第59話 「ユラギ国」の実情
宙空浮遊都市「ウィーノ」の港湾コロニー内では、宇宙商船「ウォタリングキグナス」のメンテナンス作業が入念に行われていた。外部装甲の点検などはもう12回目にもなる。
表面上は「ユラギ国」に地球系の産物を運送するだけの事業であり、秘密裏に帯びている機構軍からの任務も、10名ほどのコロニー建築技師を装った宇宙保安機構軍の調査チームを、「ユラギ国」に送り届ける事だ。「ユラギ国」から「ヤマヤ国」へは、彼等が自力で向かう事になる。「キグナス」は、スペースコーム内専用の輸送船だから。
それだけの事なら、ここまで念入りなメンテも必要なさそうだが、これから向かう先がもしかすると、戦乱の真っただ中かもしれないという事情があり、「キグナス」クルー達に緊張感を齎しているのだ。メンテにも熱が入る理由だ。
とはいえ、本格的な戦闘までを予期するような状況でも無い。判明している現状は、宙賊の跳梁が著しいというものだけだ。それらを追い払うだけなら、大した戦闘にはならないはずだし、そもそも「キグナス」程の重武装の船には、宙賊というのは近付いて来ないものなのだ。船首で睨みを利かせる「アマテラスマークⅢ」を一瞥しただけで、くるりとUターンして逃げて行く宙賊も珍しくは無い。
だが、宙賊を背後で操っていると見られる「コーリク国」が、どのような関与の仕方をしているのか、宙賊達がどの程度組織的で積極的な動きを見せるのか、が分からないのだ。不測の事態は起こり得る。そう思って「キグナス」クルーはメンテに励んでいるのだ。
「じゃあ、『イヌチヨーナ星系』には入港できねぇって事か?」
港湾コロニー内で借りた会議室で、バルベリーゴが声を上げた。
「うむ。『ユラギ国』の渉外担当官は、『イヌチヨーナ星系』には近づかず、指定された座標に向かって欲しいと告げて来た。それも、5億㎞より手前からはスペースコームジャンプもしないで、通常航行で接近して来て欲しいという要請もされた。」
バルベリーゴに応えたクロードは、手元のキーボードを操作して、モニターに当該座標を表示させた。
「・・こんな所に、何かあるのか?何にもない、ただの虚空なのじゃ・・ないか。」
会議に参加していたユーシンは、驚きと疑問の呟きを上げた。データー上では如何なる天体の存在も示されていない宙域なのだ。
「なんにもねぇか、人工の天体が臨時で建造されてるのか。まぁ、とにかく、指定された座標に行ってみるしかねぇんだが、しかし、5億㎞を通常航行しろなんてぇのは、こりゃまた時間を食わせる話だなぁ。何日間「キグナス」の中に缶詰にされるんだぁ?」
バルベリーゴはユーシンを振り返った。操船担当者の意見が求められる場面だ。
「体が壊れる寸前の加速に耐えれば、2・3日でも何とかなるが、まぁ、ある程度楽にたどり着こうって言うなら、5日から7日くらいは欲しいところかな。」
バルベリーゴにそう返答したユーシンは、クロードに向きを変えて疑問を述べた。
「当該宙域でのスペースコームジャンプを禁止するっていうのは、やっぱり場所を秘匿する目的なんでしょう?何者かに、その場所を知られる事を『ユラギ国』が恐れてるって事ですよね?」
スペースコームジャンプをすれば、空間の歪み状態から、遠方からでもその事が知られる。ワープインのポイントもワープアウトのポイントも、大雑把にではあるが、探知されてしまうのだ。隠密な行動を取りたい場合には、ワープはふさわしくないものなのだ。一方タキオントンネルは、タキオン粒子の照射軌道上以外では、その存在を探知する事は難しい。ターミナル施設を探知するしかないからだ。隠密性に優れているという事だ。
「詳しい理由の説明は『ユラギ国』の渉外担当官からは受けてはいないが、おそらくそいういう事だろう。宙賊の襲撃を警戒し、奴等に場所を知られないようにしていると考えるのが自然だな。」
クロードの説明に頷いたユーシン。
「それよりも気になるのは」
