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第3話 蒼白美女の事情

 いよいよ明日は「宙空浮遊都市ウィーノ」に到着する、という時になってもまだ、「蒼白美女」は顔面蒼白のままだった。ラウンジの同じ席に、同じような姿勢で座っていた。服装だけは違っていたが。

「ユーシン!」

キプチャクが鬼気迫る声色で話しかけて来た。「大変だ!この世が終わる程の絶望だ!」

「なんだよキプチャク。何があったってんだよ。」

と、大げさに騒ぐキプチャクに、笑いながら受け合うユーシン。

「『蒼白美女』の胸元が、全く開いて無い!」

「それがどうしたんだよ。そんな日もあるだろうよ。服装くらい好きにさせてやれよ。」

 そう言うユーシンに、キプチャクは悲壮感たっぷりに応じた。

「そんな事言ってもよー、このクソ程退屈なタキオントンネル船の中で、唯一の楽しみだったんだぜぇ。」

 「だったらさぁ、話しかけて来れば良いんじゃない、あの女人(ひと)に。よほど退屈しのぎになると思うけど。」

と、ニコル。

「いや、それは・・。」

「そうだぜ。案外頼んでみたら、気の済むまで存分に見せてくれるかもしれないぜ、谷間。」

「アデレードまで・・。あんな高貴な令嬢みたいな人、不用意に話し掛けたりしたら、どんな目に会うか分かったものじゃないぜ。あの取り巻き達に袋叩きにされても、しょうもないだろ。」

 そう応えたキプチャクに、ユーシンも言った。

「あの取り巻きの連中に、顔面蒼白になっている理由だけでも聞いて来てくれよ、キプチャク。気になってしょうがないんだよ。」

「それはお前が自分で行けよ、ユーシン。俺は顔面蒼白の理由には興味がねえんだ。谷間が覗きたいだけで。」

 若者5人は、遠巻きからとはいえ、興味津々の視線を「蒼白美女」に集めていた。

「随分と、私の(めかけ)に関心があるようじゃないか。」

と突然背後から、聞きなれぬ甲高い男の声に話し掛けられ、若者達は振り返った。

「あ・・、あなたは。」

と、アデレード。驚きを隠せずにつぶやく。

「ほう、私を知っているのかね。」

と、声の主である五十がらみの小柄で丸っこい体系の男が、後ろに転がって行くかと思う程尊大に胸を反らせて言った。「社会の底辺で生きている連中にしては、上出来だな。」

 明らかに見下した言い方に、一同は少しムカッとは来たが、それを表に出してはいけない事を、全員が瞬時に理解していた。話し掛けた男の顔には、5人共に見覚えがあるのだった。

「あなたは、『ナーベラー王国へプタム辺境伯』、ラクサス・デカポロム様ですね。」

 甲高い声がそれに答える。

「ほほう、正式な名称を全て、スラスラと答えるとは、卑しい身分には上等すぎる対応だ、褒めて遣わすぞ。」

 アデレードに名前を、それも長ったらしい正式名称を正確に言われて、ラクサスは破顔した。厭味ったらしいもの言いだが、表情は案外、人懐(ひとなつ)こくもある。

「もちろん存じ上げております。私達は、未だ正式な契約はしていませんが、『ウニヴェルズム・フォンテイン』の従業員です。今までは臨時の従業員として、『テトリア星団』内での業務に従事していて、今から『ウィーノ』に赴き、正式な従業員として『ウォタリングキグナス』のクルーになる予定です。」

 それを聞くと、ラクサスはますます人懐(ひとなつ)こい笑顔を浮かべて、嬉しそうに言った。

「ほうほうほう、『ウニヴェルズム・フォンテイン』か。あの商社とは懇意にしておるぞ。私の何代も前から、デカポロム家と『ウニヴェルズム・フォンテイン』は昵懇(じっこん)の間だ。そうかそうか。」

 初孫を見せられたかのような嬉しそうな笑顔のまま、ラクサスは、若者5人の端に座っていた、アデレードの隣の席に腰を下ろした。

「卑しい下層民とは言え、『ウニヴェルズム・フォンテイン』の者とあれば、この私との接見の栄誉を与えてやることも、苦しくは無い。」

 いくら人懐(ひとなつ)こい笑顔を浮かべても、やはり言い回しは(しゃく)に障るモノがあるのだった。

(別にお前としゃべりたいなんて、誰も、ひと言も言ってないだろ。座るなよ。どっか行けよ。)

