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第30話 白鳥を彩る恋模様

 大型で大量の炸薬を詰め込んだ“対艦ミサイル”の動きは鈍く、ある程度の距離があれば迎撃は簡単だ。が、至近距離に迫られた上で発射されれば、迎撃し切れるものでは無い。宙族の戦闘艇は、既にミサイル自体の迎撃は困難な程に接近している。しかし、今から「キグナス」がミサイルを放ったとしても、宙賊の対艦ミサイル発射には間に合いそうにも無い。

 その事の深刻さは、「キグナス」クルー以上に狙われている者達の方が分かっていた。

「総員退避!」

との裏返った声が、通信機から洩れ聞こえた。相当慌てているのだろう、「サザンクロス」の船長は、外部との通信回線を開いたまま、船内指示を出してしまっている。

「『アマテラス』当てれば、問題無いんだろ。」

 そう呟きながら、ユーシンがコンソールで指を踊らせると、モニターの映像がスライドした。敵に向かって砲身が旋回し、「キグナス」の船体も回転したのだ。狙いを定めるのにはこの2つの動きが必要だ。更にユーシンは、データーと映像を確認後、目を閉じて想像を(めぐ)らす。「もう敵は、等加速度直線運動しかしない。ここだぁ!」

 入力終了1秒後、操船指揮室には何の気配も感じさせないままに、「アマテラスマークⅢ」は発射された。テレビカメラ映像と熱源探知映像のみで、その事を知る指揮室の面々。

 そして、直後、モニターに映された光芒や消失した光点で、攻撃の成功を知ったのであった。

「よっしゃぁー!命中っ!」

「やったわね!ユーシン」

 指揮室に歓声が上がった。

「助かったのか?」

と、漏れ聞こえて来たのは「サザンクロス」船長の、やや震えた声。通信機に返事を返すバルベリーゴ。

「ああ。機構軍のお漏らしは、俺達で始末してやったぜぇ。それにしても、白鳥に尻を拭かせやがるとは、機構軍も、粗相(そそう)が過ぎるってもんだぁ。」

「宙賊戦闘艇撃破に向かった宇宙艇、帰還して来た。」

 凱歌に湧く指揮室にあって、サヒーブは冷静に職務をこなす。

「ご苦労だったなぁ、宇宙艇パイロットのガキ共ぉ。早く戻って来て、あっついシャワーでも浴びろや。」

「凱旋だな。ファランクス、アデレード!2隻も撃破するなんて、上出来じゃないか。」

 バルベリーゴとユーシンが、相次いで(ねぎら)いの言葉を掛ける。

「機構軍戦闘艦から、通信要請。」

 サヒーブと同じく、未だ仕事モードのコージンが報告。

「こちら機構軍戦闘艦艦長、フォンデンブラウン。この度は貴船の救援に、心より感謝申し上げる。我らの力不足の為に、多大なる手数をおかけしてしまった。そちらのビジネスに悪い影響を及ぼしていない事を、切に願うものである。」

「こちら宇宙商船『ウォタリングキグナス』船長、バルベリーゴ・マグレブだ。まぁ、このくれぇは何でもねぇ事だが、あの一隻漏らしたのは、いただけねぇなぁ。もうちょっと精進してくれや。」

「こ、これは・・!機構軍元少将閣下であらせられましたか。お恥ずかしいところをお目に掛けてしまいました。おっしゃる通りでございます。宇宙艇一隻を取りこぼしたのは、全く持って我が艦の手落ち。平に、ご容赦願います。」

