第67話 復興と防衛と
機構軍から送られて来た救援物資には、「ヤマヤ国」の者も「ユラギ国」の者も、腰を抜かすほどに驚きを露わにしていた。ユーシン達でさえ、驚きを隠す事は出来なかった。
まず、小型とは言え、円筒形スペースコロニーが丸々一個、送られて来た。何百基と取り付けたスラスターで、宇宙を飛翔して来るだけでなく、ワープまでやったというのだ。
航宙能力のあるスペースコロニーというのも、ユーシンは初耳だったのだが、スペースコロニーが飛ぶ時は、横方向に進んで行くというのも意外だった。表面積が大きい側面の方が、たくさんのスラスターを効率よく並べられるらしい。宇宙を飛ぶのだから、当然、空気抵抗を考慮する必要は無い。
コロニー内には農場や牧場や生け簀といった、食糧生産に必要なものを始め、病院、工業生産設備、学校などの生活に必須なものに、更に加えて、映画館や遊園地などの娯楽施設まで入っていた。第3惑星の軌道上に暮らしていた者達は、そのコロニーに移住するだけで生活が可能になるどころか、宙賊の襲来以前より質の高い暮らしが出来る程だった。
だが、彼等の元々の住居であるコロニーの修繕にも、機構軍から滔々と送られて来た多数の技師達は、精力的に、迅速に取り組んだ。第3惑星だけでなく、同じく軌道上のコロニーに人が居住している第4惑星にも支援の手は及び、10日とかからずに「イヌチヨーナ星系」の生活環境は、元通りに近い状態に回復された。
とは言っても、物は直せても、死んだ人は生き返らせることは出来ない。「イヌチヨーナ星系」の外に連れ去られて行った人々も、戻って来たわけでは無い。生活面での安心感が広がると共に、死んだ者を悼む想いや、連れ去られた人を取り戻したい想いが、住民達の間に募って行った。更に、今後の「イヌチヨーナ星系」や「ユラギ国」の防衛というところにまで、人々の想いは及んでいく。
そもそも、防衛がしっかりしていれば、誰も殺されたり連れ去られたりする事は無く、こんな辛く苦しい思いなどはしなくて済んだのだ。しかし、「ユラギ国」の現状では、十分な防衛は望みえない。国力の弱い「ユラギ国」が安全を確保する為に取りうる手段があるとすれば、それは宇宙保安機構軍の力を借りる事だ。
今、復興再建で見せつけられている機構軍の実力を前に、「イヌチヨーナ星系」の住民から、機構軍と同盟せよとの要望が、国家の最高意思決定機関である族長会議に、突き上げられるに至ったのだった。
「何で今まで、機構軍と同盟しろって話が、出て来なかったんだ?」
サムダージュから「イヌチヨーナ星系」の復興状況に関する説明を聞いた後、ユーシンはそんな疑問を投げかけた。
「機構軍に対する拒絶反応は、年配層には根強いが若年層にはそうでも無かった。だが、ここまで深刻に、国民の生活や生命が危険に曝された事は、今までになかったから、族長始め、年配者たちの意見に、若年層も積極的に反対しようとはしなかった。目先の調和を優先して、国家の防衛とか安全といった問題を後回しにして来たところが、我が国にはあったのだろう。」
「間抜けな話だな。」
サムダージュの説明に、キプチャクは辛辣な意見を述べた。「目先の、小さな揉め事とか対立を避けようとして、結局、大切な人を殺されたり連れ去られたりする結果になってしまったんだからな。機構軍に頼らなければ、国の防衛が危ういと思ってるんなら、年寄り連中と多少の対立や諍いが生じようとも、機構軍への拒絶反応なんてねじ伏せれば良かったんだ。」
「まあ、そう言うなよ。『ユラギ国』じゃ、教育も情報通信も整っていないんだ。宙賊や『コーリク国』の脅威なんて、現実の問題として考えられる状況じゃ無かったし、一般市民には、国の防衛なんて大きな問題を考えるのは、荷が重すぎるだろう。」
ユーシンはそう言ってキプチャクを宥める。
