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第40話 宙賊の突撃

 戦争を欲している自分というものに、ユーシンは恐ろしさを感じていた。

 宙賊に襲撃を仕掛けられている事実は、厳然として存在している。それを防がなければ、多くの無辜の民が殺されるだろう。だから、宙賊を迎え撃ち、撃退しようとする行為は正義のはずだ。だが、戦争や殺戮に対するこの高揚感は正義なのか。平和の為に仕方のない武力行使だとしても、このような高揚感をも持って臨むのは間違っているのではないのか。

 だが、そう思う一方で、戦闘という極度に緊張を強いられる場面で最大限のパフォーマンスを発揮し、自分自身や仲間の命を守り抜く為には、この高揚感は不可欠に思える。この高揚感無くして、戦場における勇猛な闘いや、恐怖に捕らわれない果敢な判断が出来るだろうか。高揚感は、闘いに臨む者には不可欠にも思える。

(良いの悪いのと言っても、闘いは避けられないし、闘いに臨むのに高揚感が湧き上がるのも避けられない。ただ、この高揚感に煽られて、無用な殺戮や破壊をやってしまわないように、可能な限り自制する事を心がけよう。)

 ユーシンは、ガリアスやアドリアーノが、宙賊の命を尊び、彼等の生活の救済をも目標に掲げていた事を思い出した。彼等とて、戦場に臨むに、今ユーシンが感じている高揚感を覚えないはずはない。噂に聞く、そして彼自身も目の当たりにした「1-1-1」の闘い振りからしても、戦争に対する高揚感無しには考えられない。

 人には、戦争や殺戮に高揚感を覚える習性が、歴然としてあるのだ。時にはキリングエイプ(殺戮する猿)とまで評される事のあるのが、人間という生き物だ。殺戮を憶えた事が、人に繁栄をもたらしたのかもしれないし、戦争こそが、人の叡智が紡いだ最高の文化なのかもしれない。それがあったからこそ、今の人類文明が発祥し得たのだろう。

 だがそれらは、人が自らに悲惨な運命をもたらしたり、辛苦や困窮を招いたりする事にもなり得る、恐ろしい衝動でもある。つまりは、諸刃の剣だ。

 人類が生存する為に、人が人になる為に必要だったものであり、もはや人の心から分離する事の出来ないものだが、人が平和を求める限りは、高度に制御されなければならないもの、それが、今ユーシンの感じている、戦争や殺戮への高揚感というものなのかもしれない。

(目の前の闘いに勝利し、生き残る為に、この高揚感は最大限活用しよう。しかし、この高揚感に流されて、無用な破壊や殺戮をしてはいけない。そんなことをしてしまったら、お嬢様の笑顔を守る事も、きっと出来無くなる。)

 ユーシンが、闘いに臨むにあたっての気持ちの整理を付けたところで、船内放送が掛かった。

「おいガキ共、そろそろ喧嘩が始まるかもしれねぇ!持ち場に戻れ!」

 ユーシン達は弾かれたように行動を開始した。キプチャクは、ミサイル発射の際には直前に再検品して、攻撃の絶対の成功を期すという役割を果たすべく、ミサイル保管庫に急ぐ。ニコルはメインスラスターが常に最高のパフォーマンスを示し続けるよう、監視しなければならない。

 ノノとユーシンはリーディンググリップに導かれ、航宙指揮室へと最速で向かった。ノノは室内要員の健康管理が任務だ。ユーシンは、操船の方はマルコかドーリーがやる事になるだろうから、やるとすれば「アマテラス」での射撃だ。直接的に、宙賊を殺害する役割が、彼に与えられることになる。

 高揚感に手が振るえる。武者震いというものだろうか。早く、宙賊の戦闘艇を撃破する快感を味わいたい。だがそれは、人を殺害する事だ。宙賊だって人間だ。彼を愛する者がいるかもしれない。彼の帰りを待っている者がいるかもしれない。それを殺害するのが、彼の役割なのだ。そう分かってはいても、敵戦闘艇撃破への渇望は止められない。

