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第46話 宙空浮遊都市の逃避行

 壁に開けられた四角い穴に吸い込まれて行くシャラナを見送りながら、

「え!? 」

という形に、声を発する余裕もなく口をポカンと開けているクレアも、同じように抱え上げたユーシンは、またポイッと、無造作に投げ入れた。

「え!? 」

という形の口をしたまま、壁の穴に消えていくクレア。

「じゃ、先に行ってるから。」

と言うと、皆の返事も聞かずに、今度は自分が穴に飛び込んだユーシン。

「ちょっと、なんであたしたちを後に・・・・」

 そんなニコルの声は、あっという間に遠ざかった。

 飛び込んだ直後には、ほんの数センチほど落下しただろうか。“下”というのは、コロニーの外周壁面に向かう方向だ。が、ゴムで覆われたような、やわらかとも言えないが固くも無い床に、すぐに彼の体は受け止められ、そして、床に着くや否や、その床ごと彼の体は急上昇させられた。“上”とはもちろん、コロニーの中心軸の方向の事だ。

 軽く体に(きし)みを覚えるくらいの、強めの加速をユーシンは感じた。さすがに荷物用だけあって、人間用のように快適な加速はしてくれない。

 “上”に目を向けたユーシン。視界の上下左右を、黒い壁が凄い勢いで“下”に流れて行く。黒い壁なのか、暗いから黒く見えるのか分からないが。

 真っ暗だから、壁が流れて行くのも、直接は視認出来ない。だが、壁のところどころには隙間があるのだろう。そこから明かりが漏れており、その明かりが後方に飛んでいくのを見る事で、壁が流れて行っている事も視認出来るのだった。

 ユーシンの正面にも“壁”がある。それはクレアを乗せて運んでいる“床”でもある。ユーシンを乗せた床が上昇を始めるとすぐ、新たな床が横からせり出しただろう。そして、そこには彼の幼馴染の誰かが乗っていて、彼の後を追って来ているはずだ。荷物を乗せられた事を検知すると、自動的に中心軸へ向かって急上昇し、新たな床を横から供給する、というのが、この荷物用エレベーターの仕組みなのだ。だから、荷物を次々に放り込むだけで、中心軸へと運び上げてくれるのだ。

「ちょっとぉー。ユーシン、ヒドイよぉー。あたしたちを後回しだなんてぇー。」

 床に阻まれて見る事は出来ないが、声は聞こえて来た。彼の下で、後を追って来ている床には、ニコルが乗ったようだ。

「わりー、わりー。でも、あの2人が最優先に決まってるだろ!」

 叫び返したユーシン。その後もしばらく、ぶつぶつと苦情の声が聞こえていたが、ユーシンは聞こえないふりをした。そんな状態が十数分も続いただろうか、出し抜けに体が軽くなった。中心軸に近づいて、下に体を押し付ける重力が弱まったのだろう。厳密には“下”への重力では無く、“外”への遠心力だが。とにかく、床面に押し付ける力が弱くなったのだ。その上に、床は加速を止めたようで、ユーシンの体はゆっくりと床から離れた。遠心力も加速重力も無くなった為だ。

 更に床は、減速を開始した。すると、床はユーシンから遠ざかり、今度は天井が近づいて来て、そちらに彼の体は押し付けられる。天井とは、さっきまでクレアを乗せて運んでいる床だったものだ。今頃クレアは、シャラナが乗っていた床にその身を押し付けられているだろう。今のユーシンにとっての床は、クレアにとっての天井となっているのだ。連続で荷物が放り込まれた場合は、こうして前に運ばれた荷物と、床を共有する事になるのだ。

 しばらく、中心軸方向を“下”とする状態が続いた。中心軸方向に向かおうとする体に、床がブレーキを掛ける事によって、そうなっている。

 その間にユーシンは、腕に装着している端末を操作し、地元の警察に銃の部品の所持者を逮捕してくれるように依頼を掛けてみた。さっきの銃撃者が、銃を組み立てる前に所持していた金属物の形状は、金属探知で捕捉され、保安システムに記録されているはずだ。さっきまではそれが銃の部品だとは誰にも分からなかったのだが、銃撃が実施された後の今となれば分かる。だが、彼の依頼が地元警察に受け入れられるかどうかは、結果を待たなければ分からない。