「そうかぁ?俺が『ユラギ』の人達から話を聞いた範囲では、皆、少しは不安に思ってたみたいだぜ。単独での国の防衛には。国力に関しても、『ヤマヤ国』にすら大きく溝を開けられた状態になってしまっていて、何とかしなければって思いは、『ユラギ国』の誰もが持っていたって、俺の話した奴は言ってたぞ。」
「でも、機構軍は信用ならない奴等だって、幼いころから言い聞かされて来たんだろう。『ユラギ』の人々は皆。年配層ほどの拒絶反応は無いにしろ、若年層も、積極的に機構軍を信用する根拠は無かったんだ。侵略への脅威に対しても、差し迫った現実味を感じてなくて、機構軍も信用出来ないって言い聞かされて来てた人達が、漠然と国の防衛に不安を覚えていたからって、年配層と対立してまで機構軍との同盟を要求するなんて、やっぱり無理だったんだよ。」
「だけどよぉ、人口も4割くらい減ったって言うぜぇ、『イヌチヨーナ』は。被害の甚大さを考えると、国の防衛に対する無知とか無関心って、恐ろしい事だよな。」
ユーシンも、そのキプチャクの意見には、頷くしか無かった。
「族長会議は、機構軍との同盟を認めるかな?今回の支援の受け入れに関しては、渋々ながらも了承はしてくれたんだろ?」
「うむ。軍の進駐は絶対に認めない。復興が遂げられ次第、一切の交流を断つ。などの条件は付けられたけどもね。」
サムダージュが苦笑して答えた。
「何っっちゅう自分勝手な意見だ!これだけの支援を受けておいて、復興が完了したら、ハイさよならで、赤の他人ってか?それに、今後の防衛も、連れ去られた人たちの救出も、『ユラギ国』は自前ではやれねえんだろう?そんな事、言ってる場合かよ!機構軍への拒絶反応ったって、今、機構軍が、民生部門とは言え、『イヌチヨーナ』でやってることを見れば、解消されて然るべきだう!」
キプチャクは憤った。
「おい、キプチャク。いつもの機構軍嫌いはどうしたんだ?」
「それとこれとは、別だ!っていうか、機構軍嫌いの俺から見ても、今の『ユラギ国』の状況じゃあ、頼るしかないって事は、一目瞭然なんだ。確かに、機構軍も悪辣な事をたくさんして来たし、悪辣な輩が内部に大勢いるし、だから俺も嫌いなんだが、それでも、頼らなきゃならない場面がある事は、認めるしかねえんだ。認めるしかねえって事が、また癪に障るから、機構軍嫌いにも拍車が掛かるんだが、嫌い、嫌いと言いながら、頼って行くのが機構軍ってもんなんだよ。それが分からねぇ『ユラギ国』の族長共ってのは、阿呆だぜ。」
ここでサムダージュが、口を挟んで来る。
「族長達が色々条件を付けて来たのは、機構軍の支援が開始される前の事だ。今の支援の状況や、『イヌチヨーナ』の復興実績や、それに何より、『イヌチヨーナ』の市民たちの、機構軍との同盟に対する要求の高まりを受ければ、族長達も考えを改めざるを得ないと思うな。それ以上に、族長会議を最高意思決定機関としている、『ユラギ国』の統治機構そのものに、族長たち自身が疑問詞を付けるかもしれん。」
ユーシンは首をかしげながら、サムダージュの発言に疑問を呈した。
「族長たち自身が、自分達に疑問詞を付けるのか?なんだか、頼りない指導者だな。そんな人達に国のかじ取りを任せておいていいのか?」
「今の政体は、成り行きで出来上がったにすぎないからな。」
サムダージュは、ため息交じりに語る。「かつては機構軍指導の元、民主体制が確立しつつあった。機構軍の裏切りでそれが頓挫した後、君主制と族長達による集団指導体制を行きつ戻りつして来た。20年程前までの約10年間は、それなりに英明な君主を頂いて、安定した統治が出来ていた。宙賊に付け入る隙を与えないくらいの軍事力も、維持できていた。機構軍と袂を分かちながらも、防衛に不安は無かった。だが、その君主の崩御以来、暗君が続き、国力は衰え、軍事力も防衛力も、宙賊の跳梁を許す程に低下してしまった。君主の成り手が無い為に仕方なく、族長会議という統治形態に切り替えたが、族長というのはそれぞれの出身部族の利害を最優先に考えざるを得ない立場だからな。国全体を指導する組織としては、十分機能していないのが現実だ。それは、族長達自身も自覚している。」