バルベリーゴが一段と声を大きくして話し出した。「本来『ユラギ国』の貿易拠点である『イヌチヨーナ星系』に近寄れねぇって事だ。シャラナのねぇさん達が連れ去られた、宙賊による大規模な襲撃から後、彼の地がいったいどういう状況になっているのか。まともな状態なのだったら、俺達の入港を拒否するはずはねぇんだ。これまでも、何度も「キグナス」はそこを訪れているんだからなぁ。『イヌチヨーナ星系』の状況によっちゃぁ、『ユラギ国』も『ヤマヤ国』も、相当苦しい立場に追い込まれている事になるぜぇ。」
「ヤマヤ国」も、「イヌチヨーナ」経由でもたらされる地球系の文物を皇帝が独占しているという事が、皇帝への求心力の源泉となり、国体を維持する礎になっているのだ。「イヌチヨーナ」の機能停止は、「ヤマヤ国」の空中分解にすら繋がりかねない事態なのだ。
「渉外担当官の話では、『ヤマヤ国』との通商経路は確保されているとの事だ。指定の座標にさえ行けば、『ヤマヤ国』への物資や人材の搬出入は、十分に出来ると言っていた。」
「こんな、記録上は何もないような宙域が、貿易の要になっちまってるって事が、『ユラギ国』の窮状を露わにしているようなもんだがなぁ。」
クロードの報告に、そんな呟きを漏らしたバルベリーゴは、ユーシンに向かってさらに言った。「まぁ、とにかく、俺達のせいでそのささやかな貿易の要が損なわれたりしないように、注意深くアプローチしねぇとな、その座標の宙域に。宙賊や『コーリク国』の手の者に見つかるなんてヘマは、絶対に許されねぇぞ。」
「そうだな。ドーリーとも相談して、航行プランは念入りに策定するよ、オヤジ。」
ユーシンのその発言で、会議は終了となった。
「では、気を付けて行って来てくれたまえ。『ユラギ国』や『ヤマヤ国』との取引は、我が『UF』にとっても大きな儲けの口だ。多少の犠牲を払ってでも堅持する必要はある。『UF』の利益を損なわない様に、細心の注意を払って行動してくれることを、期待している。」
人命より儲け優先の「UF」らしい発言だ。従業員の命ではなく、商社の利益を損なわない為に“気を付けて”欲しいという事だ。儲けの口を確保する為なら、従業員の1人や2人死んだって構わないとも受け取れる。
だが、誰かが命の危険を冒してでも、機構軍では手の回らない宙域に切り込んでいく事無しには、銀河の平和と繁栄は保たれないというのも、この時代の現実なのだ。「UF」が利益を確保できなくなるという事は、誰かに、生活に必要な物資が届かなくなる事も意味する。そんな事態を阻止するのに、宇宙保安機構軍といえど完全では無い。彼らのような貿易商社が、命を懸けてでも必要物資の行き来を確保する事は、銀河の安定と繁栄に不可欠なのだ。
だからユーシンは、クロードの発言を酷いとは思わなかった。貿易経路を確保し、「UF」に利益をもたらす為になら、死をも恐れるなという理屈は、彼には受け入れ可能なものなのだった。バルベリーゴも一切の不平は漏らさなかった。とはいっても、彼等は、今回の旅で死ぬつもりは、毛頭なかったが。
クロードとバルベリーゴは連れ立って会議室を出て行った。副船長チェリオや通信探索長ラオ、メンテナンス長キムルなどの、会議出席者も続々と部屋を出て行く。適度な重力のある部屋での会議だったから、すたすた、てくてくと足音を響かせながらの退出だ。
ユーシンは席に留まっていた。同じく席を立とうとしないクレアから送られて来る視線を、最後まで部屋に残っていて欲しいというメッセージだと受け取ったからだった。2人を除けば、会議室は無人となった。
今だっ、と言わんばかりの勢いで、クレアがユーシンのもとに駆け寄って来た。わざと大げさに腕を振って見せる仕草が、やたらと愛らしい。「ウィーノ」に到着して3日ほどが経つが、彼女と1対1で顔を合わせるのはこれが初めてだった。入港直後というのはいつも、多忙なものなのだ。
「お帰りなさい!ユーシンさん。」
「その挨拶なら、さっきもしたじゃないですか。お嬢さま。」
苦笑しながら、いや、苦笑のように見せかけて、実は心の底からの快心のものである笑みを浮かべて、ユーシンは応じた。
「さっきのは、皆さんに向けての挨拶ですわ。ユーシンさんに向けての挨拶は、まだ済んでませんのよ。」
「あはは、なるほど。俺一人の為に、改めて挨拶をして下さったんですか。それは、それは、有難うございます。」
