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銀河戦國史 (星々を駆る重武装宇宙商船「ウォタリングキグナス」-ヤマヤの虜囚-)  作者: 歳越 宇宙(ときごえ そら)
ヴォーソム星団・キークト星団の章
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第65話 イヌチヨーナの惨状

 敵戦闘艦4艦は加速する。その周囲を漂う岩塊の破片達も加速しているようだ。岩石にスラスターを取り付けたのだろう。艦隊の盾にするつもりのようだ。レーダー波を前方の「ヤマヤ」艦隊に叩き付けながら、牙を剥き出さんばかりの突撃を続けている。

「敵の攻撃目標は、オールトの海攻略に参加している「ヤマヤ」艦隊だなぁ。この1戦の勝利だけを考えるなら、後ろの輸送船団を狙う方が怪我の可能性が少ないわけだから、奴等はこの闘いに勝つ事より、「ヤマヤ国」の戦力を削ぐ方を優先しているってわけだ。」

「戦力が削がれてしまったら、『ヤマヤ国』の各部族は、離反の意思をより強くするであろう。これ以降の戦闘の必要も無く、『コーリク国』は『ヤマヤ国』の征服を成し遂げてしまう事にも、なり兼ねぬであろう。」

と、通信探索席でラオは言った。

「宙賊を捨て駒にして、『ヤマヤ国』を盗りに行く戦略だ。卑怯なやり口だぜ、『コーリク』」

 ユーシンはそう言って、モニターに映る敵艦隊を睨み据えた。

「アニー、ワープ通信の回線を開いて、いつでも機構軍に通報できる状態にしておくんだぜぇ。『コーリク国』軍の攻撃がこちらに向けられ次第、機構軍に通報するからなぁ。」

「分かってるよ、オヤジ。もう準備は万端よ。」

 バルベリーゴにアニーが応じた。

「敵艦隊、ミサイル射出!20発!標的は『ヤマヤ』艦隊の模様。」

 ラオが叫ぶ。一気に緊張の色を濃くした声色だ。

「弾種は?」

 武装管制席のジャカールが問いかけた。

「・・・誘導弾だ。対艦船用の大型のヤツだ。」

「散開弾で迎撃するぜ、オヤジ。」

「やれ!」

「発射!」

「敵艦隊、次弾発射!5発。標的は・・『キグナス』だ!誘導ミサイルのレーダーが、『キグナス』をロックオンしている。」

「よっしゃぁ!アニー、通報だぁ!」

「了解、オヤジ・・・通報完了!」

 戦況データーと共に、機構軍への救援要請が、ワープ通信で送られた。熱源パターンなどから「コーリク国」軍と特定された戦闘艦から、「キグナス」をロックオンしたミサイルが放たれた事が、データーとして機構軍に送られたのだ。動かぬ証拠と言って良い。これで機構軍は、正式に「コーリク国」討伐の兵を起こす事が出来る。

「とうとう機構軍を、『コーリク国』に向かわせる事が出来るな!ここまで来るのに、ずいぶん苦労したぞ。」

 ユーシンは感慨深気に言った。一時は「ソリアノ星系」で完遂出来ると思っていた作業が、こんな所にまでずれ込んでしまったのだ。ようやくとの感慨は拭えない。

「だからって安心すんじゃねぇぞ、ガキィ。今の機構軍の状況じゃぁ、いつ戦力をこっちに振り向けられるか分からねぇんだぁ。少なくともこの戦闘は、俺達で切り抜けるしかねぇんだぜぇ。特にあの4艦は、『キグナス』で始末するしかねぇんだ。気ぃ引き締めろぉ!」

