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第50話 「1-1-1」の死闘

 マンダンガスの報告は続いた。

「宙賊達によって隠匿されていたとみられる、岩塊群の中の物資や設備を、メーメルクの部隊は一つ残らず管理下に置いたそうだ。」

「早いじゃねぇかぁ!こうもあっさり制圧に成功するって事たぁ、やはり無人だったのかぁ?」

「そうみたいだな」

 マンダンガスが応じる。「全く抵抗を受けずに、制圧成功とあるから、設備等にも人は付けられておらず、宙賊の戦闘艇もまだ、到着していなかったのだろう。」

「もうすぐ宙賊の戦闘艇どもも到着するかもしれねぇが、武装も無いし噴射剤も使い切っちまってるだろうから、戦力にはならねぇだろうなぁ。さっさと白旗を上げてくれればいいがな。」

 最後は本気で祈るようなまなざしで、バルベリーゴはそう言った。

「宙賊なんてものが、そう簡単に白旗なぞ上げるとは思えんがな。武装も無しに、破れかぶれの突撃を仕掛けて来る気がするわい。」

 ドーリーは否定的な見解だ。

「オヤジ!敵襲よ!」

 突如として、アニーが声を上げた。「当艦隊右上から、戦闘艇16隻が接近して来るわ。宙賊のもので間違いないみたい。岩塊群の資材や設備を奪われたと知って、仕方なくあたし達に、破れかぶれの突撃をしかける事にしたってところかしらね。」

「どう言う事じゃ!宙賊の戦闘艇は、武装を取り外して噴射剤のタンクを増設したんじゃないのか。」

「少しは武装を残しておいたんだろうなぁ。必要な噴射剤を積み込めるギリギリのところで、武装しておいたのだろう。もしかしたら武装を分解して、何隻かの戦闘艇で1隻分の武装を積み込んであったかもしれねぇし。それに噴射剤も、数隻の戦闘艇に残っていたものをかき集めて1隻に積んだのだろうぜぇ。百隻以上いたはずの敵が、今は16隻だけで突っ込んで来ているのだからなぁ。」

 ドーリーの疑問に、バルベリーゴが答えた。

「16隻が一塊になって攻撃して来るだけじゃ、全くもって敵にならないな。」

と、ユーシンは少し寂しげに言った。

「なんだぁ、ガキィ。もっと派手な戦闘がしたかったってかぁ?」

「そういう事じゃないけど、これだけ大規模な侵攻をして、あんな巧みな策略まで弄した敵が、こんな稚拙(ちせつ)な攻撃に最後の望みを掛けているかと思うと、なんだか哀れだなぁと思ってさ。」