社交辞令のようなお礼を述べながら、踊り出しそうな程嬉しいユーシン。
「でも、明日には出航ですけどね。どっちかっていうと、行ってらっしゃいって挨拶するタイミングですよ。さっきもボス・クロードが、オヤジにそう挨拶してたじゃないですか。」
「その挨拶を、これからしようとしていたのですわ。ユーシンさんが、話の腰を折ってしまわれたのですよ。」
そう言って唇を尖らせるが、瞳には、どこまでも楽し気な色しか映っていない。
「そうですか。それは申し訳ない。じゃあ、改めて承りましょうか。」
「はい。ユーシンさん、行ってらっしゃいませ。お気を付けて・・・その・・「UF」の利益の為に、気を付けて・・って・・言わなきゃいけない、立場ですけど・・あの・・」
せっかくの笑顔が、僅かに曇った。それと見たとたん、ユーシンは焦った。満開の笑顔を守るのが、ハーフナイトの務めだ。立ちあがったユーシンは、クレアの両肘の辺りに、左右の手をそれぞれに添えて、顔の高さもクレアに合わせた体勢で言った。
「生きて帰って来ますよ。絶対に。必ず元気で、お嬢様のもとに戻って参ります。」
ユーシンの眼を見つめながら、徐々に満面の笑みに復帰して行ったクレアの顔。
「・・はい。信じて、お待ちしております。」
頷いたクレア。セミロングの黒髪がふんわり。更に見つめ合う2人。
と、また、クレアの笑顔が少し崩れた。曇ったというのでもない。何かを探るような、何かにためらっているような色が見えた。
「ユーシンさん。『イリノア』では、ブルーハルト大佐のお宅に招かれたそうですね。」
「ええ、行きましたよ。そして、色々、沢山お話をさせて頂きましたよ。大佐と。」
「・・その・・、私の事も、何かお話になられたのですか?」
そう言ったクレアの瞳には、迷いの色が混ざり込んで来た。ユーシンとブルーハルト、2人との運命、2人への想い、2人との関係、それらは、クレアにも、様々な迷いや苦悩をもたらさずにはおかないだろう。
「もちろん話しましたよ。お嬢様の事も、色々と!」
わざと悪戯っぽく、冗談めかした声色で、ユーシンは言った。クレアも何かを吹っ切ったように、冗談めかしたような、拗ねたような表情を浮かべて言い返した。
「まぁ、何をお話になったのですか?どうせ、悪口をおっしゃっていたのでしょう。」
「そんなはずは無いじゃないですか。悪い事は何も言ってませんよ。」
「本当に?本当なのですか?では、何をお話になったので?」
「ええー、どう言ったら良いかなぁ。えっと、・・ハーフナイト・・」
「え?・・はーふ・・何ですか?」
「あっ、・・いえいえ。やっぱり少し、ほっぺた膨らみすぎですよねって、話したんですよ。」
「まぁっ!やっぱり悪口じゃないですか!酷いですわぁっ、ユーシンさん。」
そして、お約束のふくれっ面。思わず見入るユーシン。ユーシンが見ている間は、ふくれっ面を維持するクレア。
(なんていう愛らしい顔だ。こんなに不細工なものが、こんなに愛らしいなんて、滅多にあるものじゃないぞ。)
この愛らしいものを守るためになら、命など惜しくは無い。そう思ったユーシン。
(だから、次の旅は、俺の命を散らせる場では無い。何が何でも、生きて帰って来なくては。)
ハーフナイトとしての誓いだった。
その5日後には「キグナス」は、指定された座標への最後のワープを終えて、通常航行を始めていた。これから6日間程かけて、通常航行でアプローチするのだ。宇宙艇6隻が、「キグナス」から発進していた。
「本当に、ずいぶんと念入りなんだな。無人探査機が付近に潜んでいないかどうか、宇宙艇を繰り出してまで、徹底的に調べるなんて。」
と、ファランクスが言った。同じ宇宙艇に乗っているユーシンが応える前に、アデレードが通信機越しに応じて来た。
「そりゃそうさ。『コーリク国』は機構軍の介入の前に、何としても『ユラギ国』と『ヤマヤ国』を制圧しようとしてるって、予測されてるんだろ。だとしたら、『ユラギ国』から『ヤマヤ国』への通商ルートを、血眼になって探しているはずだ。それを潰すのが、野望達成への近道だからな。」
