第68話 決死の奇襲攻撃
ユーシンは言葉を繋ぐ。目つきは真剣そのものだ。
「この奇襲が成功しなければ、『イヌチヨーナ星系』を守り切れ無いと、俺は思ってる。そして、この奇襲を確実に成功させるには、『キグナス』の宇宙艇が出る必要がある。」
戦闘に特化されてはいない汎用の宇宙艇が、「キグナス」に積載されているものではあるが、「ユラギ国」や「ヤマヤ国」の戦闘艇よりは、性能は優れていた。そして、「コーリク国」軍にとっても、未知の性能だと思われる。奇襲攻撃をするにあたって、そんな「キグナス」の宇宙艇が参加するかしないかは、大きいのだ。
「本当に良いのか?ここで、そこまで命を懸けちまって。別に『キグナス』がそこまで『イヌチヨーナ星系』の防衛に首を突っ込まなくたって、いいんだぜぇ。後は『ユラギ国』軍と『ヤマヤ国』軍に任せたって。本来は、彼等の問題なんだからなぁ。」
「オヤジ。俺達はもう『イヌチヨーナ』の住民達と、かなり触れ合ってしまってるんだぜ。それに、特別参謀とか、機構軍との仲介役とかって立場まで、託されてしまっている。今更、後には引け無いよ。危険だからって、指をくわえて眺めてる事も、出来ない。だけど、俺はここで死ぬ気はない。生きて戻って、やらなきゃならない事があるんだ。」
ユーシンの頭には、クレアの笑顔が浮かんできた。彼女を守り支えるはずの、ハーフナイトの1人が、彼女の為だけに懸けるはずの命を、「イヌチヨーナ」の為に懸けようとしているのだ。だが、
「『イヌチヨーナ』の命運は、『UF』の利害にも大きくかかわって来るんだろ?だったら『UF』の一員として、『イヌチヨーナ』の為に命を懸けたって、問題は無いはずだ。」
ユーシンは、バルベリーゴに向けて言った。一方で、自分自身に向かっても、言った。
(「UF」の為に命を懸ける事は、お嬢様の為に命を懸ける事でもある。だから、この奇襲攻撃に参加する事は、ハーフナイトの務めに反する事では無い。)
「お前ひとりで、良い恰好はさせないぜ。」
航宙指揮室に姿を見せたのは、ファランクスとアデレードだった。「お前が行くというのなら、俺達も行くぜ。」
ユーシンは彼らを交互に見た。胸の中に、ちくりとした痛みが走る。こんなに危険な作戦に彼等を巻き込む事には、抵抗を感じたのだ。だが、
「そうしてもらえると、助かる。」
と、ユーシンは言った。作戦の成功確率を上げるには、彼等が居てくれた方が良いに決まっていた。ユーシンの顔に浮かんだ苦悩を見て取ったのか、ファランクスが言った。
「お前が、俺達の命の責任を背負う事は無いんだぜ。俺達自身で決めた、作戦参加だ。」
「そうだぁ」
バルベリーゴも口を挟んで来る。「この船の事は、全て船長であるこの俺が決めるんだぜぇ。お前らが命を懸けるってのもなぁ、俺の決断以外の何ものでも無ぇ。誰が死のうが、その責任は俺にあるんだぁ。ユーシン、お前ごときには何も背負わせてなんぞやらんから、それだけは覚えて置けぇ。分かったか、ガキィ!」
結局、「キグナス」から宇宙艇5隻、パイロット10人が、この決死行に参加する事になった。危険極まりない奇襲攻撃であるという事は、この10人のパイロットはもちろんの事、「キグナス」クルーの全員が認識していた。敵の設営した軍事拠点に、たった20隻の宇宙艇と戦闘艇で殴り込みをかけるのだ。全滅も十分あり得る。生きて帰って来る確率の方が低い、と言っても良いだろう。
「本当に行くの?ユーシン。何で?何でユーシンがそこまで命を懸けるのかが、あたしには分からないんだけど。」
ニコルは、縋りつく勢いでユーシンンに詰め寄り、問いかけて来た。
「ユーシンは宇宙艇要員ですらないんだよ。それに『ヤマヤ国』にも『ユラギ国』にも、戦闘艇のパイロットは沢山いる。ユーシンが今、こんな風に命を危険に曝す必要が、あると思えない。」