とは、5人共通の、内心のつぶやきだった。

 だがそれは、口が裂けても言えない。今から正式に従業員契約を結ぶ商社の、「お得意様」ともなれば、機嫌を損ねる訳にはいかない。入社前からペナルティーを背負うなど、誰も望まないのだ。

「私の(めかけ)、美しいだろう。お前達下層民など、傍に寄る事さえも(はばか)られる程の高貴な娘だ。立ち居振る舞いも洗練され、言葉遣いも品が良い。よく教育され、仕立てられた上流階級の令嬢だ。」

 その発言を聞いて、ユーシンはこの貴族が陰で呼ばれている、もう一つの名前、字名(あざな)を思い出した。若者5人が、これも共通に知っている字名(あざな)、「変態商人」だ。この貴族が、たちの悪い(みだ)らな性癖の持ち主として名を馳せているのを、皆が知っているのだ。

 それを思い、若者達が閉口(へいこう)している時に、キプチャクだけは意気込んで話しかけて行った。

「そんな高貴な女の人を、(めかけ)にされているのですか?」

 興味津々で尋ねるキプチャクの様が、よほど嬉しかったのか、変態商人ラクサスはいよいよ顔をくしゃくしゃにして、

「そうだ、『カーマベール星団』の『サポト王家』がのう、借金にまみれて破たんの危機に陥り、王国の存亡が問われる事態に至っておったのでな、あの娘を(めかけ)として買い取る事で、この私が救ってやったのだ。我が『ヘプタム辺境伯領』の財力をもってすれば、あんな小王国の借金ごときは、塵に等しいからな。」

「うわぁ、国の財政を救うくらいのお金で、女の人ひとりを買ったのですか。想像もつかないような財力ですねぇ。」

 キプチャクの素直な驚きように、変態商人はますます上機嫌だ。

「ところで、なんであの人、あんなに、魂が抜かれたように顔面蒼白なんですか。」

 ユーシンが、かねてからの疑問をぶつけてみると、貴族は、ニターっと、これまでのくしゃくしゃの笑顔に、更に卑猥さを上乗せしたような表情を見せた。よくぞそれを聞いてくれたと、言いたくてしようがなかった何かを語ろうとしているのだと、若者たちにも一目瞭然の態度で、変態商人は話し始めた。

「私はね、高貴な生まれの、気品の備わった、立ち居振る舞いも言葉づかいも洗練された優美な女を、人格が崩壊し魂が抜け落ちる程に(はずか)しめ、(もてあそ)んで情事に及ぶ事が、何よりも好きなのだよ。」

 その発言に、若者5人は同じ言葉を内心で叫んだ。

(うわぁ、やっぱり「変態商人」なんだ!)

 そんな若者たちの思いを他所に、ラクサスはまくしたてる。

「見なさい、あの表情。あの焦点の合わない視線。たまらないだろう。美しいだろう。あれも、最初に会った時は、活き活きとして、はきはきとして、話好きな、好奇心も旺盛な娘だったのだよ。それが、私との情事で、私のとっておきの凌辱で、あんなにも精神を破壊され、魂を抜かれてしまったのだよ。私が壊したのだよ。高貴なる娘の優美なる精神を、この私が、この手で崩壊せしめたのだよ。アハハハ、分かるかね。この貴族の(たわむ)れの(みやび)さが。」

 得意満面で嬉々として語るラクサスに、若者5人は、特に女子2人は、機嫌を損ねないように応対しないといけないと意識していながらも、嫌悪の表情を抑え切れなかった。

「そこの娘2人、君たちは心配する必要は無いぞよ。私は生まれの卑しい女は手に掛けないからのう。安心しなさい。」

 爆発をかろうじて抑え込んだ、ニコルの怒りの震えが、ユーシンにも伝わって来た。

 女子2人程ではないにしても、やはり嫌悪の表情を微かに浮かべる男子3人にも、

「まぁ、君達には、このような高貴なたしなみは、理解し難いだろうがね。」

と言うと、立ち上がり、ラクサスは「蒼白美女」の方へ歩を進めようとした。

「しかし、こんな下賤な空間に、いつまでもアレを置いておくわけにはいかんな。値打ちが下がってしまう。」

歩みを続けながらも、首だけで若者たちに振り返り、「どこに行っているのかと思っていたのだよ。私達、高貴な者の為の船室から、いなくなる時間が多かったものでの。まさかこんな、下賤な者の場にいようとは。まぁしかし、ここにまで探しに来たおかげで、君達と有意義な会話をたしなむ事が出来た。だが、この辺で、アレを連れて、私は戻るとするよ。」