「自分達には無理って自覚しながら、権力の座にしがみついてんのか?そのジジイ共は。」
「そうじゃないだろ、キプチャク。話を聞いてたか?君主の成り手がいないから、仕方なく国の指導者をやってるんだろ、族長達は。」
キプチャクにはそう言いながら、ユーシンも族長達には不満に思う事がある。
「族長達は、どうしようとしてたんだ?自分達で国を運営する自信は無いし、機構軍に頼るのは嫌だし、君主の成り手も見つけられ無いし。完全にお手上げ状態だったのか?それは、国の指導を託された者として、あまりに情けないよな。」
「君主を見つける努力は続けていたさ。俺に任せろ、と手を上げる人間は無数にいるからな。1人1人面談したり、色んなテストをしたりしていた。だが、族長達による協議制の方がマシだと思える人物しか、今の所は、見当たらないようだ。」
「そんなに阿呆ばかりなのか?『ユラギ国』って。」
「おい、こら、キプチャク。何ちゅう失礼な言い方だよ、それ。」
「でもよう。そんなにもなり手が見つからないって・・」
「難しいんだろうよ、君主を選ぶなんてのは。本人の能力だけでも、成れないだろう?権威ってもんが備わっていないと。」
「権威?なんじゃそら。」
キプチャクは首をかしげる。
「この人に付いて行こうって、皆に思わせる力ってやつかな。王政国家なら家柄とか血筋とかだし、民主制国家なら選挙で選ばれたって事実が、権威になるんだろうけど、『ユラギ国』の場合はどうなんだろう?」
「うむ」
サムダージュは少し考えてから言った。「権威のある家柄や血筋というものは、あるにはあるが、その出身者に国政への能力も意思も、持っている者はいないのが現状だな。それ以外となると、やはり族長達から選ばれたっていうのが、一番の権威になるはずだが、族長達への信頼が薄らいでいる今、それだけでは不十分なのだろう。といって、民主制に移行するには、教育や情報通信が未発達すぎる。民の知識量や情報力や政治的主体性というものが発達しないと、民主制も上手く行かないだろう。」
「八方ふさがりだな。」
額に手を当てて言ったキプチャク。
「シャラナ殿に女帝をやってもらおうという意見もあったな、そう言えば。彼女は『ユラギ』国民に人気と信頼が厚いし、人柄や能力も秀でたものがある。自ら政治権力を求める野心は無さそうだが、任されれば、熱意と責任感を持って取り組んでくれそうだ。だが、彼女の名が挙がった時、彼女は既に『ヤマヤ国』の人間だった。『ヤマヤ国』にその旨を打診した事もあったようだが、けんもほろろに断られたそうだ。」
「そりゃそうだろ!」
力強く言い切ったキプチャク。「あんな美人でスタイル抜群の女人を、そう簡単に手放す奴があるか!」
「そういう理由か?」
「まあ、そんなこんなで、シャラナ殿の話は露と消え、他に権威と能力のある者を、探す事になったわけだ。」
「そんな事をしている間に、軍事力や防御力の低下した隙を突かれ、宙賊に『イヌチヨーナ』の占拠を許してしまったって事か。」
「うむ、だがこれを機会に、何かが変わるかもしれん。」
サムダージュの瞳に、少し力が籠った。「宙賊の侵攻で、多くの命は奪われたが、民生部門だけとはいえ、機構軍との接点が出来た。この事で、市民からは機構軍との同盟を求める意見が噴出して来たし、族長達も、機構軍を見直す根拠を、沢山目の当たりにしただろう。彼らの支援の手厚さといい、復興実績の確かさといい、想像以上だ。それに、あのブルーハルトとかいう人物。まだ、かなり若いのだろうが、ただ者では無いと見える。彼の話している様を見せるだけでも、族長達の気持ちは変わりそうに思えて来る。」
