第20話 最強の救援
バルベリーゴが叫ぶ。さすがに鬼気迫る大声。額には油汗。
「当たったら死ぬんだよな!俺達。」
「当たらねぇ!」
「あと3秒!」
「うわぁああっ!」
「うぬぬぬぬ。」
「あと1秒!!!!」
がくんと突き上げる衝動、右に左に上に下に、不規則に、続けざまに、プログラムされたパターンに従い、スラスターが噴射され、シャトルはのたうち回った。乗員の体は、ベルトでシートに固定されているが、何かにしがみついていないと耐えられない。座席の肘置きをぎゅっと握り締める3人だ。それでも首がちぎれそうな程、頭部がでたらめにシャッフルされる。
恐怖を感じる余裕も無い。幸か不幸か。揺れを堪えるのが全てだ。死ぬ前に地獄に着いてしまったのかと思う程の揺れようだ。
こすったような金属音が轟く。
「当たったぞ!今!」
キプチャクの絶叫。
「かすっただけだ!」
怒鳴り返すユーシン。
静寂が訪れた。余りにも突然、前触れも無く。ずっと何事も無く、真っ直ぐに飛んでいたとでもいうかのように。
ユーシンとバルベリーゴの頭は同じ方向に向いていた。が、シートベルトをしていたにも関わらず、キプチャクは座席の中で、頭と尻の位置を入れ替えていた。
「どうやったら、そうなるんだ?」
「知るか。」
姿勢を戻しながら、キプチャクは言い返した。
「どうやら抜けたようだなぁ、ガキィ。どこでこんな芸当、覚えたんだか。」
「へへ。」
笑って済ませたユーシンは、心の片隅で思い、そして、思い出した。
(守るって決めたから、支えるって決めたから、その為の技は身に付けて来たんだ。)
シミュレーターに向かい、機構軍の戦術データバンクにアクセスし、合法とは言えないようなアクセスもあったが、様々なシチュエーションでの操縦訓練を積んで来た。そんな日々が、脳裏に浮かんでいた。大型のものや、スペースコームジャンプをする宇宙船はともかく、小型の宇宙船からシャトルの類は、機構軍が実際に経験した戦闘も含め、様々な状況での操縦をトレーニングしたのだ。こんなところで活かされるとは思わなかったが。
だが、また警報が鳴る。敵レーダーの探知だ。
「追っかけて来てやがるなぁ。しつこい奴だ。」
と、バルベリーゴが言った。
「何が何でも殺る気だな、連中は。さっきの鉄屑も、一つ一つの大きさからして、必殺を期して攻撃して来てるぜ。荷を奪うのが目的なら、壊しすぎないように、もっと小さな鉄屑をぶつけるはずだ。」
ユーシンも続いた。
「全速力で逃げてるんだろう?」
と、キプチャクはユーシンに問いかけた。
「いや、追いつかれるように、ゆっくり飛んでいる。」
「なんだとぉ!」
「おいおい、ガキィ。どういうつもりだぁ?」
さすがにバルベリーゴも喚く。
「そろそろ出てくるよ、救援が。」
落ち着いて言ったユーシン。
「いつの間に救援呼んだんだぁ?ガキィ。敵に位置を知られねぇために、通信は控えてたんじゃねぇのかぁ?」
バルベリーゴは首をかしげる。
「最初にレーダー波を検知した直後に、通報ポッドを射出しておいたんだ。傍受されないだけの十分な距離を置いたところで、そいつが救援要請を発信したはずだ。俺達の進路情報も、暗号で通知しただろう。」
「もしかしてお前、かたくなにスラスターを全開しての回避行動を否定したのはよぉ、救援要請に付け加えた進路情報から、外れないようにする為でもあったんじゃねぇのかぁ?ガキィ。」
呆れ顔でバルベリーゴは尋ねた。
「ああ、まあな。すり抜ける自信があったっていうのが一番だけど。」
「このガキィ、生意気なもんだぜぇ。」
そんな会話の最中、新たなレーダー波探知を告げる電子音が鳴った。だが、警報では無く、ずいぶんソフトな、音楽のような電子音だ。味方と分かっているパターンのレーダー波だったから。
それは断続的に探知され続けた。それも1方向では無く、あちこちで反射したものとみられる同一のパターンが、四方八方から届く。
「全方位連続レーダー照射だぜぇ、こりゃぁ。自分の位置を完全に教えてでも、周囲の状況を熟知しようって態度だなぁ。」
と、バルベリーゴ。通信要請の受領を告げるランプも点灯している。
「正規の軍隊の戦力だな、こんなレーダーを出すのは。『テトリア』国軍のお出ましかな?」
と言ってキプチャクは、スイッチを弾いて通信回線を開いた。スピーカーから声が流れる。