(宙賊のパイロットには悪いけど、可愛そうだけど、俺は俺自身と、俺の仲間と、俺の属する社会を守るために、それに危害を加えようと迫って来る者に対しては、この殺戮本能を完全開放する。)

 今この瞬間にユーシンの眼を覗き込むものがいたら、背筋が凍る程の恐ろしい凄みを感じたかもしれない。

 操船席に着いてみると、ドーリーが既にシートに着いていた。マルコはいない。戦闘中とはいえ、3人でここに詰める事も無いので、彼は非番で待機している。落ち着いて休んでいられるかどうかは、分からないが。

「宙賊共が、オールトの海の一番内側に達した事が観測されたそうだぜぇ。もう、いつ何時、奴等がタキオントンネルを生成して、こっちへの進攻を開始して来ても不思議じゃぁねぇ。」

と、バルベリーゴは戦況を伝えた。通信索敵席からサヒーブが補足する。

「機構軍は、巡航ミサイルによる攻撃は実施しているとの報告だ。奪還作戦の部隊編成がまだ終わってないから、有人部隊の派兵には踏み切れない分、巡航ミサイル攻撃で、敵の星系内部への進攻を妨害する作戦だ。これで、敵が侵攻を諦めるのか、攻撃を掻い潜ってでも、部隊を進発させて来るのかは、全く分からない。だが、いつ敵襲があっても不思議じゃない状況だ。」

(来い!宙賊共。ミサイル攻撃を掻い潜って、掛かってこい!)

 ユーシンは内心で叫んだ。敵が諦めてくれた方が、殺戮をしなくてすむし、味方も危険に曝されずに済む。だが彼は、戦争への高揚感を解放する事にしたのだ。いざ闘いになった時には、それが必要になるから。

 じりしりするような時間が過ぎたが、やはり直ぐには何も起きない。ドーリーはさすがに百戦錬磨で図太くなっているのか、居眠りしながら過ごしている。無重力なのでコクリコクリとは、ならないが。

(良く寝ていられるな、こんな時に。でも、肝心な時に力を発揮する為には、このくらいの図太さが必要なのかな。)

 そう思ったユーシンも、少し肩の力を抜いてみた。するといつの間にか、彼もうとうとしていたのだった。

「機構軍から、タキオン粒子の兆候確認との報告。」

 報告したのはアニーだった。いつの間にかサヒーブからアニーに交代したようだ。その声に目を覚ましたユーシンンは、隣の席も人員交代が行われた事に気付かされた。

「おう。起きたか、ユーシン。」

 そう言って来たのは、操船用のコンソールで指を踊らせているマルコだった。

「タキオン粒子が来たのか?」

「は?はは。お前、まだ寝ぼけてるな。いきなりタキオン粒子が来たら、俺達、即、全滅だぞ。タキオン粒子が照射された物体は反物質化して、膨大なエネルギーを放出しながら通常物質と対消滅するんだからな。」

「ああ。そうだった。“兆候”が検出されただけなんだな、タキオン粒子の。」

「そうだ。タキオン粒子の照射装置を起動させてしばらくは、どうしてもタキオン粒子が不安定で、通常物質に触れる直前に、別の素粒子の波動へと遷移してしまう。それを検出してすぐに、ラディカルグルーオン生成装置を起動させるか、照射エリアから外れるかすれば、タキオン粒子による反物質化の被害からは免れる事が出来る。」

「じゃぁ、『キグナス』もそれを起動させたんだな?」

「もちろんよ。」

 武装管制席からキムルが、ユーシンの問いに答えて来た。「タキオン粒子の兆候を検出すれば自動的に、起動されるように設定されているわ。」

「だが、周囲の星間物質には気を付けろよ、ガキ共。」

 バルベリーゴが口を挟んで来た。

「分かってるよ、オヤジ。」

 マルコが応じる。「ラディカルグルーオンの影響下に置けない周囲の浮遊物質は、爆弾みたいなもんだから、タキオン粒子が安定化してくる前に、「キグナス」から離しておかないといけない。もうとっくにやったよ。スラスターの噴射圧で排除してやった。」