「お前が敵の策略を見抜いたりするから、こういう結果になったんじゃねぇかぁ、ガキィ!」

 バルベリーゴは口元を、ニィッとばかりに笑わせて、ユーシンにそう告げた。

「『スターサウリー』がミサイル攻撃実施の構え。」

 アニーが報告。

「とりあえず任せておくか。キムル、散開弾をいつでも撃てる状態で待機だ。」

「了解、船長!」

 そんなやり取りの数秒後、モニターにはミサイルを発射する「スターサウリー」の姿が映し出される。

「『スターサウリー』、散開弾によるミサイル攻撃実施。」

 言わなくても分かる事だが、アニーは律儀に報告。続けて告げる。「敵戦闘艇、5・6隻が一列に並んで、3組に分かれて直進。」

「そんなんで散開弾を突破出来たところで、せいぜい4・5隻だろうに。それでわしらに対抗できると思っとるんか?」

 報告を受けて、ドーリーが呆れたように言った。

「敵戦闘艇、散開弾が展開させた金属片群に突入・・大半が被弾し、爆散。・・・残存したのは3隻。なおも突っ込んで来るわ。」

 アニーの報告にも、呆れたような声色が聞こえる。

「もう、哀れとしか言えないわね。3隻しか残らないのじゃ、何も出来る訳無いのに。」

と、キムル。

「『スターサウリー』が、戦闘艇を出撃させる体制に入ったわ。」

 アニーは淡々と報告を続ける。

「オヤジ!」

 ユーシンが叫んだ。「『アマテラス』撃たせてくれ。わざわざ戦闘艇を繰り出して片付けるまでもねぇ。」

 一瞬考える顔をしたバルベリーゴだったが、マンダンガスに向かって叫んだ。

「『スターサウリー』に告げろ。『キグナス』からのプロトンレーザーによる砲撃戦の結果を見るまで、戦闘艇出撃を待ってくれって。」

「よしっ!」

 ユーシンは歓喜の雄叫び。「アニー、データー回してくれ。」

 ユーシンはデーターを一瞥(いちべつ)した後、目を閉じて敵の動きを読む仕草。そして、

「これで良いだろう。しかと見届けて無謀を思い知れ、宙賊共。これが白鳥のゲンコツだ!」

といいながら、コンソールで指を踊らせる。その2秒後、プロトンレーザー砲「アマテラスマークⅢ」は発射された。

「命中!敵戦闘艇1隻のレーダー反応、消滅!」

 アニーの報告に、「ウォタリングキグナス」の航宙指揮室がどよめきに包まれた。

「相変わらず、すごい腕前じゃのぉ。『アマテラス』の射撃に関してだけは。」

 “だけ”にアクセントを置いた、少しの嫌味とやっかみを含んだ、ドーリーの呟きだ。

「残りの2隻、相変わらず真っ直ぐに突っ込んで来るわ。」

「多分もう、噴射剤を使い切っているから、等速直線運動しか出来ないんだ。それに、ミサイルも持ってないんだろう。あるんなら、とっくに撃ってる距離だ。体当りでも仕掛けるつもりなんだろうよ。」

 ユーシンが言った。特に根拠もなさそうな意見だが、確信に満ちた表情だ。

「だとすれば、この敵は撃破せんでも、避ければ良いだけじゃないのかのぉ。」

「ああ、それでもこっちとしては良いだろうぜ。だが、もし避けたらあの戦闘艇のパイロット達は、その後何百時間も、孤独と苦痛に苛まれながら宇宙を彷徨った上で、餓死だか凍死だかを迎える事になるんだぜ。『アマテラス』で一思いに葬ってやるのが、人の道ってもんだ。」

 そして、ユーシンはそれから2回、「アマテラスマークⅢ」を発射し、2回とも敵戦闘艇を撃破した。

「3発連続で命中かぁ。てぇしたもんだぜぇ。」

 バルベリーゴも舌を巻いたように言った。

「『スターサウリー』から通信だぜ。」

 マンダンガスがそう言うと同時に、モニターにガリヴァルドの顔が映った。

「・・あ、あの、今の、プロトンレーザーの砲撃は・・何ですか?貴艦には、機構軍にも無いような高性能の射撃管制装備が、搭載されているのですか?」

 驚きに満ちた顔で、そう言ったガリヴァルド。

「いやいや、何も特別な装備なんぞねぇよ。ただ、ウチの射撃手が天才なだけだ。」

「・・・なんと。いや、しかし、いくら天才と言われても、戦闘艇などという小さくて素早い標的を、プロトンレーザーで撃破するなど、しかも、3回も連続で命中させるなど、聞いた事もありません。宙賊の『ソリアノ』への直接攻撃の作戦を見破った人物といい、さすがはバルベリーゴ元少将でありますな、素晴らしい人材を育てておられる。」

