第62話 異国の夜のアバンチュール
ヤモカーケスの態度に、ため息交じりに応じたバルベリーゴ。
「そんな事だろうと思ったぜぇ。」
しかし、ヤモカーケスは、直ぐには話し出さなかった。よほど言い辛い頼み事があるようだ。
「あの。こんなお願いは、認められるものではない事は存じておりますが、我が『ヤマヤ国』の存亡がかかっております故、我々としても、伏してお願い申し上げる次第であるのですが・・」
長い前置きにしびれを切らしそうだが、バルベリーゴは黙って聞き続けた。
「あなた方が搭載されている。『アマテラスマークⅢ』の設計図を、拝見させて頂くわけには参りませんでしょうか?」
「そいつは、連合との同盟規約に反する行為だなぁ。知ってるだろう?機構軍の軍事機密に関して、情報を収集しちゃならねぇってのが、連合と同盟するすべての国に課されている。それを承諾しているからこそ、『ヤマヤ国』も連合との同盟が成立しているんだ。」
「もちろん、存じ上げております。」
ヤモカーケスはうなだれる様な姿勢でそう言った。「しかし、今も申し上げましたように、我が国の存亡がかかっておるのです。後でどのようなペナルティーを課されても否やは申しません。今は、この窮地を乗り切る事が肝要なのです。」
ユーシンがヤモカーケスに問いかけた。
「今のままじゃ、『ヤマヤ国』軍は『コーリク国』軍に勝てそうに無いから、『アマテラス』級のプロトンレーザー砲を装備して、戦力増強を図るつもりなのか?」
「そんな所です。国民を守れないような国は、国民に見放されてしまいますから」
「機構軍に救援を依頼すればいいんじゃないのか?『ヤマヤ国』は同盟国なんだから、自分達で勝てない敵には、機構軍に闘ってもらえばいいじゃないか。」
ユーシンの意見に、ヤモカーケスは首を横に振った。
「現状では、『コーリク国』軍が『ヤマヤ国』を攻めて来ている訳ではありません。攻めて来ているのは、あくまで宙賊です。機構軍に救援を要請すれば、宙賊は追い払ってくれるでしょうが、『コーリク国』にまでは手を伸ばしてくれないでしょう。」
「しかし、機構軍も『コーリク国』の野望には気付いています。『コーリク国』と宙賊の繋がりを炙り出して、彼の国の野望も阻止してくれると俺は思うけど。」
少し考えたヤモカーケスだが、
「『コーリク国』は巧妙です。そう簡単に尻尾は掴ませないでしょう。その隙に、我が国は回復不能な損害を被ってしまうかもしれない。」
ユーシンは首をかしげる。
「どういう事だ?損傷を被るって事は、武力を行使して来るって事だろ?それが、宙賊であれ『コーリク国』軍であれ、機構軍が阻止してくれる。『コーリク国』がいくら巧妙に関与の事実を隠したって、『ヤマヤ国』に対する武力行使が全て阻まれたら、『ヤマヤ国』は損傷なんて被らないし、存立が脅かされる事も無いはずだろ?」
「武力行使だけでは無いんです。国の存立を脅かすものは。」
「と、言うと?」
そのユーシンの問いには、ヤモカーケスは答えず、話を転じた。
「それに、機構軍と『ヤマヤ国』の間には『ユラギ国』がある。いつでもすぐに、機構軍に駆けつけてもらえるとは限らない。やはり、自分達で、自分達を守れるだけの戦力を身に付けておきたいのだ。」
確かに、それは理解出来る。スペースコームから外れたところにいる「ヤマヤ国」をどうやって防衛するかは、機構軍も頭を悩ませている問題なのだ。
(しかし、武力だけが国を脅かすわけじゃないって。なのに、その為に武力である「アマテラス」級のプロトンレーザー砲が欲しいって、どう言う事だろ。その質問に答え辛そうにしている理由も分からない。何かあるな、これは、裏に。)
そんな事をユーシンは思っていたのだが、バルベリーゴはきっぱりと言った。
「悪いが、どんな理由があろうと、『アマテラス』の設計図なんぞは、見せてやれねぇなぁ。そんな事をしちまったら、『UF』は機構軍との同盟を解消されちまう。てめぇが所属する商社の存立を脅かすマネなんざぁ、やるわけにいかねぇ。分かってくれ。」
