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初恋は無情の少年と  作者: あづさ
3/5

闇は感情が欠けている

 チュンチュン

この日は、いつも通りに起きることができた。

起きてからまず、することは身支度をして2人分の朝食を作る...そして...

「紺ー...?起きてるー?」

紺を起こしに行く...が...

「起きてる...」

すでに起きていたらしい紺の返事が聞こえた。

「開けるよ...?」

ガラッとドアを開けるとあの獣がいて紺は夏輝が昨日持ってきた布団ではなく、毛布だけを着てそれに寄りかかっていた。

「おはよう」

「...おはよう」

夏輝が挨拶すると少し間が空くが紺も挨拶する。

「ご飯、食べない?」

夏輝がそう言うと紺が起き上がる、役目を終えた獣はフワッと消えた。

あらためて、紺を見た夏輝はあることに気づき口を開いた。

「あ、着替えてない...昨日持ってきた俺の昔の着ていいよって言ったのに...」

ため息を含んだような声で言うとふいっと顔をそらされた。

「...」

「ご飯食べてからでも着替えて?」

目の高さになるよう夏輝がしゃがんで言うと

「...分かった...」

と、少し呆れたような声で返事してくれた。

それがどことなくうれしくてつい頬が緩んでしまう...すると紺は夏輝の顔を押しのけさっさと1階に続く階段を左足をかばいながら降りて行った。

何か、かわいいな...


食事を終えた後、紺は約束通り服を着替えてくれた。

「あぁ、良かった。ピッタシだね...」

幼い頃、自分が着た服を身に着けた紺はあの威圧的な視線を向けるような雰囲気はなく、普通の子供に見える。

「ん、そうだ。紺、左足見るから椅子に座ってて?」

夏輝が救急箱を取りに行きながら言う...返事はなかったが紺のことだ...きっと座っているだろう、そう思いながら部屋へ戻ると案の定紺は椅子に座っていた。

左足の包帯を取ると腫れは引いていたがまだ骨は折れていた。

もう湿布薬はいいかな...?

左足の状態を確認した夏輝は添え木を入れ、もと通りに包帯を巻いた。

「はい、終わり...」

「...ぁ、ありがとう...」

「うん、あ、そうだ。今日俺仕事なんだ...紺も来る?何にもない家にいても暇だろうし...どうする?」

「...」

紺は少しの間だまり紺で考えた後、「...行く」と小さい声で答えた。

「じゃあ、行こうか」

「あぁ...」

そうして玄関に向かったのだが...

「それ...着るの...?」

「あぁ」

夏輝がそう聞いた後、紺がファサっと身にまとったのはどこに隠していたのか、フードの付いたマントだった。

目立たないと思って着るのかな...?でもそれじゃ、逆に目立ちません?

「...こ、紺...ちょっと待ってて?」

夏輝はそう言うと急いで2階へ上って行った。


2人はガヤガヤと朝市でにぎわった街を歩いていた。

紺は夏輝の貸した自分の瞳の色と同じフードをかぶりなおしあたりを見渡すと

「人、多い...」

そう言い放った。

「うん...そうだね...」

1週間に2回行われる朝市は、隣町からも人が来るほど大人気だ。

「っ...」

人ごみに押され紺が転びそうになって慌てて紺の着ている上着の襟首を掴んだ。

「大丈夫?」

「...」

夏輝が聞いても紺は何も言わない...裏道通ればよかったかな...朝市で混むのは分かっていたのだが、裏道だと多少遠回りになり紺の左足に負担をかけると思ったのだ。

...そうだ!

夏輝は紺をグイッと持ち上げ、首にまたがらせる。

「...よいしょっと」

「...?!」

「さて、行くか。しっかり掴まっててね」

夏輝はそう言うと紺の返事を待たず歩き始めた。

紺ってやっぱ軽いよな...そのわりには肉づきは悪くなさそうだし...なんでだろう...


何とか人込みを抜けると、もうそこは目的地だった。

「っと...」

紺をゆっくり地面におろした。

目の前には大きな建物があり、俺は紺の手を引いてその建物の中に入った。

「ココは何だ...?」

建物の中を進んでいると紺にそう質問された。

「ん?ココはね、様々な種類の本を揃えた図書館だよ」

夏輝が言いながら、廊下の突き当りにある大きなドアを開く...すると、一気にあたりの空気が本のにおいに変化する。

「ようこそ、セルティア私立図書館へ」

俺がそう言うと紺は少し首を傾げられた。

図書館のこと知らないのかな......?