「何でオヤジの手柄になるんだ!」

 ガリヴァルドの発言に、思わず叫んだユーシン。

「当たり前だ。船員の手柄は全て、船長の手柄になるんだ。覚えて置きやがれ、ガキィ!」

「あはは、賑やかでよろしいな。」

 モニターの中で、ガリヴァルドは屈託なく笑う。ひとまず戦闘が決着して、安心した事もあるだろう。

「ちなみに、ガリヴァルド少佐。プロトンレーザー砲の射撃手と宙賊の作戦を看破したのは、同一人物なんだがなぁ。」

「・・なんと、そんな凄い人材が・・」

「このクソガキだ。」

 バルベリーゴはユーシンを指差して言った。向うのモニターには、ユーシンの姿も映っているようで、

「この少年が?まだ、ずいぶん若いように見受けられますが・・」

と、目を丸くして呟く。

「はは、15歳です。『キグナス』に乗船して、1か月です。あはは。」

 照れ笑いを浮かべながら挨拶したユーシン。

「・・そ・・そうなのですか。それは・・凄い、軍の人材部門に連絡しておかなければなりませんな。」

「ええ!いや、俺、機構軍に応募する気は・・」

 そんなやり取りに、航宙指揮室には笑いが満ちた。

「うん?・・そうか。了解した。」

 ガリヴァルドはモニターの中で、誰かの報告を受けたように画面の右の方に視線をそらせて、何度か頷いて見せた。そして、また正面に向き直り、「キグナス」の面々に向けて告げた。

「例の岩塊群に、宙賊の戦闘艇百隻余りがやって来たが、武装も無く噴射剤も全く残っていない状態で、到着するや否やメーメルクの部隊に投降を申し出たらしい。全く抵抗する様子も無く、全員が捕虜になったそうだ。それから、オールトの海の、宙賊に占拠された宙域の奪還も成功したようだ。そちらにもほとんど残存戦力は無く、もぬけの殻に近い状態だったそうだ。」

「と言う事は、これで戦争も終わりって事か?」

 バルベリーゴは問い返した。

「そうなりますね。すぐにでも機構軍の司令部から、戦闘参加要請解除の正式な通達があると思います。」

「なんだか、あっけない終わり方だな。前の時以上に激しい戦闘を予想していたんだが。」

「そうですね。百数十隻の戦闘艇による大規模な侵攻だったのですが、我らを素通りして『ソリアノ』を目指すという、裏をかいた作戦を看破された事で、せっかくの大規模な戦闘艇部隊が完全に無効化されてしまいましたからな。ま、この部隊が正面からかかって来たところで、我々が負けたとは思えませんが、多少の損害は出たかもしれません。犠牲は少ないに越した事は無い。良い形で戦役を終了できたと言えるのではないでしょうか。」

「そうだなぁ。拍子抜けの感はあるが、こちらに人的被害の無い内に闘いが終われて何よりだ。」

 バルベリーゴとガリヴァルドのそんなやり取りを、「キグナス」航宙指揮室の面々は神妙な顔で聞いていたのだった。

 半日ほどの待機の後、機構軍の指令本部から連絡があった。モニターに映し出された顔を見て、ユーシンは思わず姿勢を正した。

「これはこれは、シュルベール・ド・ブルーハルト大佐直々の通達ですかい。おいガキ共、行儀良くして聞きやがれぇ!」

 バルベリーゴはモニターに向けて、そう語りかけた。

「ははは、止してくださいバルベリーゴ元少将。たまたま、私が一番暇だったので、連絡役を拝命したまでです。」

「あっはっは、そっちもいい加減、元少将は止めやがれぇ!それに、機構軍大隊長様ともあろう身分が、暇って事あるかい。機構軍の期待の星が、忙しい中、わざわざ直接連絡をしてくれたんだぁ。家宝もんだぜぇ、こりゃぁ。」

「あはは、参りましたな。取りあえず、今回の戦闘では、大変にお世話になりました。あなた方のご活躍のおかげで、全く人的損害を出す事も無く、それ以外でもほとんど損害と言える損害も無く、都合400隻近い宙賊の戦闘艇が送り込まれるという、前代未聞の大規模侵攻を、阻止する事が出来ました。オールトの海にも、その他の『ソリアノ星系』の全てのエリアにも、宙賊の残党と見られる反応は観測されておりません。完全に終結したと考えていいでしょう。そういう訳で、あなた方への、機構軍への参加要請も、これにて解除という事にさせて頂きます。本当に有難うございました。」

 モニターの中で、ブルーハルトは深々と頭を下げた。

「いやいや、大佐。頭なんぞ下げてもらわなくても結構だぜぇ。こっちは軍と提携契約を結んだ半軍商社なんだ。いざ戦闘が発生すれば、配下の兵だと思ってこき使ってもらって結構なんだぁ。」

