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第51話 アドリアーノの故郷

「そんな馬鹿な。アドリアーノ少尉は、物凄い腕前のパイロットだったんだ。戦死するなんて・・」

 言ったところで何の意味も無いような発言だが、ユーシンは言わずにいられなかった。

「その通り。彼は『1-1-1』の中でも相当に卓越した実力のある、エース級パイロットだった。それに、部下や後輩からも信頼が厚く、若くして『1-1-1』の一個分隊の隊長を任されるほどだった。」

 機構軍の戦闘艇は、4隻が1単位で活動し、4単位16隻で一個分隊を形成する。アドリアーノはその分隊長だったという事だ。4個分隊64隻で一つの戦闘艇団を形成し、団長がそれを率いる。「1-1-1戦闘艇団」の64隻を率いているのは、ガリアス・シュレーディンガー中佐という事になる。

「あの頼もし気な若者が、どんな風に散って行っのか、詳しく教えてもらえねぇか?」

 バルベリーゴもさすがに声のトーンを落とし、やるせない顔色でそうブルーハルトに問いかけた。

「私が報告を受けたところでは、『1-1-1』が宙賊の根拠地に突入した時には、敵の戦闘艇はほとんど残されていなかったらしいが、大量の誘導ミサイルによる攻撃に悩まされたようです。並の戦闘艇団ならば、それなりの損害は出していたであろう、大量の誘導ミサイル群との格闘でしたが、さすがは『1-1-1』だけあって、そこは損害も無く切り抜けたとの事です。根拠地にいた居住部族の者達は、誘導ミサイルによる攻撃が不首尾に終わったところで、次々に投降して来て、『1-1-1』としては、後は、同地にある軍事関連施設を全て破壊し、軍事に転用可能な物資を全て接収するという作業のみが残される事になりました。」

 一旦言葉を途切らせたブルーハルト。いよいよそこからが、話の核心のようだ。

「彼らが手分けして、しらみつぶしに根拠地内を捜索し、やるべきを作業をこなしている時に、その根拠地から逃亡を図るシャトルを見つけたそうです。アドリアーノ少尉は、部下の戦闘艇3隻を率いてそれを追いかけたが、シャトルの逃げた先に、予想もしなかった待ち伏せの戦闘艇が20隻程いた。しかもその中の1隻は、機構軍の最新鋭の戦闘艇と同型のもので、パイロットの腕も相当優れていたらしい。アドリアーノ少尉は、その1隻への対処は自分だけでやるから、決っして手を出すなと部下に厳命した。そして、20隻対4隻での奮戦の末に、敵の殲滅(せんめつ)には成功したが、最新鋭も含めた5隻の敵を1隻で同時に相手にする事になったアドリアーノ少尉の戦闘艇は、その5隻は撃破したものの自身も被弾し、虚空に散って行ったそうです。彼と同じ戦闘艇に同乗していた部下は、脱出に成功して一命を取り留めたそうですが。」

「なんで、そんな最新鋭の敵に、自分だけで・・・」

 ユーシンは、目の前にはいない人物を問い詰める様な調子で、そう口にした。

「もし奴の部下も、その最新鋭との闘いに加わっていたら、機構軍の損害はもっと大きくなっていたのじゃねぇかなぁ。あの若者は、自分の戦闘艇だけで立ち向かった方が、被害が小さくなると思って、部下達にその最新鋭に近づかないように厳命した。俺ぁ、そう思うなぁ。」

 バルベリーゴの言葉に、ブルーハルトは頷いて応えた。

「実は同じ事が、もう一つ起こっていたそうです。脱出を図るシャトルを見つけた『1-1-1』の戦闘艇が、1単位の4隻で追跡したところ、待ち伏せの戦闘艇約20隻に襲われた。その中の1隻がやはり最新鋭のもので、『1-1-1』側の戦闘艇3隻が撃破される事になった。『1-1-1』の中でもずば抜けた能力を持つアドリアーノ少尉でなければ、対処し切れ無い敵だったのでしょう。無論1対1なら、どんな最新鋭の戦闘艇が相手でも、『1-1-1』のパイロットが遅れを取る事は無いでしょうが、4隻で20隻に包囲されたその中に、そんな最新鋭が混じっていたら、さすがの『1-1-1』の中でも、対抗できるのはアドリアーノ少尉くらいのものだったのでしょう。」