「散開ミサイル、いつでも打てる様に準備しておけよ、キムル。」

「もう完了してるわよ、船長。ラディカルグルーオン生成装置搭載弾もスタンバイしてあるわ。」

 タキオン粒子を照射されては、散開弾の展開させた金属片も表面部材が反物質化させられ、爆発消滅してしまう。タキオントンネル内の敵を攻撃するならば、ラディカルグルーオン生成装置を乗せたミサイルも同時に放ち、それで攻撃用ミサイルを守る必要がある。

「ユーシン『アマテラス』も、スタンバイオーケーだろうな。」

「当たり前だ。」

 矢継ぎ早な確認が行われた。そして数時間が過ぎると、

「タキオン粒子そのものが、徐々に検出され始めたそうよ。まだ目立った破壊は起きてないらしいけど。」

 機構軍から回されたその情報をアニーが報告して数分後に、前方を映していたカメラの映像に白い光が捕えられた。

「前方の浮遊物質、突如爆発!タキオン粒子の影響とみられるぞ。」

 ラオがそう言い終わる前に、モニターには複数の光芒が立ち現れ、直ぐに消滅した。

「タキオン粒子の照射軌道上の浮遊物質が、次々に爆発して行っている。もうすぐ、軌道上に天然の物質は皆無になる。そうなれば・・・」

 そこで発言を止めたマルコを継いで、ユーシンは言った。

「いよいよ宙賊のお出ましだな。超光速で宇宙機雷に突っ込むか。手前で減速して通常航行して来るか。」

「減速するだろう。」

 マルコは主張した。「反物質化から守られた物体の存在は、タキオン粒子の反射を観測する事で、敵だって把握出来ているはずなんだ。そこへ超光速で突っ込んだら、木っ端微塵どころか一瞬で蒸発する事も分かり切っているんだ。そんな事、いくら宙賊でもやるかよ。」

 だが、マルコが言い終わった直後に、モニターにひときわ大きな光球が映し出される。

「『キグナス』正面宙域で、宇宙機雷、突如爆発。超光速の飛翔体に接触した模様である!」

と、ラオが報告した。超光速で飛来する物体の接近を察知する術は無い。レーダー波を照射しても、敵に跳ね返されたレーダー波が飛翔するより千倍も速い速度で、敵の本体はやって来るのだから。

 モニター内には、次々に巨大な光球が出現して行く。眩しくて、直視しかねる眺めだ。

「何がぶつかって来てるいるか、分かるか?」

 観測不可能な速度で飛来し、瞬時に蒸発してしまう敵の姿は、「キグナス」から補足するのは極めて困難だ。今ぶつかって来ているのがミサイルなのか、戦闘艇なのかも直ぐには分からない。何かが超光速で飛んで来て、宇宙機雷に衝突している事が分かるだけなのだ。

 宇宙機雷は次々に、巨大な光球となって消滅して行く。モニターはもうすでに、ホワイトアウトに近い状態だ。望遠を緩めないと、何が何だか分からない。望遠を緩めてみると、複数の機雷の爆発が一つの大きな光球と化した姿が、そこに映し出されたのだった。

 ユーシンは少し、恐怖を覚えた。このまま全ての機雷が爆発するまで、敵が超光速の飛来物を繰り出し続ければ、「キグナス」は自身を守る術を失う。もちろんタキオントンネルから外れてしまえば、その危険は無くなるが、ここで敵を食い止めるという使命は果せなくなる。飛来しているのがミサイルにしろ戦闘艇にしろ、機構軍が敷設した機雷よりも少ない事を、祈るしか無い。

 そして、何千基と敷設された機雷よりも多くのミサイルや戦闘艇を、宙賊が保有しているなどとは考えられない。報告では戦闘艇は100隻ほどだから、機雷を全滅させられるなんて事は有り得ないはずだ。確かめる術はないが。

 機雷は次々に爆発して行く。全ての機雷が無くなるまでそれが続くなんて、あり得無い。「キグナス」の全ての乗員がそう信じてモニターを見つめているのだろうが、そこに映し出される光球の数が増える度に、不安は募って行くのだ。機雷の残存数の減少は、彼等の命のカウントダウンでもある。何千とある機雷の、ほんの十数基が爆発しただけで、まだまだ余裕はあるとはいっても、そのカウントダウンに平気でいられる人間なんて、いるわけが無かった。

