表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/82

第39話 虚空の防衛布陣

 臨時戦闘艦を宣言するとすぐ、機構軍の戦闘艦、つまり同僚とも言える艦から連絡が入った。

「こちら宇宙機構軍、ヘラクレス回廊群方面第1艦隊第3大隊第1中隊旗艦座乗、『タクムス星団』宙域派遣部隊司令長官である、第1中隊隊長のロタール中佐です。貴艦の契約履行と防衛作戦参加に感謝します。早速ですが、貴艦には『ソリアノ星系』第一防衛(フェイス)構築の任に就いて頂きたく、部隊編成と作戦計画を転送します。直ちに行動に移って頂きたい。」

 通信機からのそんな言葉を受け、通信探索長のラオはバルベリーゴを振り返った。船長、いや今は艦長の彼が答えるべき場面だった。

「臨時戦闘艦『ウォタリングキグナス』艦長バルベリーゴ・マグレブ、了解したぁ。」

 そのバルベリーゴの発言の後に、通信機から聞こえて来る声は、若干の緊張を孕んでいるようにユーシンには聞こえた。

「や、やはり、バルベリーゴ元機構軍少将閣下であらせられましたか。この度は、偶然とはいえ、伝説の闘将と共に戦える事、光栄に存じます。」

「あぁ・・いや、閣下とかはいらねぇ。伝説のってのも忘れてくれぇ。」

「はっ。元少将でもあらせられたお方に、指揮下に入って頂くなど、とても恐れ多く心苦しいところではありますが、今回は成り行きで、若輩である私が本宙域の指揮を執る事になりましたので、宜しくお願い致します。」

「ああ。機構軍の戦闘艦を宣言したんだから、機構軍の決めた命令系統に入るのは当たり前だぁ。しょうも無い遠慮なんぞしてくれるなぁ。こちらこそ、よろしく頼むぜぇ。」

「は、はい。では。」

 そんな機構軍司令官とバルベリーゴのやり取りを、航宙指揮室の面々はニヤニヤしながら聞いていた。

「機構軍の将校さん、やりにくそー。」

 一番激しくニヤニヤしていたジャカールが、妙に甲高い声色でそう言った。室内に失笑が漏れる。

「やかましいわぁ!ガキィ。」

 ジャカールを怒鳴り付けるバルベリーゴ。顔が赤いのは怒りの為か照れてる為か。「これから戦争なんだぜぇ。緊張感を持ちやがれぇ。」

「作戦計画が送られて来たわ。まだ暫定の防衛作戦計画のようね。取りあえず宙賊が占拠している宙域と宙空浮遊都市の直線上に、『キグナス』を含めた戦闘艦群を配して“防衛(フェイス)”を形成するみたい。いずれはオールトの海から宙賊を排除する作戦が立案されるはずで、そちらが正式の防衛作戦計画になるはずだけど、今すぐの策定は無理だから、それが出来るまではこの暫定の計画に従って行動してくれって事だわ。布陣の座標が送られて来たわよ。」

 アニーがそう報告すると、バルベリーゴは告げた。

「計画に従って、指定座標に向かって、最大船速で移動開始だ。マルコ、操船頼んだぜぇ。」

「はいよ、オヤジ。だいぶ戻らなきゃならないな。スラスター全開で行くから、皆、相当な加速重力を覚悟してくれ。それでも、今の運動量を相殺するだけで数時間かかる。指定された座標への到着までに、半日くらいかかってしまうな。」

 作戦参加だと気合を入れても、直ぐに戦闘が始まるわけでは無いのだった。戦闘無しで終わる作戦だっていくらでもある。もちろん、凄惨を極める戦闘を繰り広げる作戦も、沢山ある。今回の作戦は、どうであろうか。

「フンっ・・うんん・・」

 スラスターが全開にされた瞬間には、ユーシン始め「キグナス」乗組員の全員が、下腹に力を入れてその加速重力に耐えなければいけなかった。少し時間が経つと、ある程度は慣れて来た。といっても、身動き一つするたびに、体の重さに顔をしかめる事になるのだが。

