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第45話 刺客の襲撃

 ユーシンと入れ替わりに、キプチャクとニコルとノノは席に着こうとしていた。シャラナはまだ、料理を選んでいる最中らしい。長く並べられたテーブルの、一番向う側辺りで、お皿を片手に料理を物色している。

「さぁ、何を食べましょう。私、迷ってしまいますわ。どうしましょう?ユーシンさん。」

 本当に困り果てている様子で、夢中になってそれぞれの料理を見比べ、顔をキョロキョロさせているクレア。

「そんなに慌てなくても、ゆっくりお選びになれば・・」

「何をおっしゃっていますの?ユーシンさん。私、お腹がペコペコですのよ。早く食べないと死んでしまいますわ。早く選んで・・ああでも、なかなか選べない。どうしましょう。どれにしましょう。ねぇ、ユーシンさん。」

 苦笑を浮かべるしかないユーシン。クレアの慌てぶりに呆れているように見えて、その実、彼女の仕草や発言の一つ一つが、いちいち可愛くて仕方が無いのだ。抱きしめてしまいたいほど愛しく思う気持ちを、何とか苦笑いで誤魔化しているのだった。

「ああ、アヒージョ。私、クルマエビのアヒージョを頂きたいですわ。この匂い、このニンニクのつんと来る匂いは、アヒージョでしょ。匂いはするのに、どこにあるか分かりませんわ。こんなに強く匂って来るのに、見つけられ無いなんて。どこにあるのかしら?」

 ユーシンは直ぐに見つける事が出来た。ユーシンより背の低いクレアには、目の前の人垣が邪魔で見えないのだろう。

「あちらですよ、お嬢様。」

 そういったが、クレアは全く違う方向に向かって、顔をキョロキョロさせている。軽く背中を押してやれば、アヒージョの方向を示してあげられそうだ。自然に手がクレアの背中に向かったが、触れる直前に急停止した。

(お・・俺は、何をしようと・・、お嬢様の背中に、触ろうとしているのか?そんな事、許されるのか?少し、馴れ馴れし過ぎるのでは、無いのか?)

 クレアの背中から1cm程の距離で、ピクピクしながら待機状態のユーシンの右手。

(いや、別に、背中を軽く押すくらいいいだろう。ブルーハルト大佐もやってたし。)

 その瞬間に、「ウィーノ星系第3惑星」で見た、ブルーハルトがクレアの背中に手を当てるシーンが、まざまざと脳裏に浮かんできた。あの、小指が滑らかな曲線に侵入しているかどうかの絶妙に微妙な位置を、ユーシンは思い出していた。

(あの時と同じ位置-“ブルーハルトゾーン”に、今、俺が手を置いたら、何が起きるんだろう?・・って、なんて罰当たりな事を考えるんだ!俺は。)

 一瞬よぎった思いに、恐れおののくユーシン。だが、

(でも、あれだけの笑顔を見せて、話しかけて下さるお嬢様だぞ。別に背中に手を当てるくらい・・。)

 その考えが浮かんだ瞬間に、社長令嬢と元宇宙孤児という生まれの違いや、彼女が機構軍幹部に嫁ぐ身の上だという事実が、頭をよぎる。

(ダメだ!何を考えているんだ。立場をわきまえなければ。俺にそんな事、許されるはずは・・)

 そこでまた、別のシーンが頭に浮かぶ。

(でも、お嬢様は、自分から俺の脚の上に座って来たりしたんだぞ。その人の背中に手を当てるくらい・・別に・・で・・手を当てるとして、どこらへんに。)

 ここでユーシンは、少し頭の中の整理を試みた。

プランA:お嬢様の背中には触れない

プランB:お嬢様の背中の、比較的上の位置に触れる。

プランC:お嬢様の背中の、比較的下の位置-ブルーハルトゾーン-に触れる。

(さあ、どれだ?どれが正解だ?どれが良いんだ?どれが正しいんだ??)

 整理して考えたところで、そんな事に答えなど出ない。だが、ユーシンは考えた。

(まず、俺は、どうしたいんだ。・・って、触りたいに決まってる。出来る事なら、滑らかな曲線そのものを触りたい・・のだ・・が、さすがにそれは許されるはず・・が・・でも、自分から脚の上に座ったんだぞ、お嬢様は。鼻の先3cmの所を、右往左往させたりとかも、したんだぞ。・・やっぱり、別に触ってもいいんじゃ・・いやいやいや。やっぱり、そこを触るのは、ダメだろう!)

