第22話 出航準備完了
「おう、ユーシン。早かったな、ご苦労さん。」
カードキーを受けとりながら放たれた、バルベリーゴの一言は、ユーシンを驚かせた。
(早かった?)
気も遠くなる程に手間取ったと思ったが、体内時計は狂いまくっていたのかもしれない。
受け取ったバルベリーゴは、ユーシンが声を掛ける前と同じ方向に視線を戻した。そこにはニコルとキムルがいて、「キグナス」の眼を検査していた。船首部分にあるレーダーや通信のアンテナのメンテナンスだ。何やら呟いたニコルの言葉に、キムルとバルベリーゴが笑い声をあげた。娘とその両親かと思うような、和やかなムードが沸き立っている。
ふとその情景が、ユーシンにある質問を、バルベリーゴにぶつけさせた。
「オヤジ、隠し子が居るのか?このコロニーに。あと、愛人も。ニコルが昨日見たってよ。」
ものすごい勢いで振り返り、驚愕の表情でユーシンを睨み付けたニコル。事の重大性への認識が、彼と彼女で違い過ぎたようだ。
バルベリーゴは、ほんの短い時間目を丸くしたと思いきや、
「あっはっは、隠し子だぁ?愛人だぁ?あっはっはっは。こいつはまいったぜぇ。」
と、呵々大笑。それに重なって、キムルの「おーっほっほっほ」といった笑い声も聞こえる。
「もう、船長ったら。あんたがちゃんと話をしておかないから、また、こんな誤解を受けてるじゃないの。何度目よ?こんな事言われるの。」
とのキムルの言葉に、
「そんな事をよぉ、いちいち言わなきゃいけねぇもんなのかぁ。キムルよ。」
と応じた。
「それはそうでしょ」
キムルは続ける。「家族みたいなものなのでしょう?その人達。そしてこの子達も、あなたの養子なのだから、関係ないでは済まないわよ。」
そう言われ、バルベリーゴはユーシンに向き直り、説明し始めた。
「あれは、戦死したかつての部下の、女房と子供だぁ。色々大変そうだったんで、住む場所や働き口を、世話したてやっただけだぜぇ。それだけの間柄だぁ。愛人でも隠し子でもねぇんだぜぇ。」
ユーシンはニコルに目をやった。黙ってぷいと横を向いた彼女だが、幼馴染のユーシンには「しーらない」というニコルの内心の声が、はっきりと聞こえていた。
「機構軍はね、」
言葉が足りないと感じたか、キムルが補足を始めた。「戦死した正規兵には十分な遺族年金を支給しているのだけど、非正規兵には何の補償もないのよ。だから非正規兵が戦死した場合、その家族は苦労するものなの。だから、かつての部下で、非正規兵に留まってる人が戦死したら、船長はその家族の生活が成り立つように、面倒見てあげたり、相談に乗ってあげたり、するようにしてるのよ。」
「え?戦死っていつの事だよ。子供は3歳くらいとか言ってたぞ。なあ、ニコル。」
「う・・うん。それくらいだった。」
少しバツが悪そうに答えたニコル。
「死んだのは、2年くらい前だなぁ。昨日、このコロニーにあるバーで会った女の、亭主に付いて言えばよぉ。」
その答えに、不思議そうな表情で応じるユーシン。
「2年前って、退役して8年も経ってからの事だろ?もう部下じゃ無いじゃないか。」
「何年経っても、肩書がどう変わっても、部下は部下だぜぇ。その家族は、俺の家族も同然だぁ。まぁ、部下の女房を嫁だの愛人だなどと思う訳はねぇが、奴らの子供は、俺の子供でもあると思ってるぜぇ。あ、いや、孫かなぁ。となれば、お前らはあの子の、おじさんとおばさんて事になるなぁ、ユーシン、ニコル。」
「げぇぇっ、おばさん!15よ、あたし。15歳でおばさんは止めてよ!」
「そうか」
ニコル程は、おじさんにされた事に頓着のないユーシンは言った。「そんな事言ってたら、この銀河に何人孫がいるんだよ。オヤジ。」
頭を掻きながら答えるバルベリーゴ。
「さぁなぁ、何百・・千超えるか?かつての部下の子供って言ったらよぉ。まぁ、面倒見てるのは、非正規兵で戦死した連中で、生活の目途が立たねえェ家族だけだからぁ、それに限れば4・50人くれぇかなぁ。」
養子にした宇宙孤児でも30人程はいるのだ。そして戦死した非正規兵の部下の子供である孫が4・50人、合わせれば百人に迫る大所帯だ。その大所帯の1人として、今まで彼に支えられて来たのだと知ったユーシンは、呟いた。
