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第28話 航宙風景

 自分の祖国に、真っ直ぐに帰る事が(はばか)られるというシャラナの言葉は、その場にいた者達を戸惑わせていた。

「2人の存在が、『ヤマヤ国』と『ユラギ国』の微妙な国際問題になって来るのですか?」

とのユーシンの問いに、トクワキが答えた。

「そんなところです。『ヤマヤ国』にとっては、使者として赴任していた我々を『ユラギ国』が見捨てた、という考えを持ち得ますし、『ユラギ国』も『ヤマヤ国』に嫁がせた結果、ユラギ出身のシャラナが危険な目に会ったという見方が成り立ちます。シャラナは『ユラギ国』でも人望があり、『ヤマヤ国』への輿入れに反対する声もありましたから。」

「そうですか。」

 シャラナに人望があるというのは、ユーシンには納得できる話だ。誰でも心酔させてしまうオーラが彼女にはある。そして、そのシャラナが命の危険に陥ったとすれば、それが「ユラギ国」側の失態であっても、シャラナを慕う人達にとっては、「ヤマヤ国」になど嫁がせなければ、そんな事にはならなかったという想いを、持ってしまうのかもしれない。

「祖国に帰ったら、問題が表面化しちまうってことかぁ。で、直ぐに帰国は出来ねぇとして、どうする気なんだい、シャラナのねぇさんよぉ。」

 バルベリーゴの問いに、少し語調を強めてシャラナが答えた。

「一番の問題は、『コーリク国』の侵攻なのです。彼の国は、宙賊を前面に立てて自分達は陰に回り、機構軍の介入を受ける事なく『ユラギ国』を征服するつもりです。『ユラギ国』が陥落すれば、『ユラギ国』領を通らねば機構軍の救援を受けられぬ、我ら『ヤマヤ国』も、『コーリク国』に抗する事は出来なくなるでしょう。そうして最後には『キークト星団』全域を、()の国は支配下に置くつもりなのです。」

 トクワキがシャラナに続いて言った。

「彼の国の野望を(くじ)くには、なにより『ヤマヤ国』と『ユラギ国』の結束が重要ですが、『ユラギ国』は機構軍と確執があり、機構軍の協力を得る事は出来ないという立場です。一方で『ヤマヤ国』は連合と同盟関係にあるので、『ヤマヤ国』と共闘する事は、機構軍も介入してくるという事。だから『ユラギ国』は『ヤマヤ国』との共闘にも二の足を踏んでいるのです。」

「ですから、」

と、またシャラナが話し出した。「『ヤマヤ国』としては『ユラギ国』に機構軍との確執を忘れて欲しいですし、『ユラギ国』は『ヤマヤ国』に機構軍と(たもと)を分かって欲しいので、両者の意見は対立しています。そこに我らの問題が入り込めば、更に両者の溝は深まります。逆に、『コーリク国』の野望さえ退けられれば、我らの事で両国が多少ぎくしゃくしたとしても、それほど深刻な問題ではありません。」

「なるほど」

 バルベリーゴが言った。「『コーリク国』の侵攻ってのがあるから、あんたたちは、すぐに帰国する事を、ためらわなきゃならねぇわけだな。この状況下での両国の不和は、両国の存立を脅かす事態だからなぁ。」

「つまりシャラナさん達は」

 今度はユーシンが口を開いた。「『コーリク国』の野望を阻止する為の行動をとるつもりなのですね。『コーリク国』が必死であなた達を殺そうとした事からも分かるように、あなた達の存在は、機構軍をして『キークト星団』の問題に首を突っ込む口実を与えるものだ。連合の同盟国である『ヤマヤ国民』のあなた方に手を出したとなれば、『ユラギ国』が何と言おうと機構軍は、『コーリク国』に制裁を加えられる。」

「その為には」

 バルベリーゴが指摘を与える。「宙賊と『コーリク国』の繋がりを立証する必要もあるがなぁ。現段階ではシャラナのねぇさん達を拉致したのは、宙賊って事になっちまうぜぇ。だがまぁ、機構軍が宙賊を退治すりゃあ、『コーリク国』も侵攻の手立てを失う事になるかぁ。」