「宙賊共が投降した後に、シャトルが脱出して、その行き先に待ち伏せの戦闘艇部隊。更にその中には、最新鋭のものまであった。こりゃぁ完全に、背後に相当な勢力が控えているって事だなぁ。」

 バルベリーゴは、深刻な程に眉間にしわを寄せて、そう呟いた。

「私もそう考えます。そして、アドリアーノ少尉を含め、『1-1-1』の兵達もそう考えたからこそ、そのシャトルを逃がすわけには行かないと考えたのでしょう。本来は、少数部隊での深追いは避けるべきなのです。特に、敵地に深く分け入っているという、今回のようなケースでは。」

 ユーシンは、それを聞いて思った。

(銀河の平穏を脅かす者をのさばらせない為に、危険を承知でシャトルを追跡し、仲間達に犠牲を出さない為に、最新鋭の戦闘艇に自分だけで立ち向かい、そしてアドリアーノ少尉は、戦死した。どこまでも、守るべきものを守るために。果たすべき責務を果たす為に、闘い抜いたんだ。)

 彼の死は余りも悲しい事ではあったが、悲しむ以上にユーシンは、彼の生き様に賞賛の拍手を送りたい気持ちになった。

「ところで、ガリアスの奴ぁ、どうしている?」

 バルベリーゴがそう問いかけた事で、ユーシンにも苦悩の極致にいるであろう、『1-1-1戦闘艇団』団長の心境に思いが至った。これまで何度も部下を死地に送り込む命令を下し、多くの部下の死に触れて来て、自責の念を募らせていた彼が、今また、最も将来を嘱望(しょくぼう)していた部下の一人を失ったのだ。遠くから想像しているだけのユーシンの胸ですら、張り裂けそうな痛みを覚える。当のガリアスの胸を襲う痛みは、いかばかりだろうか。

「直近の2つの任務で、彼等は20名もの仲間を失いました。団員の補充と、新体制での一からの訓練をやらない事には、実力の発揮は難しい状況になっています。当面は実戦から離して、体勢の立て直しに専念してもらう事になるでしょう。」

(団員を補充して、戦闘艇団の修復は出来るだろうが、ガリアス中佐の心は、修復出来るのだろうか?心を凍らせて、今の境遇を耐えているであろう彼の心が、温められ溶かされる時は、来るのだろうか?)

 ユーシンの心は深く沈んだ。今すぐにでも、ガリアスのもとに駆け付けたい思いに捕らわれた。

「ガリアス中佐は、今どこに?」

 思わずそう問いかけてしまったユーシン。

「申し訳ない。それには答えられない。『1-1-1戦闘艇団』専用の訓練施設とだけ言っておこう。」

 軍に機密は付き物だ。ユーシンは小さく頷いて、ブルーハルトへの理解を示した。

「もう一つ聞いても良いですか?」

と、ユーシン。

「応えられることなら、何でも答えよう。」

 穏やかに応じるブルーハルト。

「アドリアーノ少尉の遺族は、どういう待遇を受けるのでしょうか?」

「彼は正規の機構軍兵士だ。十分な遺族年金が支払われるから、彼の家族の生活には、支障は来さないと思う。」

 それだけでは、ユーシンは納得できない様子だ。

「彼の出身部族は、彼が『1-1-1』のパイロットをやっているって事で、元来の、周囲の住民による差別的待遇を緩和されていたと聞いています。彼が死んでしまったら、彼の部族への周囲の待遇も、また冷ややかなものになってしまうのでしょうか?」