「こちら宇宙保安機構軍所属の戦闘艇、救援要請を受け駆け付けた。要救援者は無事か。」
聞き覚えのある声。思わず叫んだユーシン。
「その声、アドリアーノ少尉か?機構軍が、それも、『1-1-1』が来てくれたのか?」
「その声は、ユーシン・マグレブ君か?やはり『キグナス』関係者のシャトルだったな。半軍商社の救援じゃ無かったら、出番は回してもらえなかったよ。」
「おお!そうかあ!『1-1-1』が来たのか!助かったあ。」
普段は機構軍嫌いのくせに、今ばかりはその登場を、涙を流さんばかりにしてキプチャクは喜んだ。
「そちらの状況は?何か被害は?」
と尋ねて来るアドリアーノに、ユーシンは、
「このままですと、後3分で宙賊により、当シャトルは木っ端微塵に撃破されるでしょう。」
と、事務的な口調で答えた。
「あはは、心配いらない。任せてくれ。木っ端微塵に撃破されるのは、君達に危害を加えた者達だ。」
レーダー用ディスプレーの中では、アドリアーノの戦闘艇が彼らの後方へと飛び去って行った。窓を眺めても、肉眼でそれは確認できないが。
アドリアーノ艇が絶えまなく放ち続けるレーダー波は、彼等にも戦況を具に伝えてくれる。
「敵戦闘艇は5隻。うん?おいアドリアーノ。てめぇは・・、まさか、一隻って事はねぇだろうな。それに、パイロットもお前一人か?二人乗りだろう?その宇宙艇は。」
「1-1-1戦闘艇団」の登場に、安心しきった顔だったバルベリーゴは、また心配気な表情になって、通信機に疑問をぶつけた。
「一隻で、一人ですが、それが何か?」
「おいおい。いくら『1-1-1』つってもよぉ、相手を舐めすぎじゃねぇかぁ?5隻もいるんだろぉ?敵さんは。それを、一人で操縦と武器管制の両方やって、対処し切れるのかよぉ!応援が来るまで、突撃は待つべきだぜぇ?すぐに『テトリア』国軍も来るだろうよぉ。」
「まあ、見ていて下さい。」
「敵戦闘艇、ミサイル射出!」
ユーシンが報告した。射出による熱源を探知する必要も無く、アドリアーノ艇が放つレーダー波の反射で、その様子は手に取るように分かった。まっすぐアドリアーノ艇を目指し、距離を3分の2ほど詰めたところで散開、広範囲に金属片を撒き散らした。
「あの野郎も、鉄屑の群れの中に突っ込んで行きやがるぜぇ。」
ディスプレーにしがみつきながら、バルベリーゴは唸った。「流行ってるのかぁ?鉄屑の群れをすり抜ける曲芸がよぉ。」
「通常の、ありふれた戦術だろうよ。『1-1-1』にとっちゃ。俺に出来たくらいだからな。」
そう言いながら、ディスプレー越しに戦況を見つめるユーシンの瞳は、憧れに瞬いている。
ディスプレー上では、アドリアーノ艇の回避運動の詳細は確認できないが、アドリアーノ艇と金属片の群れを現す光点がディプレー上で交錯した後も、アドリアーノ艇は変わらず、敵戦闘艇へと突進していた。
「金属片群、突破成功っ!・・あっ!レーザーの熱源反応・・・着弾反応・・・・敵影消失!うわっ、すげぇ。鉄屑の群れをすり抜けた直後にレーザー照射したんだ。しかも、操縦と武装管制を一人で両方やってるんだぞ、少尉は。」
ユーシンはさっきの、シャトルの猛烈な揺れを思い出した。アドリアーノ機も同じくらいに揺れたはずだ。その中で敵戦闘艇へのレーザー照射をこなし、見事命中させたのだ。神業だと思った。
「あんなに揺れながら、照準とか合わせられるものなのか?」
とキプチャクは、ユーシンに驚きをぶつけたが、
「あのなぁ、キプチャク。さっきの回避操作と同じで、実際にレーザーを照射するタイミングになってから、照準器覗いて、狙いを定めて、照射スイッチを押す、とかいう操作をするわけじゃないんだぞ。」
「そうなのか?」
「基本はレーダーと連動して、コンピューターが自動で照準を合わせて打つけど、レーダーで観測された位置に照射しても、まず当たらない。敵は高速で運動していて、レーダー波が反射された時点の位置と、レーザーが照射される時点の位置が、同じという事は無いから。で、戦闘艇のパイロットは、照射する直前に、どのタイミングでレーザーを照射するかとか、照射ポイントは、レーダーで判明した敵位置とどのくらいずれた位置にするかを入力するんだ。」
一呼吸おいて、説明を続けるユーシン。
