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みんなの愛を綴ろう!~現実世界恋愛短編集プロジェクト~  作者: 現実世界恋愛短編集プロジェクト
9/9

ふぇいばーふぉと/朧 刹那

――ここ、都立上野ヶ丘高等学校。


 今年もやってきた文化祭の季節。

 去年私たちは一年生。初めての文化祭だったため燥ぎまくっていた。


 しかし今年は2回目ということもあり、みんな少し冷めた雰囲気の中での文化祭出し物についてのクラス会開かれていた。


 担任の伊吹先生は椅子に座って長くてすらっとした足を組んで生徒たちのことを見つめている。教師の中では割と若めで美人な容姿、学校中の男子生徒に人気のある先生だ。


 クラス委員の子は必至で出し物についての意見を募っていた。しかし、誰も出し物の意見を言わず、隣の席の子たちとひそひそ話をする始末。見かねた先生が立ち上がり、人差し指を指してこう言った。


「よし、君の意見を決定事項としよう」


 その指名された子……、そう私こと柊琴美(ひいらぎ ことみ)だ。私はビクついて俯いてしまう。そんな私の姿を見た武藤美沙(むとう みさ)が急に立ち上がった。


「先生、私が決めてもいいですか?」


「おお、君が決めてくれるのかい。ではどうぞ、どうぞ」


 先生はそう言って黒板へ美沙を誘導した。この子は私の親友。中学の時からの仲良しだ。私は昔から人前に出るのが苦手。長い髪にしているのも表情を隠すためだ。しかも大の男子嫌い。体系も至って普通。唯一の趣味と言えば、カメラ付き携帯電話で写真を撮ること。『私的ハッピーなもの』を撮り捲っている、ちょっとイタイ女子。


 一方、美沙は私とは全く違い、スタイル抜群、髪の毛は大抵ポニーテール。男子にモテモテ、それに同性にも人気者、更にスポーツも出来るという完璧な女子。いつも私が困っているとさりげなく助け船を出してくれる、とても優しい心の持ち主だと、私は思っていた。


 それに、実は私、その美沙のことが好きなのだ。同性だってことは分かっている。が、どうにも気持ちが抑えきれなくなるくらい愛してしまっている。そのことは美沙には知られていない。私は一生このことを言うつもりもない。でも、時々美沙が他の女子と話しているのを見ると嫉妬心が芽生えてしまっている。更に男子と会話している所を見たらもう、その男子を飛び蹴りしたくなる。そんな気持ちを隠しているのだった。


「えーっと、じゃぁ~、写真館ってのはどうかな?」


 美沙はそう言いながら白いチョークを取り、黒板に『写真館』と書いてチョークを置いた。それを見た男子が「えー、そんなのやんのぉ~」とぶーぶー言い始めた。それを静かに見ていた先生が一言。


「んじゃ、君がアイディアを出すかい? さっきから見ていたが、誰も意見を言わないじゃないか。それだったら指名して決めた方が、早くこの会も終わるし、私としては早めに帰ってゆっくりしたいのだよ」


 すると、文句を言っていた男子たちは黙って俯いてしまった。


「あ、でも写真館じゃ、味気ないかな~。うーん、あ、そうだ。喫茶店と合体させよう!」


 美沙はそう言ってさらに『写真喫茶』と書き足した。みんなは異論があるものの、先生の言う通り早く帰りたいという誘惑に負けクラスの出し物があっさりと決まってしまった。




* * * * * * 



 それが、つい三週間前のことだった。


 今私は、喫茶店に飾る写真を撮りに校舎を一人カメラを片手にぐるぐる歩き回っている。美沙は「琴美的にいいと思う写真を撮ってきてね」と笑顔で私の背中を押してくれた。初めはとても楽しそうだと思って引き受けたのだが、校舎内を歩いても『私的ハッピー』なものに出会うことが出来ていない……。もう被写体を探し始めてから1時間以上は経っている。


 喫茶店に飾る写真はある程度選んであった。全て私が撮り溜めた写真なのだが……。美沙が私の写真がいいからと半ば無理やり私の写真を提供する、ということになってしまった。でも、全ての写真に学校が写っていないということが発覚(私は学校を撮ることはしない)し、校舎内の写真を撮ってくるよう“指示さてしまったのだ”。