「ブルーハルト大佐は、間違い無くただ者ではありませんよ。」
ユーシンは、まるで自分が褒められたかのように、胸を張った。ハーフナイトの片方が褒められた事は、もう片方が褒められた事にもなるのだろうか。
「あの人は、銀河を背負って立つ男です。」
「ほう、銀河をねぇ。」
サムダージュの浮かべた笑みを、失笑と見たのか、ユーシンは更に語った。
「大げさでも勘違いでも無いですよ。全宇宙の安全保障体制を根底から見直す、銀河連邦構想というものを、大佐は提唱しているんです。それに賛同する人も、地球連合勢力内に数多くいます。少なくとも、大佐が銀河全体を見据えて活動している事は、確かです。」
「俺も、機構軍は嫌いだけど、大佐の事は買ってる。あの人は、何かをやり遂げる人だ。」
「ほほう。銀河を背負って立つ男か。そんな男がいる一方で、『ユラギ国』を背負う人材が見つからんのだからなぁ。世は理不尽なものだよ。」
サムダージュは溜息を付いた。国の行く末を憂う男の横顔を、ユーシンは脳裏に焼き付けた。
だが、その数日後、族長会議が地球連合との同盟締結を決定し、機構軍に全面的な支援を要請する事も認めた。ただし、1つだけ条件は付いた。「ユラギ国」との交渉担当者として、ブルーハルト大佐を指名したのだった。更に、仲介役にユーシン・マグレブを指名した。この2人を交渉の席に着けることで、族長達を始め「ユラギ国」の年配層は、機構軍への拒絶反応を克服したようだ。
復興と並行して、「コーリク国」への備えも進めなければいけなかった。「ユラギ国」が復興に全力で臨んでいたので、「コーリク国」対策は「ヤマヤ国」主導で行われた。
「機構軍から拝借した無人探査機の性能は、絶大なものがあります。それらを機構軍による支援の開始と同時に、『コーリク国』方向に送り出しておいたので、敵の侵攻への動きは、いち早く、詳細に察知できるはずです。」
「ヤマヤ国」艦隊旗艦での作戦会議の席上で、ヤモカーケスはそう言ったが、ユーシンは別の事を言った。
「『イヌチヨーナ星系』近隣にある、無人天体の状況は把握できていますか?」
「近隣の?」
問い返す、ヤモカーケス。
「敵は『コーリク国』領から一直線に『イヌチヨーナ星系』を目指すのではなく、一旦近隣にある無人の天体を占拠し、それを兵站基地にして、『イヌチヨーナ』を目指すと思うんです。」
「何故ですか?」
ユーシンに向かって、疑問の声を上げたヤモカーケス。「敵は機構軍が介入してくる前に、『イヌチヨーナ星系』の制圧を完了したいはず。いや、それどころか『ユラギ国』や『ヤマヤ国』全体も支配下に置くことを狙って、軍を起こすと予測されているのです。そんな流暢に無人天体の制圧などするでしょか?」
「急ぐからこそ、きちんと兵站基地を確保して取り掛かって来るのです。それも4カ所の兵站基地を確保するはずです。」
「4か所?」
また、ユーシンに疑問の声を上げたヤモカーケス。
「『イヌチヨーナ星系』を立体的に包囲する為です。星系の制圧を最も迅速に実施するには、4か所以上から立体的に包囲して、一斉に攻撃を掛けるのが効果的です。特に、戦力的には向うの方が大きい事が予測されるのですから、尚更です。援軍の合流や、脱出逃亡を防ぐ意味でも、立体包囲は必要になります。」
「援軍というのは、機構軍を意識しているという事ですか?機構軍が来る前に勝負を決してしまおうと、敵は考えているのにですか?」
「いえ、機構軍では無く、『ヤマヤ国』や『ユラギ国』から援軍が駆けつける事を想定してです。『ユラギ国』や『ヤマヤ国』の制圧も企むのなら、そこにある戦力を分断して各個に撃破するのが合理的だ。この作戦において、援軍が『イヌチヨーナ星系』に駆けつけるにしろ、『イヌチヨーナ星系』の戦力がここを脱出して別の宙域に逃げ込むにしろ、『ユラギ国』や『ヤマヤ国』の戦力が合流する事は、敵としては望ましく無い。それを阻止する為に、敵は必ず4カ所以上からの立体包囲で攻めて来ます。とは言っても、戦力分散も最小限に抑えるのが鉄則ですから、やはり4か所でしょう。」