 そうこうするうちに時は過ぎて行き、また彼の体はふわりと床から離れ出した。減速行程が終わり、床と共にユーシンの体は等速直線運動になったのだ。床は少し加速したのか、彼より数cm手前を走っている。

 壁の流れて行く速度を見ると、もう彼は、人が歩く程度の速度にまで減速しているようだ。と、突然、床は横へとスライドして、彼の視界から消えてなくなった。スライドした床の行方を無意識に目で追っている内に、彼はいつの間にか広い空間へと飛び出し、ゆっくりとその広い空間を横切って行った。周りを見ると、旅行カバンのような物が大量に空中を漂っている。エレベーターで運び上げられた荷物の集積場所なのだろう。

 と、ユーシンの体は、何かに衝突して止まった。何か生温かくて柔らかいものだ。頬には立体感のある丸みと穏やかに押し返すような弾力を、二カ所で感じた。

「キャッ」

と、悲鳴も聞こえた。理屈で考えれば、何にぶつかったかは直ぐに分かる。

「うわっ」

と、ユーシンも叫び、近くにあった壁の凹凸を蹴って、体をその何かから引き離した。

 振り返ってみたユーシンの眼に、クレアの驚いたような顔が飛び込んで来た。その背後には、きょとんとした顔のシャラナが、クレアを羽交い絞めにする様な格好でいた。シャラナの背後は、ゴムで被覆された壁だ。

「あっ!」

と言ったユーシンは、壁にある別の凹凸を蹴って再び2人に近づき、2人の手を取ってまた、さっきと同じ凹凸を蹴った。今度は、2人の体諸共(もろとも)、移動した。

 シャラナとクレアの退いた空間には、ニコルが流れて来た。そして、さっきまでシャラナが接していたゴムで被覆された壁に、ニコルはポンとぶつかり、止まった。痛みなどは感じない程度の衝撃のはずだ。スピードも遅いしゴム被覆の壁だからだ。

 エレベーターで運ばれて来た荷物は、このゴム被覆の壁に当たって止まり、本来ならロボットアームによって仕分けされるのだろう。だが、荷物では無く人間が運ばれて来た事は検知されているはずだ。その為に、到着後に、どこにも移動させられずにいたのだった。自ら移動しない限り、次に運ばれて来たものに衝突してしまうという事だ。

「す、済みません、お嬢様。シャラナさん。襲撃者から逃げるには、これしか無かったんで、ちょっと、手荒な事をしてしまいました。」

 無重力の中でも、シャラナはしゃんと背筋を伸ばして優雅な笑顔を浮かべ、そして答えた。

「いいえ、平気ですわ。また、助けて頂いたんですね、ユーシンさんに。有難うございました。」

「うふふっ、」

 クレアは、驚きの表情から脱するや、笑い出した。「凄い体験でしたわ、ユーシンさん。荷物用のエレベーターで運ばれる事になるなんて、想像した事もありませんもの。」

 そんなクレアを、ニコルはぽかんと口を開けて見ている。エレベーターでの移動が突然終わり、壁に当たって止まったという現実を、未だ認識し切れていない感じだ。ニコルがその位置から動き出そうとしない事は、ユーシンは視界には捕えていたが、シャラナ達の時と同じ行動に出る気配は無い。そして、

「きゃあ!」

「ギャッっ!」

 2つの短い悲鳴が轟き、ニコルとノノが衝突した。

「ごめんニコル、大丈夫?」

「うん、大丈夫。あたしこそ、ここでじっとしてたら、いけなかったのね・・あれ?ユーシン。あんた、シャラナさんとお嬢様は、あたしとぶつからない様に、手を引っ張って移動させてたよね。なんであたし・・」