 彼らの話を受けて、シャラナが言った。

「いずれにしても、まずは『ヤマヤ国民』である我らが宙賊に拉致された事を、機構軍に通報して、何らかの行動に出てもらう事が肝要かと思います。機構軍が宙賊の征伐だけを行うのか、『コーリク国』にまで踏み込んでくれるのかは分かりませんが、機構軍に行動に出てもらう事は、事態の好転につながると思います。ひとまずは、その『ソリアノ星系』から、機構軍と連絡を取れる場所を目指そうと思います。」

「そういう事なら話は簡単です。」

 ユーシンが明るい表情になって言った。「『タクムス国』は地球連合と同盟関係にあるから、『ソリアノ星系』にも機構軍基地があります。中空浮遊都市『ソリアノ』にも機構軍の事務所があったはずだから、そこで宙賊に拉致された事や、裏に『コーリク国』の野望がある事を訴えれば、然るべき行動を起こしてくれるはずですよ。ついでに、『ユラギ国』の状態も報告しておいたらいいんじゃないでしょうか。皆さんは『ユラギ国』に派遣されていて、宙賊に拉致されたのですから、拉致直前の『ユラギ国』の状況もご存じでしょう?」

「はい。それはひどい有様でした。」

 トクワキが目を閉じ、その時の状況を思い出したように、顔をしかめて言った。「数年前から宙賊の活動は活発化していましたが、それは数隻の戦闘艇が宇宙船を、どの星系からも離れた宙域で襲うといったものだったのです。ところがある時、我々が滞在していた『イヌチヨーナ星系』に、数百隻もの宙賊の戦闘艇が徒党を組んで襲い掛かって来たのです。」

 話す内にその時の恐怖までが蘇ったのか、トクワキの指先は微かな震えを見せ始めた。

「先日もお話があったように、宙賊とは数百隻で一斉に行動するような組織力や統率力などは持たないものです。ですから、誰もそんな攻撃は予想しておらず、その為に『イヌチヨーナ星系』は、奴等に蹂躙されることになりました。住居用コロニーになだれ込んで来た彼らは、破壊と掠奪と殺戮の限りを尽くしました。女子供までが、容赦なく殺されたり連れ去られたりする惨状で、抵抗を試みた男共に至っては、一人残らず血祭りにあげられました。」

 普段は毅然とした姿勢を崩さないシャラナですら、それを思い出しては顔を伏せずにはいられないようだ。

 強い憤りを纏った言葉が、ユーシンから洩れる。

「そんな非道を、機構軍が看過するはずがありません。たとえ同盟していなくても、たとえ機構軍を嫌い抜いている国の民であっても、その惨状を報せれば、何らかの行動を起こすはずです。」

「といってもなぁ」

と話し始めたバルベリーゴは、少し困惑気味だ。「被害を受けた『ユラギ国』自体が、被害の存在を認めなきゃあ、機構軍も動きづらいぜ。」

「でも」

 ユーシンは食らいつく。「自国の民を見殺しにする行為を機構軍は、国家による虐待と考えるケースもある。いずれにしても、被害の実態を示せれば、被害にあっている人々を救済する行動には、出てくれると思うんだ。」

「まぁ、そこは、五分五分かな。しかし、それと『ヤマヤ国民』を拉致した件がセットになりゃあ、機構軍は動くか・・。何にしても、通報だけはやっといて損はねぇな。どっちの問題も。」

と、バルベリーゴは結んだ。

「後は、『コーリク国』に踏み込んでもらえるかだな。今確実に宙賊と『コーリク国』の繋がりを示せるのは、奴隷商人に『コーリク国』が買い取りを申し入れたって事だろ。ならば、奴隷商人にも証言を依頼しておくべきだよな。オヤジ。」