「・・そうですか。分かりました。致し方ありませんな。」
落胆の色も露わに、ヤモカーケスは言った。
「・・え?で、あの、宴の方は、無くなっちゃったのか?」
なぜかジャカールは、ヤモカーケス以上の落胆ぶりだ。
「いえいえ。この事を取引材料にしたつもりはありません。宴も、『ヤマヤ国』の産物もご存分にどうぞ。このハタマヤケの働いた無礼へのお詫びと、今後末永い『ヤマヤ国』と『UF』の親交の為にも、皆様にはご満足頂きたいと思っております。」
そうと決まると、ヤモカーケスは「キグナス」の通信装置を借り受けて、彼等の艦隊と連絡を取り合った。直ぐに「ヤマヤ」艦隊はやって来た。いきなり全艦隊で押し掛けると驚かせることになると思って、いつでもワープできる体勢でヤモカーケスの連絡を待っていたようだ。
宴への参加は自由意志という事になり、キプチャクやジャカールは喜び勇んで参加を表明した。が、ユーシンはあまり乗り気では無かった。
「ユーシン、お前も行って来い。それで、色々『ヤマヤ国』の内情を聞き出して来い。」
「そんな事なら、オヤジが自分で行けばいいだろ?」
宴がそんなに嫌なわけでも無いユーシンだが、情報収集というのを重荷に感じた。どんな情報を引き出せばいいかも、どうやれば引き出せるかも、よく分からない。
「俺なんかがいたら、口が堅くなるだろう。お前らみたいなガキばかりの状況で、酒が入って来れば、連中も色々しゃべってくれるだろうよ。」
そう言われ、ユーシンも参加する事になった。参加者はファランクスやトアやクルムやサヒーブなどといった、若手ばかりで占められた。若年者ばかりを向かわせることで、「ヤマヤ」の者達に色々しゃべらせようというバルベリーゴの意図を、ベテラン勢は皆理解して、参加を見合わせたようだ。
シャトルで「ヤマヤ」艦隊の旗艦に向かった。と言っても、1分くらいで着いた。「キグナス」のすぐ近くにいて、船内に疑似重力を生じさせるために、「キグナス」の周りをグルグル回っていた。無重力で宴というのでは、あまり行儀が良くない。
宴は、ユーシン達にはすこぶる新鮮なものだった。椅子やテーブルを使わず、床の上に直接座り、料理の乗せられた高さ30cm程の個人用の橙色の台が、それぞれに配られる形式にも驚いたが、料理自体も、もともとの生き物の原型を、相当程度留めた状態で供されるなど、「キグナス」クルー達には珍しいものだった。
「この、生きている時のままの形の魚、目が合っているようで怖いけど、滅茶苦茶美味いぞ。」
「この固い殻の生き物、食べにくいけど味と食感は格別だな。」
サヒーブとファランクスは、料理にご満悦の様子だ。
「ぷはぁっ、このお酒、美味しい。」
「クゥーっ!結構強いけど、後味がすっきりして最高ね。」
ニコル、トア、クルムなどの女性陣は、「ヤマヤ」産のアルコール飲料にすっかり魅せられている。
そんな中でキプチャクだけは、食い気より色気といったところか、いかにも高級貴族然とした煌びやかな服装の女性に、しきりと話し掛けている。肩から掛ける形態の色取りどりの布を、何枚も重ね着して腰帯で縛ったようなその服装は、袖のヒラヒラした感じと鮮やかな色遣いで、露出の少ない割に男心をくすぐるものがあった。キプチャクには効果覿面だ。
偶然キプチャクの隣に座を占めていたユーシンには、聞くつもりも無くとも彼らの会話が耳に届くのだった。
「それではツキノカさんは、『ヤマヤ国』の外に出るのはこれが初めてなんだね。」
「はい。祖国が大変な時に不謹慎ではありますが、異国のものに触れられる機会に、とても興奮しております。」
「おお、そうですか。では・・その・・異国の男性などというのにも、ご興味は・・」
