第53話 クルーの内部対立
ワープアウト後のメンテナンス作業が始まった。メンテ要員を中心に、他の部署の者達も駆り出されて、一斉に船外作業が行われた。3回のワープをもって300光年以上を跳躍した「キグナス」は、「タクムス星団」の「ソリアノ星系」から「ヴォーソム星団」の「イリノア星系」までの距離の、およそ三分の一を既に消化していた。
「ああもう、一度出航したら、疲れを取る間もなくこき使われるなぁ、全く。」
今回は船内のメンテナンスに駆り出されているキプチャクが、航宙指揮室のモニターを点検しながら、たまりかねたように毒づいた。
「そうね。5時間おきにメンテナンスしなきゃいけないものね。もう少し間隔が長ければ、疲れも取れるんだろうけど。」
ニコルが、キプチャクを宥めるように言った。ワープアウトから次のワープまでの間隔が、約5時間かかるのだ。ワープの為に必要な、スペースコームの状態観測等にそれだけの時間がかかる。実際に100光年以上を跳躍するワープそのものは、一瞬で終わってしまうのだが。
「急ぎの旅でも無ければ、ワープとワープの間隔をここまで最短にする事も無いのだけどね。今は先を急ぐから、準備が整いしだジャンプしている状態だもんね。メンテの間隔も最短になって、作業する方の負担は大きいよね。」
と、ユーシンも、凝った肩をクルクルと回してほぐしながら、ため息交じりにそうこぼした。
「申し訳ないですわ。私のせいで急がなければならなくなって、皆さんにご苦労をおかけしているのですね。」
ユーシン達が気付かない内に指揮室に入り込んでいたシャラナが、穏やかな中にも自責の念を滲ませて、そう言って来た。
「あっ・・シャラナさん、いつの間に・・。いやいや、シャラナさんが申し訳なく思う必要は無いよ。大事なお客さんなんだから、シャラナさんは。」
慌てて取り繕うキプチャク。
「ああ、そうだぜぇ、ねぇさんよ。これしきで音を上げてる奴が、情けねぇんだからな。あっはっは。」
船長席でふんぞり返っているバルベリーゴも、話に割り込んで来た。「『イリノア星系』に着いたら、こんなもんじゃぁ済まねぇぜ。何てったって、『ヘラクレス回廊』では最も地球に近いと言われている星系だ。地球からの産物が大量に、多種多様に運び込まれている。そっから出る時にゃぁ、それらを満載する事になるし、それらを検品するのはキプチャク、お前なんだからなぁ。覚悟しておけ、ガキィ。」
「何だよそれ、お先真っ暗じゃねえか、俺の前途は。せめて『イリノア』にイイ女がいる事を期待するしかないんだなぁ、俺には。」
半泣きの顔でそう言うキプチャクを、一同の笑いが包んだ。
「地球から最も近いという事は、やはり歴史も、この『ヘラクレス回廊群』の中でも最も古いのですか?」
シャラナはバルベリーゴの隣の、今は空いている副船長席にまで空中を漂って行き、ベルトでシートに体を固定した。加速をして重力を生じさせた方が身動きも採りやすいが、船外作業をしている者達の事を考えれば、今は重力を生じさせるわけにはいかない。
「そんな事は無いですよ。」
シャラナの問いに答えたのはバルベリーゴでは無く、ユーシンだった。「ヘラクレス回廊で人類が最初の足跡を記した場所は、どこだかはハッキリとは分かっていませんが、『イリノア星系』ではありません。それに、直線距離で言えば、『イリノア星系』が地球から最短と言う事でも無いのです。地球と『ヘラクレス回廊群』の間の、今分かっているスペースコームの配置から、最も短い時間で地球と行き来できるのが、『イリノア星系』という事なんです。」
「そうなのですか。近いというのは、距離的な意味では無くて、移動時間の事を示しているのですね。」
実際、直線距離というのは意味が無かった。スペースコームジャンプならば100光年の距離は、準備時間も含めて5時間で跳躍出来るものだが、タキオントンネル航法では1か月以上を要するのだ。銀河での移動時間は、スペースコームの配置や形によって決まると言っても良い。
