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初恋は無情の少年と  作者: あづさ
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光は知る 後編

 「じゃあ、俺も夏の質問に答えよう...何かあるかい...?」

奈留さんはそう言って俺に探るような視線を向けてきた。

「...といっても俺が話せるのは、俺自身が知ってることだけだからねぇ...」

「......えっと、じゃ、じゃあ...」

”紺の...俺と会う前の紺についてあなたが知っていることを聞かせてください...”

1度だけ聞いてみたいことがあった...

それは紺と会ってからずっと気になっていたことだった...紺はいったい何者で、どうして黒鼬なんかに探されているのか...そして紺は、どうして笑わないのか...


『紺はほとんど表情変わんないよな...たまには笑顔とか、見たいかも...』

『...笑顔って...何...?』

え......

紺は真っすぐ夏輝の目を見て言った。その目は”何も知らない”無垢な目だった。

『えっと...ね、何か面白いもの見ると口元が緩むでしょ...?』

『?』

紺は首を傾げ”分からない”といった表情をした。

『っと...』

夏輝は紺の顔に手を伸ばすと、紺の頬をつまみギュウーっと引っ張った。

『い、痛い...』

紺はそう言ったが夏輝がやめることはなくムニムニと伸ばした。

紺の頬っぺた、柔らかくて気持ちいい...

『夏...痛いやめろ』

その声はとても低く、怒っているようだった。

これ以上するとやばいかも、っと思い夏輝は最後にムニュゥーっと横に引っ張った。

『うぅ...』

『...ッアハハ...』

その顔が面白くて...つい口から笑い声がこぼれた。

『アハハハ...俺が笑っちゃダメなんだけど...』

クククッと笑いを堪えながら頬を掴んでいた手を放しその手を自分の腹へと押し当てた...すると...

『夏...それが、”笑顔”...か...?』

そう言って下を向いていた夏輝の顔を覗き込んだ紺の顔には強くつまみ過ぎたのか指の跡が赤くクッキリと付いていた。

ありゃりゃ...

『そうだけど、ちょっと強くし過ぎたか?』

『痛かった...』

『ごめん...』

よく見ないと分からない程度の少しムスッとした顔の変化は予想通りの反応で、これがコイツ()の普通なんだよな...と俺は心の中で思っていた。


「夏?どうしたの...?急に黙って...」

「い、いや...何でもないです...」

ど、どうしよう...何聞こう......あ......

その時、1つのことが脳裏に浮かんだ...

「...なら、奈留...さん...が”俺に似てる”って言った人のことを教えて...下さい...」

「......いいよ」

そう奈留さんは言ったけど、俺は何となく答える前の間が気になってしまっていた...

奈留さんは首にかけていた鎖を引っ張り出してその先についていたチャームを開けて俺に見せてくれた。

そこには2つの写真が入れてあった。

1つは男の人が2人の子供の肩に手を置き笑っている写真で、もう1つは男の子がたくさんの動物たちに囲まれている写真だった...

1人の大人と3人の子供...

「えっと...これは...?」

「この写真は俺の父さんがとってたんだけど、この人に君が似てるって思ったんだ...」

そう言って奈留さんが指したのは、子供たちの肩に手を置き笑っている男の人だった。

「名前は、理久斗...俺が知ってる中で黒さんが1番最初に心を許した人だよ」

「...」

「そしてこの子が、黒さん、君の言う紺だ...」

次に夏さんが2本の指で指したのは動物たちに囲まれた子、そして3人が写った写真の2人の子供のうち視線をそらした子だった。

「え......これが、紺?」

「そうだよ...?」

俺が奈留さんに確認したのは奈留さんの指した2人がそれぞれ全く違う髪色をしていたからだった。

動物たちに囲まれた子は明るい金髪で、3人が写った写真の子はどっちかというと暗めの茶髪なのだ...

「なんだ、知らないの...?夏、君が紺と呼んでいる子の...本当(・・)の髪の色は金色なんだよ...」

「...!」

「おぉ、驚いてる驚いてる......んーーそれじゃあもう1つ教えちゃおっかな...黒さんはね...」

奈留さんがそこまで言ったとき2階の方からブワッと風のようなもの(・・・・・・・)が吹いてテーブルの上にあったコップがパリンッと音を立てて割れた。

何事かと思ったが1つだけ思い当たることがあった...2階には...

「紺っ!」

夏輝は勢いよく階段を駆け上がりガラッとドアを開けた。

室内は何が起こったのか真っ白な靄が充満していたが、ドアが開いたことで少しずつだが見えるようになって来た。

その中で影がユラリと動き安心した次の瞬間...

「これはどういうことだ...」

部屋の中から聞こえた低い声に、少し遅れて上って来た奈留さんの表情がこわばった。

何...?...っていうかこの声って...