 ニコルが、ユーシンの対応の違いに気付いて抗議の声を上げようとしたが、そこへキプチャクが突っ込んで来た。

「きゃあ!」

「ギャッっ!」

「ぶわぁっ!」

 3つの短い悲鳴が轟き、ニコルとノノとキプチャクが衝突した。

「ちょっと!ユーシン。」

 ニコルは改めて、ユーシンに対して抗議の声を上げる。「あんた、あたし達とシャラナさんやお嬢様とで、対応に差をつけすぎなんじゃないの!? 」

「え?そうか?」

「そうよ。お嬢様たちは先に逃がしたのに、あたしたちは後回しだし、お嬢様達とあたしの衝突は阻止したのに、あたしとニコルやキプチャクとの衝突は知らん顔だし。」

「そんな事より」

「そんな事ぉ!? 」

 ニコルの言葉を無視して、ユーシンは続けた。「早く逃げよう。ここも安全とは言えない。」

「まだ、追って来るのですか?」

 シャラナは、一度緩めた表情を再び引き締めて、鋭くユーシンに尋ねた。

「追っかけて来たって、簡単に返り討ちに出来そうだぜ。」

 キプチャクはそう言うと、今、自分が飛び出して来たエレベーターの出口に向かって、そこら辺にある鞄の一つを、いつでも投げられるように胸の所に抱えて、身構えた。荷物用エレベーターから吐き出されて来た人間は、どうしても無防備にならざるを得ないだろうから、鞄の一つでも投げつければ、十分なダメージを与えられそうだった。

「いや、いくらなんでも、そこからは来ないだろうよ。刺客の方も、そこから追いかけたら簡単に返り討ちに合う事は予測出来るだろうからさ。でも、人間用のエレベーターで回り込んで来る可能性はあるし、別動隊がいるかもしれない。急ぐに越した事はない。」

 そう言うとすぐに、ユーシンはリーディンググリップを起動して、移動を始めた。皆もリーディンググリップを取り出し、ユーシンを追って移動を始める。

 周囲を見れば、ロボットアームが荷物をピックアップし、コンテナに詰め込んでいる。コンテナはワイヤーで引っ張られて、開口部のある壁に向かって行っている。開口部はコンテナを次々に飲み込んでいる。コンテナごと、シャトルに荷物が積み込まれて行っているという事だろう。

 その開口部へと、ユーシン達は向かった。

「あれを通り抜けて、シャトルに乗り込もう。そうすれば、このコロニーからは脱出できる。」

 そう言ってユーシンは先頭を切って進んだ。彼が近づくと、開口部のシャッターが閉まった。開口部の脇にあるセンサーが、彼を異物と判断してシャッターを閉じさせたのだろう。そのセンサーに、彼は腕の端末をかざした。すると、直ぐにシャッターは開く。

「その端末には、便利な機能が付いているのですね。」

 シャラナは感心したように話し掛けた。

「機能って言うか、身分証になっているだけですよ。機構軍と提携関係のある『UF』の従業員である事が、センサーに伝わったから、シャッターが開いたんです。」

「こういうところが、半軍商社の良いところだな。」

 ユーシンの説明に続いて、キプチャクが自慢気に語り出した。「緊急時には、軍の兵士並みに、色々なところをフリーパス出来る。変な使い方をしたら、後で大目玉を食らうけどね。」

「変な使い方、したことあるの?」

 ノノが、キプチャクの顔を覗き込むようにして問いかけた。

「あ・・ある訳無いだろ!そんなの・・。もし仮に、そんな事をしたらって話だ。」

「本当ぉ?」

 ニコルはそう言いながら、疑いの眼差しをキプチャクに向けた後、その視線を問いかける形に変化させて、今度はユーシンへと送った。

「ああ、そうだな。使えなかったもんな。端末をかざして女風呂に入ろうとしても、さすがに通してくれなかったもんな。」

「お、お、おい!ユーシン!」

「いやぁー、キプチャク、サイテー!」

「冗談だよ、ニコル。おいユーシン!本気にしてるじゃないか。どうするんだよ。」

 そんなキプチャクは放っておいて、ユーシンはシャラナの背中を左手で軽く押しながら、

「さあ、早く通って下さい。シャトルは間もなく出発のようです。」

と、言った。

「はい。」

 シャラナは素直に従い、軽快な動きでシャッターの開口部に滑り込んで行った。

「お嬢さまも、さあ。」

 ユーシンは、クレアの背中も軽く押して、開口部へと導き入れた。

「じゃあ、次は俺が行くから。」

「またぁ!」

 ユーシンの発言に、ニコルは抗議の声。「あんた本当に、あの2人以外の事は眼中にないのね。」

「そう言うなよ。刺客はお前達には用は無いから、追いつかれても殺されたりしないと思うぜ。」

「え?じゃあ、あんた、刺客の狙いが誰か・・」

 そんなニコルの問いかけが終わらない内に、ユーシンは開口部に飛び込んでいた。お前の質問に答えている暇など無い、という態度だ。

「ちょっとぉー。ユーシン!」

 ニコルの声を背後に聞き流しながら、ユーシンは開口部の向こうに伸びていた通路を進んだ。人一人がどうにか通れる幅の、灰色で無機質な通路だ。荷物用だからこんなものだろう、とユーシンは思った。