「宙賊は今、オールトの海のより内側の部分を目指して、進行を続けているそうよ。」

 アニーは送られ続ける情報を見ながら告げる。「最初の襲撃の影響で、同宙域の防衛体制は機能していないらしく、機構軍部隊が展開はしているものの、宙賊の侵攻を食い止められないのが現状、撤退に次ぐ撤退といった情勢、とあるわ。オールトの海の一番内側にまで達するのは時間の問題なのね。そしてそこに達すれば、宙空浮遊都市を目指して一直線に攻撃部隊を繰り出して来る可能性が高い。」

「それを、我等が阻止するという算段であるな。その攻撃開始の見込みはいつ頃であるか?」

 ラオの問いに、アニーがディスプレーを見ながら答える。

「早ければ、3日後には攻撃隊を進発させて来るかもしれないらしいわ。」

「あっしゃっしゃ。ではわしらが到着してから丸2日以上は、何もやることが無いという事か。拍子抜けじゃのう。あっしゃっしゃ。」

 そんなドーリーの言葉に、バルベリーゴは諭すように言った。

「まぁ、それは見込みの話だからな。戦争なんて始まってしまえば、何が起こるか分からねぇ。気は抜けねぇぞ。まずは、一刻も早く“防衛(フェイス)”を作らねぇとな。」

 “防衛(ライン)”では無く“防衛(フェイス)”なのだった。大地と呼ばれる平面上で戦争をしている時代は、防衛(ライン)という言葉が飛び交っていたのだが、三次元の広がりを持つ宇宙空間での戦争では、(ライン)では無く(フェイス)で敵味方はぶつかり合うことになるのだ。

「防衛面の中心に『キグナス』を配置する布陣という事よ。」

 アニーの説明は続く。「機構軍の小型戦闘艦2艦と、私達と同じ半軍商社の船が2隻、『キグナス』を含めての5隻で、防衛面を作るのね。」

「たったの5隻?少なくないか?」

 ジャカールが不安気に言った。

「しかも、機構軍戦闘艦を差し置いて、『キグナス』が中心に置かれる形で十文字を形成する布陣ね。」

「何だよそれ。なんで機構軍の正規の戦闘艦が中心に配置されないんだ。半軍とはいえこっちは商船だぜ。一番交戦機会の多そうな中心は、機構軍の(ふね)がやるべきだろう。」

「機構軍がこの防衛面に送って来たのが、小型戦闘艦2艦だけだからね。小型戦闘艦には『アマテラス』並みのビーム砲は装備されおらず、火力の面では『キグナス』の方が上なのよ。その分、機動力はあっちの方が上だから、何かあったらすぐ駆けつけてくれるのでしょうよ。」

 アニーとのやり取りが回を増すごとに、ジャカールの不安の色は濃くなるようだ。

「何で機構軍は、小型戦闘艦をたったの2隻しか派遣して来ないんだ?機構軍の小型戦闘艦2艦と、半軍商船3隻だろ?俺達の受け持つ防衛面ってのは。手薄にもほどが無いか?なぁ、ユーシン。」

「防衛作戦のメインは、オールトの海の、宙賊に抑えられた部分の奪還なのだろうな。タクムス駐留部隊と、おそらく増援部隊も派遣されて来るだろうから、それらで共同して奪還する作戦を今、策定しているんだと思う。それに、宙空浮遊都市に張り付けておく戦力も必要だ。2億近い人間がいるんだから、そこは絶対死守しなきゃいけない。機構軍としては、この2か所で手いっぱいなんだろうぜ。」

 ユーシンは考えをまとめるように、話して行った。

「だから、オールトの海と宙空浮遊都市の中間宙域で宙賊を食い止める役目は、俺達に回されたということか。」

 マルコは操船しながら言った。しながらといっても、得にやる事があるわけでは無さそうだが。

「絶対死守すべき都市には、戦力を張りつけなきゃいけないけど、出来れば、もっと手前で食い止めておきたいからな。特に直線上をがら空きにしてたら、タキオントンネルを使って一気に肉薄されてしまう。直線上に、ラディカルグルーオン生成装置を積んだ障害物を置いておくだけでも、敵はその作戦は取れなくなる。」