ノノも、ニコルの背後から心配顔をのぞかせて、言った。
「この奇襲が成功しないと、『イヌチヨーナ』は守り抜けない。『イヌチヨーナ』が『コーリク国』の手に落ちたら、『ユラギ国』も『ヤマヤ国』も危なくなる。『イヌチヨーナ』で関わりを持った人々も、俺に特別参謀や仲介役を託してくれた人々も、シャラナさんも、皆に悲しみや苦しみが訪れる事になる。」
(そしてもちろん、お嬢様にも。)
「でも、成功しなきゃいけないなら、プロの軍人さんに任せればいいんじゃないの?ユーシンが行かなきゃいけないの?」
ノノは食い下がって来た。彼を行かせたくない想いが、言葉に滲んでいる。
「うん。『コーリク国』は君主制の国だ。そして、おそらくこの闘いには、その君主も乗り出して来る。この奇襲では、その君主の乗った船、つまり、『コーリク国』艦隊の旗艦に損傷を与えるのが、最も効果的だともうんだ。で、多分だけど、敵の旗艦を見抜けるのは、俺だけのような気がしているんだ。」
「敵の旗艦を見抜く?ユーシンにはそれが出来るの?」
ノノが尋ねた。
「機構軍はこれまで、何百という君主制国家を敵に回して闘って来た。俺は、それらの闘いにおける、君主制国家の陣形ってのに、全て目を通した事がある。だから、陣形を見れば分かると思ってるんだ、敵の旗艦がどれかって事は。機構軍のデーターを、漁るように見て回って来た俺だけに、それは出来る事だと思う。」
「旗艦じゃ無きゃ、ダメなの?」
「旗艦が損傷を受けたら、修理が終わるまで、敵は絶対に進軍できないし、逆に、旗艦がやられたら、一刻も早くやり返したいって気持ちにも、敵軍はなるはずだ。旗艦には君主が乗ってるんだから、それが敵の、当然の心理的反応だと思うんだ。」
「それで、『コーリク国』軍の進軍のタイミングを限定させるのね。そこへ、防御する側の準備や意欲を最高潮に持っていく。それが出来て初めて、『コーリク国』軍の侵攻から『イヌチヨーナ』を守り抜けるようになるって、ユーシンは考えているんだね。」
「うん。まあ、そんなところかな。」
ニコルもノノも、ユーシンを引き留める事は、諦めたようだ。最初から引き留められるとも、思ってはいなかったようではあるが。
「なんだかユーシン、『ユラギ国』領に入ってから、人が変わったような気がするね。」
ニコルはまじまじとユーシンの顔を見ながら言った。
「私もそう思う。以前にも、戦闘になると少し人が変わるよに思ってたけど、こっちに来て、戦争っていうのが間近に感じられるようになって来ると、更に人が変わって来た気がする。軍師さんの血筋なのかな?」
ユーシン達は皆、宇宙の孤児だったから、親や先祖がどういう人間だったのかは分からない。だが、ユーシンも、戦争を身近に感じる事で生じる自身の内面の変化に、自分の家系や血筋が、何か戦争と深い関係があるものなのではという想いを持つに至っていた。
「とにかく、必ず生きて帰るから。正直、死ぬ気がしないんだ。油断かも知れないけど、俺がこの闘いで死ぬなんて事、あり得ないと思ってる。だから、必ず無事に戻って来るからな。約束する。」
「うん、絶対だよ。」
「そう、絶対に生きて帰って来るんだよ。」
そんな会話を、ユーシンは幼馴染達と交わしたが、直ぐに出撃という運びにもならない。ユーシンは、居住エリアの復興状況などを視察して回ったりして、時を過ごしていた。従来から「イヌチヨーナ」の人々が生活をして来た、リング状コロニーの中を歩く。物の修復は相当に進んでいる様子だが、多くの人が殺害されたり連れ去られたりした影響は、簡単には取り繕えないようだ。