「そうだなぁ。また今度、奴隷商人に連絡を取って交渉してみるとするぜぇ。だが、それも後の話だなぁ。そろそろスペースコームの状態観測が終わって、次のジャンプが出来る時間だぁ。仕事するぞ、ガキィ。」

「おうっ、もう5時間経ったのか。よし。11回目のジャンプと行くか、オヤジ!次のジャンプでヘラクレス第1回廊は走破だ。そしてその後は、第3回廊での旅が始まるんだ。」


 ジンジンする頭を片手で押さえながら、ユーシンは報告した。

「ワープアウト完了。各部異常が無いか、点検を開始せよ。・・う、やっぱり、きついなぁ。」

「ワープアウト座標は目標と一致。スペースコームジャンプ、成功を確認致した。ぬおおぅ、こたえるものだわい・・。」

 何千回もワープを経験しているはずの、ベテランの通信探索長ラオも、報告の後にはうめき声を漏らした。痛いとか苦しいとかいうのではないが、ワープには独特の不快感が伴う。脳味噌と内臓を一旦取り出され、また乱暴に戻して来られたかのよう、とでも言おうか。

「はい、オヤジ。健康状態に問題なし。」

「おう、あんがとよぉ、ノノ。」

「次、サヒーブ君ね。」

「あ、ああ。お・おぁ・・お、お願いしま・・あす。」

「もっと力抜いて。」

「ひゃあっ!はいっ!つんまてん。」

(サヒーブのヤツ、あんなに緊張しなくても。ノノを前にしたら、あいつ、いつも、カチンコチンだなぁ。)

 他人(ひと)の様に呆れ顔をしているユーシンは、クレアを前にした自分の事を、棚に上げていた。

「はい。問題無し。」

「アマリニカトオゴザイマス。」

 有難う御座います、と言ったつもりであろうサヒーブは、終わったら終わったで、名残惜しそうにノノの背中を見送っている。

(話がしたいなら、もっと気楽に話し掛ければいいのに。ノノは気さくな()なんだから。)

 そう思うユーシンは、クレアに話し掛けられない自分を、棚に上げていた。

「はい、ラオさんも問題無し。」

「毎度、ありがたく思うぞ、ノノちゃんよ。」

「はい。でも、お触りは禁止。」

 検査を受けるどさくさに、背中に手を置いて来た通信探索長に、ノノがチクリ。でも顔は、穏やかな笑顔のままだった。

「ぬわっはっは、参った、参った。言われてしもうたぞ。」

「そうやって嫌われて行くのよね、オッサンって。うふふっ。」

「それを言ってくれるな、キムルよ。ぬわっはっはぁ。おぬしだって、検診を受けておる間に、ノノちゃんの色んな所を触るではないか。」

「私は良いに決まっているでしょう。女同士なんだから。ねえ、ノノちゃん。」

「少し、困ってる。」

「あら?お・・おほほほ・・」

「そら、見てみろ。キムル。ぬわっはっはぁ!」

 そうやって、ベテラン仲間と笑いを交し合っているラオは、至近距離から放たれるサヒーブの、殺気の(こも)った視線には、気付いていないようだ。

「はい、ユーシンの番ね。」

「うん、毎回大変だな。ワープの度に、全員の健康チェックだなんて。」

「ううん、何でもないよ。・・あああっ!ユーシン!これって・・」

「えええぇ!? 何かあったのか?」

「すこぶる健康。」

「・・コラァっ!ノノ。」

「ふふふ。はい次、マルコ。」

「待ってたよぉー、ノノちゃーん。やっと俺の番だ!よろしく!」

「検診は、静かに受ける事。」

 ほとんど異常を見つける事は無いのだが、ワープ後の検診は必須だった。聞くところによると、ワープ後に内臓が一つ消失していた、という事もあったそうだ。ワープ時の回転軸の僅かな歪みにより、船内の時空に無理な力が加えられた事が、その原因らしい。とはいえ、詳しい機序を知る者はいない。