「そのずれの見積もりは、パイロットの経験と勘によるところが大きい。どれくらいの遠心力がかかる旋回を、どの方向に、どの程度するとか、どれくらいの重力が発生する加速や減速を、何秒間するとかというのを、パイロットが経験と勘で予測し、そして、マニュアルで入力する。そのデーターを基にコンピューターが計算して、具体的なずれを距離として算出する。でもって、算出された数値分ずれた位置に、レーザーは自動で照射されるんだ。」
キプチャクは、話に付いて行けないという顔をし始めたが、ユーシンは構わず続けた。
「おそらくアドリアーノ少尉は鉄屑を回避する揺れの中で、敵戦闘艇の動きを見て、しばらく等加速度直線運動を続けると予測し、レーダー照射で判明した時点と位置から、現在の加速が続いた場合の敵戦闘艇の、レーザー到達時点の位置をコンピューターに計算させ、その位置に照射するように、マニュアルで入力したんだ。」
「・・・なんだかよく分からないけど。」
と言いながらキプチャクの両の眼球は、おかしな摂動を見せている。「とにかく凄い事をやったんだな、アドリアーノ君は。アハハ」
一隻が撃破されたのを見た、他の敵戦闘艇は、急激な旋回を見せて逃避行に入った。アドリアーノ艇も急旋回で後を追う。
「なんちう旋回半径だ、ありゃあ。並の人間なら意識がぶっ飛んどるぞぉ。」
と、バルベリーゴも驚くような操縦をしながらアドリアーノは、またレーザー照射を実施したらしい。ディスプレーにそれを示す反応が表示されたのを、ユーシンは目撃した。
意識を失ってもおかしくないくらいの急旋回の中で、敵戦闘艇の加速度と旋回の方向や半径の推移を予測し、それを入力したのだろう。その予測に基づく敵の想定未来位置をコンピューターが計算し、そこにめがけてレーザーが自動照射されたのだ。そしてレーザーは、見事敵戦闘艇を貫き、撃破した。
残った3隻は、等加速度運動で一直線に逃亡を図っている。恐らく敵パイロットにとって、肉体の耐え得る限界の重力を発生させた、強加速が成されているのだろうが、アドリアーノ艇はその敵に、ぐんぐんと追いすがって行く。
「なんだあの、出鱈目な加速はっ!普通の人間なら、死んでるどころか、身体の一部がもげてるぞ!」
と言うユーシンの感嘆を他所に、アドリアーノ艇は3回レーザー照射を行い、敵の3隻を葬った。無駄撃ちは一発も無かった。
数十分後、アドリアーノ艇はユーシン達のシャトルと並走していた。
「お前、身体は大丈夫なのか?あんな無茶な操縦しやがって?」
とバルベリーゴが心配して聞いたが、
「いえ、別に、いつもの事ですから。」
と、あっけらかんと返された。
「バケモノだなぁ、ありゃぁよぉ。」
「化け物はひどいですよ、バルベリーゴ元少将。」
「元少将って言うなってんだぁ、バカ野郎ぉ。」
「アハハハ」
命の危機を回避した安心感で、シャトルの中の3人の頬は緩む。
「しかし、『ウィーノ星系』の中で宙賊とは、深刻な事態ですね。なぜ入り込めたものか・・・」
アドリアーノの発言を受け、バルベリーゴが思い出したように言った。
「そういや、さっき、何か気になる発言しやがったなぁ、ユーシンよぉ。テトリア国軍に内応者がいるかも、とかなんとか聞こえたぜぇ。」
「え、ああ。可能性の一つを言ったまでだよ。でも、それしか考えられられないな、俺には。」
「『コーリク国』が雇った刺客かもって話も出たな、そう言えば。それで『ヤマヤ』の虜囚達を消そうとしてるのかもって。」
と、言ったのはキプチャク。
「なるほど、『コーリク国』が『テトリア』国軍の誰かと密かに内通していて、『ウィーノ星系』への潜入を手助けさせた、か。」
アドリアーノの、考えるような口調の語りが聞こえた。顔は見えないが。
「ところでよぉ、お前さんは何で、こんな宙域に居やがったんだぁ?アドリアーノよぉ。」
と、バルベリーゴが聞いた。
「ええ、『ヤマヤ』の虜囚達に、私も接触しておこうかと思いまして。」
「なんか、救ってやれそうな目途でも立ったか?」
ダメもとのような質問だった。
「いいえ、その反対で。色々可能性は探ったんですが、うまくいきそうにないんで、何か突破口は無いものかと。」
「そうか」
ため息交じりのバルベリーゴ。「俺達も会って来たんだぜぇ。商談の後、偶然にだがなぁ。『ヤマヤ国』に彼らの状況を伝えるとか、『ユラギ国』に確執を忘れるよう説得するとかして、どっちかにでも救助要請を出してもうように計らおうって、気休めのような約束だけして来たんだぁ。情けねえ話だがよぉ。」