 宇宙機雷に衝突した超光速の飛来物は、瞬時に蒸発する。ほとんどの場合は。だが、時には、すぐに完全な蒸発はせず、ほんのコンマ零一秒とは言え、ほんの数ミリの大きさとは言え、爆発前の形状を留める物体がある。それの観測が、飛来物が何であるかの情報を与える事もあるのだ。確率は低いが、次々に衝突が起こっていれば、そんな事例も生じるのだ。

「機構軍より情報提供。超光速飛来物は、有人の戦闘艇である模様!」

 アニーが叫んだ。恐るべき事実だ。特攻攻撃などとすら呼べない、無謀な突撃だ。

「なんだとぉ!」

 バルベリーゴも思わず怒鳴る。「どこまでバカなんだぁ!宙賊ってやつはよぉ。確実に死ぬだけで、相手に何の損害も与えないと分かり切ってる突撃を、こんなにも次々に仕掛けていやがるのかぁ!滅茶苦茶だなぁ!」

「前線に送り出されている宙賊のパイロット達は、自分達がやっていることの意味を知らないのじゃないかな。それが自殺行為だとも知らずに、誰かに命じられるがまま、若しくはその先に獲得できる何かがあると信じ込まされて、こんな無謀な突撃をさせられているのかも。宙賊がまともな教育や作戦の説明なんて、受けていると思えないし。」

 そう言うユーシンも、学校教育などというものは受けていない。宇宙の孤児だったところをバルベリーゴの養子になった後は、物心つく前から業務の前線に出て、実地で色々な事を学んできたのだ。だが、彼の周囲にいた人々は、彼の教育に熱意と責任感を持って接していた。それはバルベリーゴが計らった事なのだろう。おかげで彼は、宇宙商社の従業員として生きて行く上で必要な最低限の知識は得る事が出来た。更に、各星系にあるナレッジセンターで、様々な情報や文献に触れる事も出来た。学校など行っていなくても、ユーシンには十分な教育が授けられていたのだ。

「そうだろうなぁ。」

 バルベリーゴは重い口調でぼそりと言った。「知ってたら、こんな馬鹿げた死に方なんか、誰もしねぇよなぁ。」

「しかし、戦闘艇は宇宙機雷より圧倒的に数が少ない事くらい、敵も分かってるであろう。別の攻撃が、いずれは始まるはずであるぞ。」

 ラオは冷静にそう言った。

「当然だぁ。」

 そう言ったバルベリーゴは武装管制席に向けて更に告げた。今そこに陣取っているのは、ベテランのキムルとシャギットだ。「敵が宇宙機雷の手前で戦闘速度に減速したら、すかさず散開弾発射だぁ。索敵と攻撃の連携、しっかりしておけよぉ。」

「任せて置け。」

と、胸を張るラオ。

「はいよ。」

 短く答えたキムル。

「メーメルク少尉。」

 更に続けて、バルベリーゴは機構軍戦闘艇団の隊長に話しかける。「あんたたちは出るのか?」

「当艦に搭載して頂いている機構軍戦闘艇も、いつでも出撃できる体勢ですが、優先順位としては、機構軍戦闘艦に搭載されている分が先です。様子を見ながら、出るべきと判断した時に出撃させます。」

 少尉が答えた。

「そうか、そっちは任せた。ウチの宇宙艇も、必要になったらいつでも使ってくれ。」

 バルベリーゴは言った。

 宙賊の無謀な突撃と思われる宇宙機雷の突然の爆発は、しばらく続いたかと思うと、しばらく小休止を挟み、またしばらくの間再開され、また小休止、という事を繰り返した。

「爆発は全部、有人戦闘艇によるものなのかな?」

 ユーシンは素朴な疑問をラオにぶつけてみたが、

「それは、知りようのない事であるな。」

と、淡白な答えが返って来ただけだった。

「宇宙機雷の向こう側に、宇宙船と思われるレーダー波反射物、突如出現!・・・そこから、戦闘艇5隻が射出されて、こちらへと飛来!『キグナス』正面宙域の機雷を指向して飛んでいる。防衛(フェイス)の中央を突破する構えであるぞ。」