「ご、ごめんなさい黒さんっ!!...ちょ、そんなに怒んないで下さいよ...」

さっきまでの態度はどこに行ったのか急におびえだした奈留はスッと夏輝の後ろに隠れた。

「お前...本当に殺されに来たのかぁ...」

その声は間違いなくキレていて静かな足音と共に近づいてきていた。

これはヤバいかも...っと思ったのでひとまず夏輝は

「こ、紺?!...ど、どうしたんだよ、まず落ち着け...!」

「俺は、落ち着いている...」

そう言った紺の声は先ほどの声よりかは落ち着いているように聞こえた。

「で、何でそんなに怒ってるの?」

「...そのバカが俺を騙した...俺は嫌いなのを知っていて...」

「そうかもしれませんが、闇を溜めておくのは危険だと昔から言われていたでしょう」

「......えっと...」

なんか俺の分からない話になってきているような...

「ん、ということは奈留さんが悪いってこと...?」

視線を後ろに向けると視線の泳いだ奈留さんがハハっと苦笑いした。

「いったい何をしたんですか、奈留さん」

「い、いや...その黒さんの体を本来(・・)の姿に戻したんですよ...」

言いにくそうに小声で言った奈留さんはドアの方に顔を戻すと「ヒッ」と小さく悲鳴にも似た声を漏らした。

どうしたのだろうと、夏輝も向き直る。

「え...」

その声はほぼ無意識に出たものだった。

夏輝の前には青年が立っていた...自分よりかは背が低いがその目には独特の威圧感があり、長髪の髪の色は少し薄めの紺色......まさか...

「紺...?」

「...夏......」

紺は、小さく呟くとすぐに目を逸らした。そう言えばさっき奈留さんが紺を本来(・・)の姿に戻したって...じゃ、じゃあこれが紺の本来の姿...?

「こ、紺...さん...ま、まず服着てください!いつまでもそんな布1枚は...」

そう紺は部屋に置いてあったらしい布を体の巻き付けているだけなのだ...

「お、俺の貸すから...」

慌てて口から出てしまった言葉に少し責任を感じつつ夏輝は隣の部屋に飛び込んだ。

確か、下着もまだ1回も来てないやつあったよね...服も俺には小さかったやつを持っていこう...

ひと通り服を持ち部屋に戻り渡すと、まだ不機嫌そうな紺はガチャンッと思いっきり閉めてしまい外にいた俺と奈留さんはビクビクしていた。

少しするとガチャッとドアが開き紺が出てくる。

暗めの色を合わせたのだが、自分の見立ては正しかったらしく...すごく似合っていた。

...見た目的には15,6くらいくらい...かな...

「あ、髪...結ぶよ...」

「......」

紺は何も言わず黙って後ろを向いてくれた。腰くらいまである長い髪に触れ、指をいれてみるとスッと通った。

今までの紺との身長差が半端ないな...

「...はい、できたよ」

「......ありがとう...」

そう言った紺の表情はいつもとあまり変わらず機嫌も治ったようだった。...が...

「...奈留...」

「は、はいっ!」

突然名前を呼ばれた奈留は、声が裏返っていた。

「言い訳を先に聞く...」

紺がそういうと奈留さんはやけに真剣な顔で立ち上がり、正面から紺を見た。

「...黒さんは長い間()を使わず取り込んだ闇をため込んできました...たとえ力の糧でもため込み過ぎれば身を亡ぼすことは分かっていたでしょう...だからそれを渡したんです...」

...え...?...今...なんて言った...”ため込み過ぎれば身を亡ぼす”...?...で、でもあのとき確かには...”大丈夫だ、何も変わっていないだろう”って言ってた......あれは...嘘だったの...?

ドクンッと胸が鈍い音を立てた...

「別にそこまでため込んではいなかった...あと少なくとも2年は持ったんだ...」

「たったの2年じゃないですか!2年なんてあっという間ですよ!?」

それはどんどん大きくなっていって、バチバチと火花を散らして言い合う2人に「...紺...」と声をかけた。

「夏...?」

「紺...あのとき”大丈夫”って言ったよね...どうして嘘ついたの?...俺、そんなに信用されてなかった?」

思っていたことを口に出してしまうと、スッと頬を何かが伝った。涙だ...

確かに会ってからまだ数日で互いのこともよくは知らない...けれど信頼だけはされていると思っていた...それも自分の自惚れだったのだろうか...

「夏...嘘をついたことは...謝る...でも、ああ言わないと夏が色々心配するかもって...」

そう思ったんだ、と紺は言った。

確かにあのとき本当のことを教えられていたらどうなっただろう...自分は、どうしただろう......容易に想像がき夏輝は床に視線を落とした。

落ち着いた足音が部屋に響き俯いていた夏輝の視界に先ほど貸したばかりのズボンが映り夏輝は少しだけ顔をあげる...

それと同時に紺は膝を折り覗き込んできた、泣き顔を見られたということに羞恥を覚え、慌てて夏輝は顔を逸らしたが紺はその横顔に触れ目から出ていた涙をスッと拭った。

コツンッと額がぶつかり小さな声で囁かれる......