「俺、早く『キグナス』のお荷物から、戦力にならないと。その大所帯の中で、支えられる立場から、支える立場にならなきゃな、早く。」
明日から始まる旅の意味が、ユーシンの中で目まぐるしく変化して行った。
「おうよ、しっかり働いてもらうさ、お前らにはな。」
ユーシンの想いをどこまで汲んだか定かではないが、バルベリーゴは言った。
「そうそう、それで、明日出航だから、航宙指揮室でミーティングするんでしょ。船長。」
「おう、そうだそうだ。忘れてたぜぇ。」
バルベリーゴは、また頭を掻いて言った。「航宙指揮室に詰める連中と、あと幹部達で、指揮室に集まってミーティングするんだった。よし、行こうかユーシン、キムル。ニコルは悪いが、ここでメンテの続き頼むわ。」
そう言ってバルベリーゴは、リーディンググリップに引かれて飛翔して行った。
「あいよ。」
「はぁい。」
と、ユーシンとキムルは後を追って行く。「キグナス」の中腹にある航宙指揮室だが、船尾にある入り口から入らないと、たどり着けない。船首から船尾まで飛翔し、そこから船の中腹を目指す回り道をしなければならない3人だった。
バルベリーゴの後に続いて、指揮室に入ったユーシンの目に最初に飛び込んで来たのは、通信探索要員の面々だ。ラオ・ホアンを長として、アニー、サーヒブ、コージン、マンダンガスという名の5人が集っている。アニーだけが女性で、後は男だ。航行中は、5人が同時にここに詰める事は無いだろう。交代で常に2人が、そこのシートに着いているはずだ。
無重力だが、一応、床と天井は決められているので、天井方向が上、床方向が下となる。シートは床に固定され、その前にコンソールが設えられている。上下が固定されると、進行方向に対する左右も決まる。ユーシン達は航宙指揮室の左後ろの扉から入って来て、指揮室左側に座を占める通信探索席にぶつかったのだ。その右手に見える、部屋の後部中央には船長と副船長のシートとコンソールが並んでいる。船長席と副船長席に、見た目の差は無い。
その前に操船用のコンソールとシートが、これも2人分並んでいる。全く同じ造りだ。どちらか片方だけが操船することになるが、スイッチ一つで切り替える事で、いつでも交代できるようになっている。ドーリーとマルコが先に席に着いていたので、ユーシンはその近くで漂流させられた。
船長席の右には武装管制席があるが、普段はメンテ要員の控え席として使われることになる。商船だからそう滅多に武装が使われる事は無く、機器の不具合に備えてメンテ要員がその席に常駐することになっている。
だが、いざ戦闘になった場合には、メンテ要員がその任に当たる事が多い。商船に、武装管制の専任要員はいないのだ。ちなみに「アマテラスマークⅢ」の射撃管制は操船席にある。
ユーシンの後から入室したキムルは、その2つある武装管制席の1つのシートに体を固定した。キムルの隣のシートには、同じくメンテ要員のベテランであるシャギットという男が、既に席に着いている。
操船席の前にはホログラム投影機があり、直径3m位の球状映像の中心に「キグナス」を示す光が置かれ、船の周囲の状況が、そこに図示される。「キグナス」を後方から見たような状態を、指揮室の要員はそのホログラムで視認することになる。
今は「ウィーノ」のコロニー群や、そこに出入りする幾多の商船、漂流天体等がそれぞれ違う色の光点として映し出されているが、それは「キグナス」のレーダーが捕えたものでは無く、「ウィーノ」から提供されるデーターが反映されたものだ。このホログラムには、「アマテラス」のレーダーからのデーターと、外部より通信などでもたらされたデーターが、総合されて投影されるのだ。
ホログラムの上にも、幾つかのモニターが並んでいる。状況に応じて、そこに投影されるものは切り替えられることになる。
「各セクション、問題はねぇだろうなぁ。」
船長席に、どっかと体をぶつけてベルトで固定したバルベリーゴが、声を張り上げた。隣には副船長のチェリオ。その後ろにも座席があり、船医のギボンズとノノが座っていた。彼等にはコンソールは無いので、シートの前の空間は開放的だ。その空間に今は、コロンボとファランクスが、ふわふわと浮かんでいる。宇宙艇要員の彼等には、この部屋に座席は無い。