「でも、地球に近いというのなら、私も一度くらいは訪れてみたいですわね。人類発祥の惑星である地球に。」
「あはは」
シャラナの発言を、苦笑を持って受け止めたユーシン。「近いって言っても、半年くらいかかりますけどね、地球まで。」
「まあ。そんなに遠いのですか?地球というのは。存じませんでしたわ。」
目を丸くして驚いたシャラナだが、特に恥じ入る様子は無い。いつも通り、しゃんと背筋を伸ばした堂々たる立ち居振る舞いが継続している。無知を曝して傷つく程、彼女の威厳は軽くは無かった。
「『イリノア』から、タキオントンネルとスペースコームを何回も切り替えながら移動しなければなりません。最長で3か月くらい、タキオントンネル船に缶詰にされるのにも耐えなければなりません。ものすごくハードな移動だという話ですよ。」
以前に「テトリア星団」内を輸送した地球系の人から聞いた話を、ユーシンはシャラナに伝えた。メンテ機材をカチャカチャといじりながら、視線はその時の記憶を追いかけている。
と、そこへ、船外でのメンテナンス作業を終えたのであろう男達が、ぞろぞろと航宙指揮室へと入って来た。
「あ、いたいた。こんなところにおられたのですか、シャラナ様。」
(様って・・・)
メンテ要員の誰かの発言に、内心で呟きを漏らしたユーシン。
「シャラナ様、慣れない宇宙船での旅、何かお困りの事など有りませんか?」
「このような無粋な場所におられなくても、もっとゆったりできる場所でお過ごしになれば良いものを。」
男共は口々に言いながら、シャラナを取り囲んだ。
「いえ、私は自ら好んでこちらに参ったのです。皆様のお仕事を拝見し、出来れば労をねぎらって差し上げたいと思いまして。」
穏やかに受け答えをするシャラナ。
「おお、何てお優しい。でも、俺達も船外作業でヘトヘトなのですよ。ぬくぬくと船内で作業をしている連中より、俺達の労をねぎらって頂くわけには・・」
「おほほ、そうでございますわね。皆様、船外作業ご苦労様でした。皆様のお疲れを癒す為に、私に何かして差し上げられればいいのですけども。」
子供じみたわがままと思える発言にも、あくまでも穏やかに応じるシャラナだ。
「シャラナ様のお話の続きをお聞かせ下さい。それで疲れも吹き飛びます。」
そう言ったのは、メンテ要員のジャカールだ。最初にシャラナに“様”を付けて呼び出したのは、ユーシンの記憶の中では彼だった。
「そうですわね。16歳で『ヤマヤ国』に嫁いで行く事になり、生まれ故郷の『ユラギ国』を後にしたところまではお話ししましたかしら?」
「はい!そうですね。その続きをお願いいたします。」
シャラナの問いかけに、目を輝かせて答えたジャカール。その他大勢の男達と共に、神妙な顔つきで話に聞き入る。
「それで、『ユラギ国』の『イヌチヨーナ星系』から私は、大勢の一族郎党に見送られ、『ヤマヤ国』は『ハークナナーイオ伯領』に3つある星系の内、中心的存在である『ピヨタン星系』に参りました。同地を収めるサザ家の家臣の一つ、チルヌム家に嫁ぐ為です。そして私は、トクワキ・チルヌムの嫁となりました。」
「そうですか・・16歳という若い身空で、単身国を離れ・・さぞかし寂しく、不安であった事でしょう。おいたわしい・・」
涙ながらに感想をつぶやくジャカールに、シャラナはあっけらかんと言い返した。
「いえ、当時『ユラギ国』の者にとって『ヤマヤ国』は、憧れの宙域でもありましたので、その時の私はウキウキでしたわ。『ユラギ』で暮らしていた時より、遥かに大きなコロニーの中にある遥かに立派な家屋敷に起居できると思い、夢を膨らませておりました。」
「そんな淡い夢が裏切られた時のお気持ちは、さぞかしお辛いものでしたでしょう。」
「いえ、全く裏切られませんでしたわ。想像した通りの立派な家屋敷を目の当たりにして、飛び跳ねて喜んだのを、今でも覚えております。」
「しかし、それからの、慣れない環境、見知らぬ人々の間での、苦しみに満ちた日々を思うと・・」