ユーシンも付け足した。
「機構軍将官達の危機感を煽って、上手く『コーリク国』に介入してくるまでの時間を稼いだけど、やはりいつまでも妨害し続けられるものではないはずだからな。いずれは機構軍の介入を招く事になるのは、『コーリク国』もその背後にいる勢力も、分かっているはずだ。」
「だから、奴等は『ユラギ国』や『ヤマヤ国』の制圧を急ぐだろうって事か。通商ルートの発見にも、心血を注ぐはずだよな。その目をすり抜けて『ユラギ国』が指定した座標を目指すんだから、念には念を入れて、奴等に探知されてない事を確かめなきゃいけないのか。」
ユーシンの言葉を受けて、ファランクスも言った。
「そういう訳だから、気合入れて捜索しようぜ。無人探査機が潜んでいるなら、そいつが『キグナス』を見つける前に、俺達がそいつを見つけて、手を打たないとな。」
到着まで宇宙艇は、常時飛ばし続ける事になるので、パイロットは交代で任に当たる事になる。ユーシンまでが駆り出されるわけだ。だが、しらみつぶしの捜索でも無人偵察機は発見されなかった。誰の眼にも触れることなく、「キグナス」は6日間の航行を終え、指定された宙域にたどり着くことが出来たのだった。
「何だあれ。天体は天体だけど、ただの岩石の群れだぜ。小惑星といえる程のサイズでさえも無い。」
「キグナス」の航宙指揮室に設えられているモニターに映し出されたものを見て、操船を担当していたマルコが唸るように言った。隣で待機しているユーシンも、亜然として言った。
「あれのどれかを刳り貫いて、中に港湾施設を作ったって事か?」
「ここまで近づいた事で、中からの熱源反応が捕えられるようになったわ。」
通信探索席から、アニーが伝えて来た。「間違いなくあの中に、隠匿された港湾施設があるわ。タキオントンネルのターミナルもあるみたい。」
「こんな所じゃ、エネルギーや資源の確保も難しいだろうな。周囲に使えそうな天体なんて、何も無いのだから。」
ユーシンの呟きにバルベリーゴが応じた。
「臨時の施設なんだろうぜぇ。『イヌチヨーナ』が回復するまでの、急場を凌ぐためだけのものなのだろう。」
「港湾施設から連絡よ」
アニーが報告する。「『ユラギ国臨時港』へようこそだって。それと、施設内には『キグナス』を受け入れる余地は無いから、近くに浮遊させておいて、宇宙艇で積荷の搬出入を行って欲しいって事よ。」
「なんだってぇ!? じゃあ、メンテも宇宙に浮かびながらやれってか。本当に、名前だけの港湾施設だな。」
ユーシンは呆れて叫んだ
「名前と言えば、『ユラギ国臨時港』が、ここの正式名称なのか。固有の名前すら付けないなんて、本当に急場を凌ぐ為だけのものなんだな。」
呆れ顔はマルコも負けていない。だが、言われた通りにするより他は無かった。
宇宙艇を使っての、積荷の施設への搬入だけでも、1日がかりの仕事になった。その間にもコロニー建築技師を装った機構軍の調査チームは、タキオントンネルのターミナルへと移って行った。1日1回、「ヤマヤ国」への定期便が出ているらしい。それに乗り、7日ほどかけて彼の地に到着するとの事だ。
一通りの作業を終えて、施設内の食堂で一息入れるユーシン。バルベリーゴやニコル、キプチャクも同席していた。岩石の内部に回転しているユニットがあり、食堂など限られた施設にのみ重力を生じさせている。いささか物足りない強度ではあるが。
食堂と言っても、自動調理装置さえも備えていない。出来合いのものを自動販売機から購入するだけだった。
「なんだこの焼きおにぎり、中の方はパッサパサだぜ。」
不平をこぼしながら、バクバクと頬張るキプチャク。
「こんな所が貿易の要になってるなんて、『ユラギ国』は想像以上に危機的な状態なのじゃないか?」
そのユーシンの発言に、思いもよらない方向から返事が聞こえた。
「恥ずかしながら、その通りだ。」
深緑の軍服を着た、ひょろりと背の高い50がらみの男が、いつの間にか背後に立っていた。同年配の男が更に2人、その後ろに控えている。
「おっと失礼。私は『ユラギ国』外交部情報官のサムダージュという者だ。あなたが宇宙商船『ウォタリングキグナス』船長、バルベリーゴ・マグレブ氏かな。」