 そんな事をブルーハルトに尋ねても、答えようが無いだろうと、彼自身も思うのだが、尋ねずにはいられない心境なのだった。

「その点は、何とも明言はし辛いが、」

 ユーシンのお門違いの質問に、精一杯誠実に答えようと努めるブルーハルト。「命と引き換えに銀河の平和に努めた『1-1-1』の兵士、というのも、十分に尊敬の的にはなる。そんな兵士を輩出した部族という事で、当面は、冷遇はされないのではないかと思う。まぁ、アドリアーノ少尉の後を継ぐ『1-1-1』兵士が、彼の出身部族から長く輩出され無かったら、少しずつ状況が悪化する可能性もあるとは思うが、彼が死んですぐに、部族が不利益を被る事は無いと考える。」

「そうですか。そう言って頂いて、少し安心しました。」

 礼儀では無く、本心からそう言ったユーシンだった。

「済みません。何か、湿っぽい空気にしてしまったようですね。あなた方の、戦闘参加要請からの解放を祝うべき時間なのに。」

「いやあ。アドリアーノ少尉の死と、ガリアスの奴の現状を教えてもらえて、感謝してるぜぇ。俺はよぅ。確かに辛い現実だかなぁ、知らねぇまま置いとかれるよりは良いってもんだぁ。」

「では、私はこの辺で失礼します。」

 そんなやり取りで通信が締め括られるのを、挨拶の言葉を発するのも忘れて、ユーシンは黙って聞いていた。いや、聞こえていたが、聞いていなかったという方が、正確かもしれない。

 ファランクスやアデレードにも、アドリアーノの死の報せは、衝撃をもたらさずにはいなかった。ブルーハルトとの通信が終わって数時間後、「キグナス」の食堂で、ユーシンがアドリアーノの件を彼らに語ってやった時のことだ。

「嘘だ!あのアドリアーノ少尉が宙賊なんかとの闘いで、戦死するなんて!」

 そんな発言に意味など無い事は、言っているファランクス自身にも十分に分かっているだろうが、やはり言わずにはいられなかったようだ。喚こうが騒ごうが、変えられない現実だが、簡単に受け入れる事も出来ない。

「多分、相手は宙賊じゃ無かったんだ。宙賊の根拠地から脱出を図ったシャトルっていうのも、背後にいる国家クラスの勢力の関係者を乗せていたに違いない。そして、待ち伏せしていた戦闘艇団も、国家の正規軍並みに組織され訓練された部隊だったんだろう。最新鋭の戦闘艇も、ただ配備されていただけじゃなくて、それを組み入れた戦術も、十全に練り込まれていたはずだ。そんな敵20隻を相手に、たった4隻で闘って、戦死こそしたが相手は全滅させたんだ。アドリアーノ少尉じゃ無ければ出来ない神業だよ。それに、もしその最新鋭を撃ち漏らしていたら、『1-1-1』の被害はもっと大きくなっていただろうって事を考えると、アドリアーノ少尉は、死を覚悟してでも最新鋭は自分が撃破しなければならないって、使命感を持って闘ったのだと思う。」

「アドリアーノ少尉・・か・・」

 アデレードも、考えに沈むように小さく呟いた。「出身部族の立場を少しでも良くするために、『1-1-1』に入って闘い続け、宙族達を苦しい境遇から救ってやりたいという願いを持て、ただ倒すだけじゃなく文明化させて豊かな生活を送れるようにしてやる事を目的として活動し、銀河の平和の為には危険な任務にも積極的に参加し、そして、仲間を救う為に死を覚悟した闘いに挑み、散って行った。凄い生き様だよ・・本当に。」

 ユーシンも思った。

(彼の死は惜しいし、悲しいし、辛いけど、でも、彼の闘いは、多くのものを残したはずだ。)

「彼だけじゃない。宇宙保安機構軍の多くの兵が、彼と同様の意志をもって闘い、毎日のように銀河のどこかで誰かが命を散らせているんだ。それでもやはり、いや、だからこそ、俺は、その機構軍に入隊したい。たとえ無残に命が尽きる時が来るとしても、彼等のように、銀河の平和の為に、勇気をもって闘いに臨む生き方をしたい。」

 ファランクスは決意を新たにした。

「そうだな。アドリアーノ少尉は、俺達に訓練法を伝授してくれて、機構軍や『1-1-1』への夢に俺達を導いてくれたんだ。俺達が全力で夢に向かい、夢を叶えて見せる事が、彼への一番の弔いになるはずだ。ここでメソメソ泣いていたって、少尉は絶対に喜ばないぜ。」