「迎撃用散開弾、発射!」

 ジャカールは「キグナス」への攻撃に対する処置も、独断で実施した。

「一回目の散開弾、展開・・・「ヤマヤ国」の戦闘艦を狙った敵弾、撃破。残存ミサイル・・・ゼロ。」

「やったぜ!」

「ざまーみろ!」

 ラオの報告に、喜びを露わにするユーシンとジャカール。

「敵艦が『アマテラス』の射程に入るまで、後3分だ。ユーシン、準備は出来ておるのだろうな?」

「当たり前だ。」

 ラオの問いに答えたユーシンだったが、ふと思いついたように言った。「敵が引き連れている岩塊群の成分って、分かるか?」

「なに?成分じゃと?さっきファランクスが送って来たデーターで、分かるが。・・・8割方、水だな。何かするつもりなのか?ユーシン。」

「水か・・岩塊群って言うより、氷塊群だったんだな。・・それなら、射程圏外からでも、爆発させられるな。水蒸気爆発ってやつだ。」

 射程圏と言うのは、戦闘艦が相手の場合に攻撃が有効となる距離だ。強力な磁場によるシールドを通り抜けたプロトンビームが、分厚い装甲を突き破って内部構造を破壊し得る距離の事だ。氷を蒸発させ水蒸気爆発を起こさせるのならば、もっと遠くからでも可能となる。

「何をヤらかすつもりだぁ、ガキィ。」

「奴等が周囲に引き連れている氷塊軍を『アマテラス』で撃って、岩と氷の(つぶて)をぶつけてやるのさ。」

 バルベリーゴの問いに答えたユーシンに、今度はジャカールが疑問をぶつけた。

「氷や岩の礫なんて、戦闘艦に効くのかよ?」

「『キグナス』に向けられた敵誘導ミサイルも、撃破を確認したぞ。2回目の散開弾攻撃も成功だ。」

 彼らの会話の間に、ラオが報告を入れた。ジャカールが人知れずガッツポーズ。

「破壊するのは無理だが、一時的に索敵や操船の機能に障害を起こさせるくらいの事は出来るはずだ。奇襲攻撃の為の突入を敢行している真っ最中に、索敵や操船に支障を来したら、敵はどうすると思う?」

 ユーシンンは問いに問で返した。

「攻撃を止めて逃げ帰る・・かな?」

「それに、敵艦より遥かに小さい氷塊に、百発百中で『アマテラス』をぶつけてやったら、敵はどう思う?『アマテラス』の出力の凄さも、敵は思い知る事になるし。」

「つまり」

 バルベリーゴがユーシンの問いかけに応じた。「敵にこっちが、敵の攻撃圏の外側から、百発百中で一発必殺の攻撃を仕掛けられるという現実を、見せつけてやろうって事かぁ。一国の正規軍を相手に、ずいぶん不敵な事を考える奴だぜぇ。まぁ、面白れぇから、やってみろぉ。」

「よし来た!」

 ユーシンの指がコンソールで踊る。大きい岩塊は無視した。敵艦より遥かに小さいものに的を絞る。こちらの射撃能力を見せ付けるのが目的だからだ。

「そんな小さいもんに、本当に当てられるんかい?」

 隣で作業を見ていて、ユーシンの標的を悟ったドーリーが、疑問の声を上げる。

「小さいって言っても、等加速度直線運動しかしねえ標的だぜ。当たるに決まってるよ。・・・よし、十回連続射撃だ!」

 そうユーシンが言った直後、「アマテラス」は次々に射撃を実施した。もうユーシンの手はコンソールを離れているのだが、10回の射撃は自動的に行われた。といっても、間に数秒のインターバルは必要となる。

「命中・・また命中・・次々に・・全部当たった!曲芸であるな。」

 そうラオが叫ぶと、モニターに映る望遠映像では、氷塊が消失する様子が映し出された。が、破壊された後の破片は、あまりに小さすぎて見えるものでは無い。次々に氷塊が、煌めきながら周囲へと飛び散り消滅して行くが、それ以外の変化は、モニターからは見て取れない。レーダー用モニターに至っては、氷塊自体を表示していなかった。