そんなことを考えていると...

「遅かったな、夏輝」

と不意に声をかけられた。

「!おはようございます、館長」

現れたのは、この私立図書館の館長で夏輝の祖父である(りょう)だった。

齢は73歳なのだが腰は少しも曲がっておらず、まだなだ元気な老人だ。

「おや、その子は何じゃ?」

紺を見つけた館長は夏輝に聞く。

「あぁ...えっとこの子は友人の子供で少しの間預かることになったんだ」

夏輝が言い終わると、

「紺です、お世話になっています」

そう、紺がごく自然に引継ぎ軽く自己紹介した。

こういう時に動揺しないで冷静に対応する紺はすごいと思う。

「そうか、わしはてっきりお前の隠し子かと思ったよ。よろしくな、紺君」

「はい」

紺が笑顔を向けることはなかったが館長は隣の部屋へと入って行った。

......この外面と内面のON,OFFがすごい...

「じゃあ紺、ここの本は好きに呼んでもいいからね。でも、取ったらちゃんと元の場所に戻すんだよ?」

そう夏輝が言うと紺は無言でうなずいた。

「じゃあね、たまに様子見に来るから...」

「ん...」


「っつぅ~」

本を取るための脚立に乗ったまま、背伸びをしていると

「夏輝、そろそろ休んだらどうじゃ?...紺君がいるだろう?」

「うん」

返事をして脚立から飛び降りると両足がジーンと痛んだ。

「...紺、何処にいるかな...?」

きょろきょろと本棚と本棚の間を見ているとずっと先に、本を取っているのだろう...脚立に乗った紺が見えた。

夏輝は少し歩速を速め、紺のもとへと急いだ。

だいぶ近づいてきて夏輝は「紺」と、小声で呼んだ...

そのとき、ギュウギュウに詰め込まれて抜けなかった本が不意にスッと抜けた。

体重をかけていたのだろう、紺の体は本と共に脚立から宙に投げ出される。

「紺っ!」

夏輝は大きな声で叫び走り出す。

ココの本棚は4段で大きな本も入れられるように幅を大きく取ってあった...なので必然的に高さも高くなる。

その時、バサッと大きな羽音がした...

音とともにフワッと開いたそれは紺の背中から生えていて、背中から落ちていた紺の体を本来の向きに戻した。

そこへ丁度着いた夏輝が何となく両手を伸ばすと紺はポスッと腕の中に着地した。そして、背中から生えていた翼もファサーっと空中に舞い床につく前に消えた。

「だ、大丈夫?紺」

いまだ腕の中にいる紺を少し強く抱きしめながら、聞くと

「大丈夫だ」

と予想通りの答えが返ってきた。

が、なんだなんだ...?と夏輝の声を聴いた人たちが集まり始めた...

「どうしたんじゃ、図書館内では静かにせろと言っておろうが...」

さらには、館長も出てきて...

「あ、え、えっと...」

夏輝がまごまごとしているとそれを見た紺が

「このお兄さんが、俺が脚立から落ちたのを助けてくれたんです」

そう助け舟を出した。

「そ、そう...なんです...みなさんお騒がせしてすみません」

頭を下げると集まっていた人も1人、また1人と離れって行った。

「...降りる」

「あ、うん...」

紺をそっと降ろすと館長が近づいてきた。

何を言われるのかと身構えると、それとは裏腹に館長は夏輝の頭をワシャワシャと撫で始めた。

「な、何...」

「偉かったな、夏輝」

「え...?」

「紺君を助けたんだろう?偉かったな、さっきは何も知らず言ってしまってすまんかったな」

夏輝はそのことかと納得したが

「か、館長...それ、めっちゃ痛い...ハゲる、ハゲるから!」

必死にそう言うと館長はやっとやめてくれた。

「っつぅ~」

「褒美に今日はもう仕事終わってもいいぞ...」

館長はそう言うと有無を言わさず立ち去って行っしまった...

地味にヒリヒリする頭をおさえながら振り返ると紺は椅子に座りさっき取った本を読んでいた。

自分も本を読むかと、近くにあった本棚から適当に本を選び紺の隣に座った。

どのくらいたっただろう...夏輝の読んでいた長編小説が中盤に差し掛かったとき、クイクイと袖を引っ張られ紺のほうを見た。

「どうしたの?」

「ここ、どうしてこうなるんだ?」

紺が指した文章を読み、それが有名な恋愛小説だと分かった...えっとこれは、知ってて選んだのかな...

