光は知る 前編
ガタンッ
夜明け前、隣の部屋からそんな音がした。
何の音かと起きて見たが特に何も変わった様子はなかったので、夏輝は再びベットに戻って寝ることにした...
いつもと変わらない朝...
「紺、起きてるー?」
そう言うと同時に、上から聞こえるドアを開ける音と階段を下りてくる不安定な足音...
紺の足はもう5日経ったというのに他の傷のように治らないらしく、治っていない。
「おはよう!」
「...おはよう」
挨拶を交わし2人とも席に着く、そしていつも通り合掌する。
「「いただきます」」
箸を取り朝食を食べようとしたその時...
「ちょっと待て」
と紺が叫んだ。
何事かと固まると紺が自分の前に用意されていた白米のご飯を1口食べた...が、すぐに口から出してしまった。
カタンッと音を立て紺が席を立つ
「...」
何も言わず黙ったまま動かない紺の周りから,あの影とは何となく雰囲気の違った黒い靄が出ていた。
それは、少しづつ濃ゆくなっていって紺の近くはもう真っ黒だ。
「どう「出てこい...」
”どうしたの?”...その言葉は紺の低く威圧感のある声に消された。
ビリビリと空気が震えた...その時...
「あぁぁ、も、もう分かったからやめてよ」
何処からともなくそんな声が聞こえ、フッと紺の後ろに人が現れた。
その瞬間紺もくるっと振り返り現れた男の首を掴んで押し倒した。
「っつ...相変わらずだね、黒さん...」
その男は首を掴まれているにもかかわらず、怯えている様子はなく紺に向かって手を伸ばしソッと顔に触れた。
それはどことなく、懐かしむような手つきで...
黒って紺のこと?...紺の...知り合い...?
「お前、自分が何したか分かってるのか...?」
「分かってますけど...それが黒さんのためかなと...思ったので...でも...逆効果だったみたいですね」
男は俺の方を向くとニカッと笑った。
「...何しに来た...」
紺は男の首を掴む手にギュッと力を込めた。
「っつ...く、黒さんがあそこ...から逃げたって、聞いたんで...」
「殺されに来たのか...?」
「くっ...」
え...ちょ、こ、これはヤバい...と、止めなきゃ...
「っ...」
分かっているのに声も体も動かない。
あぁ...何で声が出ないんだよ...クソッ...出ろよ!!
「紺っ!!」
何とか声が出て金縛りにあったように動かなかった、体も動いた。
夏輝は紺に駆け寄ると紺を男から引っぺがし抱き上げる。
「ゲホッ...ゲホツ...」
紺も特に暴れることはなく夏輝の腕の中で黙っていて男も上半身を起こしせき込んでいた。
相当苦しかったのだろう...
「いや~...ありがとうございました、殺されるかと思ってヒヤッとしましたよ...」
...ん?
「全くそこまで怒らなくても、少量だったんですから...」
何か、さっきと...
「ほんと、自分の握力把握して下さいよね...」
喋り方が違う...
そう思った時だったもぞっと紺が動き「降ろせ...」と言った。
ストンと紺を床に降ろすとブワッと獣が現れる、が今日はいつもと違い完璧な獣の姿で出てきた。
初めて見たかも...あれって犬じゃなくて狼に近いんだ...
獣は朝食を置いたテーブルにジャンプしご飯を食べ始めた。
「こ、紺...俺たちのご飯食べられてるんだけど...」
「あぁ、あれは食べるな...このバカが毒を入れていた」
あぁ...毒を...
「って、毒!?」
「まぁ、毒といっても苦しむだけで死にはしないよ...」
アハハ~と笑いながら言ったその男に少し殺意が沸いたが、そのおかげで紺が怒った理由が分かった。
あれ、でも...
「紺食べただろ!?大丈夫か?」
「あぁ、俺は大丈夫だ...ちゃんと吐き出した...で、お前俺に何の用だ」
紺は男に向き直りそう聞いた。
「いやぁ~、大切な黒さんにちょっと大事な情報を、黒鼬が黒さんを探してる」
”黒鼬”その名前を俺は知っていた...でもそいつがどうして紺を探しているのだろう...
「...そうか、ありがとう...奈留...」
「いえいえ、あ、そうだこの子...黒さんのだよね」
そう言って奈留と呼ばれた男はポケットから小さな箱を取り出し箱を開けた、するとユラッと黒いものが出たかと思うとそれは一目散にこちらに来た。
それはこちらに近づくごとに姿が変わっていった...最初はただの黒い塊だったが、今は..
「猫...?」
紺はスッとしゃがみ猫を受け止める。
二ヤァァーー
「...どうして奈留が持っている?」
「えっとね、ちょっとあそこに用事があったんで行ったんだ。そしたらその子がウロウロしてて、結界が張ってあったから入れなかったんだ...だから一緒に入ったんだよ」
ね?と奈留さんは言ったが猫はストッっと紺の肩に乗り頭の後ろに隠れた。
ニィィーー...
猫が鳴いたかと思うとその姿はフワッと消えた、その瞬間猫のいた場所からコトンっと何かが床に落ちた...
紺はそれを拾うと自分の首にかけた。
...ネックレスだったんだ...?
「で、奈留...お前がここに来た理由は何となくだが分かった...だがあそこに行った理由は何だ?」
...さっきから2人しかわからないような会話されてる...まあ、知り合いみたいだし...仕方ないんだろうけど......やっぱり少し寂しい...かな...
「んーとね...研究がどこまで進んでるかを...ね」
その”研究”という言葉に紺がビクッと反応した。
「といっても俺が抜けた頃からあんまり進んでなかったし...あ、そうだ...ついでにこれ持って来たんだ~」
奈留はそう言うと、箱が出てきたのと反対のポケットから今度は何か文字の書かれた紙を取り出し見せた。
「それ...」
「ん...ラスト1枚みたいだったから...」
「...いいのか...?」
「いいよ」
紺はくるっと後ろを向くと2階に行く階段の前で立ち止まった。
「奈留、お前...夏に何もするなよ」
「えー、ここでしないのぉー?」
「バカか、溢れたらどうする!」
紺はそう言うと2階に上がって行った。
あ、溢れるってどういうことなんだろう...
「さて、2人きりですね...」
奈留はニヤリと微笑んだ。その時、不意に紺の言った”何もするなよ”という言葉が脳裏に浮かんだ。
「...」
お、俺なんかされるんだろうか...
「1つ聞いてもいいですか?...夏さんあなた...あの黒さん...紺にどうやって気に入られたんですか?」
「へ?」
俺が...紺に気に入られている...?
「だって、俺の知ってる黒さんはいつも冷たくて近寄りがたい雰囲気を放っていたのに...今じゃそれを隠してるみたいに全く感じない...」
「...え、えっと...気に入られているかは置いといて、確かに初めて会った時は敵意むき出しで視線だけで殺されそうだったけど...日を追ううちに無くなってきて...」
「ふーん...そういうことか...たしかに似てないこともないな...」
奈留はそう夏輝の顔を見ながら小さな声で言った。
「...え...?」
俺が、似てる...?誰に...?
「じゃあ、俺も夏の質問に答えよう...何かあるかい...?」