなぁ、こっちも一緒にすんじゃねぇよぉ。」

 また一同は笑いに包まれた。

「あっしゃっしゃ、そうとも、何と言ってもこっちは銀河一の重武装商船『ケンカ腰の白鳥』じゃからのぅ。若いのに介護されとるようじゃ、勤まらんわい。」

「そう言えば・・」

 ムアザムが、ずいっとバルベリーゴの方に身を乗り出して尋ねた。「あの『ケンカ腰の白鳥』、また一戦やらかしたそうだな。ここに来る直前に。宙賊にでも襲われたか。」

 その言葉に、ユーシン始め新入り5人はグイッと前のめりになった。

「そうなのか!オヤジ。そう言うのは早めに行ってくれよ!これから乗る船の、武勇伝だぜ。」

 息せき切るように、そう言ったのはキプチャクだった。

「いやいや、襲われた訳じゃねぇし、戦闘なんて大したもんじゃねぇ。宙賊に襲われてる商船がいたんで、駆けつけて行って、追っ払ってやっただけだ。」

「あっしゃっしゃ。『テトリア星団』に近い宙域で、まさか宙賊なんぞに出くわすとは思わなんだが、簡単に追い払えたわい、『アマテラス』でな。」

「ぶっ放したのか!『アマテラス』!すげぇ!」

 躍り上がらんばかりに興奮するキプチャク、その隣で、キプチャクよりは落ち着いた様子でアデレードも言った。

「宙賊の戦闘艇なんて、ひとたまりも無かっただろう。『アマテラス』に狙われたら。」

「阿保ぬかせぇ。当たるわけねぇだろぉ、戦闘艇みてぇな細けぇ、すばしっこいもんによぉ。」

と言うバルベリーゴは、何か言い訳でもしているような雰囲気。「機構軍の正規の兵士でもなぁ、戦闘艦からの戦闘艇への砲撃なんざぁ、10回打って1回当たるかどうかなんだぜぇ。当たる事を期待するようなもんじゃぁ、ねぇんだよぉ。」

「当たらないのに、打ったのか?」

 ユーシンは首をかしげながら言った。「威嚇射撃か?」

「しかし、当たるわけない事がわかり切っていたら、威嚇にならないんじゃ・・。」

 アデレードも首を傾げた。

「あっしゃっしゃ、小惑星を撃ったんじゃよ。宙賊の戦闘艇の近くに浮遊してた、200m位の奴だったかな?」

「ああ、そうだ。」

と、ドーリーの言葉を受けて、今まで黙って聞いているだけだった、「操船要員」のマルコが口を挟んで来た。「最大長さ220mの漂流岩塊を、敵戦闘艇の付近に見つけたんで、止まってる標的なら外しようも無いって事で、それを撃ったんだ。それで無数の破片を飛び散らせたら、『アマテラス』の威力に驚いたものか、宙賊の戦闘艇は尻尾を巻いて逃げ出したというわけだ。」

 止まってるというのは、加速がかかっていないという意味で言っているのだろう。そのマルコの説明に、キプチャクは不満気に言った。

「なんだよそれ。何か、パッとしねえ闘いやったんだな、オヤジ。」

「馬鹿ヤロォ!戦闘にパッとするもしねえもあるかぁ!追い払えれば十分だろうがぁ、宙賊なんぞはよぉ。」

「それにしても、岩を撃っただけかよ。せっかくの最強兵器がカタ無しだな。」

「だからぁ。追い払えたんだからよぉ、『アマテラス』も満足してんだよぉ、ガキィ。」

 そんな、結成間もない師弟のやり合いに、また一同の笑いが起こる。

「それで、襲われていた商船は無事だったの?」

と、ノノが心配そうに聞いた。

「あっしゃっしゃ、優しいのぅ、ノノとやら。話に出ただけの、見ず知らずの商船を心配しよるんかい。」

「大丈夫だったよ。」

 冷やかすドーリーを横目に、マルコがニッコリ笑って答えた。「船も積み荷も無傷だったそうだ。もっとも積荷の方は、これから傷物になるかもしれないけど。」

 一瞬、安心した顔を見せたノノだったが、

「これから傷物に?」

と、また不安そうに聞き返した。

「あっしゃっしゃ、奴隷商人から預かった荷を運んでおる船だったからのぅ、()の商船は。どこぞで宙賊に捕縛された、『ヤマヤ国』のやんごとなき地位の者達が、奴隷商人に買われて、この『ウィーノ星系』に運ばれて来ていたのだそうじゃ。」