建物だけは綺麗に再建された、伝統工芸品の工房が目に留まる。中に入ると、製造機器は損傷を受けたまま、取り残されている。特殊な機械類の為、機構軍から派遣されて来た技師達には修理できなかったそうだ。それを直せる「イヌチヨーナ」の技術者が、宙賊に殺されたり連れ去られたりして、今はいない。建物だけを直しても、この工房は操業を再開できないのだ。
ユーシンはブルーハルトに連絡を取り、その特殊な機械を修理できそうな人を探してもらった。半日ほど後に、見つけたとの返答が入った。数日後には派遣されて来ると言う。
概ねは再建が成ったコロニー内だが、同様なケースが多々あった。細かい一つ一つの要望や不足事項を聞き出しては、ブルーハルトを通じてそれを解消して行く。
決死の突撃を前に、ユーシンは地道な復興支援活動を続けて行ったのだった。住民達には、その作戦の事は知らされているはずも無い。遠慮も無く色々な要望を、ユーシンの前に並べ立てて来たが、ユーシンは全てに対して、丁寧に応じた。右から左からたたみ掛けられる要望事項を、委細漏らさずにブルーハルトに訴えた。決死行の事などすっかり忘れてしまう程に、多忙を極めたのだった。
奇襲攻撃を翌日に控えた就寝時、住民達の要望の、ブルーハルトへの通達を終え、床に就こうとして「キグナス」の通路をリーディンググリップに引かれて飛翔していたユーシンは、自室の前に人影のあるのを目に止めた。トアだった。
「トア?」
「ソリアノ星系」で、サヒーブと別れたとかいう発言を聞いて以来、彼女とはあまり話をした覚えも無い。告白じみた発言をされ、断ったような形になった事があったから、何やら互いに気まずい部分もあって、積極的に話をする事を避けていた部分もある。
そんな彼女が、突然ユーシンの部屋の前で、明らかに彼を待っているようなそぶりで、宙に浮かんでいるのだ。
「どうした?何かあったのか?」
「ううん、別に。」
「そうか。・・元気?メンテナンス要員も、色々忙しいんだろ?」
何を言っていいかも分からず、当り障りのない発言をした、ユーシン。
「明日、奇襲攻撃に向かうんでしょ?・・あの、絶対生きて帰って来るって・・信じてるけど、でも、もしかしたら、・・その、これが、最後に・・」
「ああ・・、うん。必ず帰るつもりだけど、敵の兵站基地に突撃するからね、帰れない可能性は、当然・・あるな。」
「あのね、・・あの、ユーシンがシャラナさんを想ってるって、知ってるけど、でも・・、でも、あたし、あたしね・・」
(ええ?シャラナさん・・、いや、違うんだなぁ・・)
未だにトアは、ユーシンの気持ちがシャラナにあると勘違いしているようだ。
何を言って良いか分からないユーシン。ただ黙って、トアを見るだけだった。
「御免ね、こんな事・・。でも、もし・・もう、会えなく、なるなら・・」
といった途端、トアは電光石火の急接近を見せた。あっと思う間も無く、ユーシンはその唇に、トアのぷっくりした唇の感触を覚えていた。
そしてまた、あっと思う間もなく、トアはユーシンの視界から外れた。一瞬、トアがどっちに行ったのかすら、分からなかったユーシン。気配から左だと察知し、そちらに首を向けるが、一目散に離れて行く彼女の背中を見送るだけで、声一つかける事も出来なかった。
混乱する思考を立て直し、今起こった事を整理しようと、ユーシンは天井に視線を移した。しかし、何か考える前に、遠くからトアの声が聞こえる。
「ファーストキスなんだからね。少しは有り難く思ってね。」
混乱は増すばかりだった。でたらめに駆け回る思考の中で、何故だかはか分からないが、ユーシンは、ハーフナイトにふさわしい立ち居振る舞いというものを、ブルーハルトにじっくりと教わらなければ、いけないような気がしていた。
そして遂に、奇襲攻撃決行の時が来た。