ヤモカーケスは腕組みをしてしばらく考えに沈み、そして言った。
「なるほど、よく分かりました。しかし、ユーシン殿は、お若いのにずいぶん戦略論にお詳しいですな。商船の操船見習いとは思えませんぞ。」
「いや、まあ、機構軍の戦闘データーなどを、事細かに閲覧していた時期がありまして・・その・・守りたいものを守るのに、必要になる事もあるかなと思って・・」
その守りたいものに付いては、ヤモカーケスは追及するつもりは無さそうだ。
「そうですか。やはり、機構軍のデーターが自由に閲覧できる、半軍商社というのは有利なものですな。」
そこで、それまで黙って話を聞いていたタケマヤル総司令官が口を開いた。
「つまり、『イヌチヨーナ星系』を立体的に包囲できる位置にある、4か所の無人天体に、『コーリク国』は兵站基地を作るという事だな。そうなると、兵站基地候補は相当に限られて来るぞ。中心に恒星のある星系であれば、十分に用を成すだろうが、そう都合のいい位置に、星系があるという事もあるまい。遊離惑星とか、岩塊群とか、そういった天体が利用されるだろうな。では、まずは条件に合う天体をピックアップして、そこに無人探査機を大量に送り込むとするか。」
そんなやり取りの数日後には、「コーリク国」が兵站基地にしようとしている天体が判明した。送り込んだ無人探査機が、兵站基地建設の兆候を捕えたのだ。資源採取船や建設途中の軍事施設等が多数発見された天体が、4つあったのだ。その4つは、「イヌチヨーナ星系」を立体的に包囲できる位置関係にあった。
「この4つの天体で間違い無いな。ユーシン殿の言った通り、この4天体から敵が一斉に攻めて来るはずだ。」
地球連合とその同盟国の間では、宇宙での方位の示し方が統一されている。銀河中心方向を“北”、外側方向を“南”とよび、更に銀河基準面と銀河標準上下も設定されている。頭を上に向け北を正面に見据えれば、右側が“東”で左は“西”だ。そして東西南北上下で、方位を示すのだ。
「『イヌチヨーナ』から真北にある遊離惑星と、西上にある遊離惑星、東上ににある岩塊群、そして南下にある星系の4つが、『コーリク国』の兵站基地にされつつあります。すべて、『ユラギ国』領内です。便宜上、それぞれ第1兵站、第2兵站、第3兵站、第4兵站と命名しておきます。第1兵站が、最も『コーリク国』領近くに位置します。」
ヤモカーケスが報告した。会議室中央にはホログラムが設えられ、「イヌチヨーナ星系」と「コーリク国」の兵站基地になろうとしている4天体が図示された。参加者はホログラムを、取り囲むようにして見ている。
「兵站基地を完成させる前に、こちらから戦力を繰り出して、これらを叩くという策も考えられるが、どうか?」
タケマヤルは下問した。ヤモカーケスが答えた。
「総戦力はこちらの方が少ない状況です。むやみに戦力を出して、その隙を付かれればひとたまりもありません。兵站基地建設を座して眺めるのは、癪ではありますが、先制攻撃策は無理があると思います。オールトの海を基地化して、そこに敵を引き付けて撃つというのが、取りうる唯一の戦略かと。」
「そうか。」
タケマヤルは頷くと、更に言った。「となると、市民生活の再建も随分進んで来た事だし、市民からも志願兵を募り、軍民一体となって、総力を挙げた防衛体制を敷く必要があるな。敵の兵站基地完成と共に、全戦力をオールトの海の防衛球面に張り付け、準備も戦意も最高潮の状態で待ち受けるとするか。」
「“完成してすぐ”は、ちょっと早いんじゃないかなぁ」