 通路が終わると、また広い場所に出たが、そこはシャトルの中だ。中にもロボットアームがあって、出て来たコンテナを拾い上げて並べるべく、待ち構えている様子だ。だが、彼等が荷物では無く人間である事は検出済みなのだろう。彼らを捕まえようとする動きは見せない。壁にはコンテナがきれいに並べられ、連結されている。ロボットアームの仕事の成果だ。

 シャトルに踊り込むと同時に、ユーシンは端末を操作して、何やら調べ物を始めた。

「これからどうするのです?」

 シャラナが穏やかだが毅然とした物腰で問いかけた。ユーシンは、全員がシャトルに入り込んで来るのを待って、その問いに答えた。

「今の所、シャトル内に銃を所持している者はいない。さっきの刺客が、銃を所持するようになる前に持っていたのと、同じ形状の金属物を持っている者もいない。」

 ユーシンはそう説明した。

「つまり、組み立て前の、分解された銃を持っている者も、シャトル内にはいないという事だな。」

 キプチャクが、ユーシンの説明を補足した。ユーシンは続けた。

「このシャトルに刺客が乗り込んで来る事は、無いと思う。ここで殺っても、逃げ場がないからね。でも一応、シャトルのハッチが閉まった後にも、銃や銃の分解物を持っている者がいない事を確認してから、この貨物室から客室へと移動しよう。シャトルの加速時の重力を、ここで受けるのは危ないからな。」

 一同は頷いたが、ニコルは尋ねた。

「もし、銃を持ってる人が乗り込んで来たら?」

「通報すればいい。この都市では、原則では銃の所持は禁じられているからな。今は機構軍がいる事で、銃の所持者を摘発するシステムはオフになっているけど、機構軍兵士でない者が所持しているという事が判明すれば、保安ロボットなり、地元の警察なりが駆けつけて来るはずだ。」

 それからすぐに、シャトルのハッチが閉まる振動が、壁面から伝わって来た。

「銃の所持者はいない。客室に刺客の仲間はいないと見て良いだろう。」

 そう言ってユーシンは、貨物室と客室を隔てるドアに手を掛け、それを開けた。客室にはシートは無く、立ったまま乗るタイプのシャトルだった。発進して加速重力が生じれば、進行方向が天井に、後方が床になる。ユーシンは、窓の近くに陣取った。彼の隣には、クレアが場を占めた。

「当シャトルは、間もなく発進します。」

 そんなアナウンスと、ピーッという電子音に続いて、シャトルは動き出した。ユーシンはすぐ隣にいるクレアに目をやり、少しバランスが悪そうに感じた。今はまだ、ほとんど無重力なのだが、無重力の中で、重力が発生した後にバランスを崩さないような姿勢を取っておくのには、ある程度の経験がいる。クレアはその経験が不足しているようだ。そのまま加速が強くなれば、よろめいてしまうだろうという姿勢でいる。

 グン、という加速を感じると同時にユーシンは、反射的にクレアの背後に、右手をかざしていた。彼女がバランスを崩しても、その手で受け止められるように備えたのだ。だが彼の意識は、急速に別の方向へと吸い込まれて行く。窓の外に、一機のシャトルが見えたのだ。

「公共のシャトルじゃないな。あれは、個人所有のシャトルだ。」

 公共のシャトルで、彼等の乗っているシャトルと同時に、同じコロニーを目指すものはない事は、端末で調べて既に分かっている。刺客が彼らを追いかけようとすれば、公共のものでは無く、個人所有のものを使うしかない。そして、この宙空浮遊都市「ソリアノ」内の移動で、公共では無く個人のシャトルを使う者は滅多にいない。つまり、窓から見える個人所有のシャトルは、刺客のものである可能性が高いのだ。