紺の指した文章は主人公が幼馴染に”好き”だという気持ちを告白するシーンの、まさに主人公が告白したことを表す文章だった。

「え...っとこれは...」

夏輝が簡単に説明するとよくわからないといった顔をしつつ「ありがとう」と礼を言い、また続きを読み始めた。

その後も紺は色々なことを聞いてきた、難しい漢字の読み方や意味などもあったが多くは感情を表す文章についてだった...”どうしてこうなるの?”、”なぜこの人は泣くの?”それらは、普通(・・)に育っていれば分かるであろう感情が紺に欠けている証だった。

そういえば、紺の表情ってあんま変わんないよな...

そんなことを考えながら、本を読んでいる紺の横顔をジィーっと見ていると

「どうした?」

紺がいきなりこちらを向いた。

「い、いや、何でも、あ!そーだお腹減ってない?食べに行こうよ」

ね?と紺に同意を求める。

「...あぁ」

席を立った紺は本を戻すために脚立に乗ったが、さっきのようになってはいけないので夏輝が脚立に乗り本をなおした。


「ん~、どこ行こっか」

「何処でもいい...」

外に出ると日は高く昇っていて、結構長い時間を図書館で過ごしたことを知る。

今の時間帯はどこの店も満席だろう...

仕方なく夏輝は少し歩くことにした。

街中を歩きながら道沿いにある店を見ていく...すると何やら言い争っている声が聞こえてきた。

「あんたがぶつかって来たんだろうが!」

「はぁ?何言ってんだこの言いがかり野郎!」

店の前で言い争ってるのは男2人で、定員だろうか何とか止めようとしているが勇気が出せずアワアワとしている。

その光景を見た紺は

(みにく)いな...」

と意識しなければ誰にも聞こえない静かな声でつぶやいた。

「......ああゆうの見ると、こっちまで気分悪くなるね...」

「止めるか?」

紺は真っすぐと男たちを見たままそう言った。

「え...?」

どうやって?と聞く前に紺はフードを深くかぶりなおした。

次の瞬間、どこからかビュゥーと強い風が吹いた...

「っ...」

台風のような強い風なのに、その影響を受けているのは人だけだった。

その風はすぐにピタリと止み、あたりにいた人々はさっきのは何だったのかと話している...

「...あの...」

「さ、さっきはすみませんでした」

お...?

「い、いや、こっちこそ肩が少し当たったくらいで...みっともねぇ」

おぉ...?

「「あははは」」

...本当に喧嘩止まった...

驚いて紺を見ると視線に気づいたのか、紺もこちらを向いた。

フッとこちらを向く一瞬、不思議と紺の瞳が赤く光ったような気がして...

あの痣のようにもう1度見直したが、紺の瞳の色はいつもと変わらない綺麗な紺色だった。

「どうした?」

「いやなんでもないよ...もう行こっか」

そう言いながら手を差し出すと、以外にも紺はその手を取った。

「あぁ」

目的地もなくただ歩いていると公園が見えてきた。

「あ、そうだ...そこの公園に行こう!」

夏輝はそう言い紺の手を引いた。

公園に入るとテントが張ってあり、そこから良い匂いがしていた。

「ここに気まぐれで店を出すおじさんがいるんだけど、それがとっても美味しんだよ」

ニコニコしながら言うと紺は「へぇー」っと微妙な返事をした。

ひとまず紺をベンチに座らせ、俺は急いで店に向かった。

「おじさん、久しぶり!」

「おぉ、久しぶりだね...今日はサンドウィッチだよ」

「本当!?」

ここは来るたびにメニューが変わるのせいか、サンドウィッチは食べたことがない。

だが、少し前ここのサンドウィッチがおいしいと有名になったことがあったのだ。

「じゃあ、2つ下さい」

「あぁ、すまん...あと1つしかないんだ」

すまないっと顔の前で手を合わせられ、少し戸惑う。

「そ、そっか...じゃあ1つ下さい」

俺が言い直すと「すまないねぇ」ともう1度言ってサンドウィッチを袋に入れ始めた。

「あ、そうだ。おまけに試作品のクッキーを上げるよ」

そう言って袋にクッキーも入れてくれた。

「ありがとうございます、また買いに来ますね」

「あぁ、頼むよ」

どうしよっかな...半分こ、かな?

そんなことを思いながら紺のもとへ急ぐ...と...

