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銀河戦國史 (星々を駆る重武装宇宙商船「ウォタリングキグナス」-ヤマヤの虜囚-)  作者: 歳越 宇宙(ときごえ そら)
ヴォーソム星団・キークト星団の章
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第64話 イヌチヨーナ奪還戦

 退屈な時間を過ごしていると、クルー達の気持ちやバルベリーゴの想いに考えが至って、苦しい気持ちになる事もユーシンには多くなって来た。操船の担当が回っている時に、思わずその事をバルベリーゴに告げてみたりもした。

「オヤジ、なんか、済まないな。俺があんな進言しなかったら、オヤジにこんな決断させたり、皆に危険な思いをさせたりしなかったのに。」

「バカ野郎!」

 バルベリーゴは一括した。「何を、お前みてぇなガキが、この船の運命やクルーの命に責任持とうとしていやがるんだ。百年早ぇよ。それは全部、この俺のものなんだ。覚えて置け、ガキィ。お前なんぞには、ほんの僅かにでも、責任なんてものは背負わせてやらねぇよ。」

 予想していた反応だが、全く責任を感じないなんて事は、出来そうにも無いユーシンだった。

(もしこの闘いで、誰かが死んだら、俺にも責任はある。それをどう償ったらいいのか、何をすればいいのか、全く分からないけど。それに、俺も絶対に死ぬわけにはいかない。お嬢様に愛されている命を、この身で運んでいるんだから。)

 ようやくにして、臨時港と十分な距離をおくことができて、一気に「イヌチヨーナ星系」の近くにワープができる位置に来た。だが、「イヌチヨーナ星系」にあまり近い位置にワープアウトするのは危険だ。ワープアウト直後の無防備な時間に、敵に攻撃可能圏内に入り込まれればアウトだ。敵がいない位置を見定めてワープする必要がある。

「先行ワープ船を、『ヤマヤ国』戦闘艦が射出したわ。」

 通信索敵席に着いていたアニーが報告を入れた。無人の宇宙船を先にワープさせ、それにワープアウト予定ポイントの近くを観測させる。敵影が無い事を確認できたら、艦隊のワープに入るのだ。

 先行ワープ船は無人だから、撃破されても人的被害は出ないのではあるが、ワープさせる物体にはある程度の質量が求められる事から、それほど大量に艦隊に積み込んでおけるわけでは無い。現在の連合艦隊には3隻くらいしか持ち合わせは無い。だから、先行ワープ船のワープアウト位置といえど、しっかりと吟味する必要がある。

 敵に近すぎず遠すぎず、ここ数日に探知されたワープの痕跡等も考慮に入れ、先行ワープ船のワープアウト位置は決定された。この宙域に付いては「ヤマヤ国」が、当然一番詳しいので、彼等が中心になって決定は行われた。

 先行ワープ船のワープも、敵には探知される事になる。探知したものを敵がどう判断するかは分からないが。商船か何かだと思って黙殺するかもしれないし、艦隊のワープに向けた索敵である事を見抜くかもしれない。敵が先行ワープ船を撃破しに来る前に、艦隊のワープを終わらせてしまうべきという考え方も出来るが、先行ワープ船をワープさせた後、じっくり敵の動きを見てから艦隊をワープさせるという考え方も出来る。

 今回彼らは、後者を選択した。「コーリク国」軍がすぐさま前面に出て来る可能性は、極めて低いと考えらえるし、宙賊が先行ワープ船の動きに、そんなに機敏に反応するとは思えなかったからだ。先行ワープ船に出来るだけ広範囲の索敵を行わせて、情報を多く集めておくことにしたのだ。先行ワープ船には無人探査機も多数搭載されており、索敵能力は高いのだ。

 先行ワープ船を送り出して丸1日も過ぎると、「イヌチヨーナ星系」周辺の状況は、かなり詳細に掴めた。同星系のオールトの海の外には、敵影は全く見当たらなかった。幾つかの岩塊群が観測されただけだ。小惑星とも呼べない程度の、小さな天体だ。オールトの海の中には、宙賊の戦闘艇と考えられる反応がいくつか見られた。

「オールトの海は、惑星の形成に参加できなかった、微小な天体の集まりで、球状に星系を取り囲んでいるのですが、その無数の天体群を隠れ蓑にして戦力を展開する事で、外部からの攻撃への備えとする。そんな一般的な防衛策を、敵は実施しているようですな。」