 ワープ時には宇宙船も人体も、一旦素粒子レベルに分解され、ワープアウトポイントで再構成されるという説もある。そうなると、ワープインの時のユーシンと、ワープアウト時のユーシンが、同一の存在であると言い切れるもかどうかも怪しくなる。が、この時代の人々は、そんな事を気にしないように、自らに言い聞かせているのだ。心配しても、仕様の無い事だから。

 とりあえず、今回のワープでは、「ウォタリングキグナス」船員の誰にも、健康被害が無かった事が、確認された。

(全員健康だが、何人かは阿呆だな。)

 それがユーシンの、診断結果だった。

「それじゃぁ、検診が終わった人から、メンテの手伝いを始めてちょうだい。」

 キムルの号令で、また大勢刈り出してのメンテナンスが始まった。今回は、ユーシンは操船室の中でのメンテだ。船外作業は交代で実施しているのだ。

「ええ!シャラナ様、次の『ソリアノ』で、降りてしまわれるのかぁ!」

 悲痛な叫びをあげたのはジャカールだ。最近ユーシンが、メンテに際してコンビを組むメンテ要員だ。少し年上だが、ほぼ同年代だ。

(様って・・)

 乗船当初から人気を博していたシャラナだったが、このところは人気があるというのを通り越して、崇拝を集めているとも言うべき状況だった。

「そんな・・そんな・・シャラナ様・・。」

 ジャカールの事は放っておいて、テキパキとメンテを進めるユーシン。

「電子制御系、動作確認完了。問題無しだな。」

「こっちもよ。配線の通電確認完了。・・それで、あんたシャラナさんを、機構軍の事務所まで送ってあげるの?『ソリアノ』に着いたら。」

 メンテ用の機器を片付けながら、ニコルはユーシンに尋ねた。

「ああ、オヤジと一緒に行って来るよ。中心にある政治行政コロニーの一角に、事務所を構えているらしいな、機構軍は。」

「え、俺・・、俺も付いて行ったら・・」

「ジャカール。そんなにぞろぞろ、大勢で行くようなものじゃ無いでしょ。」

 ニコルに一括されて、引っ込んだジャカール。

「しかし、彼の地で帰化申請するとなると、順応訓練など、色々面倒も多いのであろうなぁ。」

と、横合いから言って来たのは、ラオだ。

「でも、他の国と比べたら、だいぶ簡素に済ませられるはずだけど。」

 ユーシンが応じた。

「そうであるのぅ、労働者を大いに欲しておる国ゆえ、他国に比すれば、帰化の手続きは簡素なのであろう。とは言え、やはりひと月程度は見ておかねばならんのではないか?」

「そうねぇ」

 ニコルも言った。「長いところだと、1年くらいかけて、専用の施設に缶詰にされて、順応訓練とかさせられる場合もあるわよね。特に地球系の国に、宇宙系の人が帰化しようとしたら。宇宙系の国でも、地球連合勢力外の国の人が、連合勢力の国に帰化する場合は、かなり時間をかけて順応訓練をやらせるそうよ。」

 地球連合とは、地球上の国々や、宇宙にある地球からの移民が樹立した国々によって作られた、協力と利害調整の機関だ。それに付属する治安維持組織として宇宙保安機構があり、それが保有する実力行使部隊が、宇宙保安機構軍だ。地球連合と同盟を結んでいる宇宙系の国々を含めたものが地球連合勢力と呼ばれており、宇宙保安機構軍の防衛と保護の対象となっている。

「そうなのか。順応訓練の前に、宙賊に拉致された事や『ユラギ国』の惨状を通報させてもらえれば、それでも問題は無いと思うけど。」

と、ユーシンは言ったが、

「どうかのぅ。順応訓練が終わっとらん者の(げん)は、信用ならんと言う考え方もあるのだぞ。」

とのラオの意見が出された。

「いずれにせよ、我らは『ソリアノ』の後には、『カーネラ星団』に向かわねばならんのだ。シャラナ殿達の事にせよ、『キークト星団』の諸問題にせよ、いつまでも構ってはおられんのであるぞ。我らの商売を成し遂げねば、我ら自身も食っては行けんのであるからな。」