 彼の名を聞いての、この恐れ入りまくった態度に、名前の主は苦笑を禁じ得ない。

「あははぁ、元だから閣下はいらねぇが・・。まぁ、誰にでも失敗はある。次から気を付けりゃあ良い。この事を、誰かにチクったりもしねえから、安心しな。」

「い・・いいえ。この件は、私自ら上層部に報告し、如何なる叱責も甘受する所存です。」

「真面目だなあ、あっはっは。感心、感心。」

「おう、船長や。もう棘抜き用の宇宙艇は、出しても大丈夫なのかい?」

 あっちこっちから通信が来る。船長とは忙しいものだ。

「ああ、頼むわ。コロンボ。」

 そんなバルベリーゴの言葉を聞いて、副船長チェリオも船内放送。

「戦闘態勢解除。皆、ご苦労さんであった。」

 操船指揮室内の空気が、急速に弛緩して行くのをユーシンは感じた。その視界の端に、ノノの姿が映る。サヒーブの下へと飛翔していた。

「さっきは有難う、サヒーブ君。ちょっと、頼もしかった。」

 サーヒブの右手を両手で包み込んで、気持ちの籠った礼の言葉を紡ぐノノ。

「え?ええ・・ああ・・うん。」

 サヒーブの顔は、一瞬で真っ赤っかだ。戦闘中の落ち着いた態度が嘘のようだ。

「検診の続き、するね。」

「ア・・アイっ!」

 周囲の弛緩とは裏腹に、カチコチになったサヒーブだった。

 「キグナス」の宇宙艇による、“棘抜き”が進んでいる間に、バルベリーゴは機構軍戦闘艦の艦長フォンデンブラウンと通信で話をした。

「この宙域じゃぁ、宙賊の出没が頻繁になって来てるってのは、聞いていたがなぁ。20隻もの団体で登場なんて事まで、起こっているのかぁ?」

 モニターに姿が映し出された機構軍艦長は、直立不動で答えた。

「いいえ。一度の襲撃での敵の規模は、これまではせいぜい5・6隻でした。出没頻度は増加傾向にあったので、警戒を強めてはいたのですが、一回の襲撃の規模が大きくなるとうい事はありませんでした。まさか一度にこれほどの規模の宙賊が襲って来ようとは・・。見通しが甘かったようです。」

「そうか。俺達もなぁ、ウィーノを出たところで、100隻以上の宙賊の戦闘艇に待ち伏せされてよぉ、派手な大立ち回りをやって来たところなんだぁ。なんだかどこも、キナ臭くなって来やがったなぁ。」

「な、なんと!」

 バルベリーゴの報告に驚きを隠せず、機構軍艦長は言った。「宙賊が100隻以上で徒党を組むなど、聞いた事がありません。何かの間違いでは?もしくは、何か大変な事態が進行しているのでは・・。」

「ああ、その事でなぁ、」

 バルベリーゴも説明を続けた。「『ソリアノ』の機構軍事務所に通報に行こうと考えてるんだが、『コーリク国』が裏で暗躍している可能性があるんだ。」

 深刻そうな声色の言葉が返って来る。

「そうなのですか。『キークト星団』にある国家ですな。地球連合と同盟していない、謎の多い国ではありますが、そんなものの策動が考えられるのですか。この宙域での、宙賊の頻出とも関連があるとお考えですか?」

「さあな」

 肩をすくめて答えるバルベリーゴ。「連合勢力でもねぇし、スペースコームからも外れた宙域にある国の事だから、俺達にゃあ、知る術もねぇ。」

 そんな会話が交わされている間に、「サザンクロス」の棘抜き作業は終わり、同船は機構軍戦闘艦を護衛としての商旅行を続けるべく、出立する事になった。

「改めて、この度はお世話になりました。『コーリク国』の暗躍の可能性に関しては、私からも軍上層部に報告しておきます。それから、『サザンクロス』の金属片除去作業も、本来は我らが実施すべきところを、変わって実施して頂き。本当に有難うございました。」

「ああ、はっはっは。良いって事よ。機構軍の小型戦闘艦の戦闘艇積載数は4隻だろ。全部出払っちまってんじゃ、誰かに手を借りるしかねえじゃねえか。それに、棘抜きなんて作業は、戦闘艇より汎用の宇宙艇の方が、効率も良いんだ。気にする事は無い。」

「そう言って頂けると、助かります。では、我らはここで失礼します。」

 びしっと敬礼をした姿を最後に、モニターの中の機構軍艦長の姿は消えた。

「ああ、あばよ!」

 そこから「キグナス」クルーは、戦闘で疲れた体に鞭打って、メンテナンスを実施した。「ソリアノ」への最後のワープを行う為には、必須の作業なのだ。


 ワープアウトと同時に、宙空浮遊都市「ソリアノ」は視界に入っていた。未だ光点としか見えず、背景にある星々との区別をつけるのは難しい状態だが、テレビカメラからの映像には、白い環でマーキングが施されていた。