「効いてるのか?見た目には、何の効果も認められねえぞ。」

 心配そうに、ジャカールが言った。

「効果が無いんだったら、今度こそ『アマテラス』を敵艦にお見舞いして、撃破してやるだけだよ。」

「敵の射程に入る前に、4艦を撃破できるのか?」

「うーん・・ちょっと間に合わないかな?ミサイル攻撃、頑張ってくれ。」

「おいおい、ユーシン・・・。ちょっと無責任じゃないか?」

 ジャカールは情けない声でそう言うと、慌ててコンソールにかじりついた。その時、

「敵艦、急速に方向を転じ始めた・・ああっ!」

 ラオが驚いたのも無理はない、敵艦の内の2艦が衝突したのだ。

「ははは。目がくらんだ状態で急に方向を変えるから、そうなるんだ。」

 ユーシンは思わず吹き出した。

「やっぱり、効いていたのであるな。『アマテラス』の射撃に肝を冷やされ、慌てて回避行動に出たのだろう。だが、岩と氷の礫で視界も操船の自由も利かない状態での急旋回だから、隣の艦にぶつかってしまう結果になりおった。」

と、ラオが状況を詳述した。

 ぶつかった2艦も、操艦不能となるまでの損傷は被らなかったようで、何とか回避軌道に乗る事は出来たようだ。「キグナス」からも「ヤマヤ」艦隊からも離れていく。

「想像以上に効果覿面(てきめん)だなぁ」

 バルベリーゴも呆れた顔で言った。「『アマテラス』程の威力の砲撃は、『コーリク国』の者にとっちゃぁ、未知の体験だったのだろうなぁ。あの距離であの破壊力ってのに、よっぽど驚き、肝を冷やしたってところかぁ。命中率も、尋常じゃ無かったしなぁ。」

 背後からの奇襲を狙った「コーリク国」軍が逃げ去ると、「イヌチヨーナ星系」のオールトの海の攻略は着々と進んだ。「ユラギ国」軍は奥へ奥へと進んで行く。タキオントンネルでまず無人探査機を送り、敵影が無い事を確認出来た宙域には有人の戦闘艇を送り込み、制圧下の宙域を増やして行く。

 一方で「ヤマヤ国」軍は、散発的な宙賊戦闘艇の反撃を阻むと共に、オールトの海の外側から「イヌチヨーナ星系」を包囲する形で、無人探査機を拡散展開させて行った。直径2光年以上の球状包囲監視網だから、タキオントンネル無しには構築し得ない。暫時型のタキオントンネルターミナルが、何百と設置され、何百万という無人探査機が放たれた。

 その無人探査機群が、「イヌチヨーナ星系」から飛び出して行く人工飛翔体を幾つも観測した。戦闘艇程度の小さなものから、中型戦闘艦くらいの大きさのものまであったらしい。

「宙賊に紛れて『イヌチヨーナ星系』に入り込んでいた『コーリク国』の部隊共が、一斉に引き揚げ出したのだろうな。」

 戦闘の間は「キグナス」クルーの邪魔にならないように静かにしていたサムダージュが、そんな推測を述べた。

「やはり宙賊共は、完全に使い捨てにされたようですな。」

 同じく沈黙を守っていたヤモカーケスも、そう応じた。「しかし、我等の奪還作戦に、こうも簡単に尻尾を丸めて逃げ出すとは、『コーリク国』軍も思っていたより、恐れるには足りない連中なのですかな。」

「いや、我々『ヤマヤ国』や『ユラギ国』の戦力だけでは、こんな結果にはならないだろう。やはりこの『ウォタリングキグナス』の力が大きいはずだ。さっき逃げて行った、奇襲部隊の4艦からの報告が、『コーリク国』軍に届いたのだろう。あのプロトンレーザーの威力、あの命中精度、それが伝わった事で、『コーリク国』軍は『キグナス』の実力を思い知り、撤退を選択したのだろう。」

 そう言うサムダージュとヤモカーケスは、すっかり安心した顔になっている。「コーリク国」軍も追い返したし、宙賊だけなら「イヌチヨーナ星系」奪還も大した苦労は無いと思われる。それに、機構軍への通報も成された。もうすべて安心と思っても、無理も無い状況と言えるだろう。