「大丈夫だよ、俺はそこまでやわ(・・)じゃない...」

そう言った紺の声はすごく耳に響いた...

何か本当(ほんと)艶かしいほどで背筋にビリビリと電流が流れたような感じがした。

その時だった―――

ドンドンドンッと下の階から音がした、おそらく誰か来たのだろう

「は、はぁーい...今出まーす!」

俺は慌てて階段を駆け下り玄関へ向かった。急いでドアを開けるとそこには男が1人立っていて

「...黒は、ここに居るか?」

と聞いてきた。黒とは紺のことだろう...でもいるって言っていいのかな...黒鼬(くろいたち)に探されているみたいだし...というか、よく考えたらそれやばくないか...?

「え、あ、と...」

答えに困っているとぴょんぴょんと何かが足元を通り過ぎて行った。

あ、何?

振り返ると、それは真っ黒な兎だった。

「あ、戻って来たか...」

「ゲッ...」

「紺...」

兎は紺を見つけるとぴょんぴょんと一生懸命に跳ねながらそっち向かった。

「...久しぶりだな、浅葱(あさぎ)...」

浅葱と呼ばれた人は声のした方を見て少しの間固まった...

「紺...か?...お前がその姿を取るのは珍しいな」

「あぁ、そうだな...俺の意志じゃないんだが...」

紺はジロッと隣にいた奈留さんを睨み、抱っこした兎を撫で始めた。

「ご、ごめんなさいって...うぅ...いっときしたら元に戻りますから...」

「ということだ、浅葱...奈留を連れて帰ってくれ...」

「あぁ...そういうことか、奈留帰るぞ...」

「...ものっすごく嫌だけど分かった...黒さんをこれ以上刺激したら本当に俺殺されちゃうし...」

奈留さんはため息交じりにそういうと階段の途中から飛び降り浅葱さんの隣に行った。

「黒さんも夏も、気を付けてくださいね...本当に...」

「あぁ...お前達(・・・)もな...」

「はい!あ、それと...何かあったら遠慮なく頼ってくださいね」

笑って言うと奈留さんは浅葱さんと帰っていった。

「...ふぅ、何か急に静かになったね」

夏輝は振り返りながらそう言った、紺は黙って抱いていた兎を天に掲げる、するとあの時の猫のように跡形もなく消えてしまった。

「...朝ご飯食べ損ねちゃったし何か別のもの作ろうか」

台所に向かいながら紺にそう聞いた。

「......」

「紺?」

いきなりどうしたんだろう...

「紺...?」

「夏は...俺がここに居て迷惑か...」

「え...?」

夏輝は足を止め、紺のいる階段を見た。紺は俯き、手をぎゅっと握りしめていた...見た目は15,6歳くらいでも俺にはあの小さな少年に見えていた...

奈留(あいつ)が言っていただろう...黒鼬が俺を探していると...」

「うん...」

黒鼬は闇のグループ”Black vortex”の1人で殺しの経験もある殺人犯だ。

「俺はそれに追われている...分かるだろう...?...俺といれば必然的にお前も危険だ...」

「...うん...だから?...出て行くの?」

その言葉にビクッと紺の体が反応した。

「紺、俺がさ一緒に住もうって言ったとき『お前が死のうと俺は知らないからな』って言ったんだよ。何かやっと意味が分かった感じ...紺、俺のお父さんはね刑事だったんだよ...だから恨まれるのって仕方ないって言ってた。俺も恨みの対象に入ることもあったし...友達も何となく離れて行っちゃって寂しかった...でも、その分父さんが色々してくれてうれしかった...なんか紺を見てると何となくだけど寂しかった時の俺見てるみたいだったって今気づいた」

「......」

「だから、紺が居て迷惑じゃないよ?むしろ紺がいなくなっちゃったら俺が寂しい」

「...そうか......」

そう言った紺の小さく震えていた...その姿が纏った気配はいつものような人を近づけさせないトゲトゲしいものではなく、やわらかい穏やかなものだった。

それがひどく珍しく夏輝は階段を上がり、紺の前に立つと小さなしゃくり声が聞こえた...

え、紺...もしかして...泣いてる...?な、何で?!え、何で!?

「っ...」

見られたくないだろうし......何か...か、かわいいし.........あぁ...もう!!

夏輝は紺の体に腕をまわして引き寄せた。自分より小さい紺の体はしっかりと腕の中に納まっている。

本当(ほんと)細いな、小さい方でもそうだけど...やっぱもう少し肉...とかちゃんと食べさせた方がいいのかも...じいちゃんに相談してみるか...

にしても、かわいいな...普段あんなに無表情なのに.........いつか...紺が自分から色々な話を聞きたい...ちゃんとした紺の、名前も......

 途中で切ろうと思ったんですがタイミングが分からず、ずるずるとなってしまいました。

なので、長いです!!

すみません、ぜひ”~初恋~”の方もよろしくお願いします。

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