 「キグナス」の船体上部には、出し入れ可能な展望デッキがあるのだが、そこに出て、「ソリアノ」の方を眺めていれば、「ウィーノ」に接近して行った時と同様の光景を楽しめるだろう。

 光点が光芒になり、いびつな形状が露わとなり、どんどんと視界の中で拡大されて行くだろう。光芒が光点の集合体であると気づかされたり、近づいているはずなのに、端の方は遠ざかって見えたりするという事も、経験するだろう。

 光点の一つがスペースコロニーであると気づき、更にその巨大さを思い知らされる、という現象も起こるだろう。規模は「ウィーノ」よりだいぶ小さいとはいえ、この「ソリアノ」も、十分に巨大な宙空浮遊都市なのだから。

 だがユーシンは、ワープアウトと共に自室に引き返して行き、ベッドに潜り込んだのだった。非番の時間でもあるし、さっきの戦闘の疲れもあったので、眠りを渇望していたのだ。

 6時間程ぐっすり眠って目を覚ましたユーシンだったが、まだ「キグナス」は「ウィーノ」には着いていないはずだった。巨大質量物のある座標にワープアウトしてしまう事故を防ぐために、目的の港湾都市等からある程度離れたところにワープアウトするというのは、常識的な事なのではあるが、それにしても今回は、ワープアウトポイントから港湾コロニーまで、時間がかかりすぎるスケジュールだ。8時間近くにも渡って、通常空間航行を続ける事になっているのだ。

 港湾コロニーに着いてしまえば、否応なく忙しくなるのだが、戦闘直後のクルーに十分な休息を取らせる為に、わざとワープアウトポイントからゆっくり航行して、到着を遅らせるという、バルベリーゴの配慮だった。超過労働でクルーを過労死させるなどという間抜けな事は、バルベリーゴはやらないのだ。

 起きたばかりで寝ぼけ眼のユーシンは、あくびをしながら、小さめの重力の船内を、ポーンポーンと弾むように歩いて、食堂に向かった。トーストにがっついている先客の隣に座る。「キグナス」は減速行程に入っているので、“前”が“下”になる形で、船内には重力がある。ゆっくりの航行が災いして、適度な重力というには、いささか物足りないが。

「おっ!ヒーローのお出ましだな。」

 少し皮肉に出迎えた先客は、キプチャクだった。

「なんだよ、ヒーローって。」

「ヒーローじゃねぇかよ。散開弾で宙賊戦闘艇を2隻撃破、『アマテラス』でも1隻撃破だろ。『ウィーノ』を出てすぐの、『アマテラス』での3隻撃破といい、早くも赫々たる戦果じゃねぇか!」

 そうやってユーシンの手柄を並べ立てるキプチャクだが、祝福しているような顔では無い。

「俺より、アデレードの方こそ、ヒーローだろ?やっぱり宇宙艇乗りって言うのは、花形だよな。ごはんとみそ汁と焼きじゃけ、頼む!」

 最後のセリフは、腕の端末に向かって叫んだ。船内コンピューターに食事のオーダーをしたのだ。「キグナス」搭載の自動調理システムが稼働を開始したはずだ。何の気配も無いが。「ウィーノ」で初めて味わって以来、ユーシンはご飯とみそ汁と焼きじゃけの食事にハマったようだ。今からの食事を“朝食”と呼んでいいかどうかは、よく分からないのだが。

「俺と比べれば、お前達のどっちも花形だよ。ユーシン。」

 天を仰ぐように言い放つキプチャク。「戦闘ともなると、差が出るよな。操船要員や宇宙艇要員と、検品要員とじゃさあ。」

 ちなみに、キプチャクの視線の先にある天井にも、テーブルや椅子が固定されている。加速行程では、そちらが床になるから。今彼らが踏んでいる床は、減速行程専用の床だ。

「戦闘中は、やっぱり暇だったのか?」

 ユーシンのその発言を聞くや、目をカッと広げてユーシンを見つめ、信じられないというような顔をして見せたキプチャク。

「お前、ふざけるんじゃねーぞ!検品要員って言ったって、戦闘ともなりゃあ、やる事はいっぱいあるんだぞ。お前がぶっ放したミサイルだって、俺が直前に再検品したんだぞ。ワープアウトの後の、ものすごい加速の中で、まだ使うかどうかも分からないミサイルを、万が一不発だったり、動作不良を起こしたりして、味方が不利にならないようにって・・・」

