第19話 宙賊の襲撃
「逃げろ!ユーシン!」
キプチャクが叫ぶ。
「ダッシュだぁ!ガキィ。」
バルベリーゴも言った。だが、
「まだだ!」
決然とした口調で、ユーシンは言った。「加速したら、スラスターの噴射熱を敵に探知される。わざわざこちらの位置を教えるようなもんだ。」
「レーダー波食らったんだろ?もう位置はバレてんじゃねえのかよ。」
ユーシンに取り付かんばかりの勢いでキプチャウが喚く。
「レーダー波探知は一回だけだ。一回のレーダー照射じゃ、位置も運動状態も正確にはつかめない。敵は多分、居るか居ないかを確かめただけだ。」
「ほう、このガキィ。俺より落ち着いてやがる。」
「でも、レーダー照射で、居るって事は確かめたんだろ?だったら、すぐにも襲って来るんじゃ・・」
「襲う為には、正確な位置と運動状態を知らなきゃいけないだろ。」
淡々と説明するユーシン。「そのためには、時間差を置いた2回以上のレーダー照射を、2か所以上の離れた場所からやらなきゃいけない。そしてその2か所は、情報を交換し合わなきゃならない。有線で繋いでおくか、電波を出して交信するかして。」
「つまり、2カ所以上から2回以上連続のレーダー照射が来ない限り、敵の攻撃はねぇって事か。ハハハ、昔ガリアスの奴にも、同じ講釈を受けたなぁ。戦闘艇でのドンパチなんざぁ、機構軍時代にも俺は無縁だったからなぁ。忘れてたぜぇ。だがそれを、こんなガキに、また教わるとは思わなかったがな。アハハハ」
肩の力を抜いた調子で言ったバルベリーゴ。キプチャクはまだ不安そうに尋ねる。
「つまり、そういうレーダー照射があったら、スラスター全開って事だよな?」
「いや、違う。」
「えぇ?」
即座に否定され、困惑顔。
「敵がどんな攻撃を仕掛けてくるか分からないのに、むやみにスラスターは使えない。噴射剤には限りがあるんだ。使い切ったらもう、何も出来なくなるんだ。ここ一番まで温存しなくちゃ。」
「どんな攻撃って、」
バルベリーゴが、横目でユーシンを見ながら問いかける。「宙賊なんだから、肉薄して来て停船命令でもして来るんじゃねぇのか。そんで、乗り移って来て、積荷をかっぱらう。新鮮な海産物を満載してるからなぁ、俺たちゃぁ。大喜びだろうぜぇ、宙賊の奴等はよぉ。嬉しいついでに、命だけは見逃してくれると良いがなぁ。」
「普通の宙賊はそんな感じだろうけど、普通の宙賊が、オールトの海を超えて星系に入り込んで来るか?」
「・・・来ねぇなぁ。」
ユーシンの問いかけに、また急に表情を厳しくしたバルベリーゴ。「つまりこいつは、ただの宙賊じゃねぇって事かぁ。」
「分からない。」
やたらとにこやかに、バルベリーゴを振り返ってユーシンは応えた。「分からないから、どんな攻撃を仕掛けてくるか見極めてから、その後の行動を決めるべきだ。」
「とは言っても、ある程度の予測はしてんだろ?」
というバルベリーゴに、
「まあな」
と答えたユーシン。「敵は恐らく、二手かそれ以上に別れて行動していると思うんだ。」
「今レーダー照射して来た奴の別動隊が、待ち伏せしてるって事か?」
「うぇえ、待ち伏せぇ!」
バルベリーゴの言葉に、過剰に反応したキプチャク。
「待ち伏せの別動隊がいなかったら、一回だけの照射の意味が分からない。一回だけでは攻撃には移れないどころか、追跡も出来ないはずだから。」
「でもよう、位置も運動状態も分かってねえんなら、待ち伏せなんて出来ないんじゃないのか?」
と、キプチャクが尋ねた。
「大まかな位置と運動状態は、事前に見当を付けているんだろうよ。恐らく、惑星の環に潜んで第3衛星を監視してて、衛星の反射光のわずかな減衰や、環を構成している氷片の微細動を検出し、俺達の進発を察知した。衛星上は熱源だらけだから、スラスター噴射の熱源では探知出来ないはずだから。」
「あの真っ黒な衛星が、光を反射してるのか?」
とキプチャクは、また質問。