 「キグナス」の航宙指揮室で、「ヤマヤ国」軍参謀のヤモカーケスは索敵結果が表示されたディスプレーを眺めながら、そう言った。

「まぁ、星系防衛の基本に忠実に部隊を配置しているという事か。」

 「ユラギ国」情報官のサムダージュは言った。「しかし、宙賊が基本に忠実というのは解せん。背後から『コーリク国』が宙賊に指示を出していると考えるのが、順当だろうな。」

「星系内部にワープアウトする隙間は、ねぇんだろうなぁ。オールトの海の向こう側は遠すぎて、星系内部の観測は出来ねぇが、どこにワープアウトしてもすかさず迎撃が出来るように、無人攻撃機を何百万と配置するぐれぇの事は、していると考えるべきだろうなぁ。『コーリク国』が、裏で手引きしていやがるのならなぁ。」

と、バルベリーゴも意見を述べ、サムダージュがそれを受ける。

「まずはオールトの海の中に展開している、敵戦闘艇の排除から始める事になるか。タキオントンネルをオールトの海に通して、こちらの戦闘艇を星系内に送り込み、星系内にワープアウト可能宙域を確保する・・ってとこか。」

「星系の外は、本当に敵影は無いのか?」

 操船席からユーシンが口を挟んだ。「『コーリク国』が『イヌチヨーナ』の状況に全く目を光らせていないなんて事は無いと思うんだけど。宙賊と共に星系内部に潜り込んでる部隊はいるのだろうけど、星系外に全くいないなんて事は、考えられないな。」

「確かに不思議な気はするが、観測されていないのだから、仕方が無い。」

と、サムダージュがユーシンの質問に応じた。ユーシンは、更に意見を展開する。

「星系外に敵影が無いってのは、こちらが星系攻略に取り掛かったところで、背後から襲ってくるつもりじゃないかと思えてくるな。防衛や監視のための部隊なら、大規模に展開するけど、奇襲攻撃の部隊なら、小規模なものをどこかに隠せば済む。」

「うーん、なるほど」

 ヤモカーケスは唸りながら頷いた。「『コーリク国』は、余り自国軍を目立たせずに、『イヌチヨーナ』奪還を妨害したいはずですな。奴等は機構軍の介入を避けたがっている訳ですから。そして奴等は、宙賊に損害が出る事は意に介さないでしょう。一旦我々に、星系防衛に当たっている宙賊を叩かせておいて、その背後に少数部隊での奇襲をかけるというのは、理に適っていますな。」

「少数部隊を隠せそうな天体ってぇのは、付近にあるのかぁ?」

と尋ねたのは、バルベリーゴ。サムダージュが答えた。

「それならば、手頃な岩塊群がいくつかある。これらの観測を入念にするように、『ヤマヤ国』艦隊司令長官のタケマヤルに進言しておいてもらいたいな。」

「了解しました」

 ヤモカーケスは即答した。「早速旗艦に連絡を取ります。通信機を拝借。」

 アニーが場所を譲った通信探索席のコンソールを、ヤモカーケスは操作した。

 1時間ほど経ったころ、「ヤマヤ国」軍から報告が入る。

「やはり、天然の岩塊群にしては不自然な兆候が見えるものがあったようだ。「キグナス」から借り受けた、最先端のセンサーを搭載した無人偵察機を展開しておいてよかった。」

とは、報告されたデーターを見たサムダージュの言葉。

「あっはっは。敵も『ヤマヤ国』軍に、これほどの高感度センサーがあるとは思ってねぇだろう。見つかる気遣いはねぇと思って、隠れてやがるんだろうぜぇ、『コーリク国』軍は。」

と、バルベリーゴも言った。

「星系攻略に先立って、潜んでいる『コーリク国』軍を排除する方向で、『ヤマヤ国』軍司令部は作戦立案に入った模様です。」

「それより」

 ユーシンは言った。「気付かないふりして星系攻略に取り掛かり、敵が襲って来たところで、その前面に『キグナス』が飛び出すってのは、どうかな?」

「おいおい、ずいぶん勇ましい作戦を考えるじゃねぇか。むやみに危険を冒すのは賛成できねぇぜぇ。」

と、釘を刺すバルベリーゴ。ユーシンは説明を加えた。

「でも、敵に『キグナス』を攻撃させれば、『キグナス』から機構軍に救援要請出来るだろう。『ヤマヤ国』軍が『コーリク国』軍に仕掛ける形より、その方が機構軍も積極的に動けると思う。」