「あはは。悪い、悪い。済まねぇ。そうだったのか。確かに、あの散開弾がちゃんと均一に散らばって、飛んで行ってくれてなかったら、アデレード達も厄介な事になってたかもしれないもんな。有難うよ。助かったよ。」

「・・ったく。やっぱり、検品要員の苦労なんて、誰にも理解してもらえないんだ。操船要員や戦闘艇要員ばっかりが注目され、評価されてさぁ・・」

 また、天を仰ぐキプチャク。

「そんな事ないだろう。縁の下の力持ちの働きを、ちゃんと評価してる人もいるよ。オヤジとか。」

「オヤジに評価されてもよぉ。」

 キプチャクは、不満気な態度を崩さずに続ける。「やっぱり女共に褒められてぇじゃねぇか。男たるもの。今、この船の女共が、お前の事でどんだけキャーキャー言ってるか、知ってるか?10発に1発当たるかどうかの、『アマテラス』での戦闘艇への射撃を、6発中4発も当てたんだって、噂の的になってんだぜ。お前。」

「へー、そうなんだ。別に射撃の上手さと、男としての良し悪しは、関係ないだろうにな。」

「あー!そのクールな反応が、また(しゃく)に障るんだよなあ。素直にデレデレしやがれ。」

「あはは。」

 苦笑いでごまかしたユーシン。

「アデレードだって、そこそこ噂になってやがったし、やっぱりいいよな、花形の仕事に就いてる奴等ってのはよぉ。俺にはもう、次の『ソリアノ』で、飛び切りイイ女のいる店を探すくらいしか、楽しみがねーよ。」

 またしても天井を仰いだキプチャクだったが、そのお店のある「ソリアノ星系」は、天井とは反対の方向にある。

「お前また、いかがわしい店の常連になるつもりなのか?今度の『ソリアノ』でも。」

「ああ、そうだよ。悪いか。それしか楽しみがねぇーんだ。地味な検品要員にはな。それに、『ソリアノ』には、イイ店がいっぱいあるって有名なんだぜ!」

「イイ店って?」

 テーブルに穿(うが)たれた穴からせり上がって来た、ご飯とみそ汁と焼きじゃけの乗ったトレイを、手元に引き寄せながらユーシンは言った。出来立ての料理の上には、湯気の糸が白く揺らめいている。

「『ソリアノ』は宇宙系の移住者を大々的に募集しているだろ。だからさぁ、銀河中の色々な民族の女も集まって来て、そういう店でも働いているんだ、だから、色々な人種から、選り取り見取りで選べるんだぜ。」

 首を傾げたユーシンは、疑問を呈した。

「お前、地球系が好みなんじゃ、なかったのか?『ウィーノ』では、地球系のサービスの良さを絶賛してたじゃないか。」

「地球系には地球系の良さが、宇宙系のそれぞれの人種にも、それぞれの持ち味があるんだよ。分かんねえーかなぁー!例えば、少し前まで宙賊だったような部族の女の、ワイルドなサービスとか。君主制国家のハーレムで仕えていた女の、磨き上げられた手管とか。」

「へー。そういうもんなんだ。そういう、銀河中の色々な民族の女の人って、奴隷として売られて来た人達も、いたりするのかな?」

 そう言ったユーシンの脳裏には、シャラナの存在が浮かんで来る。奴隷の身分を脱する為に、彼が彼女に耐える事を強いてしまった何かを、改めて重く受け止めていた。そして、未だ宇宙には多くいるであろう、宙賊に拉致され、奴隷に売られ、その身を犠牲にせざるを得ない女人(ひと)達を思った。