「可視光域は暗くても、反射が無いって事は無い。で、奴らはこのシャトルのスラスターが噴出したプラズマイオン流を観測し、こちらの運動方向に見当をつけた。」
「って事は、敵さんは後ろに居るって事だな。」
今度の質問はバルベリーゴ。ユーシンが答える。
「居るというより、居たって事だ。レーダー波は横方向から来ていた。正確な方向は観測できてないけど。後ろでプラズマイオン流を観測し、横に回り込んでレーダーを照射したのだろう。」
「衛星の反射やプラズマイオン流の観測だけじゃ心許無くて、レーダー出して俺達がいる事を確認したのか。その一方で、見当をつけた俺達の進行方向に、別動隊を回り込ませて。」
バルベリーゴ言葉にうなずいた後、ユーシンは続けた。
「熱源の探知は無かったから、敵は探知可能範囲外で加速や方向転換をして、俺達の前方に回り込んだのだろう。惑星の環の反対側でやられたら、多分、探知出来ないから。」
「つまりその、前に回り込んでいる奴らが、レーダー照射でこちらの位置と運動状態を正確につかんだ上で、何らかの攻撃を仕掛けて来るって事か。」
「そういう事だと思う。」
ユーシンとバルベリーゴのやり取りに、またキプチャクが疑問を差し挟んだ。
「レーダー照射してきた奴は、どうやって前に回り込んだ奴等に、俺達が確かにいるって事を教えたんだ。通信派も感知してないんだろ?」
「教えてないんだと思う。居なかったら連絡するって事にしてたんじゃないか。」
「連絡がねぇって事は、見当付けた通りだっていう風に、前もって決めてあったわけか。環の中に隠れて、こちらに聞こえねえように内緒話してやがったんだな。」
ユーシンとバルベリーゴが相次いで言った。
「それで、前で待ち伏せしてるやつらは、どんな動きをすると予測してんだ?ガキィ。」
バルベリーゴがニヤつきながら尋ねる。
「普通の宙賊なら、生け捕りを狙うか、積荷を台無しにしない程度に破壊して、奪って行くかだな。何も奪えなけりゃ、宙賊をやる意味が無いから。積荷を台無しにするような攻撃は、普通の宙賊にはあり得ない。」
「だが、こいつらはそれをやりかねねぇって、お前はそう思ってんだろ?そうなりゃ、宙賊って言うより、刺客だな。」
「刺客ぅーっ!? オヤジなにしたんだよ。誰にどんな恨みかったんだよ。」
バルベリーゴの言葉に、また過剰反応のキプチャク。
「バカヤロォ。こんな商売してりゃ、多少の恨みは買うがよぉ。刺客を向けられるほどの恨みなんざぁ、買った覚えねぇよ。的は俺達なのかぁ?」
「分からないけど、本当はシャラナさんたちだったりして。」
ユーシンの発言に、バルベリーゴは目を見開いた。
「なぁにぃっ!俺達は間違えて狙われてんのかぁ !? ・・て事は、刺客の主人は、『コーリク国』って事かぁ。まぁ、あり得るか。首尾よく奴隷として買い取れれば、手元に来てから処刑すればいいが、不首尾に終わった場合を考えれば、刺客を雇って殺しておいた方が良いって考えかぁ。不首尾で終わる原因になりかねない俺達も、ついでに的にされた可能性もあるなぁ。奴らの仲間が、あのレストランにいたとか・・。」
キプチャクも付け加えた。
「確かに『コーリク国』にしたら、機構軍に首を突っ込まれない為にも、連合の同盟国の民に危害を加えた証拠は、何が何でも消さなきゃならないんだな。『キークト星団』征服の実現の為に。」
「安上がりなのかもしれないしな。奴隷として買うより、刺客に殺させた方が。」
ユーシンのそんな言葉に、キプチャクは身震いを禁じ得なかった。
「あー、なるほど。刺客に殺してもらったら、奴隷代が浮くってか。おー恐い恐い。」
「それで」
バルベリーゴは続きを促した。「俺達を一思いに殺すつもりだとしたら、敵はどう出る?」
「派手な攻撃は控えるはずだ。近くには『テトリア』国軍がウヨウヨしてるし。もしかしたら国軍に内応者がいて、そいつらがオールトの海超えを手伝って、宙賊を星系内に引き入れたのかもしれないけど、国軍全員を買収なんてできないだろうから、やっぱり奴等は、国軍に見つからないように事を済ませたいはずだ。だから、レーザー照射の線は消えるだろう。」