と、ユーシン。タキオン粒子に反物質化されず、破壊されない障害物が必要だと言う事だ。

「なるほど、『キグナス』にもそれは積んであるから、『キグナス』を直線上に配置しておくのか。」

 ジャカールはそう言ったが、ユーシンは苦笑いして応えた。

「まあ、それでも防衛にはなるけど、『キグナス』自体で超光速の敵を受け止めたら、俺達も蒸発しちまう事になるからな。俺達の前面に、ラディカルグルーオン生成装置を積んだ宇宙機雷を敷設するのだろうな。もし超光速で突っ込んで来たとしても、その機雷に触れたとたんに蒸発してくれるから、俺達は何もしなくて良い事になる。」

「ははは、そんな事はまずないだろうな。」

 ユーシンの言葉を、マルコが笑いながら受けた。「タキオン粒子の反射で、敵も障害物の 存在は察知出来るから、機雷の手前で超光速移動は止めて、通常航行でその障害物である宇宙機雷の掃討に取り掛かるだろうな。」

「じゃあやっぱり戦闘になりそうだな。この宇宙機雷を守り抜いて、敵にタキオントンネルでの宙空浮遊都市への接近を許さないようにする事が、俺達の任務になるんだな。」

 ジャカールが不安気に言った。

「そういう展開になるだろうな。機構軍の奪還作戦が、敵のオールトの海からの進発に間に合わなければ。」

「宙賊がスペースコームジャンプして来るって事は無いのかな?宙空浮遊都市の近くではワープはしない事なんて『ソリアノ』のルールを、宙賊が守るはずはないし。」

と、ジャカール。

「宙賊がスペースコームジャンプの出来る船を保持しているなんて、あまり聞いた事は無いけど、数千発の誘導弾を持っていた事を考えれば、絶対に無いとは言えないか。でも、やって来たとして、簡単に迎撃できると思うよ。ワープアウト直後は無防備になる時間がある。星系内という限られた空間内ならどこにワープアウトして来ても、ワープの兆候を察知してから、その無防備な時間が終わるまでに攻撃を仕掛けられるくらいの布陣は、機構軍も出来ているだろう。無人の探査機を体当りさせるだけでも、ワープアウト直後の敵なら破壊できるはずだから。」

「じゃあ、タキオントンネルで仕掛けて来る可能性が、一番高い訳だな。やっぱり。」

「そう言う事だ。」

 ジャカールに答えてユーシンが言った。その目には、沸々と闘志が湧き上がっている。


 指定座標にあと30分と近づいたところで、再び機構軍からの通信が入った。

「宇宙保安機構軍、第1大隊第1中隊第3小隊所属小型戦闘艦、『スターサウリー』艦長のガリヴァルドであります。階級の方は、少佐であります。この度は、宇宙保安機構軍の、伝説の将校バルベリーゴ殿と共に戦える事、真に光栄であります。本作戦では、最も重要な防衛面中心部分を、正規の戦闘艦では無く貴艦にお願いする事になり、また一方では、歴戦の元将校殿を差し置いて、私ごとき若輩が本臨時艦隊の指揮権を授かりまして、大変心苦しいところでありますが、どうぞ宜しくお願いいたします。」

 先ほどのロタール中佐が防衛作戦全体の指揮を採り、「キグナス」を含めた防衛面を形成する臨時艦隊を、このガリヴァルドが指揮するという事だ。

 丁寧な挨拶に、バルベリーゴが応えた。いちいち伝説の将校などと、余計な敬意を払われる事にはいささか閉口の体だが、それは表には出さずに話した。

「ああ。こちらこそ、よろしく頼むぜぇ。火力的にはこっちが上だから、『キグナス』が中心という布陣で何も不思議はない。そっちは機動力を活かして、急所に迅速に駆けつければ良いんだ。この布陣を心苦しく思う事などねぇぜ。まぁ、力を合わせて、何が何でもここを宙賊には通らせねぇって事で、気張ろうじゃねぇか。」