「いえいえ、チルヌム家の皆様は、とっても優しく接して下さいまして、毎日が夢のように快適な生活でした。」
「しかし、夫のトクワキさんとの結婚生活には、様々な障害が・・・」
「いえいえ、ラブラブでしたわ。」
近くでメンテ作業をしながらそれを聞いていたユーシンは、失笑を禁じ得なかった。何とかしてシャラナの話を悲劇にしようと奮闘するジャカールの様は、ユーシンには喜劇でしか無かった。
「しかし・・しかし、故郷で慣れ親しんだ人達と会えない生活は・・・」
「いえいえ、『ユラギ国』からは、タキオントンネルで5日の距離ですから、月に1・2度は故郷の者が尋ねて来て、数日を共に過ごしてくれました。」
「しかし・・しかし・・しかし、長くそばにいてくれる、心を許せる誰かがいないという暮らしは・・・。」
「そうそう、嫁いで4年目頃に、クレアさんが『ヤマヤ国』に研修にいらしたのでした。1年間にわたって、姉妹のように楽しく過ごしましたわ。あの時期は、私の人生の中でも最も喜びに満ちた、充足の日々でした。クレアさんがお帰りの際には、私も『ユラギ国』の『イヌチヨーナ星系』まで送って差し上げましたのよ。里帰りも兼ねて。」
「『イヌチヨーナ』かぁ。懐かしいなぁ。俺も何度か行ったがよぉ、最後に行ったのは、何年前だったかなぁ。」
バルベリーゴがそう声を張り上げたのは、これ以上ジャカールの発言は、聞くに堪えないと思ったからかもしれない。
「『UF』と『ユラギ国』は古くから取引があり、『UF』の商船も頻繁に、『イヌチヨーナ星系』を訪れていたのですね。『ヤマヤ国』にまでは、『UF』の船は参りませんけども。」
シャラナもジャカールからの解放を望んだのか、バルベリーゴの発言に積極的に食いついて行った。
「あっはっは。そりゃぁそうさぁ。『UF』の船はスペースコーム専門だ。『キークト星団』の中でも、スペースコームジャンプで行けるのは『イヌチヨーナ星系』だけだからなぁ。『ヤマヤ国』までは、『ヤマヤ』か『ユラギ』国籍のタキオントンネル船が荷を運ぶさぁ。」
「でも、『キグナス』自体は『ヤマヤ国』まではおいでになりませんけども、『キグナス』に『ユラギ国』まで運んで頂いた文物は、『ヤマヤ国』にとっては欠く事の出来ないものとなっております。コロニーやシャトル用の資材やデバイスなども、『ヤマヤ』国内で生産されるものよりもはるかに高品質ですし、衣服や生活用品のデザインや機能性も、『ヤマヤ』の民に支持されております。」
「その貿易を『ヤマヤ国』皇帝が独占する事で、皇帝への求心力が維持され、国の体制は安定を保っているって話は、聞いた事があるぜぇ。」
「ええ。逆に、宙賊の暗躍によって『ユラギ国』との貿易船の行き来が滞りますと、皇帝への求心力が低下し、たちどころに政情不安に陥る傾向があるというのも、『ヤマヤ国』の置かれている現状です。地球由来の文物を、皇帝の手から民に配るという形をとる事で、民の皇帝への尊崇の念が維持されているという、国家として不完全な部分があるのも事実なのです。」
「じゃぁ、数年前から宙賊の出没が頻繁になって、貿易船が襲われるようになったっていうのは、『ヤマヤ国』にとっては殊の外深刻な事態だったんだなぁ。」
そんなバルベリーゴとシャラナのやり取りを、ジャカールはポカーンと口を開けたまま聞いていた。彼には少し難しい話だったようだ。
「『イヌチヨーナ星系』が、『ユラギ国』から『ヤマヤ国』への地球系文物輸送の起点だったってことか。その『イヌチヨーナ星系』が宙賊の組織的な襲撃で、壊滅的な打撃を受け、今も音信不通になっているんじゃなかったっけ?シャラナさん達が連れ去られた時に、凄惨な略奪や虐殺が行われたって事も、以前言ってたよね。」
「その点に関しては、私も大変心配しております。もし、『イヌチヨーナ星系』の港湾機能が回復不能の事態に陥っていて、『ヤマヤ国』にもたらされる地球系の文物が皆無という事態になれば、『ヤマヤ国』も空中分解しかねません。そこへ『コーリク国』が進攻すれば、『キークト星団』征服という彼らの野望も、あっさりと実現してしまう事になります。」