「敵に攻撃させる対象は、『ヤマヤ国』軍でも良いのじゃないでしょうか?」

と、ヤモカーケスは、「キグナス」に気を使ったもの言い。

「でも、『ヤマヤ国』と『ユラギ国』の関係を考えたら、機構軍に救援要請するのは『キグナス』の方が良いと思う。その方が、こちらの被害も最小限に留まると思うし。」

 そのユーシンの意見に、ヤモカーケスはバルベリーゴの顔色を伺いながら応じた。

「確かにその通りなのですが、それでは『キグナス』にとって危険の大きい作戦になるのでは・・」

「危険は承知で戦闘に参加してるんだぁ、俺達はよぉ。」

 バルベリーゴはヤモカーケスに視線を返しながら言った。「その作戦が一番有効だって事なら、危険が大きくてもやってやるぜぇ。」

「そ、そうですか。ならば、その旨、『ヤマヤ国』軍司令部に具申してみます。」

 またヤモカーケスは、アニーに席を譲ってもらった。1分と経たずに、「ヤマヤ国」艦隊司令長官タケマヤルがモニターに現れた。

「バルベリーゴ船長。そちらから提案頂いた作戦を検討いたした。このような『キグナス』に最も大きな危険が伴う作戦を、そちらから申し出て頂けるとは、あなた方の勇気に感服致す。機構軍への要請を『キグナス』からするという点、『コーリク国』軍を迎え撃つには『キグナス』が最も被害が少なく済むであろうという点を考慮すると、この作戦を是非実行に移したく思う。あなた方に危険を冒させることは、大変心苦しくはあるのだが。」

 苦渋の顔でそう告げたタケマヤルに、バルベリーゴは事も無気に言った。

「こっちから言い出した作戦だぁ。あんたが気に病む事はねぇぜぇ。じゃぁ、この作戦で行くかぁ。」

 作戦は決まった。艦隊は3派に分けて「イヌチヨーナ星系」近傍にワープアウトする。第一波は「イヌチヨーナ星系」の地理にもっと明るい「ユラギ国」艦隊とし、オールトの海への切り込み隊を務めてもらう。第二派には「ヤマヤ国」艦隊の戦闘艦を配し、「ユラギ国」艦隊の状況を見ながら、適宜戦力をオールトの海に送り込む。第三派は輸送船団とその護衛の「ヤマヤ国」戦闘艦だが、「キグナス」はその中に含まれる。

 敵は「キグナス」の存在も、その性能や武装等も知る由も無いだろうから、輸送船の一つとでも見なしてもらえれば、作戦は成功しやすくなるだろう。

「第一波ワープインまで、後10秒よ!」

 アニーが一段と声を大きくして、報告した。船内にもその声は放送された。緊張感が高まる。いよいよ戦争だ。「キグナス」のワープインはまだだいぶ後だとは言え、第一波がワープした後に何が起こるのか、彼等の思惑通りに事が運ぶのか、誰にも確証は持てないのだ。

「3・・2・・1、第一波、ワープ!・・・・・第一波、全艦ワープ完了を確認。損傷艦無し。オールトの海への進撃を開始。2時間後、攻撃射程にオールトの海の最外縁天体を捕える予定。」

 そうなると、2時間はただ待つだけの時間だ。緊張感を高めた後での2時間は長い。いつ何時第一波から、予想外の報告がもたらされるかもしれないとの憂慮も抱えながら、そしてその後には第二派のワープと、それに続いて自分達の番も回って来るとの緊張感も持ちながら、2時間何もせずに待機しているのだ。

 「キグナス」の航宙指揮室内は、重い沈黙が支配している。いつどんな報告がもたらされるか分からないのに、無駄話どころか、物音一つ立てる気になれない。身じろぎもせず、ただじっと一点を見つめ、ユーシンも忍耐の時間を過ごした。彼は今、操船担当ですらない。隣で操船を担当するドーリーを見ながら、予備の操船担当者として控えているだけだ。

 だが、作戦が順当に行けば、彼には重要な役が回ってくるはずだ。「アマテラス」の射撃だ。緊張感を解くわけにもいかない。

 緊張を維持しての2時間は、本当に長かった。握った手には汗が溜まる。無重力中で、シートに体を固定しているベルトに触れている部分が、ひりひりと痛んで来る。やることが無いから、ひりひりが妙に気になる。それでも身動きする気にもなれない。

 誰かが生唾を飲み込む、ごくりという些細な音ですら室内全体に響き渡り、耳に(さわ)る。

 長い。長い。長い。

(何が起こるだろう?どんな結果がもたらされるだろう?)