「もちろんありますとも。『ヤマヤ国』の男共と来たら、誰も彼も無粋で退屈で、飽き飽きしておりました。異国の殿方と、甘いような、熱いような、危ないような、そんなひと時を過ごせれば良いのにと、心密かに期待しながらの出国でした。」
「おおお、そ、そうですか。では・・その・・今夜あたり、その・・異国の男との、あ、危ない夜を・・・」
「まぁ、素敵ぃ。私、体が火照って参りましたわ。どうにもこのお部屋は、蒸しますわぁ。一枚脱いでしまおうかしら。」
ツキノカはそう言って、羽織っている布を一枚剥ぎ取った。
「うぉおおおお」
キプチャクはずいぶん興奮しているが、沢山重ね着しているので、1枚くらい脱いでも大した変化は無い。
「キプチャク様ぁ、今宵は、どのように、危ない夜を愉しませて頂けるのですかぁ。」
「おおおお、その・・ま、まずは・・2人きりになれる場所などを、み、見つけねば・・その・・この船には・・・」
「ありまするとも。私のお部屋へいらして頂ければ、誰の眼も届きません。どのような危ない行為を致そうとも、誰にも咎めだてされる気遣いなど、ございませんわぁ。」
(おいおい、何だこの異様なとんとん拍子は・・)
隣で話を聞かされていたユーシンは、何やら怪しげな気配を感じて来た。
「おい、キプチャク。あんまりハメをはずしすぎるなよ。いかがわしいお店じゃないんだぞ、ここは。親善外交的な意味合いの宴でもあるんだからな。」
ユーシンはツキノカには聞こえないくらいの小声で、キプチャクを窘めた。
「堅い事言うなよ、ユーシン。見ろよ、滅茶苦茶美人だぜ。シャラナさんといい勝負だ。『ヤマヤ国』の高貴な女性って、美人が多いんだなぁ。こんな美人で気品のある女生としっぽりいける機会なんて、滅多にあるもんじゃ無いぞ。少々の事は多目に見ろよ。」
「・・まぁ・・両者合意のもとなら、良いのかも・・でもなぁ・・いきなりその日にって・・」
渋る様子のユーシンを見て、何を思ったかキプチャクは、驚きの言葉を口走った。
「ツキノカさん。あの・・もしよかったら・・3人で・・とかいうのは・・」
「おい!こら!キプチャク。何を言い出すんだ。」
「まぁ、素敵!なんて刺激的な言葉でしょう。3人で、危ない夜を、過ごすのですか。まさに、異国の夜のアバンチュールですわぁん。」
「おい!聞いたかユーシン!3人で、しっぽりいかせてくれるってよ。」
「おいおい、マジか!なんだ?この、あまりにもでき過ぎの展開。」
「嗚呼ん、私、興奮して、また蒸して来ましたわぁん。もう一枚脱ぎましょう。」
「ぬぉおおお!また、ぬぬぬ、脱いだぁ!」
「いや、キプチャク。そこはそんなに興奮する必要は無い。いっぱい重ね着しているから、1枚くらい脱いだって、どうって事は無いぞ。」
「バカ野郎!ユーシン。いっぱい着てるって言っても、自ら着々と布を剥ぎ取って行ってるんだぞ。着実に前進しているんだぞ。一歩また一歩と、念願の成就に近づいて行ってるんだぞ。」
(そういうのを演出する為に、わざと始めから、沢山重ね着してるんじゃないのか?この女人は?)
あまりにでき過ぎの話の流れといい、わざとらしく服を脱いで行って男の興奮を誘っている事といい、何やらユーシンは、彼女が怪しげな企みを持っているように思えて来た。
「おい!ユーシン。どうする?3人でなんて、俺も初めてだ。どうする?どうなる?3人の夜!」
「落ち着けよ!キプチャク。俺は何にもしねぇよ。ツキノカさんの部屋に行くなら、2人で行ってくれ。」
「おい!マジか?阿呆なのか?何考えてるんだ?ユーシン。こんな機会、二度と無いかもしれないんだぞ。こんな高貴で、美人で、妖艶で、最高の女の人と、3人で・・・」
そんなキプチャクを見て、後一押しと思ったかツキノカは、
「あはぁん、私、もう一枚脱ぎますわぁん。」
と言い、それを実行に移す。
「おわぁあぁあぁあ!また脱いだぁあぁあぁあ!」
「落ち着け!キプチャク。まだ5枚くらい残っているんだぞ!全然、興奮する状況じゃないぞ!」
(絶対、わざとだ、この女人!)