ファランクスはしきりにノノに話しかけていたようだが、バルベリーゴの声を聞くや、声の主の方に視線を向けた。
「問題ねぇ。」
「こっちもだぁ。」
のんきな調子の返事が幾つも返った。
「各部署との打ち合わせも、積荷の確認も、すべて完了しておる。」
堅物な副船長のチェリオは、堅苦しい声色で報告。
「次の行き先は、『タクムス星団』の『ソリアノ星系』だが、最短距離じゃ無く、少し回り道して、宙賊が頻出してるエリアを通って行く事にした。パトロールがてらってやつだ。機構軍から要請があったんでな。航路情報は入手してるな?ドーリー。」
「あっしゃっしゃ。このユーシンをこき使って、すっかり完了しておるぞい。」
ユーシンは首をすくめる仕草。
「ワープアウト予定カ所の詳細も策定しておるでのぉ、当該宙域の探索と警戒を頼むぞい、ラオや。」
「任せろ、ジイさん。順調に進んでおるな、サーヒブよ。」
通信探索長の問いに、5人で固まっていた要員の1人が、大きく頷いた。
「ワープアウト時のメンテスケジュールも早急に策定して提出するわね、ドーリー。」
「あっしゃっしゃ、待っておるぞい、キムル。」
「何もかも順調のようだなぁ。まぁ明日出航なんだ、そうでないと話にならんがなぁ。みんな体調の方も万全だな?楽しい旅にしてぇんだ。こんなタイミングで、病気や怪我なんぞしてくれんなよぉ。」
「みんな健康よ、オヤジ。」
船医に変わってノノが答えた。船医が話すところをユーシンは見た事が無いが、航宙指揮室の大半も無いと言っていた。さすがにノノは、何度も話しているそうだが。
「なんだよ、大げさにミーティングとかぶちあげたが、順調すぎて話す事がねぇじゃねぇか。えぇ?キムル、どうしてくれる。」
「何であたしに当たるんだよ、船長。結構じゃない、順調で。」
「新人が大勢入ったからといって、普段やらぬことをやるから、こんな間抜けな事になるのだ。まぁ、順調な事を確認する為のミーティングだと思えば、やった意味はあるかもしれぬがの。」
キムルとチェリオが、相次いで船長に言葉を浴びせた。
「それは良いんだぁ。今ここで、あと何をしゃべれば良いか聞いてんだぜぇ、俺は。」
そんなやり取りで、指揮室にある全ての顔がほころんできた。
「隠し子の成長でも報告すれば。」
「だぁからぁ、隠し子じゃねぇって言ってんだろぉ。嗚呼、どいつもこいつも面倒くせぇ。」
とうとう笑いで埋められた指揮室。そこへ、
「おっ、集まってるな。ちょっと失礼するよ。」
と言って入って来たのは、クロードだった。その後ろでクレアも飛翔している。ユーシンは、何故だか少し、ぎくりとした。
「明日出航と聞いたのでな。ひと言、話をさせてもらって良いかな?」
バルベリーゴが頷くのを見て、クロードは語り始めた。「皆また、一稼ぎ頼むよ。この『テトリア』の周辺にも宙賊が出没するようになった。先日には『ウィーノ星系』内でも、船長とそこのユーシン君が襲撃を受けたという。ユーシン君の見事な操縦と、『1-1-1』の迅速な救援で事無きを得たがね。」
クロードはユーシンに向かって腕を伸ばし、手のひらを大きく広げて見せる事で称賛の意を示した。ユーシンは、クレアの方を見ないようにしつつ、クレアの反応を気にしている。
続けて話す、クロード。
「更には、次に諸君が向かう『ソリアノ星系』付近でも、宙賊の出没が著しいという。こんな状況こそ、我らが半軍商社の稼ぎ時だ。一般の商船では危険で入れないような宙域でも、この重武装の商船で、そして半軍であり機構軍の早急なる救援を期待できる我々なら、存分に活動が出来るからな。そういった危険宙域でのビジネスチャンスを独り占めにして、莫大な利益を「UF」にもたらして欲しい。」
ひと呼吸置いて、指揮室の顔ぶれを見渡し、そしてスピーチを再開した。
「命の危険を顧みない諸君ならば、これらの宙賊が跳梁する宙域に潜む、莫大な利益の源泉を見つけ出し、掴み取って来てくれると信じている。諸君、健闘を祈る!」
これだけを聞くと、いかにも人命軽視の経営という感じだが、銀河の繁栄と平和の為に、引き受けるべき危険を、引き受けてくれと言っているのだと、ユーシンは理解した。もっとはっきりそう言えば良いのにとも思うが。