 不安が募る。作戦の立案者の一人となっただけに、不安も人一倍だ。

 長い。長い。長い。

 思考が巡る。同じ疑問を何度も脳中で繰り返す。

(何が起こるだろう?オールトの海に潜む宙賊の戦力が予想以上なら、「ユラギ国」艦隊は・・。宙賊だから「ユラギ国」艦隊で十分との考えに基づく作戦だけど、もし、そうじゃ無かったら・・)

 巡る思考は、巡りながら、ネガティブな方にシフトして行く。

 長い。長い。長い。

 同じ問を脳中で繰り返し、どんどんネガティブな答えが引き出される。

(何が起こるだろう?岩塊群に隠れて待伏せてる「コーリク国」軍戦闘艦は、どんなタイミングで仕掛けるだろう?こちらの全戦力がオールトの海攻略に取り掛かってからだろうという考えでいるが、もっと早かったら、「キグナス」が飛び出す前に「ヤマヤ国」艦隊は・・)

 色々考えている内に、自分が何を待っているかさえ失念して来た。それを、突如思い出さされた。

「第一波、攻撃開始!オールトの海にある微小天体群に、ミサイルとビームを手当たり次第に浴びせ始めた。・・第二派もワープ!」

 アニーの報告に、

「いよいよ始まったのぉ。『ユラギ国』艦隊が、どこまでやれるかじゃなぁ。」

と、ドーリー。数分後には、

「オールトの海の外縁部での、敵の反撃は、散発的みたいね。『ユラギ国』艦隊は、ビームセイリング方式で無人探査機を、オールトの海の奥の方へと送り込み始めた。タキオントンネルのターミナルも設置し始めた。ビームセイリングで送り込んだ探査機のもたらす情報次第で、タキオントンネルでも探査機を送り込み、より内側を探る手筈よ。」

 オールトの海は、約1光年の厚みを持っている。ビームセイリング等の通常航行で突破しようとすれば、何十年もかかってしまう。ワープなりタキオントンネルなりの超光速航法を、利用しなければならない距離だ。

「設置中のタキオントンネルターミナルに、宙賊部隊接近。オールトの海の中の微小天体の陰に隠れつつ、それらを伝うように、徐々に接近しているそうよ。「ヤマヤ」艦隊がそれに対応するみたい。戦闘艦からの砲撃で、隠れるべき天体を破壊しつつ、空母から出した戦闘艇団で、宙賊戦闘艇を迎撃するとの事だわ。「ユラギ国」軍は、ひたすらにオールトの海の奥を目指す体勢ね。」

「うむ。ここまでは、計画通りですな。」

「順調だな。やはり宙賊の迎撃は、散発的だったな。」

 アニーの報告に、サムダージュとヤモカーケスが意見を交し合った。

「第三派もワープするわよ。ドーリー、ワープインシーケンススタート!」

 近い距離にいた複数の艦船が同時にワープインシーケンスに入った事で、虹色の光は広大な範囲に及び、滴型の光も縦横無尽に飛び交った。10個以上の戦闘艦と輸送船が、一斉に空間を跳躍する。

「宇宙艇団、発進する!」

 ワープアウト直後の無防備状態を脱すると同時に、「キグナス」宇宙艇団団長のコロンボが叫んだ。「キグナス」搭載の宇宙艇12隻が一斉に飛び立った。周囲の警戒に当たるのだ。「ヤマヤ国」軍も30隻の戦闘艇を繰り出した。

 一番状況を確認したいのは、当然「コーリク国」軍が隠れていると見られる岩塊群なのだが、そこだけに偵察を出したのでは、敵にこちらの意図を見抜かれてしまう。全方位に偵察を放つことで、それをごまかそうとしているのだ。一直線に岩塊群を目指す者がいても、怪しまれるだろうという事で、全ての偵察部隊は、いきなりはその岩塊群は目指さず。あちらこちらを偵察して回っている中の一つとして、その岩塊群にも立ち寄ったという風を、装ったのだった。