「必ず、生きて帰って来るんだぜぇ。」
何度目か分からないその言葉をバルベリーゴに送られ、仲間達と握手したり抱擁し合ったりしてエールをもらった後、「ヤマヤ国」の小型戦闘艦に乗艦した。“ノノちゃん派”のファランクスは、この機会にノノを腕の中に掻き抱くことが出来て、満足気な顔を浮かべていた。
戦闘艦はオールトの海の外縁部を目指す。スペースコームジャンプとタキオントンネルを組み合わせて、半日ほどで到着した。そこからは、まず暫時型タキオントンネルで出撃する。恒久型の場合は、2基のターミナルで挟まれた空間の移動だから、一直線の軌道上しか飛べない。だが、暫時型の場合は1基のターミナルから放射されたタキオン粒子の濁流の中を飛ぶ事になる。だから、目的地にターミナルを設置する必要は無く、どの方向にでも飛び出せるのだ。
1基のターミナルで1光年ほどの距離を稼げる。ターミナル自体もタキオントンネル航法で運搬し、それを使って2回目3回目のタキオントンネル航法を実施する事で、数光年の距離も進む事が可能だ。
攻撃目標は、第1兵站と彼らが名付けた遊離惑星だ。その衛星軌道上に敵艦隊が駐留している。最も「コーリク国」領に近い。その事と、無人探査機が突き止めた、ここに駐留している戦力状況から、敵旗艦は第1兵站にいるとユーシンは判断していた。狙うはその旗艦1艦のみだ。これに損傷を与え、敵の進軍を遅らせる。
第1兵站の設営された遊離惑星から少し離れた位置に、もう一つ巨大天体があった。同伴する天体を持たない単独の白色矮星だ。燃え尽き、星系を成していた惑星等の天体からもはぐれ、孤独に虚空をさまよう白色矮星が、偶然にも第1兵站の近くにあったのだ。近いといっても、1光年近い距離はあるのだが。
産業的利用価値が無い事から、その存在は忘れ去られがちだ。星域図にも載っていない事が多い。「コーリク国」も、その存在すら認知していない可能性が高いのだが、これを使って方向転換のスィングバイは出来る。体積が小さい割に密度が高い白色矮星を使った方向転換は、非常に小半径に出来るメリットもある。核融合もしていないから、質量中心にかなり近付けるからだ。その遠心力に耐えるパイロットには、辛いものでもあるが。
天体を使ったスィングバイは、隠密性の高い方向転換の方法だ。スラスター噴射などをすれば、直ぐ敵に、熱源探知されて見つかってしまうが、スィングバイならば見つかる気遣いは無い。ビームセイリング航法やタキオントンネル航法も、そのビームやタキオン粒子が敵に観測されないようにすれば、隠密性の高い行動が可能になる。
奇襲攻撃だから隠密性が重要だし、敵が思いもよらない方向から接近した方が、断然有利だ。白色矮星を使ってのスィングバイは、奇襲攻撃にはうってつけの方向転換手段だ。標的の遊離惑星と白色矮星に、それほど大きい相対速度が無い為に、このスィングバイでの加減速は、あまり大きくは無い。
一回目のタキオントンネル航法が終わると、ユーシン達は白色矮星の近くに達した。タキオントンネルの軌道は、敵のいる第1兵站の方向からはずれているので、敵がタキオン粒子を観測する事は有り得ない。恐らくは、この白色矮星の存在を意識していないであろう敵が、この付近に探査機などを配置している可能性も低い。隠密性は保たれているはずだ。
ユーシン達は宇宙艇に乗り込んでいるが、その宇宙艇も専用のタキオントンネル航行船に収容されている。タキオントンネル航法にはラディカルグルーオン生成装置が必要だが、奇襲攻撃用の宇宙艇には積めないので、それを積んでいるタキオントンネル航行船に、宇宙艇等は収容されているのだ。その宇宙船に、もう1基のタキオントンネルターミナルも積載されている。