ユーシンも特別参謀として、積極的に意見を差し挟む。「最高潮の戦意とか防衛体勢とか、そんなに長く続けられるのですか?敵は、兵站基地が出来たからって、直ぐに攻めかかって来るとは限りません。機構軍介入前に事を済ませなければいけないから、それほど時間を掛けはしないだろうけど、こちらの状況を見ながら、戦意や体勢が最高潮じゃないタイミングを見計らって攻撃して来る、くらいの事はすると思いますけど。」
「しかし、仕掛けるタイミングは敵の任意に委ねられているのだから、出来るだけ最高潮を維持しつつ、待ち続けるしかないだろう。」
「タイミングを、限定させてやればいいんじゃないかな。」
「ほう?」
少し凄味を効かせたユーシンのもの言いに、タケマヤルも思わず身を乗り出し、続きを促す。
「兵站基地を、先制攻撃で叩き潰すのは無理としても、ちょっとちょっかいを掛けて、進攻を遅らせる事は出来るはずです。遅らせてやれば、機構軍介入前に事を済ませたい『コーリク国』には、焦りが出て来るだろう。攻撃準備完了から進軍までに、ほとんど余裕が無く、タイミング選択に自由度が無い、って状態に誘導できると思います。」
「ちょっかいとな?」
ユーシンの提案に、身を乗り出しつつも首をかしげるタケマヤル。
「20隻くらいの戦闘艇で、奇襲攻撃を掛けるのが良いと思います。敵はまさか、そんな少数戦力での攻撃があるとは思っていないだろうから、隙はあるはずです。」
「なんと、大胆不敵な作戦だな。危険は大きいが、それで敵の進軍のタイミングを限定させられれば、戦況はこちらに、かなり有利に傾くだろうな。」
タケマヤルは、早速、奇襲攻撃部隊の編成に取り掛かった。それは決死部隊と言って良い程に、危険に身を曝す戦力という事になる。だが、選ばれた「ヤマヤ国」兵士たちの士気は高かった。力と数で圧倒して来ようとする敵の、鼻っ柱をへし折るような作戦に、彼等は勇み立ったのだった。
「何ィっ!お前も奇襲攻撃に参加したいだとぉ!滅茶苦茶危険な作戦だぞ。死ぬ覚悟はあるのか?」
「キグナス」の航宙指揮室で、バルベリーゴが声を張り上げた。
「俺が言い出した作戦だぜ?これで、危険な事は『ヤマヤ国』の兵だけに押し付けたんじゃ、格好付かないだろう。」
命に関わる相談だというのに、少し冗談めかして発言しているユーシンに、バルベリーゴはやや憤ったようだ。
「馬鹿かお前は!恰好がどうこうで決めるような事じゃねぇだろう。本気で、死んでも後悔しねぇだけの覚悟がねぇようじゃぁ、そんなもん、認める訳に行くかぁ。」
「覚悟だったらあるさ。」
突如表情を引き締めてそう言ったユーシンの眼光には、バルベリーゴも背筋がぞくっとする程の力強さがあった。
「・・・本気、なんだな?」
バルベリーゴも表情を改めた。
今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日、 '17/9/23 です。
「ユラギ国」の政治史とか、「コーリク国」の戦略とか、ちょっと堅苦しい話が多かったでしょうか?なるべくとっつき易くなるように、キプチャクにとぼけ気味の発言をさせたりしてみたのですが、どうでしょう?国防に関する危機感や関心が薄いとか、書きながら他人事じゃないなって思ったりもしましたが、読者様方はどう思われたでしょう?そして、侵略への防衛戦争が、いよいよ本格化し「キグナス」もユーシン達も、それにがっつり巻き込まれる感じになって来ました。固唾を飲んで見守ってほしいと、作者は切に願っております。というわけで、
次回 第68話 決死の奇襲攻撃 です。
敵兵站基地への、たった20隻程の宇宙艇での殴り込みという、命懸けの作戦が慣行されようとしています。ユーシンも参加するのでしょうか?物語はどんどん、緊迫の度を増していきますので、是非、ご注目頂きたいと思います。