 「ヤマヤ国」戦闘艇の2つの部隊が、間隔を置いて当該岩塊群に接近したが、動きは見られなかった。ちなみに1部隊は4隻の戦闘艇で編成されている。3次元空間での部隊編成は最低4が基本なのだ。立体包囲が可能だから。

「動きは無いけど、明らかに自然の天体では無いな。岩石同士の位置関係も不自然だし、ガス濃度もおかしい。あの大きさの岩石が、こんな濃度でガスを保持できるほどの重力を持っているはずがない。あの岩塊群は、絶対人工物だ。」

 ユーシンは隣のドーリーにそんな意見を述べたのだった。

 「キグナス」の宇宙艇部隊も、3番目に岩塊群への接近を図った。ファランクスが率いる宇宙艇部隊だった。4方向から立体的に岩塊群を囲み、熱源探知、レーダー照射等を実施して、詳細なデーターを取る。

「隠れているとしても、多くて5・6艦だな。この程度の岩塊群なら。」

 ユーシンがファランクスの部隊から送られて来たデーターを、ディスプレー上で見ながら言うと、バルベリーゴが応じて来た。

「まぁ、そんなもんだろうなぁ。一個小隊ってところか。奇襲部隊としては妥当な戦力・・・うん?この岩塊群、徐々に加速してねぇか?」

 船長席にある個人用ディスプレーに表示されている、ファランクス達から送られて来たデーターと、戦闘指揮室の壁面に設えられたモニターの表示を見比べながら、バルベリーゴが言った。

「岩塊群、加速開始!」

 一瞬遅れて、通信探索席からラオが報告し、続けて言った。「スラスター噴射の兆候を示す熱源も探知・・あっ。強烈な爆発反応!・・岩塊が吹き飛んだ・・敵艦、姿を曝しおったぞ!」

「ファランクス、そっから離れろぉ!全速力だぁ!動き出したからには、近くに居たら撃って来るぜぇ!」

「分かってるよ、オヤジ。とっくに離脱を開始している。」

 バルベリーゴの叫びに、冷静なファランクスの声が返って来た。

「『キグナス』、ダッシュするぞい!」

 ドリーも叫び、コンソールをバシバシと叩き出した。強烈な加速が掛かり、指揮室のあちこちから「うううっ」と、呻き声が上がる。

「敵艦4、いずれも小型戦闘艦。高機動タイプとみられる!」

 未だに一番近い位置にいるファランクスからの報告だ。キグナスのレーダーでは、岩塊の破片が邪魔で詳細は分からなかった。

「戦闘艦4艦が相手かぁ!腕が鳴るぜぇ。」

 バルベリーゴは強がりとも取れる発言で、クルーの鼓舞を図るつもりか。

 「コーリク」という、国家の正規軍が保有する戦闘艦を4艦も向こうに回し、「キグナス」は単艦突入を敢行したのだ。敵艦隊の加速方向のその鼻先に、我が身を躍らせようとしている、宇宙商船、いや、機構軍臨時戦闘艦「ウォタリングキグナス」。

 クルーの誰もがその心の片隅に恐怖の念を拭い切れずにいる中、ユーシンはニヤリと、獰猛(どうもう)とも見える笑みを浮かべて「アマテラスマークⅢ」の射撃管制装置を起動した。

 戦争は、人格を塗り替えるのか?

今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は '17/9/15 です。

戦闘開始にあたって、ワープやらタキオントンネルやらの条件設定や、オールトの海とかの性質などをおさらいしてもらう必要があり、ヤモカーケスがくどくどと理屈っぽい発言をしたりもしましたが、面倒臭かったでしょうか?オールトの海なんて、当然作者も見たこともないですし、存在が予測されているだけで、本当にあるかどうかも定かではないものを戦いの舞台にしているので、描写するのも難しいものがあります。けど、そんな科学の最先端の知見みたいなものを織り込んでこそSF、という意気込みで書いていきたいと思っております。というわけで、

次回 第65話 イヌチヨーナの惨状 です。

戦争参加、戦闘開始、とかいいながら、なかなか出番の回ってこなかった「キグナス」ですが、いよいよ活躍の場が来ました。相手は戦闘艦4艦です。「アマテラス」1本で、簡単に始末できる敵だとは思わないで下さいね。射撃の腕前だけでは、きつい相手です。ご注目下さい。

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