 ラクサスは「蒼白美女」の傍らにより、何事かをささやく。彼の甲高い声は聞こえたが、発言の内容までは聞き取れなかった。

「蒼白美女」は、無表情なままで幽霊さながらに、すっと立ち上がり、操り人形のごとく人間味の無い身のこなしで、そのラウンジから、ラクサスの後に従って出て行った。取り巻きの者共もいそいそと後を追う。

「なにあれぇ!」

ラクサスの姿が消えるや否や、ニコルが憤慨の情を炸裂させた。「めっちゃ馬鹿にされてたよね、あたし達。女を辱める趣味が自慢になると思ってるなんて、バカ丸出しじゃん!」

「『下賤』に生まれて良かった、あたし。」

 ニコルとノノが口々に言った。

「あんな変態じみた性癖を、初対面の人間に向かって嬉々として語るなんて。何かが壊れているね、あの御仁は。」

と、アデレード。

「知りたい知りたいと思って来た、顔面蒼白の理由だけど、知った今となっては、知らなきゃよかったって思うよ。」

と、ユーシンも言った。

「でも、あんなに顔面蒼白になるような行為って、何なんだろう?」

とは、キプチャクの言。「俺が女にしたいと思う事の、どれを当てはめても、あんな風になるとは思えないんだけど。何をしたら、ああなるんだ?ユーシン。」

「しらん。」


 翌日、遂にタキオントンネル船は「ウィーノ星系」の中に入って行った。タキオン粒子の効果で、星系を球状に包んでいる無数の浮遊天体は、宇宙船の軌道上からは排除されている。オールトの海と呼ばれ、たいていの星系にある、惑星形成から溢れた浮遊天体の群れは、そうでなければ高速での星系侵入の、大きな障壁となるものだ

 そのオールトの海を突き切ってすぐにある、「ウィーノ星系」の最外殻を周回する第4惑星の付近に、タキオントンネルのターミナル施設があり、タキオントンネル内で4日以上かけて減速して来た彼らの乗る宇宙船は、ターミナル内で停船した。長さ500mで直径100mの円筒形構造物といえば巨大なようだが、タキオントンネルのターミナルとしては小型のものだ。

「さあ、みんな俺に掴まれ。」

と言ったユーシンは、リーディンググリップを起動した。

 磁力によって、無重力空間での移動をサポートするのが、リーディンググリップだ。これがプログラムされた通りに施設内を動いて行くので、リーディンググリップを握っているだけで、無重力空間中を任意のルートで移動し、目的地にたどり着くことが出来る。

 ユーシンがリーディンググリップを握り、後の4人はユーシンに捕まる事で、1つのグリップで全員が移動できるのだ。

 グリップにリードされ、宇宙船のハッチから出て、ここからの移動手段であるシャトルに乗る為に、ドッキングベイを目指す。

 無機質な、白く塗装された金属の構造物どもの間を抜けて、5人は一団となって移動して行く。無重力中なので、飛ぶような移動だ。楽だが、退屈な移動だった。外の景色を見る窓も、ターミナルにはほとんど無いのだった。

 10分程の移動の後に、星系内移動用シャトルのドッキングベイに、彼等は到着した。ベイには2機のシャトルが彼らに側面を見せて入っていたが、そこに表示されたナンバーを見るに、彼らの乗るべきシャトルでは無いようだった。

それは、金属の壁で囲われた宇宙空間へ向かう誘導路の中で、壁面から伸びたアームに固定されている。チューブ状の搭乗通路が接続しているシャトルは、誘導路の先にある、漆黒の宇宙空間に(ひら)けた出口に先端を向けている。

 誘導路から宇宙空間の彼方へは、一本のレールがどこまでも伸びていて、シャトルはそれと接している。そのレールが、電磁式のカタパルトだ。端が見えない程に長い長いレールとの電磁的作用で、シャトルは強大な速度を得る事になる。

「1時間程、ここで待たないといけないようだな。」

 腕に装着した情報端末を確認したアデレードが、皆に教えた。「今いる2機は、両方第4惑星方面行きだな。第4惑星近傍のターミナルに着くタキオントンネル航行船を選んだんだから当たり前か。」