「追いかけて来ているって事か?」

 キプチャクが深刻な表情で問いかけて来る。同じく深刻な顔で頷いたユーシンだが、右手に加えられた感触に、心臓が飛び出るほどにびっくりした。確か右手は、クレアがバランスを崩した場合に備えて、彼女の背後に差し出していた。だが、今右手に加えられる感触は、明らかに背中のものでは無い。彼の右手は、外のシャトルに意識を奪われた為か、思った以上に低い位置にあったようだ。

 とてつもなく重大なものに、右手が触れている事をユーシンは感じ取っていた。何か、とてつもなくとんでもないものを触ってしまっている。ものすごく触りたかったけど、絶対に触ってはいかんと自分に言い聞かせたものだ。ブルーハルトでさえ、右手の小指でその辺境部を掠めたに過ぎないというのに、彼の右手は今、その核心部分とも言える領域を圧迫してしまっているらしいのだ。

 狂喜(きょうき)慚愧(ざんき)愉悦(ゆえつ)僭越(せんえつ)得意(とくい)謝意(しゃい)達成(たっせい)反省(はんせい)が激しく入り乱れたような感情が、ユーシンの脳の真ん中に熱い塊を造り出した。

 だが、その塊は、恐るべき強い力で、無理矢理に脳から引き剥がされて、どこかに千切れ飛んで行った。今はそれどころでは無かった。もっと重大な事が、もっと優先して取り組むべき現実が、彼の目の前にはあったのだ。

(あのシャトルの、IDナンバーを確認しなければ!)

 彼は腕に装着した端末を操作して、今見えているシャトルに関する情報を検索した。そのシャトルが係留されていたであろうドッキングベイは、彼我の位置関係から推察できる。彼らの乗っているシャトルが係留されていたベイの、2つか3つ隣だろう。そこに留まっていたシャトルの情報は、コロニーに登録されているはずだから、端末でアクセスしてそのIDナンバーを検索する事は出来る。

 IDナンバーが分かれば、今度はそのナンバーのシャトルが、彼等の向かっているコロニーのどこに係留されるかが分かる。彼らの乗っているシャトルの係留先も、もちろん検索可能だ。両シャトルの係留予定位置が分かれば、刺客達がどういうルートを通って彼らに接近し、どういうタイミングで、どの方向から襲撃して来るかも予測できる。目的地に到着するまでに、それらの情報を獲得し、対策を講じておかなければいけない。

「このシャトルが到着して、2・3分位で敵は襲撃が可能だな。」

 ユーシンは、彼の判断を口にした。

「じゃあ、降りたら全速力で逃げないとだめだな。」

と、キプチャクが応じた。

「目的のコロニーは、機構軍が臨時の司令部を置いているところか。」

 この時ユーシンは、初めて目的地がどういうところかを知った。そして、

「これは使えるな。」

と、小さく呟く。

「相手の位置は、金属探知のデーターを調べる事で、知る事が出来るんだろ?」

 キプチャクが尋ねて来た。

「そうだな。銃を組み立てる前の、各部品の形状も今は知れている。さっき銃撃してきた奴が、銃を組み立てる前に所持していた金属物の形状は、保安システムに記録されているから。」

「刺客の方はその事に気付いているのかな。」

 キプチャクにそう言われて、ユーシンは初めてその事に想いを至らせた。

「気付いてたら、さすがに襲撃は諦めるだろうな。自分達の位置を掴める相手への襲撃なんて、危険だし成功確率も相当下がると思うだろうし。」

 言った後、ユーシンは考えに沈む。

「その、組み立てる前の銃の所持者を、地元の警察に捕まえてもらえるように依頼出来ないのですか。」

 今度はシャラナが尋ねた。

「その依頼は掛けたんですが、直ぐには無理のようです。俺達は銃撃を受けた身だから、奴等が刺客だと断定できるが、地元警察はまだ、銃撃が起こった事実を認定出来ていない。今から目撃者に事情聴取して、その情報を総合した上でなければ、銃撃があった事実を認定出来ないんだ。そしてそれまでは、銃やその部品を持っている人間は、軍の兵士であると判断されるから、地元警察としては手出しできないらしい。」

 ユーシンは、端末に寄せられたメッセージを見ながら、シャラナにそう答えた。

「そんなぁ。じゃあ、いつになったら地元警察はあたしたちを助けてくれるのよ。」

 ニコルの不満と不安の声に、ユーシンは応えた。

「とにかくもうしばらくは、自分達の身は自分達で守るしかない。」

 そう言いながらユーシンは、端末を使って目的地のコロニーに関して、色々と調べている。

(こちらは相手の位置を掴めるし、刺客の奴等はその事に気付いていない。相手の人数も把握できる。かなり有利ではあるぞ。)