と、笑いながら言うドーリーだが、表情はやや沈んだものになった。そのドーリーを次いで、バルベリーゴも言った。

「『ウィーノ星系』といっても、この浮遊都市に来たわけじゃなさそうだなぁ。救出した後の行き先なんぞ、尋ねなかったがよぉ。」

「積み荷は、奴隷だったんだ。」

とニコルも、普段に似つかわしくない沈んだ顔になった。「じゃあ、船は無事でも、その人達のこれからは、無事ってわけには行かないのね。」

「『ヤマヤ国』といえば、スペースコームからはずいぶん外れたところにあるけど、地球連合と同盟関係にある国だよね。」

と質したのはアデレード。「スペースコームジャンプでたどり着けないから、機構軍も十分な防衛協力が出来ない国とはいえ、連合と同盟している国の高貴な人が、宙賊の捕虜になってしまうなんて事が、起こるものなのだな。」

 当惑気味の発言に、バルベリーゴが応えた。

「機構軍も歯がゆいところだな、同盟関係の国を、ちゃんと守ってやれないってのは。間にある『ユラギ国』が、ここ『テトリア国』と同様に、長年同盟を拒否し、機構軍も信用しねぇと来てるからなぁ。防衛に駆けつける手段がねぇって事だぜぇ。」

「それでも『ヤマヤ国』と言やぁ、歴史も深く、国力もそれなりに高いはずだぞ。」

と、言ったのは「ノーザンスワロー」の船長、ムアザム。「機構軍は通さねえ『ユラギ国』も、俺たちのような商人は通すから、『ユラギ』経由で地球系の文物も取り入れて、文明度も高いのが『ヤマヤ国』だ。それなりの軍隊も持ってるだろうし、宙賊なんぞの跋扈(ばっこ)を許すような国ではないはずだ。」

「そんな国の高貴な者達ですら奴隷にさせられてしまうのが、今の銀河の現状って事だな。どこで何が起こるか分からねぇ。」

何かをにらみ据えるような、バルベリーゴの呟き。

「何とかしてあげられないのかな?」

と、ノノは相変わらずの心配顔。

「まぁ、可愛そうだがなぁ、何ともしようがねぇなぁ。他人様の積荷に手ぇ出したりしたら、貿易商なんざぁ続けて行けなくならぁな。危ねぇところを助けたからって、そんな勝手な要求が出来るようになる訳でもねぇ。奴隷商人だの人身売買だのってのは、俺だっていけ好かねぇが、この『テトリア』では禁止されている訳じゃねぇ。地球連合勢力圏では禁止されてるが、『テトリア』は知っての通り、地球連合とは確執があって同盟はしてねぇ。今後も当分はしねぇだろう。」

 バルベリーゴを次いで、ドーリーも言った。

「奴隷商人の活動も、当分は合法ってわけじゃから、手の出しようが無いわのぅ。なんでも、『コーリク』とかいう国と、相当良い値で商談も進んでるような事をほのめかしておったから、わしらのポケットマネーで買えるようなもんでも、あるまいしのぅ。」

「じゃあ、」

沈痛な面持ちでノノは言った。「その人たちは、『コーリク』って国に売られて行って、奴隷として生きて行く事になるのね。」

 先ほどまでの楽し気な雰囲気は一転してしまった。

「他人の心配ばっかりしてる場合じゃねえぞ。『テトリア星団』の近くでも宙賊が出没したって話なんだから、俺達だって、いつどんな目に会うか分からねえ。」

と言ったのは、キプチャクだった。

「そうだな。」

と、アデレード。「やはり外宇宙は、恐ろしいところでもあるんだ。宙賊なんかにつかまったりしたら、すぐに殺されなくても、どこかに奴隷として売られて、過酷な余生を強いられちまう。」

「ああ、そうだ。ガキどもよく聞いておけ。」

バルベリーゴが、さっきまでより一段低い声で話し出した。「今のこの銀河の状況じゃ、命もかけねえで叶う夢なんざぁ、滅多にねぇ。今おまえたちが頭ん中に描いてる夢も、それが何か俺はいちいち聞かねぇが、ここ一番には、命も懸けねぇわけには、いかねぇ時も来るだろう。」