ユーシンからバルベリーゴに視線を移しながら、サムダージュは言った。
「いかにも。」
バルベリーゴが応えると、すかさずといった感じで言葉を繋いできたサムダージュ。
「少し良いかな。話をさせて頂きたい。」
ユーシンの右隣の席を指差して、そう言った。ユーシンの左にいるニコルが詰めれば、サムダージュも座れそうだ。
「ああ。」
バルベリーゴが応えると同時に、ニコルとユーシンが左にずれる。座り込んで来たサムダージュは、正面にバルベリーゴを見た。バルベリーゴの右隣ではキプチャクが、焼きおにぎりを頬張りながら、怪訝な表情を浮かべている。
サムダージュが従えていた2人の男は、ユーシン達が座っている長椅子の背後に立った。落ち着かな気に2人を振り返るニコル。この人達の説明をして欲しいという視線を、サムダージュに送った。
「ああ、済まない。この2人は私の部下で、プキキニとチャンゴンだ。」
名前を呼ばれると同時に、軽く会釈をして見せた2人。言葉は発しなかった。同じく軍服姿だが、背が低い分サムダージュよりは、パッとしない印象だ。プキキニは痩身だがチャンゴンは恰幅の良い腹をしている。
「で、話とは。」
探るような視線を送りながら、バルベリーゴは問いただした。
「御覧の通り、我が国は今、存続をも脅かされるほどの窮地に立たされておる。」
「ああ、そうだな。こんな辺鄙な場所の、ただの岩を刳り貫いただけの施設に、『イヌチヨーナ』の代わりを果たさせようとしているのだからな。」
「ふふ」
苦り切った笑いを漏らし、サムダージュは言った。「代わりなどと、とんでもない。『ヤマヤ国』への輸送力など1パーセント以下に落ちたよ。それとても、あと数か月分の物資の備蓄が尽きれば、エネルギーも構造資材も得られなくなり、施設の維持は不可能となる。一刻も早く『イヌチヨーナ』を奪還せねばならない。」
「奪還、だって?」
驚きの声を上げたのはユーシンだった。「って事は、もうすでに『イヌチヨーナ星系』は『コーリク国』の手に落ちているのか?」
「いや、『コーリク国』では無い。宙賊共に占拠された状態なのだ。」
感情を押し殺したような声色で、サムダージュは言った。
「宙賊くらい、追い払えないのか?『ユラギ国』の軍隊は。」
キプチャクが呆れた顔で言った。
「宙賊だけなら、追い払う事は可能だろう。だが、今も話に出たが、背後に『コーリク国』がいる。その軍隊に繰り出して来られれば、我が国軍など簡単に粉砕されてしまうだろう。」
「それを恐れて、国家の基盤でもある重要貿易拠点の星系を、宙賊に奪われっ放しの状態なのか?」
「それが、我が国の置かれている現状だ。」
サムダージュは低く呟いた。
今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日、 '17/8/26 です。
さて、久しぶりの?クレア登場でした。久しぶりの感じがしない人もいるかもしれませんが、「イリノア星系」出発から「ウィーノ星系」到着までの、かなり長いはずの時間を割愛しているので、文面上ではあっという間でもユーシンにとっては、クレアと会わない時間は長かったのです。で、クレアがユーシンやブルーハルトとの関係をどう思っているのか、の一端が垣間見えるようなシーンを描いてみましたが、はっきり言って作者にも謎です。こんな場面での女心なんか、分かる訳ないんです。読者様の方で、ご自由にご想像下さい。そのあと、テンポ良く(良すぎ?)「ユラギ国」に着いてしまいました。宙賊に重要な貿易拠点を占拠されている国に入り込んでしまって、調査チームを送り届けるという任務は果たしましたが、かなり危険な環境下にあると御認識下さい。というわけで、
次回 第60話 自滅的拒絶反応 です。
新たな登場人物が現れて、また名前覚えなきゃという状態ですが、この「キークト星団」で、更に何人か登場します。大変かもしれませんが、それぞれの名前や性格や考え方など、一応おさえてもらった方が、お楽しみ頂けるかと思いますので、よろしくお願いいたします。