「分かってる。俺達にしてあげられるのは、『ソリアノ』の機構軍事務所に、送って行ってあげるところまでだ。」

 ユーシンは、自分に言い聞かせるように呟いていた。


 宇宙艇の先端からは無数の電子が、前方空間に向けて打ち出されている。それにより、そこら辺りに漂う水素分子はイオン化される。宇宙艇からは、数㎞に及ぶ長いアンテナが、何本も繰り出されており、イオン化された水素はそのアンテナで捕集され、宇宙艇内の専用容器に蓄えられて行く。

「上手いじゃないか、ユーシン。やはり見込んだ通り、素質あるよ。」

「サンキュー、ファランクス。でも、こんな簡単な作業で素質有りとか言われてもなぁ。」

 ユーシンの宇宙艇操縦訓練を兼ねて、水素分子の捕集の為に、彼等は宇宙を飛び回っていた。

「アデレード、そっちはどのくらい溜まったんだ。」

 ファランクスに尋ねられ、

「サトマンズ、どうだ。」

と、新たな相棒に質問を転送したアデレード。

 宇宙艇は基本的に2人乗りであり、普段はファランクスとアデレードがコンビを組むのだが、今回はユーシンが訓練の為にファランクスと同乗しており、アデレードの相棒はサトマンズという宇宙艇操縦要員だった。彼もユーシン達とは同世代だ。若年層と高齢者が大半を占めるのが、「UF」という宇宙貿易商社なのだった。

「8割方溜まったぞ。まだ捕集を続けるのか?」

「どうする?ファランクス。この辺で引き上げても良いかも知れないぞ。」

 サトマンズの報告を受け、アデレードはファランクスにお伺いを立てた。

「満タンになるまで捕集しよう。誰かさんが『アマテラス』を乱れ撃ちしてくれたおかげで、『キグナス』はエネルギー不足だからな。」

「5発だけじゃないか!」

 笑みを含んだ叫びを、ユーシンは返した。「たったの5発で、乱れ撃ちは無いだろう。それくらいで、エネルギー不足になってたまるかぁ!」

「お前、甘く見るんじゃないぞ『アマテラス』の消費電力量を。銀河最大の出力って事は、消費電力も、銀河最大なんだからな。」

「それにしたって5発くらい、物の数じゃないだろ、ファランクス。今集めた水素で核融合すれば、百発分くらいのエネルギーにはなるはずだぜ。」

「おおっ!そういう計算できるんだな。関心関心。はっはっは」

「バカにすんなぁ!アデレード!アハハハ」

 笑い声を振り撒きながら、2隻の宇宙艇は銀河を舞い飛んだ。

 1時間後には「キグナス」に帰り着ていたユーシンは、再び操船室のシートを温めた。

「ワープインシーケンス開始。」

 そう叫んだのは、だが、マルコだった。操船は交代でやっているのだ。ユーシンはいざという時の為に予備のシートにいて、ドーリーは非番だ。多分寝ている。

「うー、これがきついんだ。」

 「キグナス」が回転運動を始めると、ユーシンは低く唸った。「何で回転しなきゃいけないんだろ。ワープの瞬間の違和感もきついけど、この回転運動もこたえるんだよな。」

「あっはっは。我慢しろ、ガキィ。俺も、何回やっても慣れねぇが。こいつを我慢しなきゃ、宇宙は渡れねぇんだからなぁ。」

「この回転さえなけりゃな。何で回転なんかしなくちゃ・・。って言うか、何でこんなんで、ワープが出来ちまうんだろうな?オヤジ。」

「あっはっは。そんなもん、誰も知らねぇよ。経験則だ。スペースコームの中で、直線速度と直線加速度と、回転速度と回転加速度と、そして強磁場。これらを揃えてやると、物体がワープするってなぁ。まぁ、『ソリアノ星系』まで、あと2回のジャンプだ、辛抱しやがれ、ガキィ。」