 待機状態を続ける右手は、既に辛抱の限界に達して、ビクンビクンと痙攣し始めている。

(やっぱり、プランAが無難か・・しかし、それは余りにも・・プランBか・・でも、大佐だって、やってたんだから・・プランCでも、いやいや、大佐とでは、立場が違うだろ。やっぱりBが妥当か?・・・でも・・Aにしておくか。と見せかけてB・・・一か八かでC・・でも、A・・やっぱ、C・・A・・B・・A・・B・・C・・B・・B・・A・・C・・A・・A・・C・・C・・B・・ああああ、わけわからん!)

「あ、ありましたわ、アヒージョ。」

 その言葉と共に、クレアの背中も滑らかな曲線も、ユーシンの右手からスーッと遠のいて行った。

嗚呼(ああ)・・嗚呼、嗚呼。」

 茫然と見送るしかないユーシンだった。が、お腹は減って来るもの。

「と、とにかく食べよう。食べ物を取ろう。」

 気を取り直したユーシンは、かなり手当たり次第に料理を手元の皿に盛りつけて行った。もうどれが美味しそうとか、どれが食べたいとか、、どれは食べたことが無いとか、考える気にもならなかった。何かを詰め込めば良いという割り切りだけがあった。だが、クレアの食べたがっていたアヒージョは外せないと思った。手元の皿には、窪んだ部分や平らな部分が儲けて有り、その窪んだ部分から溢れる程に、ユーシンはアヒージョを取り分けて行った。

 気付けば、手元の皿はてんこ盛りだ。もしかしたら、並べられた料理全部を盛り付けてしまったかもしれない。食べ切れるかどうかという判断すら、する気になれない。一度盛り付けた料理の所に戻って、もう少し追加して取り分けようかなどと思ったりもする。いくら食べても値段は同じなのだから、少しでも沢山取らなきゃ損だ、そう想うのが、ビュッフェ形式というものだった。

 一つの料理の前で、どうしようかと迷った。もうすでに2つ取り分けてある白身魚の香草焼きだ。もう一ついっとくかどうかで、迷いに迷う。

「お先に失礼しますわね。」

 彼が見つめていた白身魚が、反対側から突き出されたトングにつまみあげられて行った。見るとシャラナだった。

「うふふ、御免なさい。迷っておいでだったので、お先に頂いてしまいましたわ。」

「あ・ああ、あはは。いいえ、構いませんよ、そんな事。」

 その時ユーシンは、この日初めてシャラナという人物を、真正面から意識して見詰めたような気がした。

(相変わらず元気そうだ。でも、本当に元気なのかな。ラクサスの事とか、離婚の事とか、この人の中で、どういう事になっているのだろう?俺はこの人を、幸せにしたのか、不幸にしたのか・・)

 それもまた、考えたところで答えなど出ない問だった。

「ユーシンさん、お飲み物はいかが?」

 相変わらず、しゃんと背筋を伸ばしたまま、穏やかな微笑みを浮かべ、優雅な上に高貴な所作で、世話を焼いてくれる。うっとりしない男など、きっといない。

 ユーシンの手にグラスが握らされ、そこにジュースだかお茶だかが注がれる。ユーシンの眼はシャラナに向けられたままなので、自分が何を注がれているのかも分かってはいないが、そんな事はどうでもよかった。シャラナが今、本当に元気なのか、本当に幸せなのか、それだけが気がかりなのだった。

 何かを注ぐシャラナを見続ける。何かの記憶が、オーバーラップして来る。

(何だろう?)

 悩んだのは一瞬で、直ぐにそれは判明する。住居コロニーにあるバーで、彼女にお酒をつがれた時の記憶だ。状況はだいぶ違うが、液体を注ぐ所作に変わりは無かった。あの時の、へそが見えそうな程の開口面積を誇った、たわわな谷間の光景が、記憶に上る。

(うぉおっ!俺は、何という不純な記憶を呼び起こしているんだ!)

 だが、その記憶は、ある一つの超絶に決定的な重大事項も、ユーシンに想起させた。そして、遂にユーシンは、長期に渡り留保されていた念願を、大望を、叶え、実現する時を迎えたのだった。ようやくに訪れた、一世一代の大チャンスだった。千載一遇の好機だった。大願成就の瞬間が、とうとうやって来たのだった。

(そうだぁっ!お嬢様の胸元の具合を確かめようっ!!)