というシャラナの発言に、おかしな反応を示す者があった。
「ううっ、可愛そうなシャラナさん。『ヤマヤ国』に嫁いだために、そんな不幸な目に・・」
「いや、ジャカール。違うぞ。話、聞いてたか?シャラナさんの不幸じゃ無くて、『ヤマヤ国』の実情について・・・」
「とにかく、」
ジャカールの存在を完全に無視するように、バルベリーゴは話し出した。「機構軍に早い事乗り出してもらって、『イヌチヨーナ星系』とその周辺から中賊を駆逐して、『イヌチヨーナ』の状態によっては、その再建にも助力してもらう為に、俺たちゃぁ行動しなきゃいけねぇって事だなぁ。事は急ぐぜぇ。『ユラギ国』や『ヤマヤ国』が『コーリク国』の軍門に下ってからじゃぁ、おせぇからなぁ。」
「機構軍に『コーリク国』の関与を認定してもらうには、『コーリク国』からシャラナさんの買い取りを打診されていた奴隷商人の証言が重要だけど、奴隷商人との交渉はその後どうなったんだ?」
ユーシンが間髪を入れずにバルベリーゴに問いかけたのは、ジャカールに発言の余地を与えない為でもあるようだ。
「いや、ダメだ。連絡が取れねぇ。『コーリク国』が先に手を回して、証言させねぇようにしているのかもしれねぇなぁ。」
ユーシンの表情は、深刻なものになった。
「くそっ!そうだとしたら、抜け目のない奴等だな、『コーリク国』は。奴隷商人の証言があれば、機構軍が即『コーリク国』に出兵する可能性だって出てくるのに。」
「ユーシンさん」
唇を噛んで悔しがるユーシンに、シャラナの優しい声が掛けられた。「本当に、有難うございます。そんなにも私や、私の祖国の事を心配して下さって。まるで我が事のように。ユーシンさんにそこまでの関心を持って頂ければ、それだけでとても心強いです。ですが、余りお心を悩ませすぎないで下さいませ。あなたには、守らなければならないもの、支えなければならないものが、他にもあるのですから。」
「そんな事はありません!我々がお守りすべきは、シャラナ様だけです!シャラナ様の為になら、どれだけ心を悩ませようと苦にはなりません!」
そう叫んだのは、何故かシャラナの視線の先にいるユーシンでは無く、シャラナに存在を忘れ去られつつあったジャカールだった。その他の、シャラナを取り巻いていた男共も、ここぞとばかりに奇声を上げ始めた。
「そうです。我らはシャラナ様の為なら、たとえ火の中水の・・・」
「何なんだよ、お前らは!今の話もロクに理解して無かったくせに、何を調子に乗って・・・」
「何を言うんだ!ユーシン!我等は心を一つにしてシャラナ様の為だけに闘う事を誓った、同士ではないか!」
「しらんわー」
「やれやれ、うるせぇガキ共だぜぇ、全く。ろくに話も出来やしねぇ」
そこへ、ノノが航宙指揮室へと入って来た。船内を回ってクルー達を診察して来たのだろう。その後ろからも、男達がぞろぞろと付いて来ていた。
「あの、そこあたしの席なのだけど・・」
シャラナの取り巻き男の1人が彼女の席に陣取っているのを見て、ノノは穏やかな声色でそのことを指摘しようとした。が、
「おい、貴様!そこはノノちゃんの席じゃないか!そこを陣取るなんて、身の程知らずな事をするな!」
バルベリーゴは、再び「やれやれ」をくりかえす羽目になった。「また始まったな。どうなっちまったんだ?こいつら。」
彼が、頭を抱えんばかりの仕草でそう言ったのには、訳があった。このところ「キグナス」クルーの間で、深刻な対立が生じつつあったのだ。始めはささやかな嗜好の違いといった程度の事であったのだが、いつしか信仰や崇拝といった、精神の深い領域にまで事態は及んで行き、「キグナス」船内に抜き差しならない雰囲気をもたらしているのだった。
片やその尊崇の念を、クルー一同で共有すべしと主張し、片やその癒しを、誰にも邪魔されたくないと願い、互いにその主張を譲ろうとはしないのだ。それぞれの派閥が、自分達こそが絶対的に正しいと思い込んでおり、相手の立場を斟酌する柔軟性を欠いている。