血の繋がりの無い我が子たちの顔を見回して、バルベリーゴは続ける。

「俺はなぁ、お前達が命を懸けてぇって思った時に、その行動を阻むような、邪魔くせぇ繋がりでお前達を縛るつもりはねぇ。お前達が本当に納得して死んで行くんなら、俺はお前たちの誰がいつ死のうが泣きもしねぇし、悲しみもしねぇ。」

 後半はむしろ、自分に言い聞かせているのではとユーシンは思いながら、黙って話を聞いていた。

「だがな、死ぬときは必ず、その死に納得して死ねぇ。納得も出来ねぇで死にやがったらなぁ、それは、とんでもねぇ親不孝だと思え。何の為に孤児のお前達を引き取り、育ての親を世話してやったか、分からねえからなぁ。納得できそうにねぇ時は、絶対に死ぬな。意地でも生き残りやがれぇ。」

 若者5人はいつしか、背筋をピンと伸ばして、彼等のオヤジを真っすぐに正面に見据えるようにして、その言葉に聞き入っていた。

「そしてなぁ、絶対に死にたくねぇ場面では、俺に勝手な行動は、取るんじゃねぇ。今聞いた通り、外の宇宙では、予想もしねぇところで恐ろしい事が起こったりするもんだぁ。経験の浅い奴が勝手な事をして、無事で済むような世界じゃねぇ。死んで納得出来そうにねぇような時には、俺の言う通りにしてろぉ。死んでも納得出来ると確信した時だけ、好き勝手に行動するんだぁ。分かったか、ガキ共ぉ。」

 しばしの沈黙が漂った。そして、

「機構軍に入って、『1-1-1(トリプルワン)戦闘艇団』になるまで、俺は死ねない。『キグナス』にいる間は、勝手な事して死に急ぐような事は、絶対にしない。」

 真っ直ぐにバルベリーゴを見据えて、アデレードが言った。

「あたしも、イイ男見つけて幸せになるんだから。死んでたまるか。ねぇ、ノノ。」

「うん。」

 女子2人が言った。キプチャクもユーシンも、小さく、でも力強く頷いた。

その後しばし歓談していた一同のいる会議室に、更に数人が入って来た。

「おう、来た来たぁ。チェリオ、コロンボ、ラオ。新入りにひと言、挨拶しておけやぁ。」

と言って、笑顔で出迎えたバルベリーゴは、ユーシン達に向かって更に続けた。「副船長と宇宙艇団団長と通信索敵長だぁ。これで船の幹部は、全員面通しが出来たなぁ。」

「チェリオ・カスター、副船長を拝命しておる。よしなに。」

「コロンボ・ムサシンだ。戦闘艇団団長だ。よーく覚えとけ。」

「ラオ・ホアンと申す。通信探索の長を預かっておる。君達を歓迎いたすぞ。」

堅物、ワイルド、貴族然、と言った感じの、個性的な3人だった。

それ以外にも、メンテ要員が2人と通信索敵要員3人がいて、それぞれ自己紹介もしたのだが、ユーシンは、その時には覚え切れなかった。

「50人近くもいる大所帯だ。まあ、仲間の名前と顔は、ぼちぼち覚えろや。」

とのバルベリーゴの言葉に、若者5人は甘える事にした。

「あっしゃっしゃっしゃ。今宵の宴の面子は、これで全員揃ったのじゃな。では、そろそろ向かうとするかのう、御馳走が愉しみじゃて。」

 ドーリーがそう言ったところで、一同はぞろぞろと列をなして、オフィスを後にしたのだった。これから別のコロニーにあるレストランで、彼らの歓迎会が催されるそうだ。またしてもシャトルに乗っての、コロニー間の移動となる。

「次に向かうのは、住居用コロニーか。楽しみだな。」

と、ユーシンは言った。

「初めて目にした者は、たいてい度肝を抜かされるからのぅ。」

とドーリーが応じた。「せいぜい、腰まで抜かされんよう、心しておけ。あっしゃっしゃ。」


今週はここまでです。次回は'17/3/3の投稿になります。

サブタイトルにもなっている「ヤマヤ国」の虜囚が話題に上り、物語が動き出した感じがしてきました。が、歓迎会の会場に向かった後にも、さらに色々な景色や人に出会います。物語の世界は俄然、膨張します。(なかなか主題になっている宇宙船が登場しない!話には出るけど)というわけで、

次回 第7話 宴席での遭遇 です。

遭遇する相手が、これまた重要になって来ます。ご注目下さい!

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