 その思いと共に、目の前にいるシャラナへの感謝の念がこみ上げる。

(有難う、シャラナさん。あなたのおかげで、今まで本人を前にしは、なぜか決して意識出来なかった事を、遂に意識出来た。あなたが思い出させてくれた。あなたのおかげで大望を果たす事が出来る。)

 なぜ今まで、本人を前にそれを意識できなかったのか。今日だって、今の今までそんな事は意識出来ていなかった。何度も視界には入ったはずだ。ドッキングベイで再会してから、ここで料理を取り分ける時まで、いくらだって見る機会はあった。なのに、全く、一度として、意識しなかった。何故だか全くわからない。摩訶不思議な現象だ。

 だが、遂に、今、クレアを目の前にしたこの場面で、彼は意識出来たのだ。シャラナのおかげで、シャラナの所作のおかげで、あのバーでのシャラナの服装のおかげで、彼はクレアを目の前にそれを意識する事が出来たのだ。シャラナ→谷間→お嬢様の胸元、という奇跡の連想が成し遂げられたのだ。

(もう、絶対に見るぞ。絶対に確かめるぞ。お嬢様の、胸元の具合を!)

 そのクレアは、彼とシャラナの存在を見止めた風に、飲み物の置かれていた丸テーブルから離れ、料理の並んだ長いテーブルに沿うようにして、彼等の方に歩みを進めている。その顔は、ユーシンの方に向けられている。

(だが、気付かれてはいけない。胸元に視線が行っている事に、勘付かれるわけにはいかない。絶対に見なければいけないが、絶対にバレないように、慎重の上にも慎重に事を運ぶ必要がある。失敗は許されない。次のチャンスがあると思ってはいけない。これが人生で唯一のチャンスだ、くらいの認識を持って、確実な成功を期して動かなければいけない。絶対にバレないように、絶対に見なければいけないんだ!)

 胸中には闘志を燃やし、脳裏には冷静な計算を働かせる。

(こっちを見ている。まだだ。まだその時じゃない。待つんだ。チャンスを待つんだ。)

 勇み立つ気持ちを、必死で押さえつける。()れる欲求を、どうにかねじ込める。クレアの動きに注意を払いながら、タイミングを計る。あせる。あせる。早く見たい。直ぐに見たい。だが、まだだ。「アマテラス」の射撃と同じだ。動きを読み、タイミングを見極めるのだ。

「こちらのニョッキは、お取りになりました?クレアさん。」

 シャラナが、クレアのすぐ近くにある皿を指差した。

(ナイスアシストだ!シャラナさん。)

 ユーシンは内心で絶叫した。

 シャラナの言葉に導かれ、クレアの視線は、ユーシンからニョッキへと移る。

(今だぁあああ!)

 世界が、静止した。宇宙の中で、今、ユーシンの眼球だけが動いた。

 見た。 

 小さい。

 ぺったんこ。

 見つけるのにも一苦労。

 微かな湾曲を視認。

 かろうじて見分けられる程度。

 ささやかすぎる双丘。

 隣のシャラナとでは、(ぞう)(あり)

 だが、膨らんでいる。間違いなく膨らんでいる。そしてユーシンは思った。

(温かい。見ているだけで、体温が伝わって来る。温もりを伝える為に、あるものだったのか、あれは・・・)

 クレアとシャラナは、ニョッキを指差しながら、何やらヒソヒソと話し込んでいる。その話が終わらない内は、じっと見ていても気付かれる心配はなさそうだ。見られるだけ見てやろう、とユーシンは決心した。そして見続けた。ヒソヒソ話はなかなか終わらない。だから、ずっと見続けられた。瞬きも忘れて見続けた。呼吸も忘れて見続けた。

(温かい。)

 ユーシンは何度も思った。見れば見る程、クレアの体温が彼の体の隅々に伝搬せしめられ、細胞の一つ一つにまで染み渡って行くように感じた。大きさなど問題にならなかった。遥かに巨大なシャラナの胸元からも、他の誰の胸元からも、感じた事の無い生々しい温もりが、クレアのそこからは、空間を飛び越えて、距離を無視して、直接にユーシンに届けられて来るのだ。

(何でこれを、今まで意識しなかったんだ。なぜこの体温の伝搬を、今まで感じなかったんだ。)

 と、その時、彼の腕に装着された端末から、アラームが発せられた。見ると、銃の所持者が突如近くに現れたと表示されている。その者の居場所も、座標が数値で示されている。座標データーから、実際の位置を読み取るのは、ユーシンにはお手の物だ。脳内で瞬時に、数値は映像へと再構築された。

(近いっ!もう、いつ射撃が来てもおかしくない距離だ。今ここで組み立てたんだな!)