クロードに続いて、クレアも話し出した。
「危険な宙域にも勇気をもって立ち向かい、「UF」の為に頑張ってくださる皆様を、とても誇りに思います。そして、感謝しています。行ってらっしゃいませ、『ウォタリングキグナス』クルーの皆様。」
無事に帰って来て欲しいとか、無理はしないで下さいとか、そんな事は口にはしなかった。命と引き換えにしても利益をもたらすという経営方針の商社の幹部には、そんな言葉を口にする事は許されないのだろう。だが、スピーチ中のクレアの瞳を見て、無事に帰って来て欲しいという心情を汲み取れない者がいたとしたら、そいつは人間じゃないとユーシンは思った。言葉には出さなくとも、その瞳から、クルー達への愛情と憂慮は溢れていたのだ。
クロードはスピーチを終えると引き下がったが、クレアは話し終えると、バルベリーゴに向けて手を伸ばし、握手を求めた。両手で挟み込む様な握手だ。
「おう、嬢ちゃん。行って来るぜぇ。ちゃんと土産を、持って帰るからなぁ。」
「ええ、約束ですわ。土産を持って、帰って来るって。」
“帰って来る”の方にアクセントが置かれていることの意味は、もはや語る必要も無い。
服船長チェリオとも握手した。順番に全員と握手するつもりのようだ。通信探索長ラオ、同要員アニー、サーヒブ、コージン、マンダンガスが、順にクレアの手の温もりを与えられて行った。それぞれ、ひと言のエールを添えて。
一人一人と握手を交わして行くのを見ながら、なぜだかユーシンは、いつの間にやら、(いち、に、さん)と、握手の長さを内心で数えていた。握手が進んで行き、通信探索要員達をすべて消化し、操船要員へとクレアは移って来た。
マルコがクレアの手を握る。
「それ、新しいネックレスですわね、お似合いです、マルコさん。」
「有難う、お嬢様。」
と、言葉が交わされた。
ユーシンンは(いち、に、さん)と数えた。
ドーリーがクレアの手を握る。
「まだまだお若いですわね。ドーリーさん。」
「あっしゃっしゃ。嬢ちゃんに言われると、元気が出るわい。」
ユーシンは(いち、に、さん)。
そして遂にユーシンの番だ。長くしなやかな指が、彼と彼女を隔てる空間を切り裂き、ユーシンの右手を求めて、突き進んで来た。ようやくにしてたどり着けたとでもいうのか、焦れたように、急くように、加速度を付けて、その指は屈曲して行き、ユーシンの右手に絡まりついて来た。
先に湿度を感じた、と、思う。温野菜もかくやという、しっとりとした感触。温度が後を追って来た。一番心地良い温度に、即座に、到達したと感じる。
彼女の手のひらの全ての部分は、既に彼の手のひらとの接触を果たし終えたというのに、まだまだ指の屈曲運動は留まるところを知らず、痛いと感じる一歩手前までの、計ったように絶妙な圧力を、彼の右手の骨に検出せしめた。
その圧力がもたらすものは、彼に注ぎ込まれる彼女の湿度と体温の、恐るべき勢いの上昇だった。骨から浮き上がってしまう程に筋肉が弛緩して来たところに、更に彼女の左手までが、甲の側から、これまた絶妙な圧力で、彼の右手を包み込んで来たから、さあ大変。
もはや、彼の右手は溶解寸前だ。彼女の、両手から注ぎ込まれるに至った湿度と温度で、液化してしまうのも時間の問題かと思われた。
ユーシンの視線がクレアの瞳を捕えた事で、ようやく右手の液化問題は留保された。だが、目から来る刺激と手から来る刺激で、ユーシンの胸の奥にこそばゆいような塊が発生し、乱舞し始める。口を開けたら、何かを迸らせてしまいそうな程だ。新たな問題の発生だった。だがそんな問題も、耳に届けられたクレアの言葉で、何とか留保された。
「スペースコームにおける、初めての航宙ですわね。あなたなら必ず、『キグナス』を乗りこなして下さいますでしょう。」
「ハ、ハイ。ガ、ガ、ガンバリマス。」
と、舞い上がってあたふたする一方で、心の中では、
(いち、に、)
と、さっきまでの勢いで、意味も分からずに握手の長さを数え始めていた。
が、
(・・さん・・し・・あれ?)
右手の液化問題と、口から何かが迸る問題が再燃して来る。
(・・ご・・あらら?・・ろく・・ええ?)