 アデレードもそう言った。そして何かを吹っ切るように、彼ら2人は宇宙艇の操縦シミュレーターへと向かって行った。今はがむしゃらに、訓練に励みたい気分だろう。

 ユーシンは、数時間後に迫っている操船の任務の為に、本来なら十分に休息を取っておくべき時間なのだが、ベッドに横たわる気分にはなれず、食堂でボーッと天井を眺めていた。

 「キグナス」は今、「ソリアノ」に向けて等加速度直線運動を続けており、クルー達はもっとも快適な強度の加速重力の中で過ごしている。参戦後の十分なメンテナンスの為に「キグナス」とそのクルーは、またしばらく「ソリアノに」滞在する事になったのだが、「ソリアノ」に向かう行程も休養になり得るように、1Gになるような加速を実施しているのだ。

 減速行程に入れば床となるはずの天井を見上げながら、ユーシンはアドリアーノの死について考える事を止められずにいた。

(彼の故郷の人達は、彼の死を知って、どんな反応を見せるのだろう?)

 アドリアーノは、彼の出身部族に対する周辺住民の信頼を勝ち取り、好感を得るために、これまで過酷な闘いを耐え抜いて来た。部族の者達にとっては、彼は英雄的存在だっただろう。彼が「1-1-1」で活躍する事で、彼の部族は周辺住民と対等の取引が出来たり、理不尽な迫害を受けずに済んでいたのだ。

 部族の長老達が、若い彼の前途に熱い期待の眼差しを向けていたであろう事も、容易に想像がつく。アドリアーノの部族の者達にとって、彼の死は、あまりにも大きすぎる痛手であるに違いない。

 具体的な状況など何一つ知らないユーシンではあるが、30年前までは宙賊として周辺の宙域を荒し回っていたのが、アドリアーノの出身部族だと言っていた。機構軍に制圧され、農場コロニーを与えられて以来、宙賊では無い平和な生き方を教えられ、周囲とも友好的でいられる暮らし方を学んで来たのだと聞かされている。その生活水準が、周囲に比べてかなり低く、宙賊時代に買った恨みや反感も、未だに色濃く残っているという。()の部族の暮らしぶりが、豊かで平穏なものであるはずはない。

 そんな部族にとって、「1-1-1」のエースパイロットとして活躍している若者の存在が、いかに掛け替えの無いものである事か。その彼が死んでしまったのだ。部族の希望の星が、消失してしまったのだ。ユーシンは、会った事も無い人々の心痛を想い、胸が苦しくなったのだった。

「大丈夫、ユーシン。」

 心配そうに声を掛けて来たのは、ノノだった。戦闘中は気配を消して静かにしている彼女だが、ずっと航宙指揮室の一番後ろの席に陣取っていたのだ。バルベリーゴを背後から眺める位置で、彼女も戦闘に参加していたのだ。けが人も病人も出なかったので、結局仕事は何もなかったが。

 体に傷を負った者はいなかったが、心に傷を負った者はいた。そしてノノは、心の傷のケアにも、責任感をもって対応する所存のようだ。

「眠らないの?ユーシン。何時間後かの操船交代に向けて、今は睡眠をとっておかなきゃいけない時間でしょ?」

「ごめん、ノノ。心配かけて。何か寝る気分になれなくて。」

「強引にでも、眠っておいた方が良いんじゃない?」

 そう言ってノノは、ポケットからいつも持ち歩いている携帯用のメディカルマシンを取り出した。特殊な電磁波を脳に当てる事で、強制的に睡眠に誘うという技術が、この時代には確立しているのだ。診断などにも使えるノノが携帯しているメディカルマシンに、そんな機能も備わっているのだった。