「そう言って頂けると、大変心強いです。それに、今回の戦闘では、貴船『ウォタリングキグナス』に、大変優秀な人材の有る事も知れました。宙賊達が、そちらの艦隊の背後にある岩塊群に事前に隠匿した物資や設備を使い、あなた方の艦隊を素通りして『ソリアノ』を直接狙うという作戦を、見事に看破した方がいたとか。我等機構軍ですら、面目ない事に、見抜くことが出来ていなかった敵の意図を、『キグナス』の船員が見抜いてくれて、そのおかげで、損害を出さずに宙賊を阻止出来たのだと報告を受けています。」

 ユーシンは、カーっと顔が熱くなって行くのを感じた。ブルーハルト程の人物にそんな風に持ち上げられると、照れくさいを通り越して、少し恐怖を感じてしまうのだった。

「さらに、その敵の意図を看破した逸材が、プロトンレーザーによる射撃の名手でもあると伺いました。機構軍正規兵の射撃担当者でも、4・5発に1回当てられるかどうかという射撃を、百発百中で命中させることが出来るとか。驚くべき能力だと思います。」

「百発百中じゃねぇよ!」

 ユーシンはたまらず叫んでいた。「9回発射して、2発も外してるんだ。必要以上に持ち上げないでくれ、顔から火が出そうだ。」

「あっはっは、そうか。やはり君が、ユーシン・マグレブ君か。」

 モニターの中から、ブルーハルトがユーシンに直接話しかけて来た。ブルーハルトもずっと、モニターの端に彼の姿を見止めていたのだろう。そして、彼がユーシンだろうと、予測もしていたようだ。ユーシンは彼の声色から、その事を感じ取っていた。

「元少将の秘蔵っ子の話は、私も何度も耳にしていたよ。シャトルという鈍重な乗り物で、散開弾攻撃を回避した事や、『ヤマヤ国』の虜囚救出の為に、見事な策を案出した事なども聞いている。我々機構軍としても、大変興味深い人材なのだが、機構軍に興味はあるかな?」

「おいおい!船長の見ている目の前で、船員の引き抜きを仕掛けてくるかぁ?」

 バルベリーゴの言葉が、周囲の笑いを誘う。

「ははは、失礼しました。しかし、もし機構軍に入隊してもらえれば、大いに活躍が期待できる事は間違いないと思いますよ。」

「いや。せっかくのお話ですが、俺は『キグナス』を降りる気は無いです。それに、俺以外にも機構軍で活躍出来る人材は、『キグナス』には沢山いますよ。」

 ユーシンはきっぱりと言った。「UF」の従業員として、クレアを守り支え続ける事が、彼の決めた人生なのだから。しかし、毅然とした言葉と裏腹に、彼にはとても気になる事があった。

(俺の事を大佐に話したのは、もしかしたらお嬢様なのだろうか?もしそうだとしたら、それは俺にとって、喜ぶべき事なのだろうか?悲しむべき事なのだろうか?)

「そうか。残念だが、それが君の意思なら仕方が無いな。だが、もし気が変わったら、いつでも機構軍の門をたたいてくれ。銀河中にあるからな、機構軍基地は。それから、君以外の優秀な人材にも、我々機構軍は注目し、期待している。彼らにもその事を、伝えておいてもらいたい。」