 ラオがそう報告したのは、宇宙機雷の突然爆発が始まって1時間程経った頃だった。

「散開ミサイル5発、ラディカルグルーオン生成装置搭載弾1発、一斉発射!」

 間髪を入れず、キムルが叫び、レーダー用モニターにもカメラ用モニターにもその様が映し出される。が、

「敵宇宙船、再度出現、そして、戦闘艇射出。飛来する敵戦闘艇、続々と追加されるぞ!凄い数だ!20・・22・・25、どんどん増えて行くぞ。」

 ラオが声を険しくして報告。

「散開ミサイル、更に10発、ラディカルグルーオン生成装置搭載弾と共に、発射!」

「機構軍戦闘艦2艦から、戦闘艇8隻出撃!タキオントンネルの外側から、散開弾を避ける為に旋回した敵の進路を塞ぐ軌道であるな。敵がどの方向に旋回しても良いように、8隻がタキオントンネルを取り巻く円状に展開した。」

 キムルとラオが、相次いで報せた。散開弾は蜘蛛の巣状に展開している宇宙機雷を突き抜けて、敵戦闘艇を目がけて突進して行く。光速の1%よりは遅い速度なので、破壊はされない。蜘蛛の巣には、一旦穴が開く事になるが、直ちに自動修復され、超光速飛来物を逃さない体勢は維持される仕組みだ。

「ダメだ!散開弾を付き切って来る敵への対策が必要だ!」

 ユーシンが叫んだ。

「なんだと!? 」

 バルベリーゴが眉を寄せて叫ぶ。「宙賊が、どうやって散開弾を付き切って来るんだ。進路開削弾で、鉄屑を除去して進路を切り開くなんて高度な芸を、宙賊がやるってのか?」

「違う!見ろ!敵戦闘艇は、1列に並ぼうとしている。」

「確かに。」

 ユーシンの指摘に、ラオが頷いた。「敵は5隻程が縦1列に並ぶ体制に入りつつあるようであるな。」

「1列に並んで、前の方にいる戦闘艇を盾にする事で鉄屑を押しのけて、後ろにいる奴を突っ込ませる戦術か!そんなことまでやるのか、宙賊が!」

 バルベリーゴは驚きを隠せない。仲間の命を使い捨てにするやり口はいかにも宙賊的だが、宇宙を高速で飛翔する戦闘艇を、綺麗に一列に並べて見せるのは宙賊的ではないのだ。

「第六編隊出撃だ!散開弾を付き切って来る敵に備えろ!」

 ユーシンの指摘を聞いたメーメルクは、即座に部下に命令を発した。

「『キグナス』の発射した散開ミサイル、展開。敵戦闘艇は、避ける事無く7組の5列縦隊で金属片群に突撃。・・・あっ!18隻が金属片群の突破に成功!宇宙機雷に接近を図っているぞ。」

「宇宙機雷が片付けられちまったら、今度は俺達が超光速の宙賊戦闘艇に体当りされるぞ。」

 そのバルベリーゴの言葉は、ユーシンを始め戦闘指揮室の面々の背筋をぞくりとさせた。機雷群の中でミサイルを爆発させれば、何百という機雷を一挙に無効化できるだろう。そうやって機雷群に“穴”が開けば、「キグナス」が体当りを食らう確率は、俄然向上する。言った本人もゾッとしたような顔をしている。接近を察知する術の無い超光速飛翔物の体当りは、避ける術も無く、衝突から消滅までも一瞬だ。自分が死につつあることを実感する暇も与えてもらえずに、人生を終える事になるだろう。