「レーザーじゃねぇって事は、追跡ミサイルか散開弾か。」
と、バルベリーゴ。
「追跡ミサイルじゃ、敵も不安だろう。追いつけないかもしれないし、撃ち落とされるかもしれないし。やっぱり、散開弾で来ると思う。」
散開弾は、無数の細かい金属片となって散らばるタイプのミサイルの事だ。ただ金属片をばら撒くだけとはいえ、猛スピードで飛翔しているシャトルにとっては、十分な破壊力を持った攻撃だ。金属片をばら撒くだけなら、近くに「テトリア国軍」がいても、察知される可能性も低いだろう。刺客にはうってつけの攻撃法といえる。
「散開弾だとすりゃ」
バルベリーゴは考えるように呟く。「あらかじめミサイルを俺達の正面に回り込ませてあるって事になるか。それで、レーダーで位置と運動状態を確認後、ミサイルの軌道を微修正して散開させる。敵の戦闘艇は、こちらが旋回して回避した場合に備え、横方向で待ち構えている、か。はは、だんだん思い出して来たぜ、昔教わったセオリーを。」
「そしてその場合は、レーダー波探知後に、ミサイルに指示を出す為の通信派や、ミサイルを散開させる時に生じる熱源を探知することになる。」
というユーシンの説明に対して、キプチャクは言った。
「じゃあ、その熱源を探知したら、回避の為にスラスター全開って事だな!」
「いや。」
「また違うのかよ。いつ全開するんだよ、スラスターは。」
「しない。」
「しないぃぃ !?」
「しねぇだとぉ!」
ユーシンの言葉に、キプチャクとバルベリーゴが同時に叫んだ。
「散開の熱源を探知したって事はだなぁ、鼻の先に鉄屑ばら撒かれてんだぜぇ。全力回避しねぇでどうするんだぁ!?」
「今オヤジ言っただろ。回避した場合に備えて、敵が横方向で待ち構えてるって。わざわざ敵の待ち構える方向に行く事は無い。レーダー照射した奴以外にも、敵はいるかもしれないから、回避の方向を工夫したって、逃れられるとは限らない。」
「じゃぁ、なにかぁ、その鉄屑に向かって、突っ込んで行くって事かぁ?」
「そう。で、鉄屑の隙間をすり抜ける。」
あんぐりと口を開けて、数秒間凍り付いたバルベリーゴが言った。
「隙間なんぞ、あるかぁ!無数に詰め込んであるんだぜぇ。散開弾には鉄屑がよぉ。」
「見つける!」
またも口をあんぐり、だが、
「へっ、」
と脱力し、「自信があるんだなぁ。分かったぜぇ、ガキィ。勝手にしろ。」
と、笑って言った。
「おいおい、オヤジー!」
と、キプチャク。
「情けない声出すな、ガキィ。ユーシンがすり抜けるって言ってんだ。信じてやろうぜ。」
「まぁ、予測通りの展開になればの話だがな。敵の動きによっては、スラスター全開もある。普通の宙賊みたいに、肉薄して乗り移って来るような兆候の熱源を探知したら、そうする。」
ユーシンにそう言われても、納得できない表情のキプチャク。
「俺、ここで死ぬのかな・・」
「あっはっは、まぁ、気を落とすなぁ、ガキィ。取りあえず敵のレーダー照射を探知するまでは、死なねぇし、やる事もねぇってこったぁ。のんびり暮らそうや。」
バルベリーゴは、すっかりリラックスの態度になって言ったが、キプチャクはそうはいかなかった。
「頼むぞユーシン。出来るって言ったんだから、やってくれよ。シャトルの窓は曇ってねぇか?ちゃんと見えるか?操縦桿は滑らねぇか?スイッチ類は正常に動くか?俺、手入れしておこうか?」
「え?、・・キプチャク・・、まさかお前、窓から肉眼で鉄屑を確認して、シャトルを動かすタイミングが来てから、操縦桿ひねったり、スイッチを入り切りしたりすると思ってるのか?」
「違うのか?」
驚くキプチャク、呆れるユーシン。
「鉄屑との相対速度って、音速の何十倍以上だぞ。肉眼で見える訳無いし、マニュアルで操縦して追いつくわけないだろ。」
「じゃあ、どうやって避けるんだ?」
真っ赤な顔で聞き返す。