「『ウィーノ』近傍にあるターミナルに着くやつは、髙いもんねぇ。運賃が。このターミナルを経由して、シャトルで『ウィーノ』に向かう方が安上がりなのよねぇ。」

と、ニコルが応じた。

「1時間かぁ。やっぱり、退屈な時間の連続だな、宇宙の旅は。」

と、キプチャク。

「あ、でも、こっちから惑星が見える。」

と、ノノ。

円筒形構造物の、タキオントンネル船が入って来たのとは反対側の端に、シャトルのドッキングベイがあり、その軸方向に向けられた円形の面には窓が設えられており、そこから、外の景色が見られるのだった。そしてその窓の、視界の端の方に、「ウィーノ星系」第4惑星の青と黒の縞模様を現した姿が見られた。

「うわーっ、綺麗ぇー。」

と言うニコルの発言を最後に、しばらく5人は、その惑星の姿に見惚れていた。惑星を見る機会など何度もあったのだが、やはり眼前にすると、何とも言えない感動があるのだった。

「あの惑星の第4衛星の4分の1が、私の領土なのだよ。」

と、背後からやって来た聞き覚えのある甲高い声に、若者5人は振り返る。「変態商人」ラクサスだった。

「衛星の4分の1って、どのくらいの広さなんですか。想像もつかないな。」

 少し機嫌を取る目的もあって、大げさなリアクションを装って見せたアデレードに、

「およそ1億㎢だよ。どうだい、驚きの広さだろ。」

と、ラクサスはご満悦の表情。その背後には、表情の消された「蒼白美女」の姿も見える。取り巻きの者達が、シャトルへの搭乗通路にせっせと荷物を投げ込み出したところからすると、2機の内のひとつはラクサスの自家用シャトルなのだろう。荷物は無重力中を泳いで、通路を進んでいく。

「広すぎて、まったく実感がわきませんよ。デカポロム家の財力って、絶大なんですね。」

と、アデレードは持ち上げてみせた。

「それはそうだよ。何といっても私は地球系人類だからね。7千年前に地球を飛び出した君達宇宙系の祖先とは違って、我々の祖先は地球で富と文化と技術を成熟させて来たのだ。宇宙を放浪する間に、富を失い、多くの文化や技術も忘れ去ってしまった、君達宇宙系の末裔には、私のような富や名声を得る機会は、極めて少ないだろうな。」

「その地球系の財力と技術力で、宇宙系を始祖に持つ『ナーベラー王国』の発展に貢献した事によって、デカポロム家は王国に貴族として迎え入れられ、『へプタム辺境伯領』を与えられたのですね。そしてそこから、更に財力を高めたと聞いてます。」

「そうだよ。地球系の技術無しではロクに星域開発も出来ないのが宇宙系人類というモノだからね。『ナーベラー王国』も、我が祖先のもたらした地球系の技術無しには、今日の発展はおろか存続も危うかったであろう。宇宙系人類は皆、地球系の技術を渇望しておるのだ。だから、銀河の富は地球系人類のもとに、自然と集まって来るのだよ。銀河の富は、地球系人類の為にあると言っても良い。アハハハ・・。」

 人を見下した、差別感情に満ちた発言ではあるが、ここまであっけらかんと言われると、若者5人は怒る気にもならず、ただ苦笑いを浮かべるだけだった。アデレードも、ここは適当に持ち上げたまま、機嫌よく送り出すべきだと考えたのだろう。臨時従業員とは言え、これまでも何年も、貿易商社の一員として活動して来た彼等だから、そこら辺の、「あきんど」としての要領は皆心得ていた。

「・・そ、そうですね。おっしゃる通り、地球系の技術は、今の銀河に必要不可欠なものです。『ウニヴェルズム・フォンテイン』も、地球系の技術力の恩恵は、大いに授かっています。」

「そう言う事だ、ワハハ、自分達の立場を良くわきまえておる。最初に見込んだ通り、なかなか優秀な若者達だ。宇宙系にしては。では、私はそろそろ出発するとするよ。私の自慢の国外領地、『ウィーノ星系』第4惑星の第4衛星で、飛び切りの時間を過ごす事になっておるのでね。」

「第4衛星には、何か特別な産物とかあるんですか?」

とは、ニコルの質問だ。気に入らない男が相手とはいえ、情報を仕入れて置いて損は無い。

「いや、なに。第4衛星の産物がどうという事では無いのだが。」

と言うと、一瞬ちらりと「蒼白美女」に視線を送り、「せっかく高い金を払って手に入れたアレを、もっと存分に味わおうと思ってな。」

この返答には、嫌悪感も露わな苦笑いを浮かべるしかないニコルだったが、ラクサスはそんなことに気付きもせずに続けた。

「精神を崩壊させ、魂を抜き去る程に(はずかし)めてやった(めかけ)だからな、ここから更に骨の髄までしゃぶり尽すとなると、この第4衛星の広大な領土が必要なのだ。ワハハハ。それに、この(めかけ)1人にばかりも構ってはいられぬ。『ウィーノ星系』は貿易中継基地として多くの民族が集まる場所柄だから、ここへ来たからには、(めかけ)コレクションの充実を図る事も、欠かす事が出来ない。大忙しだよ、アハハハハ。」