 そう思いながら、座標が示した位置へ視線を向けようと、首を回す。回しながら、ユーシンは思った。

(この高さで周りを見回したって、人混みで見える訳がない。)

 咄嗟(とっさ)に膝を折り、身を伏せる。首の旋回が終わらない内に、ユーシンの顔は膝の高さにまで降りた。立っている高さで見回すより遥かに、人に遮られずに遠くの様子を判別出来た。そして見つけた。銃を握る手を。その手が上がって行く。

(撃つ気だ!相手はプロだ。狙いを付けてから撃つまで、1秒も無いはずだ。)

 襲撃の目標には見当が付いていた。

「うわぁあああっ」

 叫びながらユーシンは、手近にあった直径2m近くはある、大きな丸テーブルを横倒しにした。大量に乗っていた飲み物のボトルやグラスなどが、テーブルの表面を勢いよく滑り落ちて行く。テーブルの天面が床に到着するより早く、ユーシンはそのテーブルを前方に押し出した。天面が床を打ち、丸い為にそのまま転がり始めたのと、テーブルから滑り落ちたものが床に衝突し、すさまじく(にぎ)やかな音を立てて砕け割れて行くのが、ほぼ同時だった。

 周囲の人々からは、悲鳴が上がる。巨大な丸テーブルをいきなり横倒しにして転がすという暴挙に対する悲鳴もあれば、大量のガラスが一気に砕ける、壮絶な破壊音に驚いた悲鳴もあっただろう。

 そんな悲鳴に包まれて転がって行く丸テーブルが、いきなりカッと光を放った。ユーシンの位置からはテーブルの天面から放たれた光が、向かい側に位置する物を明るく照らし出す様しか見えなかったが、テーブルを挟んで反対側にいた人々は、テーブルにレーザー光線が突き刺さる様を目撃したはずだ。そして、目撃者の数人が、すかさず叫んだ。ユーシンには有り難い叫びだ。彼の暴挙の理由をひと言で説明し、周囲の人々に、彼が乱心したわけでは無い事を納得させてくれるものとなったから。

「銃撃だぁ!」

「レーザー射撃だ!」

 テーブルから発せらえた光と、その叫び声で、レストランにいた人々には、事態がすぐに理解されたようだ。割れんばかりの悲鳴が、フロアの全ての場所から一斉に上がった。

「伏せろっ!」

「隠れろぉ!」

 そう叫んだ本人達は、既に体を潜ませる行動を開始しており、他の客達も、その言葉を聞くや否や、近くの物陰に身を投げた。多くの人が、テーブルから発せられた光を目撃していたので、どの方向に対して身を隠せばいいかは、即断出来たようだ。テーブルを見ていなかったであろう人々も、周囲の者達の動きからら、どんな風に身を隠せばいいかは推察出来たようで、レストランにいた全員が、射撃手にとって死角になる場所に、上手く体を隠していた。

 フロアにいた客も店員も、全員が身を伏せ、物陰に隠れてしまうと、射撃手の存在は嫌が応にも目立った。テーブルの下で、銃を隠すように構え、膝を少し曲げた低い姿勢を取っている。突如転がって来たテーブルに射撃を阻まれたのが、よほど予想外の事だったのか、射撃手は少し茫然としているようだった。レーザーがテーブルを打つことで放たれた光によって、幻惑されたという事も、あるのかもしれない。

 いずれにせよ、射撃手の反応は遅れた。フロアの人々が身を伏せた中で、1人だけ中腰の体勢で、テーブルの下で銃を構えている姿勢が衆目に曝されてしまい、少し間抜けな雰囲気すら漂っている。

 クレアとシャラナは、ユーシンが転がしたテーブルの真後ろにいた。この2人は、自ら身を伏せたり隠したりする必要は無かったのだ。始めから、ユーシンの転がしたテーブルの陰に、身を隠した状態だったから。というより、この2人を射撃手から隠す為に、ユーシンはテーブルを転がしたのだ。射撃手の狙いが、2人のどちらかだと分かっていたから。

「走れ!逃げるんだ!」

 ユーシンは叫びながら、横倒しのテーブルと反対側にある、階下に降りる階段を指差した。彼らが昇って来る時に使ったエレベーターと非常用の階段が、屋上に付き出した塔に(しつら)えられているのだ。

 手近にあった一回り小さい丸テーブルを、ユーシンは手に取った。抱えながらでも、何とか走れる位の大きさだ。それを盾にする様に、射撃手の方にかざしながら走る。キプチャク達の方を振り返り、

「お前達もこうやって・・」

と、ユーシンは指示しようとしたが、言い終わらない内に、キプチャクがユーシン同様に、手頃な大きさの丸テーブルを抱え、それ盾にしつつ、その陰にニコルやノノを庇いながら、ユーシンの方を目がけて走り始めた。