「ああ・・いや、ちょっと今は、考え事をしていたい気分なんだよな。」

 ユーシンは、やんわりとそのマシンの使用を拒絶した。

「どんなことを考えているの?」

「アドリアーノ少尉の故郷の事。」

 そう言ったユーシンの視線は、遠くを彷徨(さまよ)い出した。

「そうか。故郷の人達も、悲しいだろうね。少尉が戦死してしまって。」

 ノノのその言葉の後、少しの沈黙が訪れた。

「俺、いつか行ってみようと思うんだ。アドリアーノ少尉の故郷に。俺なんかに、彼等に対してしてあげられることが、あるなんて思わないけど、彼等の生活というものを見てみたい。それに、俺の見た勇敢で優秀なアドリアーノ少尉の姿を、彼等に話して聞かせたい。少尉に憧れて、真剣に『1-1-1』を目指している者達がいる事を、彼等に教えたい。アドリアーノ少尉がどれだけ多くの命を救い、どれだけ銀河の平和に貢献したかに付いて、彼等と語り合いたい。」

 ノノは目を細めて応えた。

「してあげられる事、あるじゃない。アドリアーノ少尉の話をしてもらう事は、彼の故郷の人達にとっては、この上も無く誇らしく嬉しい事だと思う。行く時は、あたしも誘ってね。」

 そう言って微笑んだノノを見ていると、ユーシンは急速に気分が和らいでいくのを感じた。

「あ・・眠い。ノノ、俺、眠くなったから、寝て来るわ。」

「これ、使わなくても良い?」

 ノノはメディカルマシンを、目の高さにかざして見せた。

「いや、いいよ。使わなくても眠れそうだし。」

「膝枕とか、してあげようか?」

「あのなぁ、ノノ。何を言ってるんだよ。子供じゃあるまいし、そんな事・・・お願いしようかな。」

 こんな時ノノは、マグレブ兄弟の長女でもあるのだった。


 宙空浮遊都市「ソリアノ」が近づいて来ていた。操船はユーシンからドーリーに引き継がれていた。入港時の操船は、まだまだユーシンには任せてもらえないのだ。

「ボス・クロードから通信が入ったわよ、オヤジ。」

 アニーがバルベリーゴに報告を入れたのは、そんな時だった。

「機構軍の戦闘への参加、ご苦労だった。機構軍からたっぷりと報奨金をもらい、十分な利益を稼ぎ出す事が出来た。上出来だったよ。」

 そう言うクロードは、実に満足気だ。更に続ける。「もともと『キグナス』に積んであった荷物は、『ノーザンスワロー』が『カーネラ星団』にまで運び、そちらも所定の利益を確保したからな。我々は、儲けはしっかり出して、損失はゼロだ。君達のおかげで左うちわだよ、私は。」

「うちわって何だ?」

「知らんわい。」

 ユーシンとドーリーの、この時代には存在しない小道具に関するささやきには構わず、バルベリーゴはクロードに問い返した。

「って事は、俺たちゃぁ『カーネラ星団』には行かなくて良くなったって事かぁ?」

「うむ」

 クロードは大きく頷いた後、声を大きくして話し出した。「その代わりに『ウォタリングキグナス』には、『イリノア星系』に向かってもらう事にした。」

「おお!」

 思わず声を上げたのは、ユーシンだった。「じゃあ、シャラナさんを送ってあげられるじゃないか、『イリノア星系』にまで。」

「うむ・・と言うか、あの『ヤマヤ国』出身のお嬢さんが、今回の主な積荷だ。彼女を『イリノア星系』に送り届けて欲しいという依頼を、機構軍から正式に受け取ったのだ。機構軍艦船には、今回の防衛戦争の影響で使えるものが無いらしいが、機構軍としては出来るだけ早く、本部に彼女を迎えたいらしい。」

 クロードはそう説明した。

「そうか。トクワキさん達はまだ、『イリノア星系』には到着しそうに無いのか?」

「それだがなぁ、」

 ユーシンの質問には、バルベリーゴが答えるようだ。「さっきシャラナのねぇさんから連絡があったんだが、トクワキの旦那も今は立ち往生の状態らしい。『ソリアノ』から出発する船には乗れて、本来なら、あちこちを経由した上でではあるが、『イリノア星系』に向かえるはずだったんだが、今回の戦闘の影響で、交通があっちこっちで滞っていて、旦那たちも思うように先に進めてねぇらしいんだ。」