「『タクムス国』は、地球連合と同盟しているんだぜ。奴隷売買は禁止だし、本人の意に反してそういう商売をさせる事も、法律で規制されている。『ソリアノ』のお店にいる女達は、そんな職業が楽しくてやってるんだ。」

 キプチャクは、きっぱり断言しだが、自らに言い聞かせているようでもあった。

「本当に、楽しくてやっているのかな?文明化の進んでいない部族の出身で、教育も受けず職業能力も無い為に、そういう事でしか生活していけなくて、仕方なくやっている女人(ひと)も、少なからずいるんじゃないかな?」

「ユーシン、お前なぁ。あんまり、糞真面目な意見を言ってくれるなよ。気分が覚めるだろう。ちゃんと、法律で認められた範囲の事だけやってる店に、行くんだからなぁ、俺は。」

「あー、あはは」

 ユーシンは苦笑気味に応じた。「そういう事に金払う男がいなかったら、その女人達の生活はもっとひどい事になるんだろうから、いかがわしい店に通うこと自体が悪いとは、俺は思わないぞ。」

「・・・なんか、釈然としない言い回しだな。お前は花形の役回りが与えられていて、女達にもキャーキャー言われてるから、そんな綺麗事を言っていられるんだ。」

「キャーキャーなんて、言われた覚え、無いぞ。何かの勘違いなんじゃないか?俺とは別の事でキャーキャー言っていたのを、聞き間違えたとか・・」

 そういう発言の最中、ユーシンの視界に見慣れた顔が飛び込んで来た。見慣れた顔は、見るも無残な程、しゅん、と下を向いていた。

「おい、どうしたんだ?元気ないじゃないか、サヒーブ。」

「ああ、通信探索要員のサヒーブか。操船室なんか行く機会無いから、誰だか分からなかったぜ。」

 キプチャクがそう言った後、サーヒブはぽつりと呟いた、

「・・ノノに、・・ふられた・・。」

(こく)ったのか?ノノに。やるじゃないか、サヒーブ。」

 誰だか分からなかったと言った割に、ずいぶん馴れ馴れしいキプチャクだ。

「へー、そうなんだ。ノノ、断ったんだ。いい雰囲気だと思ってたけどな。俺。」

 その発言に、くるっとユーシンの方へ顔を向け、すがるように詰め寄るサヒーブ。

「そうだろ!ユーシンもそう想うだろ!あの、戦闘直後のノノの表情といい、態度といい、完全に俺に気があると思うだろ!俺の感覚って、そんなに間違ってないよな!手まで握って来たんだぜ!有難うって、頼もしかったって。もう俺、絶好のチャンスだって思って、矢も楯もたまらず、思い切って告白したのに。」

「断られちまったってか。何て言ったんだ?ノノは。」

 また、しゅんとうつむいて、サヒーブはキプチャクの問いに答えた。

「今は、そういう事を考えられないって。船員として、医療要員として、少しでも早く一人前になる事が全てだって。」

「あー、真面目だなぁー。ノノらしいって言えば、らしいけど。」

「まあでも」

 ユーシンは、サヒーブの肩を叩きながら言った。「今は、って事は、いつかはチャンスが巡ってくるかもしれないじゃないか。諦める事は無いよ。」

「そ・・そうかな?お前、そう思うのか?ノノとは長い付き合いなんだろ、お前達。そのお前達から見て、まだチャンスはあると思うのか?」

「チャンスなんてのは、いつだってあるんだ。一度ふられたくらいで、諦めてどうする。グイグイ行けばいいんだ。何べんふられたって!」

 キプチャクはそう力説したが、

「まぁ、でもノノは、真面目だからなぁ。あんまりしつこいと嫌がるかもよ。しばらくは、(そば)で温かく見守ってやる感じがいいんじゃないかな。今は医療要員としての技能を磨くことに専念したいっていうのは、本音だと思うし。」