ユーシン達と宇宙艇とターミナルを乗せた宇宙船は、白色矮星でスィングバイをして、第1兵站へと向かう軌道に乗る。窓の無い船内からは、白色矮星の姿は拝めなかったが、拝む価値の有るような印象的な光景は、与えてくれなかっただろう。核融合もせず大気も持たない白色矮星の見た目というのは、不愛想この上ないものだ。
仮に美しい姿であったとしても、歯を食いしばって遠心力に耐えていたユーシン達に、その景色を楽しんでいるゆとりは、なかっただろう。
そこから、2回目のタキオントンネル航法だ。タキオントンネル航行船に搭載されていたターミナルを展開し、そこから放射されタキオン粒子の濁流に、身を投じる。
タキオン粒子の放出強度は、第1兵站の手前で粒子が消失するように調整され、敵にタキオン粒子を観測させないようにした。隠密性維持の為だ。
タキオントンネル内で、物質と反物質の対消滅のエネルギーを利用して、光速の1%程に減速したタキオントンネル航行船から、ユーシン達の乗った宇宙艇は発進した。「ヤマヤ国」の戦闘艇も従う。「キグナス」の宇宙艇5隻と「ヤマヤ国」の戦闘艇15隻の、20隻編成の奇襲部隊だ。
攻撃は、一撃離脱だ。ヒット&ランだ。光速の1%という攻撃可能限界速度で敵を掠め飛び、一撃を入れて、そのまま飛び去る。長居は無用だ。一瞬の勝負だ。
宇宙艇や戦闘艇が装備して来たミサイルは、徹甲弾だ。貫通力に優れており、散開弾で前方を阻んだところで、かなりの確率でそれを突破して標的へと進んで行くだろう。多少は軌道を変えられる事があるかもしれないが、図体の大きな戦闘艦を外す程に軌道を変更させることは難しいはずだ。そして徹甲弾は、敵艦装甲に突き刺さった後、時限式で内部炸薬が爆発、敵艦内部に激しい損傷を与えるのだ。
各宇宙艇、戦闘艇は、それを2発ずつ搭載しているが、それを撃ち尽くせばもう、攻撃の手段は無い。レーザー銃すらも、今の彼等には無い。攻撃後は、逃げるのみだ。
問題は、敵の迎撃を受けずに事を済ませられるかどうかだ。たった20隻で大多数の敵の真っ只中に突っ込むのだから、迎撃を受ければ、ひとたまりも無い。それに、光速の1%という速度は、敵の攻撃を回避する事など、不可能と考えるべきだった。敵に迎撃態勢を取らせる前に、攻撃を終わらせ立ち去ってしまわなければならない。奇襲攻撃とは、そうしたものだ。
「そろそろ、敵のレーダー索敵圏内だ。事ここに至れば、もう祈るしかないな。敵が、迎撃して来ない事を。」
ファランクスはユーシンに告げた。伴に飛行する宇宙艇や戦闘艇とは、通信は出来ない。電波を放出すれば、適に気付かれてしまうから。同じ戦闘艇に乗っている者同士のみ、会話が可能だ。
「この軌道上に、宇宙艇に損傷を与え得る大きさの障害物がない事は、無人探査機による調査で判明しているけど、もし敵が探査の後に障害物でも敷設していたら、それだけでも終わりだよな。この方向からの攻撃を、適が全く予測していない事が大前提の、奇襲作戦だからな。」
と、ユーシンは答えた。言葉の深刻さに比して、表情は穏やかだ。
レーダー波も出していないから、障害物を置かれていても見付けられない。レーダー波を出していたとしても、この速度での回避はほぼ不可能に近い。迎撃をされないどころか、念のために障害物を敷設しておく程度の対策を適に講じられているだけでも、命取りだ。敵が奇襲に気付かない事を、対策を取っていない事を、ただひたすら祈るしかない。
奇襲部隊は、一団となって虚空を疾走している。完全に等速直線運動だ。いくら早くてもこれだけ単純な運動だったら、レーザー射撃も百発百中だ。敵による迎撃は、本当に命取りなのだ。
祈るだけの、胃がキリキリするような時間を過ごした後、彼等の宇宙艇は、レーダー波を検知した。敵に見つかったという事だ。早くも敵に発見されてしまったのだ。