「はっ。防衛面の絶対死守を期しましょう。それと、本艦の後方に輸送船が1隻随伴しており、そこに機構軍戦闘艇36隻を積んでおります。その内16隻を貴艦に搭載して頂き、代わりに旗艦の積荷はその輸送船で、宙空浮遊都市へと送り返す事にして頂きたい。せっかく苦労して積んだ荷を降ろさせて申し訳ないが、ここは作戦成功を最優先にするという事で、ご了承頂きたい。後の2隻の臨時戦闘艦にも、10隻ずつの戦闘艇搭載と、現在抱えている荷の積み下ろしをこれから依頼します。」

 言葉ほどには、済まなそうな気配の無い事務的な言い回しで、機構軍の指揮艦は依頼して来た。軍の将校としては普通の態度なのだろう。

「ああ。それで構わない。」

 バルベリーゴも、あまり抑揚も無く答える。「戦闘艦を宣言した時点で、商売より作戦の方を優先すると決まったようなもんだ。それに、今から一戦交えようって時に、腹の中の荷物は邪魔にしかならねぇ。それより、喧嘩に使える戦闘艇を抱えておく方が良いに決まってる。是非、積荷と戦闘艇を交換してもらうぜぇ。」

「貴殿のご理解に感謝致します。それでは、布陣と戦闘準備が整ったと思われる頃に、また連絡させて頂きます。」

「はいよ。」

 それで通信が終わると、バルベリーゴは隣の副船長チェリオに目配せをした。チェリオは船内放送のスイッチを入れて告げた。

「メンテ要員、検品要員、そして宇宙艇要員は、総掛かりで積荷の入れ替え作業に入れ!敵の襲来は、見積もりでは2日後だが、戦場じゃ何が起こるか分からない。10時間以内には、全ての作業を終わらせるつもりで掛かってくれ。」

「了解。何とかしてみるわ。」

 メンテ要員長のキムルの声が通信機の向こうから聞こえたが、その背後から「10時間っ!きっついなぁー」というキプチャクの声が聞こえたのには、ユーシンは思わずにやけてしまった。

「わざわざ積み替えなくても、輸送船が戦闘艇を抱えたまま、ここに留まっていれば良いんじゃないのかな?」

 ジャカールが疑問を呈した。

「それはどうかな。民間の輸送船を徴発したのか、機構軍保有の輸送船か分からないけど、どちらにしろ輸送船じゃ機動力がなさ過ぎて、もし宙賊に襲われたら足手まといになりかねないからな。軍のものでも『キグナス』よりは劣るだろうし、民間のものならなおさらだ。輸送船には『キグナス』の荷物を預かって、さっさと安全な所に引き上げてもらった方が良い。」

 ユーシンはそう、ジャカールに答えてやった。更にマルコが付け足す。

「それに、輸送船には電磁カタパルトなんてないだろう。戦闘艇は、ただ積んでいるだけじゃなくて、上手く打ち出してやれなけりゃ、戦力には出来ないからな。やはり『キグナス』に積み替える必要はあるのさ。」

 そこへ、更なる通信が入った。

「宇宙保安機構軍、第1大隊第1中隊第5小隊所属小型戦闘艦、『アエーサーディン』艦長のエゼルウルフと申します。階級は大尉です。伝説の猛将バルベリーゴ殿との共闘、身に余る光栄と歓喜に打ち震えております。」