 ブルーハルトのそんな言葉に、大きく頷いて答えたユーシン。

「やれやれ、機構軍への人材流出が止まりそうにねぇなぁ。まぁ、その分、機構軍から退役兵がこぼれ落ちてくるんだがな。それも半軍商社の宿命だなぁ。」

「そしてこの船は、お年寄りばかりになって行くのよね。」

 バルベリーゴの言葉を、キムルが冗談半分、溜息半分といった感じで受けた。

「あっしゃっしゃ。いずれこの船も、介護船になってしまうのじゃろうなぁ。あっしゃっしゃ。」

「ドーリー、気付いてるか?今の所、介護されているのはドーリー一人なんだぜ。」

「何じゃとぉ!ユーシン、貴様!わしは介護なんぞされとらんぞ!」

 2人の掛け合いは、笑いを呼んだ。

「あははは。楽しそうで良い船ですな。『ケンカ腰の白鳥』などと仇名され、重武装だけが取り上げられがちな船だが、それだけが魅力の船ではありませんな。」

「そう思うかい?俺ぁ、喧嘩っ早いとこだけが取り柄の船だと思ってるけどなぁ。」

「それは『キグナス』じゃなくて、オヤジの事だろう?」

「何だと、ジャカール!もう一遍言ってみやがれぇ!」

 航宙指揮室内は、またひとしきり笑いに包まれた。

「ああ、そうだ。それからもう一つ、報告しておきます。今回進出して来た宙賊の、出身母体となる部族の根拠地に対する襲撃も、既に実施されているのです。『1-1-1戦闘艇団』に、『セムリニア星団』での反乱鎮圧に引き続いて、厳しく困難な任務を依頼する事になってしまいました。『セムリニア星団』においても彼らは、かなりの損害を出し、団員の1割近くにもなる16人のパイロットを失ったのにも関わらず。」

 それを聞いた瞬間にユーシンは、「ソリアノ」の住居コロニーで見たガリアスの顔を思い出した。部下を死地に送り込む命令を発する苦悩を語ってくれた時の、彼の表情を。心を凍らせて、「セムリニア」で部下を失う苦しみを耐え抜いた彼が、その心を溶かす間もなく今度は、「ソリアノ」を襲撃した宙賊の、出身部族の根拠地に派兵されたのだ。

 更に何か言おうとブルーハルトは口を開きかけたが、先に放たれた言葉があった。

「『セムリニア』では、やっぱり激しい戦闘になったのですか?」

 ブルーハルトの発言を遮ってまで、ユーシンは問いかけずにはいられなかった。

「そうだな。闘いも激しかった。反乱軍は、機構軍も装備している最新の兵器を供与されており、機構軍の戦術にも精通していた。一筋縄ではいかない闘いとなった。だがそれ以上に、敵味方の識別に苦労したようだな、『1-1-1』の兵達は。」

「敵味方の識別?」

 ユーシンは、直ぐには飲み込めなかった。

「反乱軍の中にも、機構軍の説得に応じて投降して来た者が大勢いたが、その中に戦意を保った者が混ざり込んでいた。投降して来る者達は傷付けるわけには行かないから、その中に混ざって攻撃を仕掛けてくる敵は対処の仕様がない。そこが難しかったようだな。今回犠牲になった『1-1-1』の兵も、投降者を傷つけない為に反撃が出来ない状態で、敵の一方的な攻撃を受けたり、投降者と信じた者から背後を襲われたりして、散って行った者ばかりだった。いくら強敵だと言っても、正面からぶつかる戦闘になれば、『1-1-1』はそう簡単に殺されたりはしないものなのでな。」

 それを語るブルーハルトの声色は終始穏やかなものだったが、その瞳の奥には、悔しさとか憤りとかいった感情が、微かに見え隠れしているように、ユーシンには思えた。

「そうか。反乱軍達は、元機構軍将校とかいう奴に、扇動されて暴動を起こしていたんだよな。教育とか情報システムが充分では無いから、彼等が簡単に扇動されるのは仕方ない。だから、何とか反乱軍の者は1人でも多く救いたい、というような事を、確かガリアス中佐も言っていた。救いたいと思った者を1人でも多く救う為に、『1-1-1』の兵が16人も死んでしまったんだ。」

 無重力空間であるにも関わらず、ユーシンは自分の内臓が、急激に重さを増したように感じた。

「しかし、彼等のおかげで、反乱の鎮圧は短期の内に成功した。反乱軍に参加していた者達も、半分以上が投降し、現政権への恭順を誓ってくれた。裏で糸を引いていた元機構軍将校も、追い詰められて自らの命を絶ったから、こちらも収束したと見て良いだろう。本来なら、その元将校を生きたまま逮捕して、厳しく事情聴取をしたかったところだが、致し方ない。」