 だが、ユーシンは逆に、深刻な顔をしていた。

「引き際が鮮やかすぎる。これだけ鮮やかに、速やかに撤退したって事は、次の、本格的な侵攻の準備が出来ているんじゃないか?機構軍が派兵して来る可能性も、敵は十分わかっているだろう。さっきは、『ヤマヤ国』軍を迷わず攻撃対象にしたし、半軍商社の船に攻撃してしまった事にも、気付いているはずだ。もしかしたら『コーリク国』は、機構軍が来る前に『ヤマヤ国』と『ユラギ国』の制圧を完了すべく、全戦力で向かって来るのかもしれない。その為に、『イヌチヨーナ星系』に進出させていた部隊をこんなにも鮮やかに引き上げさせた、とも考えられる。」

「そんなぁ」

 ジャカールは、か細い声で言った。「鮮やかに引き上げたからって、そんな最悪の予測をする事も、無いんじゃないか?」

「いやぁ、その可能性も、考慮しておく必要はあるなぁ。『コーリク国』が全戦力をもって、本格的に侵攻して来た場合への備えはよぉ、しっかりしておく必要があるぜぇ。」

 バルベリーゴはそう言って、厳しい視線をヤモカーケスに送った。

「・・そ、そうですね。まぁ、今はまず『イヌチヨーナ』奪還に全力を挙げるべきですが、それが終わり次第、『コーリク国』軍本格進攻への対策を、タケマヤル総司令官に進言する事にしよう。」

 それが、ヤモカーケスの返答だった。

 「イヌチヨーナ」奪還は極めて順調に進んだ。

「奴等が攻めてきた時のような、組織的かつ計画的な行動は、今は全く見られない。せいぜい10隻程度の戦闘艇が連携する程度で、それ以上の組織だった動きは無く、それぞれがバラバラに、勝手気ままに動き回っているという感じなのだ。もうオールトの海の制圧は完了して、「ユラギ」の部隊は星系内に雪崩れ込んで行っている。」

 奪還作戦開始から3日ほど経った頃に、サムダージュから、そんな報告があった。

「やはり、『コーリク国』軍が後ろで糸を引いていないと、宙賊共は組織的な行動は取れないのですな。」

 ヤモカーケスも、そう言った。

「この分だと、『ユラギ国』軍だけで、『イヌチヨーナ』奪還は成し遂げられそうだな。」

 サムダージュが言ったように、『イヌチヨーナ星系』でも最大の人口位密集地である、第3惑星軌道上のスペースコロニー群にも、「ユラギ国」軍は、作戦開始から5日目には突入を開始していた。

 コロニーの住人を人質にしての籠城を模索した宙賊もいたようだが、足並みの揃わないその作戦は、住民による返り討ちに合う有り様で、「ユラギ国」軍が乗り込んだときには、縛り上げられた宙賊達を殴り飛ばしている「ユラギ」国民を、兵達が(なだ)める局面まであったようだ。

 作戦開始から7日目には、「イヌチヨーナ星系」内の中賊は、全て殺されるか捕えられるかした。逃げ出せた者も皆無だった。「ヤマヤ国」軍による包囲が徹底していたからだ。宙賊は武装解除して投降するか、殺されるまで抵抗を試みるかしか、選択肢が無かった。数十万人に上る宙賊が捕えられ、同じ位の数が殺害されたが、「ユラギ国」軍と「ヤマヤ国」軍の戦死者は、百人を少し超えた程度だった。

「完全勝利は良かったけど、犠牲になった百人を想うと、やっぱり胸が痛むな。それに宙賊共も、『コーリク国』に操られてやった事の結果だからな。同情を禁じ得ないよ。」

 ユーシンがそうこぼす相手はノノだった。

「やっぱり戦争は、大勢の人が死んじゃうから、あたしは嫌い。」

 ノノのストレートな意見に、思わず笑みを浮かべたユーシン。少し気持ちが軽くなる。

 「コーリク国」軍の戦闘艦4艦を追い払って以来、「キグナス」には全く出番も無く、オールトの海の外側に、輸送船団と共に遊弋(ゆうよく)して、味方の活躍の報を受け続けるだけの日々だった。