だが、ファランクスは無言を貫き、何の反応も示さない。ユーシンも、同じく無反応だ。共に飛んでいる奇襲部隊のいずれも、何の反応も示さない。
通信が出来ないから、他の宇宙艇や戦闘艇の中の様子は分からないが、奇襲部隊参加者の誰一人、驚く事も慌てる事もしていない事は、ユーシンには分かっていた。予定通りだからだ。
レーダー波検出は複数回に及んだ。敵が、こちらの位置も数も運動状態も把握した事を示していた。それでも、相変わらずファランクスもユーシンも無反応だ。絶対に迎撃を受けてはいけない奇襲攻撃で、敵のレーダー照射を受け、発見された事が明らかだが、無反応だ。そのまま等速直線運動で突き進む。
「そろそろ、こっちもレーダー照射すべきタイミングだな。」
レーダー照射のタイミングは、予めコンピューターにインプットされているので、手動で何かするわけでは無い。自動的にレーダーは照射された。レーダー波反射の状況が、ディスプレー上に示される。それを一瞥して、ユーシンの眉はピクリと動いた。
前方の空間に、奇襲部隊に直交する角度で円盤状の面を形成するように、敵戦闘艇多数が並んでいた。それらは完全に、ユーシン達の奇襲部隊を待ち構えている体勢だ。レーダー照射で位置も数も運動状態も把握した上に、彼等の前方に戦闘艇多数を、攻撃態勢を整えて待ち構えていた。
迎撃を受けたらひとたまりも無い彼らの行く手を阻むように、多数の敵戦闘艇が、攻撃態勢を整えて待ち構えているのだ。距離と速度を考えれば、散開弾攻撃をされたら回避の手段は無い。ばら撒かれた金属片を弾き飛ばす為の、進路開削弾を搭載していたとしても、それを使っている時間的余裕はないのだが、彼等はそんな弾種は装備していなかった。
「大丈夫なのか?」
ファランクスが問いかけて来た。
「もう、こうなったら、行くしかない。」
淡々と答えたユーシン。その額に汗がにじむ。油汗だか冷や汗だかは、分からない。無重力だから、流れ落ちる事も無い。
必ず生きて帰る。そんな約束を、綺麗さっぱり忘れ去ったかのように、奇襲部隊は、待ち構える敵戦闘艇群を目がけて、等速直線運動で、無謀としか思えないような突進を続けているのだった。
今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は '17/9/29 です。
ユーシンが住民に寄り添った復興支援活動をしているあたりは、うまく伝わったでしょうか?一方的に何かを押し付ける支援者本位の支援じゃなくて、一人一人から、一つ一つの要望を丁寧に聞いて対処している、被災者本位の活動をしてる様子を、描きたかったのです。そこが伝わらないと、後々の展開がピンと来なくなる?かも。あと、白色矮星を使ったスィングバイをするあたりも、ご理解頂けましたでしょうか?スィングバイを加速のみの手段だと思っている人もいるようなので、そこらへんも分かるように書こうとしたのですが、上手くいきましたでしょうか?今回はあくまで、方向転換の為のスィングバイなのです。惑星の公転速度や、目的地に対する相対速度を"もらう"とか"あげる"とかするのが、加減速を伴うスィングバイ、と作者は理解していて、それを表現したかったのですが、やはり難しいですね。作者の認識が間違っていたら、ご指摘下さい。というわけで、
次回 第69話 開始迫る星系攻防戦 です。
決死の奇襲攻撃も、何やら危なっかしい感じがしているはずですが、所詮、敵の侵攻を遅らせる為だけの攻撃です。この奇襲を成功させ、さらには、「コーリク国」の本格侵攻を阻止しなければいけません。ユーシンは、「キグナス」クルー達は、どうなるでしょうか?次回を心待ちにして頂きたいところです。