と、ユーシンはサヒーブを諭した。

 ノノと幼馴染の2人に違う見解を述べられて、少し混乱した様子で、ユーシンとキプチャクを交互に見ていたサヒーブだったが、

「ま・・まあ、しばらくは様子を見ようかな。それで、またチャンスが来たと思ったら、もう一回告白してみよう・・。うん・・そうしよう。」

と、なにやら一人で納得した雰囲気になって、食堂を後にして行った。自分がぐっすり眠っている間に、思いがけない事が起こっていたんだなと、感慨にふけるユーシンだった。

 その後は、しばらく無言の時間が続いた。キプチャクはトーストを食べ終わり、時折コーヒーを啜りながら、考えに耽っている。ユーシンは、ご飯とみそ汁と焼きじゃけに舌鼓を打っていた。相変わらず、ナイフとフォークとスプーンで食べているのだが。

 そこへまた、背後から近づいた者があった。みそ汁のお椀を片手に持ち、スプーンですくったそれをズルズルとやりながら、ユーシンは気配のする方に振り返った。

「お前、トアだな。ニコルと最近仲良くやってる。」

 口をもぐもぐして、しゃべれる状態じゃないユーシンに先んじて、キプチャクが言った。だが、トアが用のあるのは、ユーシンのようだった。

「あのさぁ」

 なにやら赤い顔をして、うつむいた感じで話し出したトア。「ユーシン君って、大切な人がいるんだよね?ニコルに聞いたけど。」

 味噌汁を吹き出しそうになるのを、何とか(こら)えたユーシンは、強引に口の中の物を飲み込んで、()くように言った。

「なんだよ、それ。ニコルのヤツ、何を言ってくれてんだ!」

「誰かは教えてくれなかったよ、ニコル。ただ、大切な人がいるって事だけ聞いたの。」

「え?ああ、うー、いー、ぅおー、ま、まあ、そうなるのかな。」

 キプチャクの手前もあり、どう答えていいか迷いながら、ユーシンはあいまいな答えを返した。

「だよね。あたしになんか、チャンス無いよね。そうだよね。・・・ごめん!それじゃ!」

 言うや否やトアは、ぴょーんと、重力の小ささを活かして大きな跳躍を見せ、あっという間に視界から消えて行った。

「お、お、おい、今の、」

 茫然とするユーシンの横から、口をパクパクさせて驚きを露わにしているキプチャクが言った。「今の、も、ももも、もしかして、告白だったんじゃないのか?お前も、告白されて断った感じになってるんじゃないのか。」

「そ・・そうなのか?告・・白・・だったのか?あれ。」

 事態を受け止めきれず、キプチャク同様口をパクパクし出したユーシンだったが、頭の片隅には冷静な考えも伴っていた。

(俺はお嬢様を支える事に、人生の全てを注ぎ込むんだから、もし今のが告白だったとしても、トアの気持ちには応えられない。)

「やっぱり操船要員はモテるんだなぁー。良いよなぁー。『アマテラス』ぶっ放していれば、女の方から言い寄って来てくれるんだもんなぁー。」

 何度目かも分からないが、またキプチャクは、天井を仰いでいた。

「そんな、『アマテラス』撃っただけで寄って来るわけじゃ・・・」

 言葉ではそこまでしか言わなかったが、心中ではその続きを呟いた。

(戦闘中の俺の振る舞いが、トアを、そういう気持ちにさせたのかな?でも、戦闘中にトアに優しく振る舞う男は、これからいくらでも出てくるだろう。だから、きっとトアは、直ぐに良い男性(ひと)を見つけるはずだ。)

 ユーシンはそう自分に言い聞かせる事で、どうにか気持ちを落ち着かせようとしているのだった。

今回の投稿はここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は '17/5/19 です。

キグナスが活発に動き出すとともに、キグナス内の人間模様も動き始めました。ユーシンは、主人公だし、ちょっとはモテてもいいでしょう?ということで、トアに告られた?ような感じ。お嬢様への思いもあるし、なんか中途半端な告白だったしってことで、混乱している彼をおもんばかって欲しいです。ノノは、サヒーブ君をどう思っていそうでしょうか?読者各位で、それぞれの想像をして欲しいです。ということで

次回 第31話 港湾コロニーでの一幕 です。

タクムス星団、ソリアノ星系に到着し、そこの中空浮遊都市での日々が始まります。キグナスクルーの人間模様にも、シャラナ達の運命にも、ここを舞台に、何かが起こります。是非、ご注目頂きたいと思う次第です。

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