と、もう1艦の艦長にも、またも敬意を表した挨拶をされ、

「はいよ。よろしく頼むわ。」

と、照れ隠しか、気の無い風を装って返事をしたバルベリーゴだった。

 その後も、

「宇宙商船『シルバーベース』の船長です。機構軍臨時戦闘艦を宣言しました。巷で噂の、『ケンカ腰の白鳥』の闘い振り、実に楽しみにしております。」

「宇宙商船『スペースカヤック』の船長だ。我等半軍商社の間でも、格段の戦績を誇る『ウォタリングキグナス』の、お手並み拝見とさせてもらおう。」

と、共に防衛面を構成する、即席艦隊の僚艦が相次いで挨拶をして来た。

「僚艦のスペックが送られて来たわ。モニターに表示するわね。」

 アニーが報告を入れた。じっとモニターを見てバルベリーゴは呟く。

「5艦の中での最大火力は、やはり『キグナス』の『アマテラス』だなぁ。攻めて来るのは宙賊の宇宙艇だろうから、またユーシンに得意技を披露させちまう事になるのかぁ。なんだか癪だぜぇ。」

「そんな事言ったって、敵を撃破しなきゃ、任務は果せないんだからな。いつでも遠慮なく命じてくれよ、オヤジ。『アマテラス』での迎撃ならな。」

「後の商船2隻は、火力の面では機構軍小型戦闘艦と遜色ねぇが、機動性は『キグナス』よりも少し劣る位だなぁ。この2隻の正面に5隻以上の戦闘艇が突っ込んで行くようなら、サポートが必要になるか。まあ、その辺の用兵は、機構軍に任せるしかねぇがなぁ。」

「宇宙艇に関しては、機構軍の小型戦闘艦が、戦闘に特化した宇宙艇である戦闘艇をそれぞれ4隻ずつ搭載。『シルバーベース』と『スペースカヤック』がそれぞれ10隻の汎用宇宙艇を、元々搭載していて、更に機構軍の戦闘艇を10隻ずつ積み込んだのか。『キグナス』にも12隻の汎用宇宙艇と機構軍戦闘艇16隻だな。合計76隻の即席戦闘艇団か。これでどこまでやれるか。」

「絶対にやって見せるぜ!宙賊の戦闘艇など、一隻も通すものかよ!」

 ユーシンの言葉に、通信機の向こうから応じて来たのは、ファランクスだった。「機構軍の前で腕前を披露する絶好の機会だ。アドリアーノ少尉から教えてもらった訓練の成果を、今こそ発揮してやる。」

「訓練って、始めて1日くらいしか経ってないだろ、ははは。まだ成果なんか出るかよ。」

「それは言いっこなしだぜ、ユーシン。あはは。」

「訓練はこれまでもやって来たんだ。それに、今回少尉に教わった知識やノウハウが加われば、十分に機構軍にアピールできるくらいの働きは出来るはずだ。」

 ファランクスに継いで、アデレードも通信機の向こうからやる気を漲らせて来た。

「あんまり気合い入れすぎて、空回りするんじゃねぇぞ!ガキ共。」

 そんな事を言い合いながら、機構軍から送られて来た作戦計画や各僚艦の性能を確かめている内に、「キグナス」は指定された座標に到着した。僚艦達は既に着陣していた。出航直後に作戦計画を知らされたので、無駄な距離を飛ばずにここまで来られたのだそうだ。「キグナス」は出航からだいぶたって、スピードに乗った状態で計画を知らされたので、かなりの遠回りを余儀なくされ、着陣は最後になってしまった。

 到着と同時に、宇宙艇による積荷の搬出が開始される。機構軍戦闘艦に随行して来た輸送船に、「キグナス」にあった荷を積み込んでいく。と同時に、荷がどいて空いたスペースに、機構軍戦闘艇16隻が詰め込まれる。戦闘艇だけでは無く、それらのメンテナンスや補給に必要な機材や物資も搬入されたので、積荷を降ろして空いたスペースも、直ぐに埋まってしまった。