ユーシンは内心で叫んだ。(こういう使い方するつもりで、始めっから沢山着込んでいるんだ。)
だが、別に、それを悪い事だとも思わないし、キプチャクとツキノカがどうなろうが、知った事では無いユーシン。
「とにかく、俺は何もするつもりはないからな。何かするのなら、お前達2人で行って来いよ!」
ユーシンはぴしゃりと言った。
「なんだよ、お前。本当に馬鹿だな。こんなチャンスをみすみす見逃すなんて。シャラナさんに操でも立ててるのか?」
「なんでシャラナさんが出て来るんだぁっ!いいからもう、行ってしまえ!お前達。」
吐き捨てたユーシン。
「ツキノカさん。こんな唐変木は、放っておきましょう。2人で甘く危険な夜を!」
「はいぃ!キプチャク様ぁ。」
そして、2人は連れ立って去って行った。
「なんだ・・あれ?」
ユーシンは呆気にとられた。見ると隣でニコルも、同じく呆気にとられてポカンとしている。
「本当に、キプチャクって、どうしようもないなぁ。」
しみじみと、ユーシンはニコルに向かって言った。
「ええ、本当に。キプチャクって、馬鹿なのねぇ。ユーシンが操を立てているのは、シャラナさんじゃなくてお嬢様なのに・・。」
「そっちかい!っていうか、そんなんじゃねぇよ!お嬢様とか関係なく、会ったその日にとか、3人でとか、そんなんが、有り得ないって言ってるんだ!」
「そう?別にそれは、有りなんじゃない?」
(うわぁ!ニコルぅー!)
そこからユーシンは、アルコール摂取のペースが俄然早くなった。酔いも回って、頭がくらくらして来る。だが、バルベリーゴから頼まれた事は、忘れたわけでは無かった。頃合いを見計らってヤモカーケスの隣に陣取った。座るつもりが、後ろにひっくり返った。酔いは尋常では無いらいしい。
「おおぉ、これれは、こられは、大丈夫でれすか?だいぶ酔われれまましたなぁ。」
言っているヤモカーケスも、ろれつが回っていない。どちらも酔いどれだ。
しかしこの酔いっぷりが、情報収集には功を奏した。酔いどれが酔いどれに相対せば、自然に口が軽くなる。上手くすれば、言った方には言った記憶が無く、言われた方だけそれを覚えている。そんな状態にも持っていける。それこそ、情報収集の理想形というものだろう。
「すんまへんなぁ、ヤモモカカエスさぁん。ウップ・・。ウチのオヤジ、堅物で、『ママテレテマス』の設計図ぅ、見せねぇで。やっぱり、必要でするんか。プロロンレーバーは・・?」
「そうなんれす。ユーシンたん。プロポンペーパーをもらえないと、『ヤンママヤン国』の各部族は、『コーモリクン国』に引き抜かられられてぇしまうま・・・」
その後、ヤモカーケスから語られた事は、ユーシンの酔いを醒まさせるほどに深刻なものだった。話が終わった時、ユーシンの頭はすっかり冴えていたのだが、ヤモカーケスの方は熟睡していた。
彼は、夢現で話した様子だったので、起きた時には記憶に残っていない可能背が高い。それに、そんな状態では、嘘偽りを考える余裕も無かったはずだ。酔いつぶれていたからこそ、話の内容は真実であると確信できる。情報収集としては、この上も無い成功だった。
ヤモカーケスの話をまとめると、「ヤマヤ国」を構成する各部族は、地球由来の文物の不足だけでなく、宙賊の征伐に「コーリク国」を恐れて本腰で取り組めない皇帝に対して、相当に信用と忠誠を失っているらしい。そこへ更に「コーリク国」から、「ヤマヤ国」を離反して「コーリク国」の支配下に入るように、そそのかされるようになったそうだ。多くの部族が、「ヤマヤ国」からの離反を本気で検討するようになっているという。
このままでは、「コーリク国」による武力侵攻無くして、「ヤマヤ国」は滅亡の憂き目を見るだろう。そうすれば、皇帝一族の命運も尽きる事になる。現在臣下である部族に捕えられ、「コーリク国」に差し出され、処刑される事になるだろう。
それを阻止するには、臣下の部族たちの心を、再び皇帝に引き寄せる何かが必要となる。機構軍に頼るだけというのでは、皇帝権威の回復にはつながらない。皇帝自身に、臣下の尊敬を集め得る何かをもたらさなばならない。