 考えを巡らせながら、ユーシンが端末を触り続けていると、

「さっきは有難うございました。ユーシンさん。」

と、不意にクレアが話しかけて来た。

「さっき?」

 夢中で調べ物をしている所に話し掛けられ、ユーシンは発言の内容が飲み込めていない。

「さっきユーシンさんに支えて頂かなかったら、私、転んでしまっていましたわ。加速の重力があんなに強いなんて、思いませんでしたもの。」

 その言葉で、引き剥がしたはずの熱い塊が、また頭の真ん中あたりに蘇った。転ばないように支えてあげたのだが、支える為に触れた部分は、とんでも無かったはずだ。が、クレアは屈託のない笑顔で彼を見上げている。とんでもない部分に触れてしまった罪は、不問に付されているのだろうか。お(とが)め無しなのだろうか。

(それともやっぱり、そこに触る事は、初めから大した問題じゃ無いのかな?)

 色々な想いが頭をよぎるが、端末に示された情報が、また彼の意識をそこから引き剥がす。

「あっ、地元警察が、銃撃の事実を認定し、銃撃者の追跡を始めたらしい。目的のコロニーのドッキングベイでも、待ち伏せをするようだ。」

「よかったぁ。じゃあもう逃げなくても良いんだよね。もう、安心だよね。」

 だが、刺客が乗っていると見られるシャトルを窓から眺めたユーシンは、愕然として言った。そのシャトルは、彼等のシャトルとずっと並行して飛んでいる。同じコロニーから出て、同じコロニーを目指すのだから当然だ。

「側面のハッチが開いてるぞ。宇宙服を着て船外に出たんじゃないか。普通にドッキングベイに到着したら、即逮捕されると知って、到着前にシャトルから出たんだ。」

「シャトルから出て、どうするつもりなんだ?」

 ユーシンの指摘に、キプチャクが疑問を呈する。ユーシンは端末を操作して、ドッキングベイ周辺の、コロニーの構造を調べる。そして言った。

「出入りできる場所なら、あちこちにあるな。メンテ用のハッチとか、排気用のダクトとか。それらを使って、こちらに襲撃を掛けて来る事も考えられる。まだ、油断はできないぞ。」

「いくら何でも、もう逃げるんじゃない。刺客達は。」

「そうね。地元警察が逮捕する気になったんだから。」

 ニコルとノノは相次いでそう言ったが、

「そうかもしれない。でも、襲撃を継続された場合に備えない訳には行かないよ。奴等が逃げるか捕まるかした事を、確認するまでは。」

と、ユーシンは応えた。「まだまだ、安心はできない。」

今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は、'17/7/14 です。

コロニーの外周壁面にある"地上"と中心軸を結ぶエレベーターに関する描写には、毎回苦労しています。軸付近ではほぼ無重力で、壁面に近づくにつれて遠心力という疑似重力が強くなる。一方で、エレベーターの加速・減速によっても重力が発生します。で、各場面によって、どの方向にどのくらいの重力が働くのか、書いてるほうもこんがらがってくるので、読んで下さっている方にも分かり辛いかもしれません。まあ、ストーリーの大筋には影響は出ないと思うので、あまり気にしなくてもいいですし、逆に、おかしいと思うところがありましたら、どしどしご指摘頂きたいと思います。無重力中に浮かぶ回転体の、中心と外周を行き来する物体に働く力のベクトルと強度に関して、詳しい方がおられましたらご指南頂きたいです。単純に"上下"だけの力が加わるわけでも無く、色々な方向への慣性が複雑に作用するのだろう、と思ってはいるのですが、ややこしいです。ところで、ユーシンはクレアのどこを触ったのでしょう?あっちこっちに何度も意識を急旋回させて、大忙しのユーシンでした。というわけで、

次回 第47話 刺客とユーシンの対決 です。

楽しい?クレアとの逃避行を堪能するユーシンですが、やっぱり悪者と対決してもらわないと、物語の主人公の名折れです。どういう結末になるかは分りませんが、対決してもらいましょう。ご注目下さい!

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