「回避のための動作パターンを、あらかじめ入力しておくんだよ。コンマ零零秒単位での、各スラスターノズルのオンオフや強弱の、動作パターンを。」
「じゃあ、早くやれよ!」
喚くキプチャク。
「今できる訳無いだろ!鉄屑の配置が分からねえんだから。」
喚き返すユーシン。
「じゃあいつやるんだよ!」
「敵弾が散開する熱源を探知してから、適当なタイミングで、鉄屑の群れにレーダー照射して、配置を確認してから入力するんだよ。」
「そんなの間に合うのか?」
一段と不安そうな顔になって、キプチャクが詰め寄る。
「もともと、色んな障害物配置を想定した回避プログラムが、数百パターンも入力してあんだよ、このシャトルには。鉄屑の配置を確認したら、コンピューターに一番類似のものを検索抽出してもらって、マニュアル入力はそれに微修正を加えるだけだ。」
「ほ・・ほほう・・」
言い返す言葉を見失ったが、納得には程遠い顔のキプチャクだった。
じりじりする数分が経過し、遂に敵レーダー波検知の警報が鳴った。キプチャクはビクっとしたが、ユーシンとバルベリーゴは落ち着いて、表示類を順に睨んで行った。
「2か所から、2回来たな!・・・通信も傍受。・・・もう1回傍受した!レーダー波データーの交換と計算、そして、位置と運動状態を確認出来たから、ミサイルへの指示か!」
バルベリーゴが言い終わるや否や、
「熱源探知!パターン照合・・・ミサイル散開時の熱源と一致した!予測通りの攻撃!」
と、ユーシンも報告。
「やはり、一思いに殺しに来やがったなぁ。ただの宙賊では無い事が、確定だぜぇ!」
「で、レーダー照射のタイミングは、どうやって判断するんだよ、ユーシン。」
心配げに問いかけるキプチャク。
「勘だ!」
「はああ?」
「敵ミサイルの速度は、想像するしかない。が、散開弾は、散らばり始めてから、ちょうどいい分散状態になるまでのタイミングは、だいたい決まってる。敵は多分、密度より範囲を重視するはずだから・・・」
じっとディスプレーを睨み、想像するような、数えるような仕草と表情で、ユーシンはタイミングを計る。
「今だ!」
叫ぶと共にスイッチを弾いた。立て続けに数回のレーダー波を照射し、位置だけでなく運動状態も押える。こちらに真っ直ぐ向かって来るという前提で、一か所からの照射で対応する。レーダー用のディスプレーを埋め尽くすように、レーダー波反射物を示す無数の光点が、びっしりと表示された。
「隙間なんか、ねえじゃねえかぁ!」
悲鳴を挙げるキプチャク。
「ある・・あった!」
叫ぶと共に、ユーシンの指がコンソールで踊る。すさまじい勢いで、入力用ディスプレーを数字の行列が駆け抜ける。
「よし!」
「本当か?」
「本当に、隙間なんぞあったんかぁ?ガキィ。」
「あった。宙賊の散開弾ごときが、そんなに均一に散らばるか!」
「・・で、後は何をするんだ?」
とは、キプチャクの質問。
「祈る。」
「いのるうううう!?」
「もうやる事は無いんだ。祈るしかない。」
「鉄屑との交錯まで、あと5秒!」
今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、明日'17/4/15 です。
ちょっとユーシン落ち着きすぎでしょうか?まぁ、一応彼の英雄譚という体裁の物語なので、このくらいのカッコ良さを与える事は、ご容赦頂きたい。クレアを前にした変態チックな様を描いた分、これくらいさせないと、主人公としてはちょっと。一方、英雄なのだったら、もっとど派手に悪者をやっつけて欲しいという意見もあるかもしれませんが、非武装で鈍重なシャトルに乗っているので、ちょっとストレスの溜るような息苦しい展開になりました。ということで、
次回 第20話 最強の救援 です。
今回息苦しい展開だった分、ど派手に、一方的に、悪者をやっつける展開を期待しても、いいかも。が、誰が、どうやって・・?是非、ご一読頂きたいと願っております!