銀河最強出力のプロトンレーザーを所持するというのは、格好の象徴となるだろう。それをもって、宙賊を、そしてその背後の『コーリク国』を撃破すれば、なお一層、皇帝への各部族の忠誠心は回復するだろう。ヤモカーケスの狙いはそこにあったそうだ。
だがそんな、国の恥を曝すような事は、国外の者には言えるはずも無い。それに、機構軍を頼らず「アマテラス」を入手する事で危機を乗り切ろうというのは、国民の命より皇帝の面子を優先しているとみなされる可能性もある。
だからその事は、あまりはっきりは言えなかったのだ。「ユラギ国」に隔てられていて、機構軍が急場に間に合わないかもしれないから、プロトンレーザーが欲しいなどという理由をでっち上げたのも、そう言うところからのようだ。
そして、「ヤマヤ国」からの離反と「コーリク国」への編入の可能性が最も高いのが、シャラナの属する部族であり、「ユラギ国」に最も近い位置にある、ハークナナーイオ伯領なのだそうだ。
「イヌチヨーナ星系」を占領している宙賊が足を延ばして来て、ハークナナーイオ伯領内を荒し回っている事が、大きな要因だそうだ。目の前の甚大な被害を避ける為に、「ヤマヤ国」を裏切るという苦渋の決断を迫られているという。
深刻な事態だと、ユーシンは感じた。武力侵攻だけでは無い、国家を存亡の危機に陥れる事態というものを、ユーシンはやっと理解できた。機構軍を呼ぶだけでは、解決にならないかもしれない。
このままでは、出身部族の裏切りと祖国の滅亡という苦しみを、シャラナに背負わせることになるかもしれない。「UF」にとっても、親交の深い「ヤマヤ国」の滅亡は、大きな痛手だ。それに、「ヤマヤ国」の滅亡やシャラナの苦悩を知ったクレアは、笑顔を失うだろう。
(命を懸ける条件が、揃って来た。)
ユーシンは、そう思った。「ウォタリングキグナス」が「ヤマヤ国」軍に助太刀して、宙賊と「コーリク国」軍を撃つ。それが最も良い解決法に思えて来た。
「ユラギ国」軍が共闘の相手では、余りにも頼りなかったが、「ヤマヤ国」軍との共闘ならば、「コーリク国」軍とも渡り合える気もする。「キグナス」の助太刀を得たとしても、「ヤマヤ国」軍が自ら、宙賊や「コーリク国」軍を撃てば、「ヤマヤ国」皇帝の求心力の回復も十分に期待できる。
今、「ヤマヤ国」軍が「イヌチヨーナ星系」の近くにまで出撃して来ているのは、軍を動かして見せる事で、ハークナナーイオ伯領の離反を押し留める効果を期待しているのだといった事も、ヤモカーケスは言っていた。軍が積極的に動く事は、皇帝の求心力向上につながるのだ。実際、「イヌチヨーナ星系」の様子を見るというだけの行軍でも、ハークナナーイオ伯領の態度はずいぶん軟化したそうだ。
だが、やはり様子を見るだけの行動では、いつまでもハークナナーイオ伯領を納得させ続ける事は出来ない。そのことを理解していても、背後の「コーリク国」を恐れて、「ヤマヤ国」軍は宙賊征伐に打って出る決断を下せないでいる。
今ここで、「キグナス」が共闘を申し出れば、「ヤマヤ国」軍は、宙賊征伐に打って出る決断が下せるかもしれない。「キグナス」と「ヤマヤ国」軍が力を合わせれば、「コーリク国」軍にも太刀打ち出来るかもしれないのだ。
「『ウォタリングキグナス』が、『ヤマヤ国』軍と共闘して、『コーリク国』軍と闘う。」
ユーシンは声に出して言ってみた。
(それは、本格的な戦争に首を突っ込むという事だ。この前の「ソリアノ星系」の時のように、機構軍を補助して宙賊の侵攻を食い止める、などという程度の事では済まない。「キグナス」から戦死者が出る事も、本気で覚悟しなければいけないだろう。国家クラスの正規軍と正面からぶつかって、戦死者無しなんて事は、期待するべきじゃない。「キグナス」が撃破され、全員が戦死する事もあり得る。)
だが今、「ヤマヤ国」と、シャラナの心と、「UF」の利益と、そして何より、クレアの笑顔を守る為には、それは避けては通れない。ユーシンはそう感じているのだ。「UF」は半軍商社だ。そこに努める者達は、「キグナス」のクルー達は、「UF」の利益の為にならば、命も掛けるというのが建前になっている。この闘いに「キグナス」を投入するのに、遠慮などいらないはずだ。