 「セムリニア」の民の平穏の為に、断固として叩き潰すと宣言した反乱の鎮圧を、16人もの犠牲を出してやり遂げた「1-1-1」。彼らの勇敢さと苦悩の大きさを、ユーシンは想った。そして、間髪を入れずにこの「タクムス星団」近傍へと転戦したのだ。激務なんて言葉では言い表せない程、彼等は厳しく酷使されているのだ。

「こっちの件は、簡単に片付いたのかい?」

 バルベリーゴが尋ねた。「根拠地と言っても、ほとんどの戦力は出払っちまってただろうし、向うに取っちゃ、予想外の奇襲だっただろうから、『1-1-1』なら一ひねりだっただろう。」

「そうですね、作戦期間としては、非常に短くて済み、半日ほどの闘いで片が付いたようです。ただ、それなりに損害も発生していて、5隻の戦闘艇が破壊されています。戦死者も4名いて、その内の1名は、分隊長格のパイロットだったとの事です。」

 努めて事務的に語ろうとしているブルーハルトだが、目の奥の感情の揺らぎまでは、完全には隠し切れていない。2つの戦域を経て「1-1-1」は、20名もの仲間を失ったのだ。隊としての継戦能力も損なわれかねない、甚大な被害であり、ブルーハルトにも辛い思いがあるはずだ。

「戦死者の1人の、分隊長格の者は、最近あなた方と同じタイミングで『ウィーノ星系』にも滞在していたので、もしかしたら顔見知りかも知れませんね。名前は・・」

 ディスプレーを見ながら語っているように、モニターから視線を外しているブルーハルト。その彼が告げた名前に、ユーシンは愕然となった。

「アドリアーノ少尉です。」

「え!? 」

 簡単に受け入れられる言葉では無かった。信じられる事実では無かった。彼は無敵のはずなのだ。かつて見た彼の闘い振りを、ユーシンはありありと覚えている。あんな凄い闘いをする人が、どうやったって戦死など、するとは思えないのだ。

(アドリアーノ少尉が、戦死した?)

 つい最近、「ソリアノ」のコロニーの中で、彼と共に酒を酌み交わしたばかりだ。バルベリーゴのかつての部下の奥さんであるダリアと、その可愛い子供2人に向けていた、アドリアーノの笑顔も鮮明に覚えている。ファランクスやアデレードも、彼から訓練法を伝授されて、感激していた。彼ら若い3人にとって、憧れの的とも言える存在にさえなっていたのだ。その彼が、戦死したというのだ。

 ユーシンは、心の中のどこか大切な部分が、ボロボロと崩れ落ちて行くような感覚を味わっていた。

今回の投稿はここまでです。今週の投稿もここまでです。次回の投稿は、'17/7/28 です。

激戦が予想された防衛線の第2ラウンドでしたが、大した盛り上がりもなくあっさり終結してしまいました。最後に、申し訳程度に「アマテラス」をぶっ放してみましたが、取って付けた感じは否めません。いくら戦力が大きくても、作戦を見破られてしまったらこうなるという事です。で、その後は「1-1-1」の苦労話となりました。この「ウォタリングキグナス」という作品では、ユーシンとその仲間たちがメインになっていますが、「銀河戦國史」全体から見ると、「宇宙保安機構軍」や「1-1-1」という存在のほうが遥かに重要なのです。プロローグを思い出して(読み返して)頂ければ分かると思いますが、「機構軍」や「1-1-1」を描く手段として「キグナス」というのは登場しているので、こちらについても、あれこれと思いを巡らせて頂けたら、非常にうれしいです。というわけで、

次回 第51話 アドリアーノの故郷 です。

過去にも何度か、アドリアーノの出身部族については話題に上がっています。「キグナス」の物語の上では存在感は大きくないかもしれませんが、"宙賊"と「機構軍」の中間みたいな存在なので、「銀河戦國史」全体の世界感を味わう為には「キグナス」よりも重要な存在なのです。頭の片隅にでも、置いておいて頂ければと思います。


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