「大丈夫!我ら第6編隊が、機雷と宙賊戦闘艇の間に割って入った。」

 メーメルクが胸を張って報告。第6編隊も蜘蛛の巣に穴を開けたが、すぐさま自動修復された。

「第6編隊戦闘艇も、散開ミサイルを発射。・・敵戦闘艇、今度は回避行動に出た。・・先に機構軍戦闘艦から出撃していた戦闘艇が、敵の回避コースに上手く先回りして行くぞ。・・おお!・・第6編隊の戦闘艇も後ろから追いすがって行っておる・・挟み撃ちだ!」

 レーダー用モニターには、幾つかの赤い光点と黄緑の光点が走り回る様が、テレビカメラ用モニターには光線が縦横斜(たてよこなな)めに現れては消える様が、映し出される。機構軍と宙賊の戦闘艇による、レーザービーム射撃戦が展開されているのだ。だが、散開弾を回避する為の強烈な旋回重力の只中にある敵と、待ち構えていて冷静に攻撃を仕掛ける機構軍では、その命中精度に格段の差があった。

「・・・敵戦闘艇次々に撃破されて行く・・」

 ラオの報告と共に、モニター内の赤い光点は減少して行く。黄緑の光点は減らない。中にはタキオン粒子に触れた為とみられる爆発を起こす敵もいた。敵戦闘艇の中にラディカルグルーオン生成装置を搭載した戦闘艇もいるのだろう。それが生成するラディカルグルーオンの影響範囲から出てしまった戦闘艇は、タキオン粒子に触れて表面が反物質化され、爆発してしまうだの。

 もちろん味方にもラディカルグルーオン生成装置搭載戦闘艇はあり、それは攻撃能力を持たず、味方の戦闘艇をタキオン粒子から守る為だけに、その宙域に留まっているのだ。戦闘艇のような小型の乗り物が、ラディカルグルーオン生成装置を搭載しつつ攻撃力も保持する事は、この時代には不可能なのだった。

「・・・よぉし!敵戦闘艇、全滅である!」

「よっしゃあー!」

 ラオの報告で、キグナスの航宙指揮室に凱歌が上がった。が、それも束の間、ラオが再び叫ぶ。

「うぉおおっ!敵戦闘艇、まだまだ出没して来おるぞ・・20隻・・23・・28・・・」

「何だとぉ!何隻来やがるんだぁ!」

と、バルベリーゴも叫んだ。

「更に、誘導ミサイルとみられる飛翔体も出現!・・・機構軍戦闘艇が追い回され始めた!敵戦闘艇への対応は不可能であるぞ!これでは。」

「何ぃっ!まだ持っていやがたのかぁ!? 誘導ミサイルを。どれだけの戦闘艇と誘導ミサイルを、この戦域に注ぎ込んで来る気なんだぁ!奴等は。」

 ここから戦闘は、更なる激化を見せることになる。

今回の投稿はここまでです。今週の投稿もここまでです。次回の投稿は、 '17/6/23 です。

ユーシンの戦争に対する考えを描写する部分は、ややくどいかとも思いましたが、戦争好きとか好戦的とかいうわけではないユーシンのパーソナリティーと、宙賊に「かかって来い!」なんて内心で呟いたりする部分の整合性を図ろうとした結果、こんな感じになりました。戦闘が避けられないなら、闘争心をむき出しにしたり、高揚感を覚えたりして、好戦的な一面を見せるけど、無用の闘争は望むユーシンではないと、ここではご理解賜りたいです。戦争に対する高揚感とか闘争本能とかっていうのは、火とか車とかと同じではないでしょうか?ちょっと油断すると火事や交通事故という悲劇を呼ぶけども、無くすとか使わないというのは、もはや人類には不可能なもので、注意して安全に使うよう努力するしかないものだと思います。火事や交通事故や戦争に脅かされ続けながら。ユーシンは、「キグナス」や「アマテラス」をうまく使いこなし、仲間の命やクレアの笑顔を守り抜けるでしょうか?ご注目頂きたいと思います。というわけで、

次回 第41話 激闘を終えて です。

次々と現れた敵の後続部隊との間の更なる激しい戦闘の果てに、ひとまず敵襲は治まりますが、どんな戦いなのか、どういう形に治まるのか、気に掛けて頂きたいです。ユーシンやファランクスやアデレードに、出番はあるのでしょうか?

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