ユーシンは迷った。だが、それは、ユーシンが決断する事じゃない。「キグナス」に関する最終決定権を持つのは、船長バルベリーゴ・マグレブだ。
(とにかく、この事をオヤジに話してみよう。)
それがユーシンの結論だった。酔いは完全に醒め、頭は冴え渡って来た。その冴え渡った頭は、一つの問題を見つけ出した。
「そうだ、“それ”に備えておかないと。・・『キグナス』の航宙指揮室で、待ち伏せだな。」
ヤモカーケスは目の前で熟睡している。周りでは、まだまだ酒を飲み語り合っている者と、ヤモカーケスと同じ状態の者が、半分半分くらいだ。ユーシンは立ち上がり、彼等を後にして、格納庫に向かった。
彼らが乗って来たシャトルを、ユーシンが一人で乗って帰ってしまったら、皆の帰りの足が無くなるかと一瞬思ったが、この戦闘艦のシャトルで送ってもらえば良いと思い直し、1人でシャトルに乗って「キグナス」に戻った。
船内に重力を生じさせるために、「キグナス」を中心にしてその周りをグルグル回っている「ヤマヤ国」艦隊旗艦から「キグナス」に戻る際には、かなりきつい加速重力に耐えねばならず、頭ほどには酔いの醒め切っていない体に堪えた。
航宙指揮室に入り、馴染みのある操船席に体を固定した。別にどの席に着いていても良いのだが、慣れた場所が落ち着くと思ったのだ。
暗転していたモニターをオンにし、「ヤマヤ国」艦隊旗艦と「キグナス」の間の空間を映し出させた。レーダーも作動させる。何者かが両艦船の間を通れば、警報が鳴るように設定しておく。その状態のまま、時は過ぎる。うとうとするユーシン。酔いが覚めたとはいえ、アルコールは残っているようだ。
どれだけの時が過ぎたか、警報が鳴った。シャトルが1機、「ヤマヤ国」艦隊旗艦から「キグナス」に向かっている。
「やっぱり来たか。」
と言ってユーシンは、ホログラム投影機の後ろ辺りに身を隠した。また、しばらくの待ち時間。そして、誰かが航宙指揮室に入って来た。無重力空間を飛翔して入って来たので、物音一つしなかったが、ユーシンの見える位置に影くらいは差したのだ。侵入者は2人だ。一人は男で一人は女。
「本当だな。本当に良いんだな。設計図さえ見せれば、本当に、あの・・あんな事や、こんな事を・・・」
「はい。本当ですとも。お約束いたします。私と、私の配下の美女達で、寄って集ってあなた様に、あんな事やこんな事をして差し上げます。天にも昇る心地になって頂ける事、間違いありません。ですから、設計図を、『アマテラス』の設計図を、ひと目私に見せて下さい。」
「そうか。あんなものを見せるだけで、あんな事やこんな事が・・。そんなのお安い御用さ。オヤジはけち臭い事言ったようだけど、こっそり見せるだけなら・・・」
「ダメだぞ!キプチャク。」
大声でそう言いながら、ユーシンはホログラム投影機の陰から飛び出した。
「げぇっ!ユーシン!」
驚愕に目を見開くキプチャクとツキノカを、ユーシンは呆れたような笑みで見返した。
今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿もここまでです。次回の投稿は、 '17/9/8 です。
キプチャクが巻き起こすおちゃらけのシーンを経て、ようやくクライマックスに向けての緊張感が高まってきたでしょうか?ツキノカさんの"重ね着"作戦が、どのくらいリアリティや有効性のある方法なのかは、分かりませんが。そして、ユーシンは命をかけてでも「ヤマヤ」国の戦いに手を貸す必要性を感じ始めていますが、どうなのでしょうか?というわけで、
次回 第63話 命を賭す覚悟 です。
おちゃらけた雰囲気から一転して、どんどんシビアな感じになっていきます。これでこそクライマックス直前というものでしょう。気の小さい方は、少し気合を入れなおして読んで頂いた方がいいかもしれない展開になる可能性があります。ご注目ください!