「はぁ~。なんで、こうなるのよ……。もう歩き疲れた。ちょっと休もう」


 私は校舎内にある自販機でリンゴジュースを買ってその場にしゃがみながらジュースを飲み始めた。私がため息をつきながら、休憩しているのを美沙が見つけて声をかけてくる。


「あ、琴美ぃ~。写真撮れたぁ~?」


 私は無言で首を左右に振る。美沙はゆっくり私の傍に来て寄り添う。


「そっかぁ~。何か変なこと頼んじゃった?」


「ううん、いいんだけど。校舎内に撮りたいものが無くって。どうしたらいいのかなぁ……」


 私は美沙にそう言って俯いた。美沙はしばらく黙ったままじっと私の傍に座っていたが、急に立ち上がって私の腕を掴んで、


「あのさ、ちょっとこっち来て」


 と言って校舎裏に私を連れだした。ここは普段誰も寄り付かない場所で、たまぁに、付き合っているカップルがここでイチャついている場所だった。美沙は黙ったまま「こっち」と言って奥の方へ私を連れて歩いていた。


「ここ……。座って」


 美沙が立ち止まり、私にそう言った。私は黙ったまま言われた通りその場に座り込んだ。ここは用具入れの倉庫の裏の場所。更に座ってしまうとほぼ誰にも見られなくなる。こんな場所に私を連れ込んでどうしたのだろう。私はそう思って隣に座っている美沙を見つめた。すると美沙がいきなり私に抱きついてきた。


「え……? 何、何? ど、どうしたの? 美沙」


 私は動揺して美沙にそう訊ねた。美沙は黙ったまま私を抱きしめている。そしてそっと呟いた。


「琴美、私、琴美のことが好きなの。ずっと前から……。ううん、実は中学で出会った時から、琴美に一目惚れだったの。私……」


 えぇぇ!! 私は心の中でそう叫んで、この状況を理解しようと頭をフル回転させた。


 えっと、整理しよう。


 まず、私は今文化祭の準備のために写真を撮りに、校舎内をぐるぐる歩いていた。

 疲れたのでジュースを買って休憩した。

 そんな時に美沙がやって来た。

 うんうん、ここまではいいよね。

 そんで、その後、美沙がここに私を連れだして……。

 えーっと、私に抱き着いて……。

 それから……。告、白……したのよね? そうよね?



 私は息を一度大きく吸って、ゆっくりと吐いた。そして私を抱きしめている美沙に声を掛けた。


「えっと、美沙? 好きって、どういう、ことかな?」


 美沙は私の体から離れると私の顔をじっと見つめて、


「好きって、愛してるってことよ」


 と真剣な顔つきでそう言った。


 私はそんな美沙に私の気持ちを伝えようと決心した。


「あ、そう、よね……。ごめん……。あのね、実は、さぁ、私も好きなの。美沙のこと」


 私は心の中だけにしまってあったことを美沙に打ち明けた。絶対に言わないと誓った気持ちを美沙に伝えてしまったのだ。美沙はそれを聞いて「ほんと?」と私に訊ねた。私は「うん」と言って頷いた。そして美沙は私の肩に手を置くと、ゆっくり顔を近づけた。目を閉じてゆっくり近づく美沙の顔。私も目を瞑った。


「琴美、好き……」


 美沙は私にそう小さな声で呟くと、私の唇に自分の唇を重ねた。一度くっついた後、離れ、そしてまたくっつける。唇が合わさった時に聞こえる音が耳に残る。美沙は私の腰に手を当ててさらに唇を重ねる。そして、今度は頬に唇をつけ、また唇に戻る。それを繰り返しながら美沙が私にキスをした。私の心臓は激しく動き、目の前にいる美沙に聞こえるんじゃないかと思うくらいだった。

 私の初めてのキス。その相手が美沙。私は夢でも見ているのではないかと思うくらい嬉しかった。美沙も私とキスが出来たことをとても嬉しいと言ってくれた。


 しばらく二人は黙ったままその場で抱き合っていた。そして、美沙が小さな声で私に話しかけた。


「二人だけの写真、今ここで撮ろうよ」


「うん……」


 私は手に持っていたカメラで写真を撮ろうとした。すると美沙が「これじゃなくって琴美のカメラで」と言って私のスカートのポケットから携帯を取り出した。


「ああ、これかぁ」


 私ははにかみながら携帯を持ち上げて美沙と顔をくっ付けた写真を撮った。その写真を見る二人。


「なんだか、カップル、みたいね」


 私はそう言った。


「みたい、じゃなくって、カップルよ」


 美沙はそう言って私を抱きしめた。


 私たちはそこで4、50分過ごした後、文化祭に使う校舎内の写真を撮りに戻った。私の隣には笑顔な美沙が、私と手を繋いでいる。勿論、あとからちゃんと写真は撮って文化祭には間に合った。私と美沙は付き合うことになった。



 あの時撮った写真、今は私の待ち受け画面になっている。そして美沙も同じことをしている。同性同士のカップルだけど、私はとても幸せ。美沙と恋人同士になれたことが嬉しい。


「沢山二人だけの思い出、作ろうね」


 私は隣にいる美沙へ。


「うん。たっくさん、ねっ」


 美沙はそう言って私の唇にキスをした。

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