「宇宙保安機構軍戦闘艦、『スターサウリー』艦長ガリヴァルドです。布陣と戦闘準備は完了しましたかな?」

 ドンピシャのタイミングで連絡して来た機構軍司令官が尋ねる。

「ああ。いつでも()れるぜぇ。そっちも準備は万端のようだな。宇宙機雷もたっぷりと敷き詰めてあるようだぁ。何個ばら撒いたんだい?」

「はい。3千基程のラディカルグルーオン生成装置付き対超光速飛来物用宇宙機雷を、我等即席艦隊の前面に敷設致しました。更に、当艦隊内の機構軍小型戦闘艦2艦に、各1千基ずつの予備を温存しており、タキオントンネルでの襲撃への備えは盤石であります。」

 対超光速飛来物用宇宙機雷は、超光速で衝突すれば破壊は免れないが、光速の1%以下の飛来物がぶつかっても損傷を与え無いくらいに強度調整されている。細長い針金のようなものを蜘蛛の巣のように展開させたもので、炸薬などは使われていない。超光速での衝突エネルギーは、それだけで飛来物を破壊し得るからだ。

「あっはっは、3千か。これじゃぁ、超光速でここをすり抜けるのは不可能だぁ。敵さんは俺達の手前で、機雷の除去が可能なくらいに減速しなきゃぁ、ここは通れんと言う事だなぁ。」

「はい。その通りであります。そして、我らが『ウォタリングキグナス』を中心としたこの防衛面は、戦闘速度に減速した敵ならば、撃ち漏らす事など有り得ますまい。」

「そうだな。1隻たりともここを通さんよう、気張って行こうじゃねぇかぁ。」

 そんなやり取りが、両艦艇の長の間で交わされている時、「キグナス」の航宙指揮室に機構軍の若い兵士1人が姿を現す。

「宇宙保安機構軍、第1大隊第1中隊第5小隊所属戦闘艇団、第6編隊隊長メーメルク少尉であります。我が隊所属の第21から第24攻撃単位(ユニット)の、計16隻の戦闘艇が、貴艦『ウォタリングキグナス』の船腹に仮の宿を頂き、ご厄介になります。御迷惑をおかけしますが、宙賊撃退まで、何卒よろしくお願い申し上げます。」

 まだ20代も中盤であろうか、アドリアーノ少尉と同年配くらいと思われる兵士は、直立不動でハキハキとそう告げると、ビシッと敬礼をして見せた。バルベリーゴも答礼をしながら言った。

「はいよ、着任ご苦労さん。ウチの宇宙艇12隻も、あんたの指揮下に入れといてくれ。一般人にしてはいい腕してる連中だと思うから、それなりに役には立つと思うぜ。」

「はい。有難うございます。『ケンカ腰の白鳥』の異名を持つ貴艦搭載の宇宙艇ですから、さぞかし優秀なパイロットが操縦を担当している事でしょう。頼もしく思っております。」

 そこまで言うと社交辞令丸出しだなと、ユーシンは横目に見ながら思ったが、悪い気分はしていなかった。機構軍と共に闘うのだという高揚感が、否が応にも盛り上がって来る。

「それなりにってなんだよ、オヤジ。」

 通信機の向こうから、地獄耳で聞きつけたファランクスが不平を唱えて来た。「それなりになんて程度のもんじゃねえぞ!俺達の腕前は。機構軍正規兵にも負けない活躍を見せてやるから、ぜひ俺達にも戦闘機会をもらいたい。腕を披露したくてうずうずしているんだ。機構軍の少尉さん、よろしく頼むぜ。」

「・・はは、了解した。善処しよう。」

 メーメルクは苦笑いで応じるしか無かった。

 準備は万端整い、やる気満々の面々だったのだが、見積もり通りそれから2日間は、全く音沙汰も無く、そこから更に2日経っても、敵の襲撃の予兆は無かった。やる事も無く退屈な上に、静止状態で待機している「キグナス」内には重力も生じない。前か後ろに加速してくれれば、重力のもとでの快適な暮らしを送れるのだが、そうもいかない。食事も、無粋な宇宙食に限定されてしまうのだ。