「そうですか。大体皆、考える事はそのあたりですね。」
アドリアーノも、肩を落としているのであろう口調で言う。
「やっぱり、救助要請が無いと動けねぇか、機構軍はぁ。」
「そうですね。」
悔しさが滲む、若き「1-1-1」の声。「同盟関係に無く、確執のある『テトリア国』に籍を置く商人に、商売の種である奴隷をよこせというのです。もしくは、買い取るという手もありますが、その場合は『コーリク国』が提示している以上の金を用意しなければいけません。どこからも救助要請がない状態では、どちらも実施は不可能ですね。大きな組織というのは、色々と手続きがうるさいものなのです。」
「やっぱり機構軍てのは、肝心な時に役に立たないんだなぁ!」
吐き捨てるように言ったのは、キプチャク。
「おいキプチャク」
ユーシンはさすがに窘めるように言った。「たった今、命助けてもらっておいて、それは無いんじゃないか?」
「一部にイイ奴もいるって事は認めるよ。特にアドリアーノ少尉は、腕もハートも一級品だって思ってるよ、俺は。・・別に助けてもらったから言ってる訳じゃ無いんだぜ、本当に。でも、一部だけにしかイイ奴がいねぇんじゃやっぱり、肝心な時に役に立たない軍隊なんだよな。」
「そんな事ないだろ、沢山役に立ってるじゃないか。今までだって・・」
「いや、いいんだ。ユーシン君。」
穏やかに応じるアドリアーノ。「本当にその通りだと、多くの機構軍兵士も思っているから。軍内で、本当の良識を持っている連中が、一番歯がゆい思いをしているんだ。組織の面子やらイメージやらに捕らわれて、本当に必要な事が出来ない、機構軍の体質には。」
「そうか」
ユーシンも憂慮に沈んだ顔になった。「確かに、こうして危機にすぐ駆けつけてもらえる俺達と、いくら助けを求めても叶えられない『ヤマヤ』の虜囚達。随分な差だよな。」
「でも、君達といえど、外宇宙に出たらどんな危険があるかわからない。十分気を付けてくれよ。今言ったように、機構軍がいつでも頼りになるとは限らない。肝心な時に役に立たない、という事になる可能性はある。君達の無事な航宙を、俺は祈っているからな。」
その言葉にはユーシンだけでなく、キプチャクも、そしてバルベリーゴも気持ちが引き締まった表情を見せた。
「有難うよ、アデレード。機構軍の厄介になんぞならんように、性根据えて行くとするぜぇ。なぁ、ガキ共ぉ。」
「ああ!」
「うん!」
「で、『キグナス』の出航って、いつなんだ?」
ユーシンの質問に、パッカーっと大口を開けて驚き慌てたバルベリーゴ。
「お、お前、今頃、何をのんきな事、言ってやがるんだぁ、ガキィ!明後日だぜぇ、出航は。明後日までしか、港湾使用許可もらってねぇんだからなぁ。」
「えええ!そうなのか?オヤジィ。初めて聞いたぞ。」
と、キプチャクも呆気にとられた顔で返した。
「なんだよぉ!何で、どいつもこいつも知らねぇんだよぉ。どうなってやがるんだぁ。」
「それはこっちのセリフだよ。なんでそんな大事なことが、伝えられてないんだ。」
「知らねぇよ、なんで誰も言わねぇんだぁ!うちのクルー達は何を考えていやがるんだぁ。」
「いや、オヤジが船長だろ。俺達にそれを伝える一番の責任者は、オヤジだろう !? 」
「俺が言わなきゃいけなかったのかぁ!? 」
「当たり前だろ!船長なんだから。」
「誰かがとっくに言ってると思うだろう。そんな肝心なことはぁよぉ。」
バルベリーゴとキプチャクの義親子喧嘩に、通信装置からは笑い声が止まらなくなっていた。
今回の投稿は、ここまでです。今週の投稿も、ここまでです。次回の投稿は、'17/4/21 です。
一方的に宙賊を撃滅しましたが、主人公ユーシンは、さほど活躍せずということで、やはり少し、ストレス溜りましたでしょうか?今回は、敵の攻撃を上手に避けただけ、です。彼がど派手に活躍するのは、もう少し先のことでしょうか。少年がヒーローになるのは、容易なことではない、ということで、
次回 第21話 胸元の具合 です。
ユーシン君、どうも英雄より変態が先走ってしまいます。滑らかな曲線の次は、そっちか・・。でもまあ、出航してしまえば、会う機会もなくなりそうなので、今は、若い少年の熱い気持ちを、見守ってやって欲しいです。