「乗員は衝撃に備えよ!『キグナス』、ジャンプ!」

 マルコの叫びと共に、また脳と内臓が取り出され、戻される感触。

「ううっ」

「うへぇっ」

と、そこここからのうめき声と共に、「ウィーノ」を出てから31回目のスペースコームジャンプが終わった。と、同時に、ノノはまた、操船指揮室の面々の健康診断を始める。

「はい、副船長問題無し。次、サヒーブ君。」

「パ・・ぱい!」

(相変わらず、カチコチだな。)

 サヒーブの様子を見ながら、ユーシンがそう思っていると。

「あっ!サヒーブ、緊急通信だ。」

 サヒーブの隣で、同じく通信探索要員のコージンが叫んだ。

「ごめんね、ノノちゃん。ちょっと・・」

 優しく、しかし機敏にノノの両肩を持って少し横に押しやり、サヒーブもコンソールにかじりつく。

「オヤジ!機構軍から救援要請だ!」

 報告したのはコージン。

「なにぃっ!? 機構軍が、救援を求めているだと!」

と叫ぶバルベリーゴ同様に、ユーシンも驚きを感じていた。普通は、商船の方が機構軍に救援を要請するもので、機構軍は、戦闘参加を要請する事はあっても、救援を要請する事など滅多に無い。

「何があったのかなぁ?機構軍が救援を乞うだなんて、あたし聞いたこともないよぉ。」

と言ったのは、武装管制席に着いているメンテ要員のトアだった。

「とりあえず、救援に駆けつけるぞ!オヤジ。」

と、勇み立って言ったマルコ。

「当たり前だぁ!俺たちゃ、半軍商社だかららなぁ。それに、ここで駆けつけなきゃ、『ケンカ腰の白鳥』の名が(すた)るってもんだ。ガキ共ぉ、この喧嘩、買いに行くぞぉ!」

「おっしゃぁ!」

 指揮室に雄叫びが上がる。

「船内全セクション、戦闘態勢に入れ!」

 副船長のチェリオが、コンソールを操作して船内放送を掛けた。

「総員衝撃に備えろ!『キグナス』、スラスター全開で緊急加速!」

「ごめんね、ノノちゃん。検診は後でね。」

 サヒーブは、ノノの背中を抱きかかえるようにして、医療要員用のシートにまで連れて行き、ノノの体がベルトで固定されるのを、最後まで見届けた上で、再び通信探索用シートに戻った。万が一、ノノがシートに戻る前に加速が始まった場合に備えての、サヒーブのノノへの気遣いだった。

(検査を受ける時は、あんなにカチンコチンのくせに、緊急の場面では、滅茶苦茶落ち着いて、丁寧な対応が出来るんだな、サヒーブのヤツ。言葉づかいまで、流暢になっていやがった。)

 ノノも少し頬を赤らめ、うっとりした視線でサヒーブの方を眺めている。

(男たるもの、こうでなくっちゃ!)

と、ユーシンは思った。そして、男たるもの、闘いに臨むにあたっては、奮い立たねばならない。指揮室前部のモニターに、鋭い眼光を叩き付けたユーシン。

(さあ、喧嘩だ。)



今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿もここまでです。次回の投稿は、'17/5/12 です。

さて、「ヤマヤ」の人達のこれからや、キグナスクルー達の人間模様の進展に含みを持たせつつ、目の前にも戦闘が迫ってきました。遠くの世界にも、近くの空間にも、解決すべきことや乗り越えるべきことが、たくさんある感じです。一方で、ユーシンとクレアの展開は、あり得るのか?何千光年も離れてしまいましたが。というわけで、

次回 第29話 奮闘する白鳥 です。

「ウィーノ星系」外縁に続いての戦闘ですが、機構軍が救援を求めてくる程の事態です。キグナスクルーは、どんな活躍を見せるでしょうか。ご期待頂きたいと思っております。

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