その、「キグナス」船内を緊張状態に陥れている元凶とは、「シャラナ様派」と「ノノちゃん派」の対立なのであった。
シャラナの威厳に満ちたオーラに打たれた者達は、その眼前に平服すらしたい衝動に苛まれ、その衝動を共有しない者達に排斥の目を向けた。一方ノノのやわらかな物腰に心酔する者は、彼女の与える癒しこそ「キグナス」の全てのクルーに必要不可欠と確信し、それ以上に貴重なるものの存在を認めようとはしないのだ。
「シャラナ様派」に属する者達は、手が空いたと見るや彼女のもとに馳せ参じ、どんな些細な事であれ、声を掛けてもらう事を心待ちにした。食堂で飲み物選びに迷う彼女に、「どれにしましょう」の一言を賜っただけで、涙を流して打ち震える始末だ。時には声を掛けてもらうまではと、己の職務さえ後回しにしてシャラナの傍らから離れようとしないものまで現れ、「バカ野郎!しっかり仕事しねぇか、クソガキィ!」と、バルベリーゴに一括され、ようやく任務に復帰したりもしたのだった。
そうかと思えば、「ノノちゃん派」に属する者共も、どう見ても健康であるにも関わらず、「頭が痛い」の「お腹が重い」のと言い訳を見つけては、医務室のノノのもとを頻繁に訪れるのだ。「どこも悪く無いよ」と呆れたように言いながらもノノは、頭を摩ってやったりお腹を撫でてやったりという気遣いは怠らないものだから、医務室の前には、痛くも無い頭やお腹を押さえた男共が、ずらりと列を成すのだ。「いい加減にしやがれ、アホガキ共ぉ!医務室に来て、船医のギボンズに問題無しと診断された奴ぁ、俺のゲンコツで激痛を味わわせてやるからなぁ!」と、バルベリーゴの大目玉を食らって、ようやく医務室から退散して行ったのだった。
そんな「シャラナ様派」の男と「ノノちゃん派」の男が顔を合わせると、
「もっとシャラナ様の威光に敬意を表さないか!」
「いいや、それより、いつも癒しをくれるノノちゃんに、お礼の一つも言えないのか。」
といった激論が、決まって戦わされる事になるのだ。
そしてそんな対立が今また、航宙指揮室の、選りにも選ってバルベリーゴの眼前で展開し始めたのだ。
「何がノノちゃんの席だ!シャラナ様の有り難いお話を拝聴する場に、そんな俗悪な概念を持ち込むな。」
「有り難いお話は、お前達だけで聞いていろ!皆に癒しを与えて回って疲れたノノちゃんが、席に着きたがっているのに、それを邪魔する奴があるか!」
「なにをぉ!シャラナ様が・・」
「なんだとぉ!ノノちゃんは・・」
永遠と、不毛な議論が続く。
「やかましいわぁ!航宙指揮室に用の無いガキは、さっさとここから出ていけぇ!」
遂にバルベリーゴが大爆発した事で、ようやく指揮室に平穏が訪れた。
「ノノちゃん、お疲れ様。船内全てを回って診察するなんて、大変ね。」
「いいえ、あたしなんて全然。シャラナさんこそ、色々心配なのにいつも笑顔で、凄いです。」
対立の渦中であるはずの2人だが、いがみ合う男達が阿呆に見える程に、極めて仲が良いのだった。常に笑顔で互いを慈しむノノとシャラナだった。
今回の投稿はここまでです。次回の投稿は明日、'17/8/5 です。
新章開幕ということで、状況整理や世界観の説明など、理屈っぽい話が多くなってしまったでしょか?それを中和すべく、相当おちゃらけた場面を作ったりもしました。アイドルグループの1番人気のメンバーと2番人気のメンバーの、それぞれのファンがいがみ合っている様子を参考にした?かもしれません。「キグナス」クルーも長期間宇宙船の中に缶詰なので、色々な人間模様が展開する、とご理解ください。というわけで、
次回 第54話 前途多難 です。
クルーの内部対立という"難"もありましたが、それしきの事だけで終わるわけはないです。もうじき「イリノア星系」に到着する彼らの行く先には、数々の"難"が待ち構えているのです。物語も後半に入って、大変なことになっていくので、是非、眼を離さないでいてほしいと思います。