 若者一同は、このラクサスの筋金入りの「変態商人」っぷりに、ただもうポカーンと口を開けて見つめるしかなくなっていた。

「そういえば、お前達の所の社長令嬢、クレアとかいったな。あれもなかなかの上玉だ。いずれ私のコレクションに加えてやろうと思っておる。」

 この発言には、壮絶な悪寒を禁じ得ないユーシンであったが、本気で受け答えするのは馬鹿々々しいと思い、黙っている事にした。

「お前達は『ウィーノ』に向かうのだろう?宙空浮遊都市の。」

「・・はい。」

 皆が黙り込んでいるので、仕方なしといった様子でリーダー格のアデレードは答える。

「宇宙系の連中というのは、やる事が分からん。何だってあんな何もない虚空に都市を作るのだ?惑星上かもしくは惑星の軌道上に作ろうとは思わんのか?」

「はあ、貿易中継都市としては、惑星の重力に捕えられない場所の方が適しているので。重力を相殺しながら惑星に近づいたり、重力に逆らって惑星から遠ざかったりするエネルギーの浪費を無くすには、周囲の天体からの重力の釣り合った場所にある、宙空浮遊都市が適しているのです。それに、我々宇宙系の者には、惑星の上や近くにいる事が安心だといった発想も希薄でして。」

「ふん、運送屋の都合だけで、あんなでかい建造物群を作ったとはな。目先の生活だけで精いっぱいの宇宙系ならではという事か。私の方は、しっかりと大地を踏みしめられる優雅な場所で、愉快な時を過ごさせてもらうとするよ。では諸君、ごきげんよう。」

そんな言葉を残し、ラクサスもシャトルに向かう通路に消えた。

 シャトルが進発し、その姿が漆黒の宇宙に消えて行くまで、念のため一同は、ラクサスへの感想を述べるのは控えていた。万一にも聞かれては、今後の業務に差し障る。

 が、もう大丈夫と判断するや否や。

「なんなのあれぇ!もう、聞いているだけで反吐が出そうな変態っぷりね!」

と、ニコルは喚いた。

「地球系である事、あんなに鼻にかけてる地球系の人、初めて見た。」

と、ノノも言った

「劣等感の裏返しじゃねぇか?ありゃ。」

とは、キプチャクの言葉。「身体能力的には宇宙系の方が優れてるんだ。加速度変化や宇宙線への耐久力は、宇宙暮らしの長い宇宙系に地球系は及ばないからな。『1-1-1(トリプルワン)戦闘艇団』なんて全員宇宙系だし、地球系じゃ使い物にならない労働環境なんてのは、銀河にはザラにある。そういうところから、宇宙系に対して持つようになった劣等感をごまかす為に、ああやって、やたらと地球系の技術の高さなんかを、自慢しているんだろうぜ。」

「ま、そんな所かも知れないけど、宇宙系と地球系のどっちが優れているとか、不毛な議論だよ。それぞれに得意な事、不得意な事があるんだから。お互い補い合いながら、協力すればいいだけじゃないか。ノノも言うように俺も、今まで出会った地球系の人達は、そう言う考え方の人ばっかりだったのにな。」

と、そこまでは落ち着いた表情で話したユーシンだったが、急に顔を歪めて続けた。「それにしても、お嬢様を(めかけ)コレクションに加えるなんて、冗談じゃないぜ。お嬢様は機構軍幹部に嫁がなきゃならない身の上なのに。」

「『ウニヴェルズム・フォンテイン』自体もバカにしてるみたいだよね、あの変態。ウチとの取引がなくなったら、向うだって痛いはずなのに。」

皆が一様に嫌悪と憤慨を言葉と表情にのせているとき、突如キプチャクが真顔でユーシンに尋ねた。

「ところであの『変態商人』さぁ、『蒼白美女』をもっと味わう為には、第4衛星の広大な領土が必要とか言ってたけど、女を(はずかし)めるのになんで、1億㎢が必要なんだ?」

「しらん。」


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