 ファランクス達宇宙艇団は、何度か出撃の機会があった。宙賊の部隊が、何度か輸送船団を襲撃する動きを見せたからだが、4・5隻の中賊戦闘艇に対して、「ヤマヤ国」軍戦闘艇を含めて30隻程の味方で取り囲むという、一方的な闘いだった。2隻撃破の戦果を上げたファランクス達だったが、それでは不満な様子だった。

 ブルーハルトからも、連絡があった。

「通報は間違いなく受理したよ。」

 モニターに映し出されたブルーハルトは、開口一番、律儀にそう報告した。「早速『コーリク国』に派兵する戦力の編成に着手したが、各方面から出せる部隊を出してもらって、指揮系統を整理しなければいけないし、訓練も無しというわけにはいかないから、派兵実施までは、まだかなり時間がかかると思う。」

 そんな機構軍の見通しに、ユーシンは、

「もしかしたら『コーリク国』は機構軍が介入する前に、『キークト星団』征服を成し遂げようとする動きに出るかもしれません。敵の引き際から見て、既に全戦力での進攻の準備が、出来ている可能性が、あると思われるのです。」

と、「ユラギ」戦域での見通しを語った。それを聞いた途端、ブルーハルトも表情を引き締めた。

「そうか。そうとなると、流暢な事は言っていられないな。少々強引な事をしても、一刻も早く派兵を実施せねば。そちらも、無理はしないでくれ。いざとなれば、退く事も迷ってはいけない。一度奪われても、機構軍の派兵が実施されれば、絶対に取り返して見せる。『イヌチヨーナ星系』にしろ、その他の『ユラギ国』や『ヤマヤ国』の領域にしろ、変にこだわって死守しようとして、被害を大きくしないでくれ。君たち自身の命を守る事を、最優先に考えてくれ。後の事は、機構軍が必ず何とかするから。」

 大きく頷いて、ユーシンはブルーハルトに答えた。

 その通信の様子を、サムダージュは遠巻きから見ていたようだ。

「あれが、機構軍の幹部か。ああいう男が機構軍の上層部にいるという事は、『ユラギ国』の族長達にも教えておかないとな。今の通信のデーターを、預かる事は出来るか?」

 ユーシンは、バルベリーゴの許可を得た上で、喜んでデーターを提出した。サムダージュは、早速プキキニに見せてやろうなどとつぶやきながら、そのデーターチップを懐に収めた。

 宙賊征伐完了から、さらに3日が過ぎ、ようやく安全が確保されたとして、「キグナス」にも「イヌチヨーナ星系」第3惑星の軌道上コロニー群への立ち入りが許された。惑星への「キグナス」の接近は、重力との無駄な闘いを強いられるものではあるが、「イヌチヨーナ星系」の実情を鑑みれば、致し方なかった。

 星系内にワープアウトし、第3惑星へとアプローチした「キグナス」の、航宙指揮室のモニターに、軌道上コロニー群が映し出された。円筒状では無く、比較的建造の容易だと言われるリング状コロニーで占められているところが、「ユラギ国」の技術水準を示していた。

 リングの中心部に宇宙船用の港がある、そこ向かって、リング部からスポーク状の管が何本も通っており、宇宙船から降りた人や物は、それを伝って居住スペースであるリング部に達するのだ。リングが回転する事によって、外周壁内面に疑似重力を生じさせているのは、円筒コロニーと同様だ。

 サムダージュからコロニー内の視察を許されたユーシンは、コロニーの一つに「キグナス」が係留されるや否や、「キグナス」を飛び出して、居住エリアを目指した。

「ちょっと待ってよ、ユーシン。あたしも行くんだから。」

 ニコルが後を追いかけて来た。ノノもその後に続いている。2か月近くに渡って宙賊の制圧下にあった居住スペースの状況が、彼等にも気になるのだろう。「ユラギ国」軍の兵も2人付いて来た。護衛の兵を付ける事が、自由な視察の条件だった。