溶けてしまう、迸ってしまう、そんな焦りがユーシンの胸中を駆け回る。
(・・しち・・うそぉ・・)
今まさに溶けようとしていた。今まさに迸ろうとしていた。
(・・・・はち・・わぁああ!・・)
と、ようやくそこで、手に加えられた圧力は減少傾向を示し始めた。そこからクレアの手が離れて行くまでは、あっという間だった。溶けたり迸ったりの危機感におののいていたユーシンの心は、今度はその湿度と温度への名残り惜しさに、手の位置を戻す事も忘れて、離れて行くクレアの側頭部を、茫然と凝視していたのだった。
クレアが次のキムルと握手し始めても、ユーシンは右手を握手位置に留めたまま、今の出来事を脳内で反芻し続けていた。
(いま、はち秒だったぞ。皆3秒なのに、俺の時は8秒。舞い上がって、だいぶテンポアップして数えていたのかな?・・でも、それにしても8秒は長いだろ。テンポアップしてたにしても、確実に俺だけ、長めに握手されていたぞ。)
「あっしゃっしゃ、ユーシンよ。握手はもう終わっておるぞ。手を戻さんのか?」
そんな指摘をされて赤面したユーシンだったが、クロードとクレアが出て行った数分後、重大な失態に気付き、自分への憤慨に、もっと顔を真っ赤にする事となった。
(しまったぁぁぁっ!また、胸元の具合を確認するのを、忘れてしまったぁ!出航前のラストチャンスだったのに!なぜ思いつかなかったんだ!なぜ、全くそこに意識が行かなかったんだ!視界には絶対入ったはずだ。スピーチの間なんて、ちょっと意識すれば、いくらでも拝めたはずだ。なのに、一瞬たりとも意識する事は無かった。執務室前の通路では、あれだけ気になっていたものを、視界に入ってすら意識しなかったって事は・・・、相当小さいのか?いやいや、そういう問題じゃない!大きさは関係ない!何で意識しなかったんだぁ!俺の馬鹿野郎ぉ。)
出航を明日に控えた1日が、ようやく終わりを迎えつつあった。ベッドに腰かけながらユーシンは、少しうんざりするキプチャクの話を聞かされていた。
「・・・てな感じで、地球系の女のサービスはよお、最高だったぜ。もう5回も行っちまった。すっかり常連だぜ、俺、あの店の。」
そんな聞きたくも無い、いかがわしい店の体験報告から、何とか話題を変えようと、ユーシンは思いついた事を手当たり次第に口に出した。
「ボス・クロードは、お前のところにも出航の挨拶に来たか?」
「え?ああ、来たなぁ。出航の挨拶だったのかな?あれって。」
首尾よく話題が変わって、胸をなでおろしたユーシン。キプチャクは気付かず続ける。
「まぁ、出航準備ご苦労、みたいな発言もあったかな?それより、『ヤマヤ』の虜囚達の事、気にしていたかな?この前虜囚達と話した時の事、色々聞かれたよ。まぁ、直ぐに諦めたみたいだったけどな。」
「ボスが?あの人たちの事を?」
ユーシンは身を乗り出した。少し意外な気がしたのだ。
「彼らが助かりそうな兆候が無いか、知りたがってたな。なんでも、お嬢様が彼らの事で泣いてしまって、困り果ててる様だった。それに、「UF」のヤマヤ関係の事業の・・」
「泣いただとぉっ!? お嬢様が?」
キプチャクの発言を遮って、ユーシンは叫ぶように聞き返した。「どう言う事だよ!お嬢さまが泣いたって!!! いつ?どうして?なぜお嬢様が、泣くんだよ!? 」
猛烈な焦燥感がユーシンの胸中を走り回った。自分の知らない所で、お嬢様が泣いた。お嬢様が泣くような何かがあるのに、自分は気付いていなかった。クレアを守り支える事に全てを掛けると誓った彼にとって、それは、何よりも深刻な事態なのだった。未だ行き先の無い膨大なエネルギーが、ユーシンの四肢に漲って来ていた。
今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は、'17/4/28 です。
ようやく出航準備が整い、明日出発というところまで漕ぎ着けましたが、まだひと悶着あるようです。ユーシンは、ヒーローになるのでしょうか?あの人達の運命は?あの人との関係は?気にしてください!うずうずして下さい!というわけで、
次回 第23話 クレアの涙 です。
やはり、少年をヒーローにするのは、惚れた女の涙なのか?で、なんで泣いたのか。やはり、あの人達の事なのか?で、ユーシンはどうするのか。次回以降に、是非ご注目頂きたいです。