 ユーシンが走り出したのに一拍遅れて、クレアとシャラナも走り始めていた。ユーシンは2人を先に行かせ、抱えたテーブルで2人を射撃手から隠した。背後に2人の足音を聞きながらユーシンは、抱えた丸テーブルの陰から射撃手の方を見る。その時には、勇敢な幾人かの客や店員が、ユーシン同様にテーブルを盾にしながら、

「何だ、お前は!」

と叫びつつ、射撃手に詰め寄ろうとしていた。射撃手は、盾になっているテーブルの一つを撃って、彼等を威嚇する。詰め寄った店員と客達が(ひる)んだ隙を見て、ユーシン達を追いかけるつもりのようだ。そこまで見たところで、射撃手はユーシンの視界から外れた。キプチャク達が階段を降り始めたのを見送ったのに続いて、ユーシンも階段を降り始めたからだった。

 階段を降り切ったところで、シャラナとクレアは立ち止まってユーシンの方を向いていた。彼を心配している顔と、これからどうすれば良いか分からない顔が混ざっている。

「その通路を真っ直ぐ行って、突き当りを右だ。」

 ユーシンは指示した。即座にシャラナが、クレアの手を引いて走り出し、少し動き出しの遅れたクレアは、シャラナに引きずられるようにして、通路を進んで行った。

 テーブルを抱えたまま走って追い付いて来たユーシンに、キプチャクが言った。

「もう、テーブルはいらないだろ。銃を持った奴は、視界から外れたんだから。」

「奴一人とは限らない。いつどこから別の射撃手が狙って来るか分からないから、持っていた方が良い。」

 走りながら答えたユーシン。突き当りまで走り、角を右に曲がる。5mほど前を走るシャラナとクレアに、

「その先、突き当りを左!」

と叫ぶ。2人が左に曲がろうとしたのと同時に、背後から足音が追いかけて来るのが聞こえた。テーブルを置き、それに隠れるようにして、後ろの様子を覗き見るユーシン。キプチャクも同じように、床に置いたテーブルに身を隠している。

 ユーシンの視線の先、彼等が曲がって来た角の、更に奥にある曲がり角から、2人の男が飛び出して来た。手には銃が握られており、こちらに向けて狙いを定める仕草を見せる。が、テーブルを盾にしているのを見て取ると、撃っても無駄だと悟ったのか、銃を構えるのをやめて、全力疾走で追いすがろうという動きに転じた。

「もう、テーブルはいらない。」

 そう言ったユーシンは、テーブルの陰から出ないように、低い姿勢のままで曲がり角まで進んで行き、そこから一気にダッシュした。背後で同様に、キプチャクもダッシュして追って来る。

「行き止まりだよ、ユーシン。」

 曲がり角から10mと行かない所で立ち止まっていたニコルが、絶望に駆られた顔でそう言った。

「こっから逃げる。」

 そういってユーシンが指差したところには、白い壁面にぽっかりと大きな四角い穴が開けられており、その奥は黒々として何も見えない状態だった。

「これぇっ!? ごみ箱じゃないの?これって。」

 ホテルの従業員だけが使う業務用のものの為か、その穴には何の表示もされておらず、ニコル達にはそれが何か、分からないようだった。

「違う違う。荷物用の、中心軸へのエレベーターだ。」

「荷物用・・・」

 ノノが何か言いかけたが、説明している時間は無いと判断したユーシンは、

「ごめん、シャラナさん。」

というや否や、シャラナを横抱きにして持ち上げ、ポイっと無造作に、その穴を目がけて投げ込んだ。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日、 '17/7/8 です。

クレアとシャラナの2人を前にして、ユーシンンは変態モード全開でした。ユーシンの状態は、女性読者の方々におかれては、呆れ果てておいででしょうか?15歳の少年ていうのは、こんなものですよ。そして、せっかく見たいものをじっくり見ている時に、無粋な刺客が襲撃してきました。ユーシンがもっとしっかりしていれば、もっと安全に切り抜けられた気もしますが、とりあえずクレアにもシャラナにも被害が出ていないので、物語の主人公としてぎりぎりセーフということにしておきましょう。ということで、

次回 第46話 宙空浮遊都市の逃避行 です。

今のところは、クレアもシャラナも無事ですが、まだ刺客の襲撃は終わったわけではありません。ユーシンはちゃんと、守り抜くことが出来るでしょうか?後、吊り橋効果なんて言葉がありますが、刺客に狙われるというドキドキは、ユーシンとクレアに何かをもたらすでしょうか?色々と気にかけながら、次話にも注目して頂きたいです。

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