 スポーク構造の管の中を通るエレベーターから降りたユーシンは、このコロニーの自治組織が入っていた、役場だった建物の屋上に出た。真四角の、飾り気も何もない、コンクリート製の建物だ、その屋上の端にあるフェンスにもたれかかってユーシンは、眼下の街を見た。

 目を覆うばかりの惨状だった。そこここに人の死体が転がっている。彼らを葬ったり(とむら)ったりする余裕も、今のここの住民には無いのだろう。家々は、原形をとどめているものが一つも見当たらない程、徹底的な破壊を受けている。生き残った住民は、そんな廃墟のような家で、隠れるように生活を続けているそうだ。コロニーの中だから、屋根が失われた家でも、雨露に曝される事は無いだろうが、快適なはずも無い。

 ユーシン達のいる建物も、あちらこちらで崩れている。いまにも崩落が始まりそうだ。ここにいて大丈夫なのかと思わず兵士に尋ねたユーシンだったが。緊急の補強工事は済まされていて、倒壊の危険はないとの事だった。

 その建物の入り口に、住民は大挙して押し掛けていた。皆、食料や医療を求めてやって来ているそうだ。宙賊に占領されている間は、毎日のように宙賊達が、一軒一軒の家を回って、食糧や金目のものを持ち去り、若い女達も乱暴された上に連れ去られたようだ。僅かにでも抵抗を示せば、容赦なく虐殺されたという。

 食料も医薬品も全く残されず、空腹と負傷を抱えた人々だけが多く残されたのだから、押しかけて来た者達の表情は、切迫感で溢れている。

 「ユラギ国」艦隊に積み込んであった食料を拠出し、「ヤマヤ国」軍にも援助を依頼したが、当面の飢餓を脱するのが精一杯で、十日先に住民に食べさせるものの目途は立たない状態だ、と兵士たちは深刻な顔で言っていた。

 更に、住民の生活再建や街の修復などには莫大な費用と人手が掛かるが、今の「ユラギ国」にも「ヤマヤ国」にも、そんな余裕はないだろうとの事だった。

今回の投稿はここまでです。次回の投稿は明日、'17/9/16です。

さんざんお待たせした「キグナス」の活躍ですが、氷塊を破壊することでビビらせて追い払う、という形でした。敵艦を派手に撃破する爽快な戦果を期待された読者様には、物足りなかったかもしれません。が、それをしていたら、4艦のうちの1・2艦には敵の射程圏に入り込まれて、「キグナス」のリスクが増大していた場面だったのです。もちろん、敵にも多くの犠牲が出ます。敵にも味方にも、犠牲やリスクが最小限になるようにしつつ、「イヌチヨーナ」奪還という目的を達成すべく、ユーシンなりに最良の方法を選んだのだとご理解下さい。4艦を撃破してしまっていたら、「キグナス」の凄さが「コーリク」側に伝わらず、「コーリク」部隊が引き上げることもなかったかもしれません。そうなると、「ユラギ国」軍の損害ももっと大きかった可能性が高いです。「キグナス」の戦いは、派手ではなくとも大きく貢献しているのです。が、そのことが「コーリク国」によるもっと大規模な、全戦力を繰り出して来るような侵攻を招く可能性が出てきました。犠牲を少なくと考えたユーシンの努力は、もっと膨大な犠牲に繋がるのかもしれません。一方で「イヌチヨーナ」の惨状は、「キグナス」が参戦を決意していなければ、市民の犠牲者がもっと増えていたことを示しています。どの選択肢を採用しても、リスクや犠牲は避けられなかった。そういう場面は、現実の世界にもあるでしょう。与えられたどの道に進んでも、必ず犠牲やリスクが付きまとう。にも関わらず、どれかの道を選ばなければいけない。そんな苦しい場面が、現実の日本にも近いうちに来るかも?とか言ってると怖くなってきました。というわけで、

次回 第66話 和解への糸口 です。

「イヌチヨーナ」の市民生活の再建にもめどが立たず、一方で「コーリク国」の脅威が迫っています。「キグナス」がいくら重武装でも、どうにもならない問題です。どうにかしてくれそうなのは、あの人達なのですが、どうなるでしょうか?ご注目下さい。

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