 バルベリーゴの発言に続けて、クロードがまた話し出す。

「機構軍としては、今回の襲撃や『キークト星団』から漏れ伝わる情報から、この宙賊や『コーリク国』の背後に地球連合に敵対的な、巨大戦力が存在する事を真剣に考慮に入れる必要を感じているようだ。あらゆる方面から調査を進める意向だと、私にも伝えて来た。」

「じゃったら、シャラナのお嬢さんが『イリノア星系』に来ん内にでも、『キークト星団』の調査に乗り出せばいいようなもんじゃがのぉ。」

 ドーリーは不満気にそう言った。

「そこはそれ、大きな組織は手続きにうるさいもんだ。」

 モニターの中で、クロードが苦笑いを浮かべた。「『キークト星団』に入り込むには、地球連合と同盟関係に無い『ユラギ国』領を通らねばならない。それなりの大義名分がなければ、『ユラギ国』に通過の要請も出せんのが機構軍の現状だ。」

「だから早く『イリノア星系』にシャラナさんを連れて行って、『ヤマヤ国』や『ユラギ国』の宙賊による被害を通報させたいんだな。だったら、ここ『ソリアノ』で、通報を受け付けてくれればいいんだがなぁ、それはまたそれで、『タクムス国』との関係があって難しいんだろうな。やっぱり大きな組織は、手続きがうるさいんだよなぁ。」

 ユーシンは、やれやれとでも言いたげな口調で、そう言った。

「でも、そのおかげで、またシャラナさんと一緒に旅が出来るんだろう。」

 そう言って目を輝かせているのは、武装管制席に着いているジャカールだ。シャラナ親派のメンテ要員だ。

「なんだかんだで、ねぇさんの件には首を突っ込んで行く結果になるなぁ。宙賊に襲われている、ねぇさんの乗った商船を偶然助けたのがきっかけで、こういう事になるんだからなぁ。数奇な運命を感じるぜぇ。」

 バルベリーゴは感慨深げにそう言ったが、ユーシンは内心で反論していた。

(そんな事より、シャラナさんがお嬢様にとって、姉様と呼ぶほどに親しい存在だった事こそが、最大の運命だったんだ。シャラナさんを助ける事がお嬢様の笑顔に繋がるなら、俺はその為に、命だって掛けてやる。)

 ユーシンがそんな想いに浸っている間に、「キグナス」は港湾コロニーへと滑り込んで行った。コロニー中心軸の宙空部分にある、周囲の壁面から伸びている無数の桟橋の一つに、「キグナス」はロボットアームで固定された。3日分の港湾施設使用料も機構軍から支給されているので、その間に荷物を積み込む事になる。さすがにシャラナ一人だけを運ぶのでは効率が悪いので、「イリノア」に行くなら行くで、そこで売りさばくべき荷物を買い付け、積み込んで行かねばならないのだ。

今回の投稿はここまでです。次回の投稿は明日、'17/7/29 です。

さて、今回は全体的にしんみりした雰囲気になってしまったでしょうか。かつて宙賊だった部族、その過去を引きずり苦しい生活をしている人々、その部族出身の若者、そんなアドリアーノは、「ウォタリングキグナス」という物語では脇役でも、「銀河戦國史」全体の中では重要な位置を占めるので、こういう説話は避けては通れません。「ヤマヤの虜囚」編では深入りしませんが、アドリアーノの故郷をユーシンが訪れるシーンも、いつか描ければ良いなぁ、と漠然と考えています。元宙賊だった部族を中心に据えたような物語というのも検討はしています。具体的なストーリーまでは思いついていませんが。「銀河戦國史」は、そんな無限な広がりを持ったシリーズにしていきたいと考えていますので、よろしくお願い致します。というわけで、

次回 第52話 重くて温かい荷物 です。

タクムス星団の章も、次回が最終話になります。ユーシンとクレアの事や、シャラナの事、「1-1-1」の事など、色々と含みを持たせたまま、第2章は終幕し、第3章へと進んでいきます。是非、引き続きお付き合い頂きたいと思う次第です。

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