 そんな中でやる気を維持するのも容易では無く、だらけ気分に陥る者も出て来るのだ。

「暇だなぁ。本当に、何にもすることが無くなっちまったものなぁ。」

 キプチャクは、食堂のシートにベルトで固定された体で、大きく伸びをしながら言った。

「とりあえず宙賊の部隊が、オールトの海の一番内側に到達するまでは、まず俺達に出番は無いって言う事だからな。最短で2日間って言ってたけど、4日経った今でも、まだそこにたどり着いた兆候は見られないらしいな。機構軍の観測によると。」

 隣のシートからユーシンが返した。

「ワープの瞬間の苦痛や、メンテ作業の面倒ですから、今は恋しく思えてくるぜ。いっその事、敵の前面にワープアウトしてしまえば良いとすら思えて来る。」

「あはは、ワープなんかしたら、即返り討ちに合っちまうよ。」

「分かってるよ、ユーシン。ワープアウト直後の、盲目且つ無防備状態で宙賊の戦闘艇に囲まれちまったら、ひとたまりも無いって事くらいは。しかしよう、宙賊なんかが、ワープの予兆を捕えたところで、迅速で効果的な対応がとれるとも思えねえじゃねぇか。」

「確かにそうねぇ。」

と応じたのは、キプチャクの正面に座を占めていたニコルだった。「宙賊相手なら、そういう戦法もやってみる価値あるのかも。まぁ、失敗したら、即、殺されちゃうけど。」

「人が乗った物をワープアウトさせるのは危険すぎるけど、ミサイルだけのワープとかやってみたら成功するかも。」

 ニコルの隣でノノが言った。ノノの正面で、ユーシンが応じる。

「まぁ、並の宙賊だったら、俺もそう思うけど、今回の敵はただの宙賊じゃなさそうだものな。ただの宙賊だったら、そもそもオールトの海の一角を占拠して、そこから更に内側に進攻して来るなんて事、出来るはずがないんだ。誘導ミサイルを数千発も保有したり、それと戦闘艇が絶妙に連動し、機構軍部隊を翻弄して、オールトの海にある天体を使った基地を奪取したりしたんだからな。こんな手際を見せる敵の前面にワープアウトするというのは、成功確率低そうだ。」

「じゃあ、やっぱりこうやって、退屈に耐えながら待ち続けるしかないんだ。俺達は。」

「機構軍の奪還作戦が発動されるのが先になるかもな。そうなると、本当に俺達には、出番がないままで終わってしまうな。」

 そう言いながらユーシンは、いつの間にか自分が戦争を待ち望んでいる事に気付かされた。人が殺し合うという、最も愚かとも言える行為であり、大切な仲間の命が危険に曝される状況でもあるというのに、今彼は、戦争がやりたくて仕方が無い心境になっているのだ。それに思いが至った瞬間、ユーシンは少し背筋が寒くなった。

 自分の中に、戦争を望む人格がある。殺戮を好む人格が潜んでいる。そう思うと、自分自身がたまらなく恐ろしく感じられる。

(この高揚感は何なんだろうか?)

今回の投稿はここまでです。次回の投稿は、明日 '17/6/17 です。

さて、宙賊によるタクムス星団への侵攻作戦や防衛側の計画など、少々ややこしい部分があったかもしれません。もうじき宙賊が「キグナス」のいるとこを通ろうとするかもしれないから、それを阻止しようとしているってことだけ分かっておいて頂ければ、とりあえずOKなのですが、本物語の世界観等を味わって頂くには、タキオントンネル航行とかを少しずつでも理解して頂きたいところでもあります。理解できるような書き方を、こちらも心掛けなければいけないのですが、どこまでできているでしょうか?作者の一番の気がかりです。「キグナス」と共に戦う4艦の艦名とか艦長名とかも、別に覚えなくても問題ありません。これも、世界観を醸し出すためだけに、いちいち名前を出した感じなので。というわけで、

次回 第40話 宙賊の突撃 です。

布陣を整え、敵の襲来を待つ、という退屈な時間が続きましたが、いよいよ、戦いのときです。「キグナス」はどんな活躍を見せるでしょうか?楽しみにして頂きたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