「...え...」

遠目からだが紺の座っているベンチがたくさんの動物に囲まれていた。

この国の隣国カルラレンは人が全く住んでおらず開拓もされてないため、植物と動物の楽園と呼ばれているらしい。

そのカルラレンにほど近いここ、セルティアにも時々不思議な動物が現れる...

少しずつ紺に近づいていくと、紺の周りには見たこともない不思議な動物からどこにでもいる動物まで様々な動物が集まっていた。

紺も近づいてきた動物たちを撫でている。

「紺?」

静かに夏輝が声をかけると、翼をもつ動物は一斉に飛び立ち、翼をもたない動物たちは少し遠くに走り去った。

「今来たらやばっかったかな?」

隣に座った夏輝は紺にそう声をかけた。

「いや、別にいい...」

「あ、そうだ。サンドウィッチ半分こでもいい?」

「あぁ」

返事をした紺におじさんに貰った使い捨てのタオルで手を拭きサンドウィッチを半分にわる。

「紺は、どっちがいい?」

「どっちでもいい、あんまり変わらないだろう...」

そう言われ、俺は紺に近い方のサンドウィッチを紺に渡した。

「「いただきます」」

パクっとかぶりつくと、確かにそれは噂通りとっても美味しかった。

2人で分けて食べたので量は少なかったが、そのおいしさに満足した。

「あ、クッキーも貰ったんだ」

紺も食べ終わったのを見て夏輝は袋の中からクッキーを取り出した。

「食べる?」と聞くと紺はうなずいてジィーっと何も言わず、夏輝の手にのったクッキーを見つめている。

もしかしてクッキーのこと知らないのかな...

「はい、どうぞ」

夏輝はクッキーを紺に渡すと、サンドウィッチと同じようにかぶりつく。

クッキーはほんのり甘く、甘いのが苦手な夏輝でも食べれる甘さだった...

紺もクッキーを気に入ったようで、ポリポリと食べている。

「おいしいね」

「あぁ」

食べ終わり、ボーっとしていると遠くから眺めていた動物たちがそろそろと寄ってきた。

周りはまた獣たちに囲まれベンチの上に上って来る奴もいた...

紺はトコトコと膝に乗って来た動物を撫で始める、パタパタと紺の肩にも鳥のような動物が止まり自分の顔を紺の頬にこすっている。

今なら聞けるかな...?

「紺、さっきの喧嘩どうやって止めたの...?」

夏輝は紺の方を向かず遠くを見ながら聞いた。

紺の方を見るのが何となく怖かったから......すると

「ただ、闇を...闇を俺が吸収しただけだ...」

そう紺は、つぶやくような声で言った。

よく意味が分からず、「...え...?」という声が口から漏れると紺は「はぁ...」とため息をついて教えてくれた。

人や動物...つまり生きているものは必ず、少しは闇を持っているらしい。

それは抱えるものの器に入っていて、それがあふれ出すと喧嘩や運が悪ければ犯罪を犯してしまうこともあり紺はそれを吸収したらしい...

「ん?え、じゃあ、紺は大丈夫なの?」

「大丈夫だ、別に何も変わってないだろう...?」

紺はそう言ってこちらを向き手を伸ばしてきた。

何をされるのかと目をつぶったが、ふわっと頭に何かが乗る...ゆっくりと目を開けるとそれは紺の手で。

目を開けたことに気づいたのか、紺は動物たちと同じようにそっと夏輝の頭を撫でた。

そう言えば、こんなふうに頭撫でてもらったのっていつ以来だっけ...じいさんのあれは抜きで...

夏輝が生まれたのと交代で、母が死に男手1つで育ててくれた父も15歳の時に死んでしまった。

「夏...?」

名前を呼ばれ、ハッとする...

「ん?何?」

「いや、もう帰るか...?」

そう紺が上目遣いで見てきて、少し心臓がドキッと跳ねた。

「あ、うん...」

紺がベンチから立つと周りにいた動物たちが四方八方に散って行く。

紺が先に歩き出し夏輝も後を追う。

「ん...?」

そう言えば、さっき”夏”って......あれ、俺紺に名前呼ばれたの初めて...?

気づいてしまうとと何となくむずがゆくて...

「紺!」

そう叫んで振り返った(きみ)を抱きしめた。

「何だ?」

「ん?何でもないけど、これからまた図書館行く?」

「あぁ...」

並んで、来た道を戻る...その後は2人とも読みかけだった本を閉館時間まで読んだ。


「やっと見つけましたよ、黒さん...」

物陰で猫を抱いた男はそうつぶやいた。

シャァァー...

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